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電力 ・ 12 / 18

配電系統の電圧降下・力率改善

読み終えると、こうなる

受変電設備の力率改善コンデンサや電線サイズの選定資料を見たとき、なぜその容量・太さが選ばれているのかを、電圧降下・力率の式から逆算して説明できるようになる

  • 単相・三相の電圧降下近似式を使って線路の電圧降下[V]を計算でき、力率が悪化すると電圧降下・損失がなぜ増えるのかを電流の増加という観点で説明できる
  • 配電用変電所の負荷時タップ切換装置付変圧器(LRT)・負荷時電圧調整器(LRA)と、力率改善用コンデンサを配電線のどの位置(高圧側・低圧側)に設置すべきかを、電圧調整の実務の観点から説明できる
  • 目標力率が決まったとき、必要な進相コンデンサの容量[kvar]を計算でき、過補償(進み力率)のリスクや、分路リアクトル・同期調相機・静止形無効電力補償装置など他の調相設備の使い分けも説明できる
  • 6.6kV配電系統と22/33kV配電系統を比較し、配電電圧を高めることで電流・電力損失がどう変わるか(電流は電圧に反比例、損失はさらにその2乗で反比例)を計算でき、両者で中性点接地方式が異なりうる理由も説明できる
考えてみよう

同じ電力を送っているはずなのに、ある工場の配電線では電圧降下がひどく、末端の機器が 定格電圧を割り込んでいる。一方、別の工場では同じ電線・同じ距離でも電圧降下が小さい。

両者の違いを生んでいるのは、電線の太さでも距離でもなく、負荷の力率だったとしたら、 どう説明がつくのか。そして、なぜ「力率を改善するコンデンサ」を入れると、電圧降下まで 改善するのか。

このトピックを読み終えるころには、受変電設備の力率改善コンデンサや電線サイズの選定資料を 見たとき、なぜその容量・太さが選ばれているのかを、電圧降下・力率の式から逆算して 説明できるようになっている。

種明かしは、配電線の電圧降下が、電流のうち有効分(仕事をする分)と無効分(行き来 するだけの分)それぞれに、電線の抵抗Rとリアクタンスxが別々に反応する形で決まる、 という構造にある。

電圧降下の近似式 — 抵抗には有効分、リアクタンスには無効分

配電線には抵抗RとリアクタンスXがあり、電流が流れるとその両方で電圧降下が生じる。 実務でよく使われる近似式は次のとおりだ。

単相2線式:e≈2I(Rcos⁡θ+Xsin⁡θ)\text{単相2線式:} e \approx 2I(R\cos\theta + X\sin\theta) 三相3線式:e≈3I(Rcos⁡θ+Xsin⁡θ)\text{三相3線式:} e \approx \sqrt{3}I(R\cos\theta + X\sin\theta)

ここで cos⁡θ\cos\theta は力率(有効分)、sin⁡θ\sin\theta は無効率(無効分)を表す。抵抗Rには 仕事をする電流成分(Icos⁡θI\cos\theta)が、リアクタンスXには行き来するだけの無効電流成分 (Isin⁡θI\sin\theta)が、それぞれ対応していると考えると覚えやすい。単相2線式の係数が2倍 なのは電線が往復2本あるため、三相3線式の係数が3\sqrt{3}倍なのは線間電圧を基準に した組み立てによるものだ。

例題

三相3線式配電線に、負荷電流50A・力率0.8(遅れ)の負荷が接続されている。電線1条あたりの 合成抵抗0.5Ω、リアクタンス0.3Ωのとき、電圧降下は何Vか。

cosθ=0.8のとき、sinθ=0.6(0.82+0.62=10.8^2+0.6^2=1の直角三角形の比)。

e=3×50×(0.5×0.8+0.3×0.6)=3×50×0.58≈50.2Ve = \sqrt{3} \times 50 \times (0.5 \times 0.8 + 0.3 \times 0.6) = \sqrt{3} \times 50 \times 0.58 \approx 50.2\text{V}
「Rにcos、Xにsin」の対応が不安になったら、極端な条件で検算するとよい。負荷が純抵抗 (cosθ=1、sinθ=0)なら、リアクタンスによる電圧降下は存在しないはずだ。式に代入すると e=2IRとなり、Xの項がきれいに消える。この一致が、対応関係が正しいことの確認になる。

なぜ力率が悪いと電圧降下・損失が増えるのか

同じ有効電力Pを送るとき、力率cosθが低いほど、必要な電流 I=P/(Vcos⁡θ)I = P/(V\cos\theta)(概算)は 大きくなる。電圧降下は電流にほぼ比例し、線路損失は電流の2乗に比例するため、力率の悪化は 電圧降下と損失の両方を悪化させる。

力率改善 — 進相コンデンサで無効電力を打ち消す

遅れ力率の負荷(モーターなどの誘導性負荷)は、有効電力に加えて無効電力も消費している。 この無効電力の分だけ、電線には余分な電流が流れている。

進相コンデンサ(電力用コンデンサ) を負荷と並列に接続すると、進み方向の無効電力を 供給し、系統全体で見た無効電力を打ち消し合わせられる。有効電力Pはそのままに、線路を 流れる電流だけを減らせるため、電圧降下・損失の両方を同時に抑えられる。

必要なコンデンサ容量は、改善前の力率 cos⁡θ1\cos\theta_1 と目標の力率 cos⁡θ2\cos\theta_2 から 次の式で求める。

Qc=P(tan⁡θ1−tan⁡θ2)Q_c = P(\tan\theta_1 - \tan\theta_2)

例題

有効電力240kW、改善前の力率cos⁡θ1=0.6\cos\theta_1=0.6(遅れ)を、cos⁡θ2=0.8\cos\theta_2=0.8(遅れ)まで 改善したい。必要なコンデンサ容量Qcはいくらか。

cos⁡θ1=0.6\cos\theta_1=0.6のときsin⁡θ1=0.8\sin\theta_1=0.8、tan⁡θ1=0.8/0.6=4/3\tan\theta_1=0.8/0.6=4/3。 cos⁡θ2=0.8\cos\theta_2=0.8のときsin⁡θ2=0.6\sin\theta_2=0.6、tan⁡θ2=0.6/0.8=3/4\tan\theta_2=0.6/0.8=3/4。

Qc=240×(43−34)=240×712=140kvarQ_c = 240 \times \left(\frac{4}{3} - \frac{3}{4}\right) = 240 \times \frac{7}{12} = 140\text{kvar}
力率改善は「入れれば入れるほど良い」わけではない。目標力率を1.0より先、つまり進み方向に 行き過ぎると(進み力率)、系統の電圧がかえって上昇し、他の需要家設備に悪影響を与える おそれがある。実務では目標力率をあらかじめ決めたうえで、必要最小限の容量を計算する。

力率改善だけじゃない — 調相設備のバリエーション

ここまで見てきた進相コンデンサは、遅れ力率の負荷が多い配電系統で使われる代表的な 調相設備(無効電力を調整する設備)だが、調相設備は進相コンデンサだけではない。 系統の状況に応じて、性格の異なる複数の設備が使い分けられている。

  • 分路リアクトル:進相コンデンサとは逆に、遅れ方向の無効電力を消費する設備。 無負荷・軽負荷の長距離送電線ではフェランチ効果によって受電端電圧が上昇しやすいが、 分路リアクトルを接続すると遅れ無効電力を消費して電圧上昇を抑えられる。
  • 同期調相機:負荷を持たない同期電動機のような回転機。界磁電流を加減することで、 進み・遅れ両方向の無効電力を連続的に、なめらかに調整できる。コンデンサ・リアクトルは 段階的な投入・開放でしか調整できないのに対し、同期調相機は無効電力量を滑らかに 変化させられる点が特徴だ。
  • 静止形無効電力補償装置(SVC):半導体スイッチでリアクトルに流れる電流を高速に 制御し、無効電力を高速・連続的に調整する装置。回転部分がないため応答が速く、 変動の激しい負荷(アーク炉など)が接続された系統の電圧維持にも使われる。
進相コンデンサと分路リアクトルは、無効電力を「供給する」か「消費する」かで正反対の 役割を持つ。同期調相機とSVCは、どちらも進み・遅れ両方向を連続的に調整できる点で 共通するが、回転機(同期調相機)か静止機器(SVC、半導体制御)かという構成の違いで 応答速度と保守性が変わる、と整理すると比較問題に強くなる。

配電用変電所の電圧調整設備 — LRT・LRAと、コンデンサをどこに置くべきか

ここまで見てきた進相コンデンサや分路リアクトルは、需要家側・配電線路の途中に置く調相設備 だったが、配電用変電所そのものにも、高圧配電線路全体の電圧を底上げ・底下げする専用の 調整設備がある。

負荷時タップ切換装置付変圧器(LRT)は、配電用変電所の主変圧器そのものに、負荷を 接続したまま(無停電で)タップを切り替えられる機構を組み込んだものだ。負荷時電圧調整器 (LRA)は、変圧器とは別の機器として高圧配電線路の引出口に直列に挿入し、同じく無停電で タップを切り替えて電圧を調整する専用機器になる。どちらも、配電用変電所から送り出す 高圧配電線路全体の電圧を、需要の増減に合わせて調整するという役割は共通している。

これに対して、前節で見たSVR(高圧自動電圧調整器)は、配電用変電所より下流、線路の 途中の柱上などに設置され、その先の区間だけの電圧を調整する。LRT・LRAが「配電線路全体の 電圧を底上げ・底下げする上流側の調整」であるのに対し、SVRは「線路の一部区間だけを 局所的に調整する下流側の調整」だと整理すると、両者の役割の違いが見えやすくなる。

LRT・LRA・SVRはいずれも「無停電でタップを切り替えて電圧を調整する」という動作原理は共通 しているが、設置される位置と調整の対象範囲が違う。配電用変電所の出口(LRT・LRA)で 線路全体を底上げし、線路途中(SVR)で局所的に補正する、という二段構えの電圧調整だと 覚えておくとよい。

コンデンサはどこに置くべきか — 上流にまとめるか、負荷の近くに分散するか

力率改善用の進相コンデンサをどこに設置するかも、実務上悩ましい判断の一つだ。一見すると、 上流の高圧配電線路にまとめて設置する方が、台数も少なく管理しやすいように思える。しかし 無効電力を供給するコンデンサの効果は、それを設置した地点より下流(負荷側)の区間にしか 及ばない。

上流の高圧配電線路にまとめてコンデンサを設置すると、そのコンデンサより下流にある低圧 配電線路自体の電圧降下・損失には効果が届かない。これに対し、負荷に近い低圧配電線路 ごとに分散してコンデンサを接続すれば、低圧線路を流れる無効電流そのものを減らせるため、 低圧線路自体の電圧降下・損失も同時に抑えられる。

「まとめて設置する方が効率的」という管理上の直感と、「効果は設置地点より下流にしか 及ばない」という電気的な事実は、しばしば食い違う。力率改善の効果を最大化したいなら、 できるだけ負荷に近い(下流の)位置に分散して設置する方が、より広い区間の電圧降下・損失を カバーできる、という原則を優先して考える。

22/33kV配電系統 — 電圧を上げると、電流も損失もそれ以上に小さくなる

ここまで見てきた電圧降下・力率改善の話は、6.6kVの高圧配電線路を主な例にしていたが、 供給力を増強したい地域や長距離配電が必要な地域では、6.6kVより高い22kV・33kV配電系統が 使われることがある。

配電電圧を高めるメリットは、電圧降下の式そのものからも読み取れる。同じ有効電力・力率で 負荷に電力を送るとき、線路電流I=P/(3Vcos⁡θ)I=P/(\sqrt{3}V\cos\theta)は電圧VVに反比例する。 さらに線路損失Pℓ=3I2RP_\ell=3I^2Rは電流の2乗に比例するため、電圧を高めた効果は 電流よりもさらに大きな倍率で損失に効いてくる。

電圧を5倍(6.6kV→33kV)にすると、電流は15倍、損失は(15)2=125倍\text{電圧を5倍(6.6kV→33kV)にすると、電流は}\frac{1}{5}\text{倍、損失は}\left(\frac{1}{5}\right)^2=\frac{1}{25}\text{倍}
「電圧を上げれば電流が減る」までは直感的に分かりやすいが、損失はそこからさらに2乗で 効いてくる、という2段階の関係を見落とすと、電圧を高めるメリットを過小評価してしまう。 電流の低減率をそのまま2乗すれば損失の低減率になる、と覚えておくとよい。

電圧を高めるメリットがある一方で、22/33kV配電系統には6.6kV配電系統とは異なる設計上の 判断もある。その一つが中性点接地方式だ。日本の6.6kV高圧配電線路の多くは非接地方式が 採用されているのに対し、22/33kV配電系統では、地絡電流を抑えつつ地絡検出に必要な電流も 確保できる抵抗接地方式が一般的に採用される。電圧階級が上がるほど絶縁設計・地絡電流の 影響も大きくなるため、非接地方式のまま高電圧化するのではなく、抵抗接地という中間的な 方式に切り替えて対応している、というつながりで理解しておくとよい(採用する接地方式の 詳細は系統や電力会社の設計基準によって異なるため、実務では個別の設計資料を確認すること)。

中性点接地方式は「電圧階級が上がるほど、非接地→抵抗接地→(超高圧送電系統の)直接接地」 という大まかな流れで捉えると、6.6kVと22/33kVで方式が変わりうる理由がつながって見える。 地絡電流の大きさと健全相の電圧上昇はトレードオフの関係にある、という中性点接地方式の 基本原則が、ここでも土台になっている。

力率改善と変圧器容量 — 「何kWまで載せられるか」を決めるのは皮相電力

ここまでは、力率改善を「電圧降下と損失を減らす手段」として見てきた。もう一つ、受変電設備の実務で 効いてくる側面がある。変圧器の容量は、有効電力[kW]ではなく皮相電力[kVA]で決まるという点だ。

変圧器は、流せる電流の上限(=皮相電力の上限)で定格が決まっている。有効電力Pと無効電力Qを 同時に送るとき、変圧器が受け持つ皮相電力Sは次のとおりだ。

S=P2+Q2S = \sqrt{P^2 + Q^2}

力率が低い(Qが大きい)ほど、同じPを送るのに必要なSは大きくなる。逆に、負荷の近くにコンデンサを 入れてQを打ち消せば、Pを変えずにSだけを小さくでき、同じ変圧器にもう少し多くの負荷を載せる余地が生まれる。 線路でも同じで、線路電流Iは皮相電力Sに比例し(三相なら I=S/(3V)I = S/(\sqrt{3}V))、線路損失は 3I2R3I^2R だから、 力率改善は「変圧器の余裕」と「線路損失」の両方に効く。

この種の計算は、次の3つの型に整理できる。いずれも有効電力と無効電力を別々に足し引きすることが共通の作法だ。

例題① 負荷を追加したあとの合成力率

ある需要家で、既設の負荷は有効電力300kW・力率0.6(遅れ)である。ここに有効電力100kW・力率1.0 (電気ヒータのような純抵抗負荷)の負荷を追加した。合成した力率はいくらか。

力率は足し算できない。まず、負荷ごとに有効電力と無効電力に分ける。

  • 既設:P1=300P_1=300kW、tan⁡θ1=0.8/0.6=4/3\tan\theta_1 = 0.8/0.6 = 4/3 より Q1=300×4/3=400Q_1 = 300\times 4/3 = 400kvar
  • 追加:P2=100P_2=100kW、力率1.0なので Q2=0Q_2=0kvar

合成すると P=300+100=400P = 300+100 = 400kW、Q=400+0=400Q = 400+0 = 400kvar。

S=4002+4002≈565.7kVA,cos⁡θ=PS=400565.7≈0.71S = \sqrt{400^2+400^2} \approx 565.7\text{kVA},\quad \cos\theta = \frac{P}{S} = \frac{400}{565.7} \approx 0.71

「0.6と1.0だから平均して0.8」と考えたくなるが、力率は有効電力と無効電力の足し算から求めるもので、 平均ではない。この例では、純抵抗の負荷を足しても、無効電力400kvarは減らないので、力率は0.71に とどまる。

例題② 変圧器容量の内側に収めるために必要なコンデンサ容量

例題①の合成負荷(400kW・400kvar、皮相電力約566kVA)を、容量500kVAの変圧器で受けている。変圧器の 負荷を500kVA以内に収めるには、最低何kvarのコンデンサが必要か。

有効電力は400kWのまま変わらない。皮相電力を500kVAに抑えるときに許される無効電力の上限は、

Qmax⁡=5002−4002=300kvarQ_{\max} = \sqrt{500^2 - 400^2} = 300\text{kvar}

いまの無効電力は400kvarなので、コンデンサで打ち消すべき分は

Qc=400−300=100kvarQ_c = 400 - 300 = 100\text{kvar}

このときの力率は 400/500=0.8400/500 = 0.8。コンデンサが100kvar以上あれば、変圧器の負荷は500kVA以内に収まる。 ここで「566−500=66kvar」と皮相電力の差をそのままコンデンサ容量にしてしまうのは誤りだ。コンデンサが 打ち消すのは無効電力であり、皮相電力は P2+Q2\sqrt{P^2+Q^2} の形で決まるため、差し引きの対象が違う。

例題③ 線路損失を変えずに供給できる負荷は何倍になるか

三相3線式の配電線で、受電端の電圧を一定に保ったまま、力率0.75(遅れ)の負荷に電力を供給している。 コンデンサを入れて受電端の力率を0.90に改善し、線路損失をいまと同じに保つとき、供給できる有効電力は 何倍になるか。線路の抵抗は変わらないものとする。

線路電流は I=P3 Vcos⁡θI = \dfrac{P}{\sqrt{3}\,V\cos\theta}、線路損失は 3I2R3I^2R。電圧Vと抵抗Rが一定なら、 損失が一定とは線路電流Iが一定ということだ。したがって

P改善後P改善前=cos⁡θ2cos⁡θ1=0.900.75=1.2倍\frac{P_{\text{改善後}}}{P_{\text{改善前}}} = \frac{\cos\theta_2}{\cos\theta_1} = \frac{0.90}{0.75} = 1.2\text{倍}

逆に、有効電力を変えずに力率だけを0.75から0.90に改善した場合は、電流が 0.75/0.900.75/0.90 倍になり、 線路損失は電流の2乗に比例して

(0.750.90)2≈0.69倍\left(\frac{0.75}{0.90}\right)^2 \approx 0.69\text{倍}

に下がる。同じ力率改善でも、「損失一定で負荷を増やす」問いなら力率の比そのもの(1乗)、「負荷一定で 損失がどう減るか」の問いなら力率の比の2乗が答えになる。どちらを聞かれているかを、 設問の言い回しで見分けるのが、この型の最大の分かれ目だ。

3つの例題の共通点は「有効電力Pは力率改善では変わらない」ことと、「変わるのは無効電力Qと、そこから決まる 皮相電力Sと線路電流Iだけ」という整理だ。解く前に、いま動かせる量(Q)と動かせない量(P、V、R)を分けて 書き出すと、条件の読み違いが減る。

なお、力率改善後の目標をどこに置くかは、料金制度や設備の状況で変わる。日本電気技術者協会の解説では、 改善後の力率は95%程度までにするのが効果的とされている。力率を1.0に近づけるほど、力率の改善幅あたりに 必要な容量は増える。有効電力に対する必要容量は、力率0.90から0.95へで約0.16倍、0.95から1.0へで約0.33倍 (tan⁡θ\tan\theta の差)と、後半のほうが倍近く重い。

受変電設備での意味

電材商社として進相コンデンサを扱う場面では、単に容量[kvar]の大小だけでなく、 「その需要家の実際の負荷変動(力率の変動)に対して過補償にならないか」まで踏み込んで 確認できることが、選定の質を左右する。冒頭の「なぜ力率改善で電圧降下まで良くなるのか」 の答え合わせは、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 電圧降下式でRとXにかける力率成分(cosθ・sinθ)を取り違える

    なぜ引っかかるR(抵抗)は有効電流成分、X(リアクタンス)は無効電流成分に対応するが、cosθ・sinθのどちらがどちらに掛かるかを覚え間違えやすい。

    見破り方「有効分(R)にcos、無効分(X)にsin」という対応を固定して覚える。極端な力率(cosθ=1、純抵抗負荷)で検算すると e=2IR となりXの項が消えることを確認すれば、対応関係を思い出せる。

  2. 単相2線式と三相3線式で、電圧降下式の係数(2倍か√3倍か)を混同する

    なぜ引っかかるどちらも似た形の近似式のため、対象方式を確認せずに係数を当てはめてしまう。

    見破り方電線の本数と電源方式を先に確認する。単相2線式は「往復2本分」で2倍、三相3線式は線間電圧を基準にした√3倍という成り立ちを思い出す。

  3. 力率改善は「コンデンサを大きくするほど良い」と考え、過剰なコンデンサを入れてしまう

    なぜ引っかかる力率1.0に近づけること自体は基本的に望ましいが、進み方向に行き過ぎる(進み力率)と、かえって系統の電圧が上昇し、他の需要家設備に悪影響を与える可能性がある。

    見破り方目標力率(実務では0.9〜1.0程度が目安とされることが多い)を明確にしてコンデンサ容量を計算し、過補償にならないよう需要家の負荷変動も考慮して設計する。

  4. 調相設備=進相コンデンサ、と一対一で覚えてしまい、逆方向に働く分路リアクトルの役割を見落とす

    なぜ引っかかる力率改善の文脈で最初に登場するのが進相コンデンサであることが多く、同じ調相設備でも逆方向(遅れ無効電力を消費する)に働く分路リアクトルの存在が抜け落ちやすい。

    見破り方進相コンデンサは遅れ力率を進める方向(無効電力を供給する)に働き、分路リアクトルは逆に無効電力を消費して力率を遅らせる方向に働く、という正反対の役割をペアで覚える。軽負荷・深夜のフェランチ効果対策として分路リアクトルが使われる場面を思い出すと区別しやすい。

  5. 力率改善用コンデンサは、負荷から離れた上流側(高圧配電線路)にまとめて設置する方が、まとめて管理しやすく効果的だと考えてしまう

    なぜ引っかかる「上流でまとめて対策すれば下流全体に効くはず」という直感から、コンデンサをできるだけ電源側に集約したくなる。

    見破り方力率改善の効果は、無効電力を供給した地点より下流(負荷側)の区間にしか及ばない、という原則を思い出す。負荷に近い低圧配電線路側に分散設置するほど、低圧線路自体の電圧降下・損失にも効果が及ぶため、上流にまとめるより低圧側に分散させる方が効果的になる。

  6. 配電電圧を高めると電流が減る効果を「電圧の倍率と同じだけ電流が減る」までは正しく覚えても、損失の減り方まで同じ倍率だと誤解する

    なぜ引っかかる電流が電圧に反比例して減ることは覚えていても、損失P=I²Rが電流の2乗に比例するという別の関係を重ねて考えず、損失も電流と同じ倍率で減ると早合点してしまう。

    見破り方電流の低減率と損失の低減率は別の指数(1乗と2乗)で効く、という2段階の関係を思い出す。電圧をn倍にすると、同じ電力を送るための電流は1/nになり、損失(電流の2乗に比例)はさらにその2乗、つまり1/n²になる。

  7. 合成力率を、負荷ごとの力率の平均(または容量で重みづけした平均)で求めてしまう

    なぜ引っかかる力率は有効電力と皮相電力の比であり、負荷を足すときに足し算できるのは有効電力と無効電力のほうである。力率の平均は、この関係を無視した近似にしかならない。

    見破り方負荷ごとに有効電力Pと無効電力Q(=Ptanθ)に分け、PとQをそれぞれ合計してから、力率=P/√(P²+Q²)を求める。純抵抗の負荷を足してもQは減らないことを確認する。

  8. 変圧器容量内に収めるコンデンサ容量を、皮相電力の差(超過分のkVA)で答えてしまう

    なぜ引っかかる変圧器容量はkVAで与えられるため、超過したkVAをそのままコンデンサのkvarと取り違えやすい。実際には、有効電力が変わらないまま皮相電力がS=√(P²+Q²)で決まるので、減らすべきなのは無効電力である。

    見破り方容量内に収めたときの無効電力の上限を√(変圧器容量²−P²)で求め、現在の無効電力との差をコンデンサ容量とする。

参考文献・出典

理解度チェック(15問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、15問で確認しよう。 内訳は基本6問・応用6問・ひっかけ3問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 15 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 電圧降下の近似式は、単相2線式が e≈2I(Rcosθ+Xsinθ)、三相3線式が e≈√3I(Rcosθ+Xsinθ)。抵抗Rには有効分(cosθ)、リアクタンスXには無効分(sinθ)が対応する
  2. 力率が悪い(遅れが大きい)ほど、同じ有効電力を送るのに必要な電流が増え、電圧降下・線路損失が拡大する
  3. 進相コンデンサで力率を改善すると、有効電力を変えずに電流を減らせるため、電圧降下・損失の両方を抑えられる。必要容量はQc=P(tanθ1−tanθ2)で求まる
  4. 力率改善はやり過ぎる(進み力率になる)と、かえって系統の電圧上昇を招くことがあるため、目標力率を適切に設定する必要がある
  5. 力率調整に使われる設備は進相コンデンサだけではない。遅れ無効電力を消費する分路リアクトルは軽負荷時の電圧上昇抑制に、界磁電流を加減して進み・遅れ両方向の無効電力を連続調整できる同期調相機や、半導体でリアクトル電流を高速制御する静止形無効電力補償装置(SVC)は、変動の速い負荷や系統全体の無効電力調整に使われる
  6. 配電電圧を6.6kVから22kV・33kVのように高めると、同じ電力を送る場合の電流は電圧に反比例して小さくなり、電力損失は電流の2乗に比例するためさらに小さくなる(電圧5倍なら電流1/5・損失1/25)。22/33kV配電系統は、長距離配電や供給力増強に有効な反面、地絡電流を抑える目的で中性点を抵抗接地とすることが多く、超高圧送電系統の中性点直接接地とは考え方が異なる(詳細な接地方式は電力会社の設計基準による)
  7. 配電用変電所には、負荷を接続したまま(無停電で)タップを切り替えて高圧配電線路全体の電圧を調整する負荷時タップ切換装置付変圧器(LRT)や負荷時電圧調整器(LRA)が設置される。柱上のSVRはこれより下流の線路途中区間を調整する点で役割が異なる。力率改善用コンデンサは、上流の高圧配電線路にまとめて設置するより、負荷に近い低圧配電線路側に分散して設置する方が、低圧線路自体の電圧降下・損失も同時に抑えられるため効果的
  8. 変圧器の容量は有効電力[kW]ではなく皮相電力[kVA](S=√(P²+Q²))で決まるため、進相コンデンサで無効電力を減らせば、有効電力を変えずに変圧器の負荷(kVA)を下げられる。複数の負荷を足すときは、力率ではなく有効電力と無効電力をそれぞれ合計してから合成力率を求める
  9. 線路電圧と抵抗が一定のとき、線路損失が一定とは線路電流が一定ということであり、供給できる有効電力は力率に比例する(力率0.75から0.90なら1.2倍)。有効電力が一定のまま力率を改善したときの損失は、電流の低下の2乗((0.75/0.90)²≈0.69倍)で下がる
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