原子力発電所の系統図を見て、「沸騰水型」と「加圧水型」でどこが違うのか、 一次冷却水がタービンまで届くかどうかで何が変わるのか、説明できるだろうか。
原子炉の中で起きている核分裂という現象自体は同じでも、それを発電にどう 結びつけるかで系統の作り方はまったく変わってくる。
このトピックを読み終えるころには、原子力発電所の系統図を見ただけで、 どちらの方式で、なぜその構成になっているのかを言い当てられるようになっている。
種明かしは、「核分裂の熱で蒸気を作り、タービンを回す」という発電の基本構造は 火力発電と共通していながら、一次冷却水をどう扱うか で系統の設計が大きく 分かれるという事実にある。
原子力発電の仕組み — 核分裂の熱で蒸気を作る、という一点は火力と同じ
原子力発電は、ウラン235などの核分裂性物質に中性子を当てて核分裂を起こし、 そのとき発生する熱で水を蒸気に変え、蒸気タービンを回して発電機で発電する。 「熱源が燃焼ではなく核分裂である」という点を除けば、蒸気タービンを回して発電する という基本構造は火力発電と共通している。
核分裂で生じるエネルギーを計算する — 質量欠損とE=mc²
核分裂反応で莫大な熱が生まれる理由は、化石燃料の燃焼のような化学反応とはまったく異なる。核分裂の前後で、生成物の質量の合計をていねいに測ると、反応前の質量の合計よりわずかに小さくなっている。この失われた質量を質量欠損(Δm)と呼ぶ。
質量は消えてなくなるのではなく、アインシュタインの関係式にしたがって、そのままエネルギーに姿を変える。
は光速(約m/s)だ。という桁違いに大きい係数がかかるため、ごくわずかな質量欠損でも、化学反応とは比較にならない量のエネルギーが放出される。これが「少ない燃料の量で大きなエネルギーを得られる」という原子力発電の特徴の、物理的な根拠になっている。
例題
2gのウラン235が核分裂し、0.1%の質量欠損が生じたとき、発生するエネルギーを重油に換算した値[kg]を求める。重油の発熱量を40,000kJ/kgとする。
まず質量欠損をkg単位に直す。
これをE=Δmc²に代入すると、
これを重油の発熱量で割ると、重油換算量が求まる。
わずか2g(1円玉2枚分にも満たない質量)のウランの核分裂が、重油4.5トン分に相当する熱エネルギーを生み出す計算になる。
核分裂反応を制御する仕組み
原子炉の中では、核分裂反応を安定してコントロールするために、性格の異なる複数の 機器が働いている。
- 減速材:核分裂で飛び出す中性子は高速すぎて、そのままでは次の核分裂を起こしにくい。 水(軽水)などの減速材で中性子の速度を落とし、核分裂を起こしやすい熱中性子にする。
- 制御棒:中性子を吸収する材料でできた棒を炉心に出し入れすることで、核分裂反応の連鎖、 すなわち原子炉の出力を調整する。深く挿入するほど中性子が吸収され、反応が抑えられる。
- 冷却材:核分裂で生じた熱を炉心の外へ運び出す媒体。軽水炉ではこの役割も水が兼ねている。
沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の違い
軽水炉には大きく分けて2つの方式がある。
- BWR(沸騰水型):原子炉内で直接水を沸騰させ、その蒸気をそのままタービンに送る、 一次系統のみのシンプルな構成。ただし蒸気が炉心を通るため、タービン側の設備にも 放射線管理が必要になる。
- PWR(加圧水型):原子炉内の一次冷却水を高い圧力で保つことで沸騰させず、その熱を 蒸気発生器で二次系統の水に伝えて蒸気を作り、その蒸気でタービンを回す。一次系統と 二次系統が分離されているため、タービン側は放射性物質を含まない蒸気で運転できる。
BWRの出力調整と制御棒の向き — PWRとの違いがもう一つある
BWRとPWRの違いは系統構成(一次系統のみか、二次系統に分離するか)だけではない。出力を どう調整するか、制御棒をどちらから挿入するかという点にも、両者で異なる設計が見られる。
BWRは制御棒の抜き差しに加えて、再循環ポンプによる炉心内冷却水の流量調節でも出力を 調整できる点が特徴だ。再循環ポンプの流量を増やすと、炉心内で発生している蒸気の気泡 (ボイド)が炉心から押し流され、その分だけ炉心内の水(減速材を兼ねる)の密度が上がる。 密度が上がった水は中性子を減速させやすくなるため、核分裂が起こりやすくなり出力が上がる ——制御棒を動かさなくても、水の流れをコントロールするだけで出力を細かく調整できる、 BWR特有の仕組みだ。
もう一つの違いが、制御棒を挿入する向きだ。BWRの炉心上部には、発生した蒸気からミストを 取り除く気水分離器・蒸気乾燥器が配置されている。この配置のため、BWRの制御棒は炉心の 下部から燃料集合体内を上下させる構造になっている。これに対しPWRの制御棒は、炉心の上部 から重力で落とし込む構造が基本で、緊急停止(スクラム)の際は重力を利用して素早く挿入 できる。
原子燃料サイクル — ウランからプルサーマルまで
天然ウランに含まれる核分裂性物質ウラン235の割合はごくわずかしかなく、軽水炉で使うには この割合を高める「濃縮」という工程が必要になる。濃縮後のウラン235の濃度は数%程度 (3〜5%程度)に高められ、燃料として再転換・加工されたのち原子炉に装荷される。
原子力発電所で使い終えた使用済燃料には、まだ核分裂性物質であるウランやプルトニウムが 残っている。この使用済燃料からウラン・プルトニウムを分離・回収する工程を再処理と呼ぶ。 再処理で取り出したプルトニウムを、ウランと混合してつくった燃料をMOX燃料(混合酸化物燃料) といい、このMOX燃料を軽水炉で使うことをプルサーマルと呼ぶ。
また、前節で見た高速増殖炉のようにウラン238から新たな核分裂性物質(プルトニウム239)を 生み出す仕組みを利用すれば、消費した以上の核燃料を得ることも理論上可能になる——この一連の 「採掘→濃縮→燃料加工→発電→再処理→再利用」という燃料の循環を原子燃料サイクルと呼ぶ。
原子力発電の特徴
- 少ない燃料の量で大きなエネルギーを得られるため、燃料の運搬・貯蔵の面で有利。
- 発電時の二酸化炭素排出が少ない。
- 出力調整に時間がかかるため、需要変動に細かく追従する調整力よりも、一定出力で稼働し続ける ベースロード電源としての運用に向く。
- 燃料被覆管・原子炉圧力容器・格納容器といった多重の壁で放射性物質を閉じ込める設計が 基本的な安全確保の考え方になっている(詳細な基準・規制の細部は最新の関連法令・ 規制基準を確認すること)。
将来に向けた新型炉 — 高速増殖炉・高温ガス炉・核融合炉
現在主流のBWR・PWRはいずれも軽水炉(核分裂反応を利用し、冷却材・減速材に軽水を使う炉)だが、 将来に向けて次のような新型炉の研究・開発が進められている。
- 高速増殖炉:ウラン238をプルトニウム239に変換しながら発電する炉で、理論上は消費した 以上の核燃料(プルトニウム239)を新たに生み出せる、すなわち燃料を「増殖」できる点が最大の 特徴。中性子の速度を落とす減速材をあえて使わず、高速中性子のまま反応させるため「高速」炉と 呼ばれる。
- 高温ガス炉:冷却材に化学的に安定した不活性ガスであるヘリウムガスを、減速材に黒鉛を 用いる炉。より高温の熱を取り出せるため、発電だけでなく水素製造など幅広い熱利用への応用が 期待されている。
- 核融合炉:ウランなどの重い原子核を分裂させる核分裂とは原理がまったく異なり、水素・ ヘリウムなど軽い原子核どうしを超高温・高速で衝突・融合させたときに生じるエネルギーを利用 する。BWR・PWR・高速増殖炉・高温ガス炉がいずれも「核分裂」を利用する仲間であるのに対し、 核融合炉だけは核分裂ではなく「核融合」を利用するという、原理そのものが異なる技術である点に 注意したい。
実務との接点 — 「介入して暴走を止める」という発想は保護機器と共通する
制御棒が「炉心に挿入され、中性子を吸収して反応を抑える」という仕組みは、電気設備でいえば 遮断器やブレーカーが異常時に回路を遮断し、過大な電流を止める仕組みと発想が近い。 どちらも「常時は開いた状態で電気(あるいは核分裂反応)を通しつつ、必要なときに確実に 介入して暴走を止める」ための保護機構という共通点がある。
冒頭の系統図の見分け方——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。