設備更新の相談を受けた工場から、古い変圧器の銘板に書かれた「150kVA」という数字だけが 手がかりとして渡された。設備台帳を洗い出すと、電動機やヒーターの定格容量の合計は230kW。 力率はおおむね0.9だという。
需要率も不等率も分かっているのに、このままでは新しい変圧器の容量をいくつで提案すればいいのか 判断がつかない。需要電力から変圧器容量まで、あと1つ足りない計算がある。
このトピックを読み終えるころには、需要率・不等率で求めた需要電力から、実際にカタログで 選ぶべき変圧器容量まで、迷わず一本の計算でつなげられるようになっている。
種明かしは、需要率・不等率の計算が「有効電力(kW)」の世界で完結するのに対し、 変圧器のカタログはすべて「皮相電力(kVA)」で表記されているという、単位のズレにある。 このズレを埋めるのが力率(cosφ)だ。
変圧器容量は「有効電力」ではなく「皮相電力」で決まる
需要率・不等率を使って求めた合成最大需要電力は、有効電力(kW)——実際に仕事をする電力の値だ。 だが変圧器のカタログを見ると、容量は必ずkVA(皮相電力)で書かれている。この2つを結びつけるのが力率で、
という関係にある。この式を皮相電力について解くと、
となる。力率は1以下の値なので、有効電力を力率で割ると、必ずそれより大きい値になる。
例題
合成最大需要電力90kW、力率0.9のとき、必要な変圧器容量はいくらか。
規格容量から選ぶ — 「計算値以上」が鉄則
計算で出た必要容量ぴったりの変圧器が市販されているとは限らない。変圧器は50kVA、75kVA、 100kVA、150kVA、200kVAというように、あらかじめ決められた規格容量の中から選ぶのが実務だ。
このとき鉄則になるのが、計算値「以上」で最も近い規格容量を選ぶこと。計算値をわずかでも 下回る容量を選んでしまうと、通常の使用でも過負荷になり、変圧器の劣化や保護装置の動作(停電) につながる。
例題
必要な変圧器容量が計算上138kVAだった場合、100kVA・150kVA・200kVAという規格容量の中から どれを選ぶべきか。
138kVAに最も近いのは100kVAだが、これでは必要量を下回ってしまう。150kVAを選ぶのが正しい。 「一番近い値」ではなく「計算値以上で一番近い値」という条件を、常にセットで意識する必要がある。
需要率・不等率から変圧器容量までの一本の流れ
ここまでの内容と前のトピックの需要率・不等率を組み合わせると、次のような一続きの計算になる。
- 各設備の設備容量 × 需要率 → 個々の最大需要電力[kW]
- 個々の最大需要電力の合計 ÷ 不等率 → 合成最大需要電力[kW]
- 合成最大需要電力 ÷ 力率 → 必要な変圧器容量[kVA]
- 規格容量の中から、3の計算値以上で最も近いものを選定
例題
設備容量150kW・需要率60%の設備Aと、設備容量100kW・需要率50%の設備Bがある。不等率1.4、 力率0.9として、必要な変圧器容量を求める。
規格容量の中に100kVAと150kVAがあれば、111kVAを下回る100kVAでは不足するため、150kVAを選ぶことになる。
力率改善に必要な進相コンデンサの容量を計算する
ここまでは、力率を「所与の値」として扱い、有効電力から変圧器容量(皮相電力)を逆算する話だった。実務ではもう一歩踏み込んで、「力率が悪い負荷に、どれだけの容量の進相コンデンサを追加すれば、目標の力率まで改善できるか」を計算する場面がある。
力率改善の考え方は、電力を有効電力(P)・無効電力(Q)・皮相電力(S)の直角三角形で捉えるところから始まる。負荷の有効電力Pは変わらないまま、コンデンサが打ち消す無効電力の分だけ、皮相電力(見かけの電力)が小さくなる——これが力率改善の仕組みだ。
改善前の力率をcosθ1、改善後の力率をcosθ2とすると、必要な進相コンデンサの容量Q[kvar]は、次の式で求められる。
tanθは、cosθから sinθ=√(1−cos²θ) を求め、tanθ=sinθ/cosθの順に計算する。
例題
有効電力200kW、力率0.6(遅れ、sinθ1=0.8)の負荷の力率を1.0まで改善するために必要な進相コンデンサの容量を求める。
力率を1.0まで完全に改善する必要は、実務上は必ずしもない。目標をcosθ=0.9程度に置くケースも多い。この場合はtanθ2も0ではなくなるため、改善前後のtanθをそれぞれ求めてから差を取る、という同じ手順を繰り返すことになる。
直列リアクトル付き進相コンデンサ — なぜコンデンサの端子電圧は回路電圧より高くなるのか
実際の高圧受電設備では、進相コンデンサを単体で接続するのではなく、コンデンサと直列にリアクトル(SR:直列リアクトル)を接続した「進相コンデンサ設備」として施設することが多い。直列リアクトルの主な目的は、電源側や負荷側で発生する高調波電流がコンデンサに集中して流れ込むのを抑制することにある。
ここで見落としやすいのが、この直列リアクトルが、コンデンサ自身の端子電圧を回路電圧より高く押し上げてしまう、という副作用だ。
コンデンサSCとリアクトルSRが直列に接続された回路を、線間電圧Vの高圧回路に接続する状況を考える。コンデンサのリアクタンスをXC、リアクトルのリアクタンスをXLとすると、この直列回路に流れる電流Iは、コンデンサとリアクトルのリアクタンスが打ち消し合った実効リアクタンス(XC−XL)によって決まる。
このIがコンデンサ自身にかかる電圧V_SCは、I×XCで求められる。
リアクトルのリアクタンスXLがコンデンサのリアクタンスXCのk倍(例えば6%や8%)だとすると、この式はV_SC=V/(1-k)と書き換えられる。kは1より小さい正の値なので、1-kは1より小さくなり、結果としてV_SCはVより必ず大きくなる。
例題
線間電圧3,000Vの高圧回路に、直列リアクトル付き三相コンデンサ設備を接続する。リアクトルSRのリアクタンスXLが、コンデンサSCのリアクタンスXCの8%のとき、コンデンサSCの端子電圧を求める。
高調波に対するインピーダンスの変化 — 第n次高調波では、リアクトルとコンデンサが逆方向に動く
直列リアクトル付き進相コンデンサ設備を語るとき、これまでは基本波(電源周波数そのもの)だけを前提にしていた。しかし実際の受電設備には、整流器やインバータなどの高調波発生源から、基本波の整数倍の周波数を持つ高調波電流が流れ込んでくることがある。この高調波に対して、コンデンサとリアクトルはまったく逆の反応を示す。
リアクトルのリアクタンスXL、コンデンサのリアクタンスXCは、それぞれ次の式で表される。
XLは周波数fに比例し、XCは周波数fに反比例する。第n次高調波は周波数が基本波のn倍になるため、リアクトルのインピーダンスはn倍に増加し、コンデンサのインピーダンスは1/n倍に減少する。配電線のインピーダンス(変圧器・電線路のインダクタンス分)も、リアクトルと同じくインダクタンス性なので、高調波に対してはn倍に増加する。
例題
基本波(50Hz)に対するインピーダンスが、配電線Ẑs1=j2Ω、直列リアクトルẐSR1=j15Ω、コンデンサẐSC1=−j300Ωである高圧進相コンデンサ設備を考える。第5次高調波に対するそれぞれのインピーダンスを求める。
コンデンサ設備側(リアクトルとコンデンサの直列合成)のインピーダンスは、
高圧又は特別高圧で受電する需要家には、系統に流出させる高調波電流の抑制に関するガイドラインがあり、次数ごと・電圧階級ごとに、契約電力1kW当たりの流出電流上限値[mA/kW]が示されている。需要家の契約電力にこの上限値を掛けることで、その需要家からの高調波電流の流出をどこまで許容するかという基準値を求められる。具体的な数値・適用条件(需要形態による緩和措置等)は、実務・受験ともに最新のガイドラインで確認することが前提になる。
低圧幹線の許容電流 — 電動機の割合が高いほど、太い幹線が必要になる
ここまでは「変圧器全体の容量」を扱ってきたが、変圧器から先、工場内に張り巡らされる低圧幹線(分電盤へ電気を送る太い配線)にも、それぞれ必要な太さ(許容電流)を決める計算がある。
低圧幹線に、電動機又はこれに類する起動電流が大きい機器(以下「電動機等」)と、それ以外の一般的な電気使用機械器具が接続されている場合、電気設備技術基準の解釈は、幹線に必要な許容電流Iaの求め方を、電動機等の定格電流の合計IMと、それ以外の機械器具の定格電流の合計IHの大小関係で使い分けている。
例題
低圧幹線に接続される電動機等の定格電流の合計IMが40A、他の電気使用機械器具の定格電流の合計IHが20Aのとき、必要な幹線の許容電流Iaを求める。IM(40A)はIH(20A)より大きく、かつ50A以下なので、
幹線を保護する過電流遮断器の定格電流 — 「小さいほうを取る」という考え方
幹線の太さ(許容電流Ia)が決まったら、次はその幹線を保護する過電流遮断器の定格電流Ibを決める。ここにも、電動機等の起動電流を踏まえた考え方が出てくる。
過電流遮断器の定格電流は、電動機等の起動電流を踏まえた上限(3×IM+IH)と、幹線そのものの許容電流から決まる上限(2.5×Ia)の、両方を満たさなければならない。つまり実際に使える上限は、この2つの計算値のうち小さいほうになる。
例題(続き)
先ほどのIM=40A、IH=20A、Ia=70Aの幹線を保護する過電流遮断器の定格電流Ibの上限を求める。
2つの値のうち小さいほうが実際の上限になるため、Ib≦140Aとなる。
なぜ電材商社の実務でこの計算が重要か
変圧器の容量選定を誤ると、影響は両方向に出る。小さく見積もりすぎれば過負荷による事故や 頻繁な保護装置の動作につながり、大きく見積もりすぎれば無駄なコストがかかるだけでなく、 軽負荷時に鉄損(無負荷でも常に発生する損失)の割合が相対的に増え、効率が落ちる。 更新提案や新設の見積もりに関わる場面では、需要率・不等率・力率という3つの数字を 一連の流れとして扱えるかどうかが、そのまま提案の精度に直結する。
冒頭の「設備容量230kW、力率0.9」の工場に、いくつの変圧器を提案すべきか—— 答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。