実務では「D種接地工事の接地抵抗値は100Ω以下」というように、具体的な数値を基準に判断する場面が多い。ところが「電気設備に関する技術基準を定める省令」(電技)そのものを読んでみると、こうした具体的な数値がほとんど出てこない。
100Ωという数字は、いったいどこで決められているのか。そして、なぜ電技には数値がほとんど書かれていないのか。
このトピックを読み終えるころには、電技という法令の全体像——どこまでを省令が決め、どこからを別の文書が引き受けているのか——を、自分の言葉で説明できるようになっている。
種明かしは、電技が「性能規定」と呼ばれる書き方をしている、という点にある。電技は「何を達成すべきか」という目的だけを定め、「どうやって達成するか」という具体的な数値・仕様は、別の文書に委ねている。
電技は「目的」を定める省令 — 数値は書かれていない
電技(電気設備に関する技術基準を定める省令)は、電気事業法第39条・第56条の規定に基づいて定められた省令だ。第4条は電技全体の基本原則にあたる条文で、次のように定めている。
電気設備は感電、火災その他人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えるおそれがないように施設しなければならない。
読めば分かるとおり、この条文には「何Ω以下」「何mm以上」といった数値が一切出てこない。電技のほとんどの条文は、この第4条と同じ書き方をしている——達成すべき状態(性能)だけを定め、その手段は指定しない。 これを性能規定と呼ぶ。
電技解釈 — 目的を実現する「具体的な仕様書」
電技が定めた目的を、実際の数値・工法にまで落とし込んだものが「電気設備の技術基準の解釈」(電技解釈)だ。D種接地工事の接地抵抗値100Ω以下、金属管工事の接地省略条件(長さ4m以下など)といった、現場で参照する具体的な数値の大半は、この解釈に書かれている。
電技解釈は法律や省令そのものではなく、経済産業省が示す通達に近い位置づけの文書だ。とはいえ、電技解釈どおりに施設すれば、電技が求める目的(感電・火災等のおそれがないこと)を満たしているとみなされるため、実務ではこちらが最も頻繁に参照される。
解釈は「唯一の道」ではない — 性能規定という考え方
ここが試験で誤解されやすい点だ。電技解釈に定められた工法どおりに施工しなければ、必ず技術基準違反になる——というわけではない。電技解釈の冒頭には、解釈が定める規定と同等以上の効力があると認められる方法により電気設備を施設する場合は、その規定によらなくてもよい、という趣旨の定めがある。
つまり解釈は「これに従っていれば安全だと認められる、代表的な1つの方法」であって、絶対に守らなければならない唯一の手段ではない。目的地(電技第4条が求める安全な状態)に別の道でも到達できることを示せれば、解釈と異なる工法でも技術基準には適合する。
この仕組みが効いてくるのは、新しい材料や工法が登場したときだ。法律や省令そのものを改正するには時間がかかるが、解釈は経済産業省の判断で改正できる。新工法が電技の目的を満たすと確認されれば、解釈側に条文を追加するだけで対応が済む。省令=目的、解釈=具体的な仕様、という役割分担があるからこそ、電気の世界は技術の進歩に法令が追いつける形になっている。
電圧区分という「土台」— 第2条
電技のもう1つの重要な条文が、第2条の電圧区分だ。電技は電圧を低圧・高圧・特別高圧の3つに区分しており、この区分は交流と直流で境界の数値が異なる。
| 区分 | 交流(AC) | 直流(DC) |
|---|---|---|
| 低圧 | 600V以下 | 750V以下 |
| 高圧 | 600V超 7,000V以下 | 750V超 7,000V以下 |
| 特別高圧 | 7,000V超 | 7,000V超 |
この区分自体は数値を伴う定義であり、性能規定の例外にあたる。電技以降のほぼすべての条文——接地工事の種類、絶縁耐力試験、離隔距離——は、この電圧区分のどこに当たるかによって、適用される基準が変わる。法規科目の各トピックを読むときは、まず対象の設備がどの電圧区分にあるかを確認する癖をつけると、条文のつながりが見えやすくなる。
制御盤や受変電設備を扱う実務では、メーカーのカタログや工事仕様書に「電技解釈第◯条準拠」という表記を見かけることがある。この表記の意味も、省令と解釈の二階建て構造が分かれば読み解ける。カタログが根拠にしているのは、たいてい具体的な数値基準を持つ解釈側の条文だ。
電路の絶縁の原則 — 第5条
電圧区分(第2条)と並んで、電技の前段に置かれたもう1つの基本条文が、第5条の電路の絶縁の原則だ。
電路は、大地から絶縁しなければならない。
これだけを読むと、「電気の通り道は、大地とは常に切り離しておくべきもの」という単純な原則に見える。実際、感電・漏電による火災のリスクを抑えるうえで、電路をむやみに大地と電気的につなげないというのは、まっとうな出発点だ。
だが第5条には、次のようなただし書きの例外がある。
- 構造上やむを得ない場合であって、通常予見される使用形態を考慮し危険のおそれがないとき
- 落雷による高電圧の侵入等の異常が発生した際の危険を回避するため、接地その他の必要な措置を講ずるとき
「電路は絶縁が原則、接地は例外的な安全策」という向きを押さえておくと、なぜ接地工事という制度がわざわざ用意されているのか、その存在理由そのものが腑に落ちやすくなる。接地は電路の欠陥ではなく、原則の裏にある、計算された例外なのだ。
電技解釈が定める安全対策の具体例 — 燃料電池発電設備と非常用予備電源
性能規定という考え方を踏まえたうえで、電技解釈が実際にどのような安全対策を定めているか、 身近な例を2つ見ておこう。どちらも「装置を付けろ」「分離しろ」という設置・構造上の要求で、 数値基準とは違う形で性能規定を実現している例になる。
燃料電池発電設備(家庭用・業務用の燃料電池コージェネレーションなど)は、発電の仕組み上、 水素を扱う設備であるため、運転状態を常時把握できることが安全上重要になる。電技解釈は、 燃料電池発電設備に運転状態を表示する装置の設置を求めている——異常が起きたときに、 現場や監視室で状態を把握できるようにするための規定だ。
非常用予備電源(自家発電設備など、停電時に切り替えて使う電源)についても、電技解釈は 独自の安全対策を定めている。常用電源(通常使う電力会社からの電源)側の電路と、 非常用予備電源側の電路とを、電気的に接続しないよう分離することを求める規定がその代表例だ。 もし両者が接続されたままだと、停電復旧時に非常用電源からの電気が電力会社側の配電線へ 逆流し、復旧作業をしている作業者を感電させるおそれがある——このような事故を防ぐための 分離義務、と理解すると腑に落ちる。
もう1つ、性能規定が「設置義務」という形で現れる代表例が、電動機の過負荷保護装置だ。 屋内に施設する電動機には、電動機が焼損するおそれがある過電流を生じた場合に、自動的に これを阻止し、又はこれを警報する装置を設けることが原則求められる。巻線が過電流で 発熱・焼損する事故を防ぐための規定で、これも電技第4条の「感電・火災等のおそれがない ように施設する」という目的を、具体的な装置の設置義務に落とし込んだ形といえる。
ただし、次のいずれかに該当する場合は、この保護装置の設置を省略できる。
- 電動機を運転中、常時、取扱者が監視できる位置に施設する場合
- 電動機の構造上又は負荷の性質上、その電動機の巻線を焼損する過電流を生じるおそれがない場合
- 電動機が単相のものであって、その電源側電路に施設する過電流遮断器の定格電流が15A(配線用遮断器にあっては20A)以下の場合
- 電動機の出力が0.2kW以下の場合
配線工事の工法にも「使ってよい条件」がある — 高圧屋内配線の例
性能規定の考え方は、工事の「やり方」そのものを制限する場面にも表れる。高圧屋内配線(需要家構内で高圧のまま配線する工事)を例にとると、電技解釈は使用できる工事方法をがいし引き工事とケーブル工事の2通りに限定している。
さらに、がいし引き工事については無条件に使えるわけではない。乾燥した場所であって、展開した場所(点検できる開放された場所)に限る、という条件が付いている。がいし引き工事は電線がむき出しのまま絶縁体(がいし)で支持される工法のため、湿気の多い場所や、天井裏のような隠ぺいされた場所で使うと、絶縁性能の低下や接触事故のリスクが高まる。だからこそ、乾燥・展開という2つの条件をともに満たす場所に限定されている。
また、低圧配線がケーブル工事で施設され、弱電流電線や水管・ガス管等(以下、水管等)と接近・交差する場合には、低圧配線を弱電流電線・水管等と接触しないように施設することが求められる。がいし引き工事のように電線がむき出しの工法では、弱電流電線・水管等との間に一定の離隔距離(センチメートル単位の数値)を確保することが求められる場面があるのに対し、ケーブル工事はケーブル自体の被覆が絶縁・保護の役割を担うため、「接触さえしなければよい」という、比較的緩やかな基準になっている。
ライティングダクト工事 — 「支持するダクト」自体が電源供給路になる工法
低圧屋内配線の工法には、がいし引き工事・金属管工事・ケーブル工事のほかに、ダクト自体を電線の役割も兼ねた通路として使う工法がいくつかある。その1つがライティングダクト工事だ。天井や壁に細長いダクトを取り付け、その内部(または表面のレール状の溝)に電気を通し、照明器具などを好きな位置に差し込んで使う工法で、オフィスや店舗の照明配線でよく見かける。
電気設備技術基準の解釈は、ライティングダクト工事による低圧屋内配線に、次のような施設基準を定めている。
- ダクトの支持点間の距離を一定以下とする
- ダクト相互及び電線相互は、堅ろうに、かつ電気的に完全に接続する
- ダクトの開口部は、原則として下に向けて施設する(人が容易に触れるおそれがない場合等を除く)
- ダクトの終端部は閉そくする
- ダクトは造営材を貫通しないように施設する
電路そのものを守る一般原則 — 過電流遮断器の施設(電技14条)
電動機の過負荷保護装置は、電動機という特定の機器を焼損から守るための個別規定だった。これとは別に、電技第14条は、電路そのものに対するもっと広い一般原則を定めている。
電路の必要な箇所には、過電流による過熱焼損から電線及び電気機械器具を保護し、かつ、火災の発生を防止できるよう、過電流遮断器を施設しなければならない。
配線の使用電線 — 裸電線は原則禁止、特別高圧には接触電線も禁止
過電流遮断器が「電路を過電流から守る」規定だったのに対し、配線の使用電線に関する基準は「配線そのものが感電・火災の原因にならないようにする」規定だ。
配線の使用電線(裸電線及び特別高圧で使用する接触電線を除く)には、感電又は火災のおそれがないよう、施設場所の状況及び電圧に応じ、使用上十分な強度及び絶縁性能を有するものでなければならない。そのうえで、配線には裸電線を使用してはならないという原則が置かれている。
もう1つ、この原則とは別に、特別高圧の配線には接触電線を使用してはならないという禁止がある。接触電線とは、クレーンの給電用トロリー線のように、移動する電気機械器具に電気を供給するために使用する電線のことだ。特別高圧という高い電圧区分では、接触電線のような露出した給電方式そのものが、裸電線の例外規定にかかわらず認められていない。
屋内電路の対地電圧の制限 — 住宅は150V、太陽電池・蓄電池には条件付きの緩和
配線の使用電線の話に続けて、電気設備技術基準の解釈は、屋内電路にどれだけの対地電圧までを許すかという基準も定めている。住宅の屋内電路の対地電圧は、原則として150V以下に制限される。
ただし、この150V以下という原則は、あらゆる屋内配線に無条件で適用されるわけではない。近年増えている太陽電池モジュールや、常用電源として用いる蓄電池に接続する屋内配線には、次のような条件を満たすことを前提に、対地電圧を直流450V以下まで認める緩和規定がある。
- 電路に地絡が生じたときに自動的に電路を遮断する装置を施設する
- ケーブル工事等により施設し、電線に接触防護措置を施す
制御盤・分電盤を扱う実務では、住宅用の太陽光発電システムの屋内配線が高めの直流電圧で施設されている図面を見ることがある。そのとき「なぜ150Vの原則から外れているのか」を、地絡時の自動遮断装置やケーブル工事という条件とセットで説明できると、顧客への技術的な信頼にもつながる。
電磁誘導作用による人の健康影響の防止 — 変圧器・電線路の「磁束密度」規制
ここまでは配線・配管の話が中心だったが、電技には「機械器具そのものが発する電磁誘導作用」に着目した条文もある。変圧器・開閉器その他これらに類するもの、又は電線路を、発電所・変電所・開閉所及び需要場所以外の場所に施設する場合は、通常の使用状態において、当該電気機械器具等からの電磁誘導作用により人の健康に影響を及ぼすおそれがないよう施設しなければならない。具体的には、当該電気機械器具等のそれぞれの付近において、人によって占められる空間に相当する空間の磁束密度(商用周波数)の平均値を、一定値以下に抑えることが求められる。
ただし書きもある。田畑、山林その他人の往来が少ない場所において、人体に危害を及ぼすおそれがないように施設する場合は、この限りでない。磁束密度そのものがなくなるわけではないが、人がその空間に長時間とどまる可能性が低いため、規制の対象から外れる。
特殊場所における施設制限 — 粉じん・可燃性ガス・危険物のある場所
電技には、設備の種類ではなく「どんな環境に施設するか」という切り口で安全対策を求める条文もある。粉じんの多い場所に施設する電気設備は、粉じんによる当該電気設備の絶縁性能又は導電性能が劣化することに伴う感電又は火災のおそれがないように施設しなければならない。
さらに踏み込んだ規制が置かれているのが、爆発・火災のリスクが特に高い場所だ。次のいずれかに該当する場所に施設する電気設備は、通常の使用状態において、当該電気設備が点火源となる爆発又は火災のおそれがないように施設しなければならない。
- 可燃性ガス又は引火性物質の蒸気が存在し、点火源の存在により爆発するおそれがある場所
- 粉じんが存在し、点火源の存在により爆発するおそれがある場所
- 火薬類が存在する場所
- セルロイド、マッチ、石油類その他燃えやすい危険な物質を製造し、又は貯蔵する場所
塗装ブース、木粉・穀物の集じん設備、化学薬品を扱う工場など、電材商社が扱う制御盤・分電盤の納入先には、こうした特殊場所に該当する現場が少なくない。標準品の制御盤をそのまま持ち込めるかどうかを判断する場面では、「この現場は特殊場所に該当するか」という視点を最初に立てておくと、防爆仕様の要否を見誤りにくい。
電技が定める分野別の安全対策 — サイバーセキュリティの確保と発電用風力設備の技術基準
ここまで見てきた「省令=目的、解釈=具体的な仕様」という二階建て構造には、実は例外がある。近年、電技(省令)自体に、性能規定の枠を超えて、特定の対象に絞った明文の義務が直接書き込まれる例が増えている。代表的な2つを見ておこう。
1つ目はサイバーセキュリティの確保だ。電技は、電気工作物(一般送配電事業・送電事業・配電事業・特定送配電事業等の用に供するものに限る)の運転を管理する電子計算機について、サイバーセキュリティを確保しなければならないと定めている。変電所の監視制御システムや配電自動化システムのように、コンピュータ・通信ネットワークで電気工作物を遠隔管理する仕組みが広がるほど、外部からの不正アクセスや攻撃によって電気工作物が誤動作するリスクも大きくなる。人体への危害・物件への損傷はもちろん、電気の供給に著しい支障を及ぼすおそれもあるため、電技はこのリスクを、絶縁や強度と同じ「感電・火災等のおそれがないように施設する」という目的の延長線上に位置づけ、明文の義務として組み込んでいる。
2つ目は、発電用風力設備に関する技術基準を定める省令だ。これは電技とは別に制定された、風車専用の省令である。名称が電技(電気設備に関する技術基準を定める省令)とよく似ているため、電技の一部条文だと誤解しやすいが、まったく別の省令として存在する。この省令は、風車について次のような施設基準を求めている。
- 負荷を遮断したときの最大速度に対し、構造上安全であること
- 風圧に対して構造上安全であること
- 運転中に風車に損傷を与えるような有害な振動がないように施設すること
- 通常想定される最大風速においても、取扱者の意図に反して風車が起動することのないように施設すること
- 運転中に他の工作物、植物等に接触しないように施設すること
太陽光発電設備に続き、風力発電設備も再生可能エネルギーの導入拡大とともに設置が増えていく分野だ。電材商社が制御盤・保護継電器・監視システムを提案する場面でも、対象が風力発電設備であれば電技だけでなくこの専用省令の存在を意識しておくと、顧客への説明に厚みが出る。
配線器具の施設 — 「見えなくする」だけでなく「緩ませない」
ここまで見てきた条文は、電路や電気機械器具そのものの安全性に関する規定だった。スイッチやコンセントのような、日常的に手で触れる「配線器具」にも、電気設備技術基準の解釈は独自の施設基準を定めている。
低圧用の配線器具は、次のような要件で施設する。
- 充電部分の露出防止:充電部分が露出しないように施設する。ただし、取扱者以外の者が出入りできないように措置した場所に施設する場合は、この限りでない
- 防湿装置:湿気の多い場所又は水気のある場所に施設する場合は、防湿装置を施す
- 接続点の保護:配線器具に電線を接続する場合は、ねじ止めその他これと同等以上の効力のある方法により、堅ろうに、かつ、電気的に完全に接続するとともに、接続点に張力が加わらないようにする
- 屋外器具の防護:屋外において電気機械器具に施設する開閉器、接続器、点滅器その他の器具は、損傷を受けるおそれがある場合には、これに堅ろうな防護装置を施す
制御盤・分電盤の配線を扱う電材商社の現場では、スイッチやコンセントの接続不良による発熱・断線トラブルは珍しくない。「しっかり締めたはずなのに、あとから緩んで発熱した」という現象の背景には、この「接続点に張力を加えない」という基準を見落とし、電線を張った状態のまま固定してしまっていることが少なくない。
冒頭の「D種接地工事の100Ωという数字は、どこで決められているのか」——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。