同じ電力を送っているはずなのに、ある工場の配電線では電圧降下がひどく、末端の機器が 定格電圧を割り込んでいる。一方、別の工場では同じ電線・同じ距離でも電圧降下が小さい。
両者の違いを生んでいるのは、電線の太さでも距離でもなく、負荷の力率だったとしたら、 どう説明がつくのか。そして、なぜ「力率を改善するコンデンサ」を入れると、電圧降下まで 改善するのか。
このトピックを読み終えるころには、受変電設備の力率改善コンデンサや電線サイズの選定資料を 見たとき、なぜその容量・太さが選ばれているのかを、電圧降下・力率の式から逆算して 説明できるようになっている。
種明かしは、配電線の電圧降下が、電流のうち有効分(仕事をする分)と無効分(行き来 するだけの分)それぞれに、電線の抵抗Rとリアクタンスxが別々に反応する形で決まる、 という構造にある。
電圧降下の近似式 — 抵抗には有効分、リアクタンスには無効分
配電線には抵抗RとリアクタンスXがあり、電流が流れるとその両方で電圧降下が生じる。 実務でよく使われる近似式は次のとおりだ。
ここで は力率(有効分)、 は無効率(無効分)を表す。抵抗Rには 仕事をする電流成分()が、リアクタンスXには行き来するだけの無効電流成分 ()が、それぞれ対応していると考えると覚えやすい。単相2線式の係数が2倍 なのは電線が往復2本あるため、三相3線式の係数が倍なのは線間電圧を基準に した組み立てによるものだ。
例題
三相3線式配電線に、負荷電流50A・力率0.8(遅れ)の負荷が接続されている。電線1条あたりの 合成抵抗0.5Ω、リアクタンス0.3Ωのとき、電圧降下は何Vか。
cosθ=0.8のとき、sinθ=0.6(の直角三角形の比)。
なぜ力率が悪いと電圧降下・損失が増えるのか
同じ有効電力Pを送るとき、力率cosθが低いほど、必要な電流 (概算)は 大きくなる。電圧降下は電流にほぼ比例し、線路損失は電流の2乗に比例するため、力率の悪化は 電圧降下と損失の両方を悪化させる。
力率改善 — 進相コンデンサで無効電力を打ち消す
遅れ力率の負荷(モーターなどの誘導性負荷)は、有効電力に加えて無効電力も消費している。 この無効電力の分だけ、電線には余分な電流が流れている。
進相コンデンサ(電力用コンデンサ) を負荷と並列に接続すると、進み方向の無効電力を 供給し、系統全体で見た無効電力を打ち消し合わせられる。有効電力Pはそのままに、線路を 流れる電流だけを減らせるため、電圧降下・損失の両方を同時に抑えられる。
必要なコンデンサ容量は、改善前の力率 と目標の力率 から 次の式で求める。
例題
有効電力240kW、改善前の力率(遅れ)を、(遅れ)まで 改善したい。必要なコンデンサ容量Qcはいくらか。
のとき、。 のとき、。
力率改善だけじゃない — 調相設備のバリエーション
ここまで見てきた進相コンデンサは、遅れ力率の負荷が多い配電系統で使われる代表的な 調相設備(無効電力を調整する設備)だが、調相設備は進相コンデンサだけではない。 系統の状況に応じて、性格の異なる複数の設備が使い分けられている。
- 分路リアクトル:進相コンデンサとは逆に、遅れ方向の無効電力を消費する設備。 無負荷・軽負荷の長距離送電線ではフェランチ効果によって受電端電圧が上昇しやすいが、 分路リアクトルを接続すると遅れ無効電力を消費して電圧上昇を抑えられる。
- 同期調相機:負荷を持たない同期電動機のような回転機。界磁電流を加減することで、 進み・遅れ両方向の無効電力を連続的に、なめらかに調整できる。コンデンサ・リアクトルは 段階的な投入・開放でしか調整できないのに対し、同期調相機は無効電力量を滑らかに 変化させられる点が特徴だ。
- 静止形無効電力補償装置(SVC):半導体スイッチでリアクトルに流れる電流を高速に 制御し、無効電力を高速・連続的に調整する装置。回転部分がないため応答が速く、 変動の激しい負荷(アーク炉など)が接続された系統の電圧維持にも使われる。
配電用変電所の電圧調整設備 — LRT・LRAと、コンデンサをどこに置くべきか
ここまで見てきた進相コンデンサや分路リアクトルは、需要家側・配電線路の途中に置く調相設備 だったが、配電用変電所そのものにも、高圧配電線路全体の電圧を底上げ・底下げする専用の 調整設備がある。
負荷時タップ切換装置付変圧器(LRT)は、配電用変電所の主変圧器そのものに、負荷を 接続したまま(無停電で)タップを切り替えられる機構を組み込んだものだ。負荷時電圧調整器 (LRA)は、変圧器とは別の機器として高圧配電線路の引出口に直列に挿入し、同じく無停電で タップを切り替えて電圧を調整する専用機器になる。どちらも、配電用変電所から送り出す 高圧配電線路全体の電圧を、需要の増減に合わせて調整するという役割は共通している。
これに対して、前節で見たSVR(高圧自動電圧調整器)は、配電用変電所より下流、線路の 途中の柱上などに設置され、その先の区間だけの電圧を調整する。LRT・LRAが「配電線路全体の 電圧を底上げ・底下げする上流側の調整」であるのに対し、SVRは「線路の一部区間だけを 局所的に調整する下流側の調整」だと整理すると、両者の役割の違いが見えやすくなる。
コンデンサはどこに置くべきか — 上流にまとめるか、負荷の近くに分散するか
力率改善用の進相コンデンサをどこに設置するかも、実務上悩ましい判断の一つだ。一見すると、 上流の高圧配電線路にまとめて設置する方が、台数も少なく管理しやすいように思える。しかし 無効電力を供給するコンデンサの効果は、それを設置した地点より下流(負荷側)の区間にしか 及ばない。
上流の高圧配電線路にまとめてコンデンサを設置すると、そのコンデンサより下流にある低圧 配電線路自体の電圧降下・損失には効果が届かない。これに対し、負荷に近い低圧配電線路 ごとに分散してコンデンサを接続すれば、低圧線路を流れる無効電流そのものを減らせるため、 低圧線路自体の電圧降下・損失も同時に抑えられる。
22/33kV配電系統 — 電圧を上げると、電流も損失もそれ以上に小さくなる
ここまで見てきた電圧降下・力率改善の話は、6.6kVの高圧配電線路を主な例にしていたが、 供給力を増強したい地域や長距離配電が必要な地域では、6.6kVより高い22kV・33kV配電系統が 使われることがある。
配電電圧を高めるメリットは、電圧降下の式そのものからも読み取れる。同じ有効電力・力率で 負荷に電力を送るとき、線路電流は電圧に反比例する。 さらに線路損失は電流の2乗に比例するため、電圧を高めた効果は 電流よりもさらに大きな倍率で損失に効いてくる。
電圧を高めるメリットがある一方で、22/33kV配電系統には6.6kV配電系統とは異なる設計上の 判断もある。その一つが中性点接地方式だ。日本の6.6kV高圧配電線路の多くは非接地方式が 採用されているのに対し、22/33kV配電系統では、地絡電流を抑えつつ地絡検出に必要な電流も 確保できる抵抗接地方式が一般的に採用される。電圧階級が上がるほど絶縁設計・地絡電流の 影響も大きくなるため、非接地方式のまま高電圧化するのではなく、抵抗接地という中間的な 方式に切り替えて対応している、というつながりで理解しておくとよい(採用する接地方式の 詳細は系統や電力会社の設計基準によって異なるため、実務では個別の設計資料を確認すること)。
力率改善と変圧器容量 — 「何kWまで載せられるか」を決めるのは皮相電力
ここまでは、力率改善を「電圧降下と損失を減らす手段」として見てきた。もう一つ、受変電設備の実務で 効いてくる側面がある。変圧器の容量は、有効電力[kW]ではなく皮相電力[kVA]で決まるという点だ。
変圧器は、流せる電流の上限(=皮相電力の上限)で定格が決まっている。有効電力Pと無効電力Qを 同時に送るとき、変圧器が受け持つ皮相電力Sは次のとおりだ。
力率が低い(Qが大きい)ほど、同じPを送るのに必要なSは大きくなる。逆に、負荷の近くにコンデンサを 入れてQを打ち消せば、Pを変えずにSだけを小さくでき、同じ変圧器にもう少し多くの負荷を載せる余地が生まれる。 線路でも同じで、線路電流Iは皮相電力Sに比例し(三相なら )、線路損失は だから、 力率改善は「変圧器の余裕」と「線路損失」の両方に効く。
この種の計算は、次の3つの型に整理できる。いずれも有効電力と無効電力を別々に足し引きすることが共通の作法だ。
例題① 負荷を追加したあとの合成力率
ある需要家で、既設の負荷は有効電力300kW・力率0.6(遅れ)である。ここに有効電力100kW・力率1.0 (電気ヒータのような純抵抗負荷)の負荷を追加した。合成した力率はいくらか。
力率は足し算できない。まず、負荷ごとに有効電力と無効電力に分ける。
- 既設:kW、 より kvar
- 追加:kW、力率1.0なので kvar
合成すると kW、kvar。
「0.6と1.0だから平均して0.8」と考えたくなるが、力率は有効電力と無効電力の足し算から求めるもので、 平均ではない。この例では、純抵抗の負荷を足しても、無効電力400kvarは減らないので、力率は0.71に とどまる。
例題② 変圧器容量の内側に収めるために必要なコンデンサ容量
例題①の合成負荷(400kW・400kvar、皮相電力約566kVA)を、容量500kVAの変圧器で受けている。変圧器の 負荷を500kVA以内に収めるには、最低何kvarのコンデンサが必要か。
有効電力は400kWのまま変わらない。皮相電力を500kVAに抑えるときに許される無効電力の上限は、
いまの無効電力は400kvarなので、コンデンサで打ち消すべき分は
このときの力率は 。コンデンサが100kvar以上あれば、変圧器の負荷は500kVA以内に収まる。 ここで「566−500=66kvar」と皮相電力の差をそのままコンデンサ容量にしてしまうのは誤りだ。コンデンサが 打ち消すのは無効電力であり、皮相電力は の形で決まるため、差し引きの対象が違う。
例題③ 線路損失を変えずに供給できる負荷は何倍になるか
三相3線式の配電線で、受電端の電圧を一定に保ったまま、力率0.75(遅れ)の負荷に電力を供給している。 コンデンサを入れて受電端の力率を0.90に改善し、線路損失をいまと同じに保つとき、供給できる有効電力は 何倍になるか。線路の抵抗は変わらないものとする。
線路電流は 、線路損失は 。電圧Vと抵抗Rが一定なら、 損失が一定とは線路電流Iが一定ということだ。したがって
逆に、有効電力を変えずに力率だけを0.75から0.90に改善した場合は、電流が 倍になり、 線路損失は電流の2乗に比例して
に下がる。同じ力率改善でも、「損失一定で負荷を増やす」問いなら力率の比そのもの(1乗)、「負荷一定で 損失がどう減るか」の問いなら力率の比の2乗が答えになる。どちらを聞かれているかを、 設問の言い回しで見分けるのが、この型の最大の分かれ目だ。
なお、力率改善後の目標をどこに置くかは、料金制度や設備の状況で変わる。日本電気技術者協会の解説では、 改善後の力率は95%程度までにするのが効果的とされている。力率を1.0に近づけるほど、力率の改善幅あたりに 必要な容量は増える。有効電力に対する必要容量は、力率0.90から0.95へで約0.16倍、0.95から1.0へで約0.33倍 ( の差)と、後半のほうが倍近く重い。
受変電設備での意味
電材商社として進相コンデンサを扱う場面では、単に容量[kvar]の大小だけでなく、 「その需要家の実際の負荷変動(力率の変動)に対して過補償にならないか」まで踏み込んで 確認できることが、選定の質を左右する。冒頭の「なぜ力率改善で電圧降下まで良くなるのか」 の答え合わせは、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。