電力ケーブルのカタログには、抵抗値だけでなく、インダクタンスや静電容量といった見慣れない 数字も載っている。ケーブルは電気を通すだけの導線のはずなのに、なぜ抵抗以外の性質まで 気にする必要があるのか。
そして、電力会社の送電線では、深夜など電気をあまり使わない時間帯に、送った電圧より 受け取る側の電圧の方が高くなるという、直感に反する現象が起きることがある。電圧は流れる うちに下がるものだと思っていると、この現象はうまく説明できない。
このトピックを読み終えるころには、送電線路やケーブルが持つ3つの電気的な性質から、電圧降下と この不思議な電圧上昇の両方を、仕組みから説明できるようになっている。
種明かしは、送電線路が単なる「抵抗のある導線」ではなく、抵抗・インダクタンス・静電容量 という3つの性質を同時に持つ回路素子だという点にある。
送電線路を表す3要素 — R・L・C
送電線路(電力ケーブルも含む)は、電気的には次の3つのパラメータで表される。
- R(抵抗):導体そのものが持つ電気抵抗
- L(インダクタンス):電流が作る磁束による自己インダクタンス・相互インダクタンス
- C(静電容量):導体間・大地との間に生じる静電容量
大地への漏れ電流を表すコンダクタンスGも理論上は存在するが、通常は非常に小さいため無視して 扱う。試験で問われるのは主にこのR・L・Cの3つと、それぞれが線路の長さ・太さ・線間距離で どう変わるかという点だ。
R(抵抗)— 材質・太さ・温度で決まり、交流ではわずかに増える
抵抗Rは、導体の材質(銅かアルミか)、断面積、こう長(線路の長さ)で決まる。断面積が大きい ほど、また長さが短いほど抵抗は小さくなる。加えて、温度が上がると導体の抵抗も増加する (導体の温度係数)。
さらに交流特有の現象として、表皮効果がある。交流電流は導体の表面付近に集中して流れる 性質があり、実効的な電流の通り道(断面積)が直流のときより狭くなる。そのため、同じ導体でも 交流抵抗は直流抵抗よりわずかに大きくなる。
L(インダクタンス)— 線間距離が離れるほど、導体が細いほど大きい
インダクタンスLは、電流が作る磁束によって生じる。3線間の幾何学的な位置関係(線間距離)と 導体の太さで決まり、線間距離が離れるほど、導体が細いほど大きくなる。
Lは電圧降下の主要因の一つになる。送電線に流れる電流のうち、電圧に対して位相が遅れる成分 (遅れ電流、力率の悪い負荷ほど大きい)は、このLによるリアクタンス降下(の項) を通じて電圧降下を大きくする。
C(静電容量)— 線間距離が近いほど、導体が太いほど大きい
静電容量Cは、導体間・大地との間に生じる。平行平板コンデンサと同じ考え方で、線間距離が 近いほど、導体が太いほど大きくなる——Lとは増減の向きが逆になる点に注意がいる。
Cは、電圧に対して位相が進む電流(進み電流、充電電流)を生む。この充電電流は、線路に負荷が つながっていなくても、線間・対地間の静電容量を通じて常に流れ続ける。
架空送電線路と地中送電線路の線路定数比較
ここまで見てきたR・L・Cの性質は、鉄塔に張られた架空送電線路を念頭に置いた説明だったが、 都市部などでよく使われる地中送電線路(ケーブル)では、R・L・Cの数値の出方が架空送電線路と 大きく変わる。理由は単純で、地中送電線路は導体間の距離(線間距離)が架空送電線路よりも はるかに近いためだ。
- 静電容量Cは、架空送電線路よりかなり大きい:線間距離が近いほど大きくなるというCの 性質(平行平板コンデンサと同じ考え方)がそのまま働く。地中送電線路は導体同士やケーブルの 遮蔽層との距離が近いため、架空送電線路よりCがかなり大きくなる。
- インダクタンスLは、架空送電線路より小さい:Lは線間距離が離れるほど大きくなる性質を 持つため、線間距離が近い地中送電線路ではLは架空送電線路より小さくなる——Cとは逆方向の 変化になる。
- 導体抵抗R自体の性質(表皮効果による交流抵抗の増加など)は、架空・地中どちらの線路にも 共通して当てはまる。
地中送電線路のCが大きいという性質は、次に見るフェランチ効果とも直結する。無負荷・軽負荷の 条件がそろったとき、Cが大きい地中送電線路ほど進み電流(充電電流)の影響が強く出やすく、 フェランチ効果による電圧上昇が問題になりやすい。
電圧降下の概算式と、逆に電圧が上がるフェランチ効果
送電線路の電圧降下は、次の概算式で見積もれる。
は抵抗、はLによるリアクタンス()、は力率、は電流だ。 負荷が重いほど電流が大きくなり、電圧降下も大きくなる——というのが基本の挙動だ。
ところが、負荷がほとんどない(無負荷・軽負荷)長距離の送電線路では、事情が変わる。負荷電流が 小さくなる一方で、Cによる進み電流(充電電流)は負荷の大小に関係なく流れ続ける。この進み電流 がLによる電圧降下分を打ち消し、さらに上回ると、受電端電圧が送電端電圧よりも高くなる。 これがフェランチ効果だ。深夜などの軽負荷時間帯や、こう長の長い送電線・地中ケーブル (Cが大きい)で特に問題になりやすい。
π形等価回路で、フェランチ効果を数値で計算する
前節までのフェランチ効果は「無負荷・軽負荷・長距離の条件で受電端電圧が送電端電圧より 高くなる」という定性的な説明だった。ここでは、送電線をπ形等価回路という回路モデルで 表し、実際にどれだけ電圧が上昇するのかを数値で計算する方法を見ていく。
π形等価回路は、送電線1相分を、送電端と受電端の間に置いた直列リアクタンス jX(線路の インダクタンスLに由来)と、送電端・受電端それぞれに半分ずつ振り分けた並列アドミタンス jB/2(線路の静電容量Cに由来)で表したモデルだ。回路の見た目がギリシャ文字のπに似ている ことからこの名がある。
受電端が無負荷(電流を消費する負荷がつながっていない)とき、受電端に流れ込む電流は、 受電端側のアドミタンス jB/2 を通る充電電流だけになる。この電流が直列リアクタンス jX を 流れることで、送電端相電圧 と受電端相電圧 の間には次の関係が成り立つ。
は正の小さな値になるため、分母が1より小さくなり、 は より大きくなる—— これがフェランチ効果を式の形で表したものだ。このときの送電端電流(1線あたり)は、送電端側と 受電端側、両方のアドミタンスを流れる充電電流の合計になる。
例題
三相3線式1回線の送電線路の一相がπ形等価回路(jX=j100Ω、jB=j1.0mS)で表され、送電端の 線間電圧が77.0kVであり、受電端が無負荷であるとする。
まず送電端の相電圧に直す(π形等価回路は1相分のモデルなので、線間電圧のまま代入しない)。
を計算すると、
受電端相電圧は、
線間電圧に戻すと、
送電端の線間電圧77.0kVに対し、受電端では約81.0kVまで電圧が上昇している。送電端電流は、
送電損失と電線の太さ — 損失率の条件から断面積を逆算する
電圧降下が「電線を流れる間に電圧がどれだけ落ちるか」を表す量だったのに対し、送電損失は 「電線を流れる間にどれだけの電力が熱として失われるか」を表す量だ。三相3線式の送電損失は 次の式で求まる。
は線電流、は電線1条あたりの抵抗だ。係数が3なのは、電流が流れる3条の電線それぞれで の熱損失が生じ、それを単純に3条分足し合わせているためで、電圧降下の式に出てくる (線間電圧を基準にした換算)とは根拠が別物である点に注意したい。
電線の抵抗は、単位長さ・単位断面積あたりの抵抗(材質で決まる値)に、こう長を掛けて 断面積で割ったものになる。送電損失を受電端電力に対してある割合以下に抑えたいという条件が 与えられれば、この関係を使って必要な電線の最小断面積を逆算できる。
例題
こう長15km、三相3線式1回線の送電線路で、受電端において22kV、4400kW、力率0.85(遅れ)の 三相負荷に供給する。送電損失を受電端電力の4%以下にするために必要な電線の最小断面積を求める。 使用電線は断面積1mm²、長さ1mあたりの抵抗を1/35Ωとする。
まず線電流を求める。
許容される送電損失は、受電端電力の4%だから、
電線の抵抗は(:こう長[m]、:断面積[mm²])と表せるので、 をAについて解くと、
同じ損失率の条件でも、受電端電圧が低い線路ほど同じ電力を送るのに必要な電流が大きくなるため、 必要な電線の断面積も太くなる。電圧を高くして送電する(高い電圧階級を選ぶ)ことが、電線を 細く・軽くできるという経済性にも直結している、という点は、送電電圧の設計を考えるうえでの 基本的な視点になる。
交流送電と直流送電(HVDC)の対比 — なぜあえて直流に変換して送る場面があるのか
ここまで見てきたR・L・Cやフェランチ効果は、いずれも「交流」の送電線路だから起きる現象 だった。Lによるリアクタンス降下も、Cによる進み電流も、電流・電圧が周期的に向きを変える 交流だからこそ生じる。では、送電線路をあえて直流で運用する直流送電(HVDC)には、 交流と比べてどのような特徴があるのだろうか。
直流には周波数がなく、電流・電圧の向きが変わらないため、交流送電にはある制約が存在しない。
- リアクタンスの影響がなく、安定度による送電容量の制約を受けない:交流送電では、 線路のリアクタンス(インダクタンス由来)と送受電端の位相差によって決まる「安定度」が 送電容量の上限を左右する。直流にはこの制約がないため、電線が熱的に耐えられる 許容電流限度まで送電容量を使い切ることができる。この特性から、大電力を長距離で 送る送電線や、交流では損失・充電電流の問題が大きくなりやすい海底ケーブル送電に 直流送電が向いている。
- 非同期連系ができる:交流の系統同士を直接つなぐには、周波数と位相を一致させる必要が ある。直流送電を介せば、周波数の異なる系統(例:50Hzの系統と60Hzの系統)同士を 非同期連系として直接結ぶことができる。
一方で、直流送電には交流にはない技術的な難しさもある。
- 大電流の遮断が難しい:交流電流は周期的に零点(ゼロクロス)を通過するため、遮断器は その瞬間を狙ってアークを消弧しやすい。ところが直流電流は零点を通過しないため、大電流を 強制的に遮断する直流遮断器の実現は、交流用の遮断器よりも技術的なハードルが高い。
- 交直変換装置が必要:送電端では交流を直流に変換(順変換)し、受電端では直流を交流に 戻す(逆変換)ための変換装置が必要になる。特に他励式の変換装置は、動作原理上どうしても 電流波形にひずみを生じさせ、高調波を発生させるため、フィルタなどによる高調波対策が 欠かせない。
実務との接点 — ケーブル選定は電圧降下計算そのもの
電力ケーブルのカタログに載っている抵抗値・インダクタンス・静電容量は、まさにここで見た R・L・Cそのものだ。制御盤や受変電設備からの配線を検討する際、こう長が長い・負荷電流が 大きいケースでは、この概算式を使って電圧降下が許容範囲に収まるかを確認し、必要であれば ケーブルサイズ(断面積)を太くしてRを下げる、という判断を行う。電圧降下計算は、電材選定の 現場で日常的に使われている実務そのものだ。
冒頭の「電力ケーブルのカタログになぜ抵抗以外の数字が載っているのか」「なぜ受電端電圧が 送電端電圧より高くなることがあるのか」——答え合わせは、理解度チェックの最後の問題で してみよう。