古い工場のクレーンやエレベーターの改修現場で、「直流電動機の界磁巻線の抵抗を 少し上げて速度を落とすつもりだったのに、なぜか逆に回転が速くなった」という話を 聞くことがある。
界磁を絞れば磁力が弱くなるのだから、力も弱くなり、回転もゆっくりになりそうな ものだ。それなのに、なぜ界磁を弱めると電動機は逆に速く回るのか。
このトピックを読み終えるころには、直流電動機がどうやってトルクと回転速度を 生み出しているかを式で説明でき、「界磁を弱めると速くなる」という一見直感に反する 挙動も、当然の結果として言い当てられるようになっている。
種明かしは、前のトピックで見た直流発電機とまったく同じ式が、電動機では 向きを変えて働いているという事実にある。
電動機の原理 — フレミング左手の法則とトルクの発生
磁界の中に置かれた導体に電流を流すと、フレミングの左手の法則に従って導体には 力(トルク)が働く。直流電動機はこの原理で回転力を生み出しており、整流子とブラシは 発電機のときと同じく、回転が進んでも常に同じ向きにトルクが発生し続けるよう、 電機子巻線への接続を機械的に切り替え続けている。
発生するトルクは、磁束と電機子電流の積に比例する。
は機械の構造で決まる定数だ。磁束が強いほど、そして電機子電流が大きいほど、 電動機はより大きな力(トルク)を出す。
逆起電力と電圧方程式 — 電動機は発電機を兼ねている
電動機の電機子も、回転しながら磁束を切っている以上、発電機と同じ原理で起電力を 生んでいる。ただしこの起電力は、外部から流し込もうとする電流を打ち消す向き (レンツの法則)に働くため、逆起電力と呼ばれる。式の形は発電機の起電力の式と まったく同じだ。
端子電圧は、この逆起電力に、電機子抵抗での電圧降下を足したものになる。
発電機の式(、起電力から電圧降下を引くと端子電圧になる)と 似ているようで、電機子抵抗の電圧降下の効き方が逆向きになっている点に注意したい。 電動機は外部から電気エネルギーを取り込む側であり、電流が逆起電力に逆らって 流れ込むには、端子電圧が逆起電力より必ず高くなければならない。
例題
端子電圧200V、電機子電流20A、電機子抵抗0.5Ωの直流電動機がある。この電動機の逆起電力は いくらか。
速度とトルクの関係 — 界磁を弱めると、なぜ速くなるのか
電圧方程式をについて解くと、回転速度は次の形にまとまる。
磁束は分母にある。つまり界磁を弱めて磁束を小さくすると、速度は大きくなる。 これが「弱め界磁」と呼ばれる速度制御の原理だ。磁束を弱めると発生トルクは (より)小さくなるが、その代わり回転速度は上げられる——出力(トルク×速度に 比例する量)をおおむね一定に保ったまま、速度域を広げる制御として使われる。
始動時の大電流と始動抵抗 — 制御盤で見る始動器の役割
回転を始める前の一瞬()は、逆起電力もゼロだ。電圧方程式は だけになるため、電機子抵抗という小さな値だけで電流の大きさが決まってしまう。
例題
電機子抵抗0.5Ω、定格端子電圧200V、定格電流20Aの分巻電動機を、始動抵抗を使わずに そのまま端子電圧を加えて直入れ始動した。始動の瞬間に流れる電流はいくらか。
定格電流20Aの実に20倍にもなる。回転が上がるにつれて逆起電力が発生し、電流は 自然に減っていくが、始動の瞬間だけはこの抑えがまったく効かない。制御盤に 組み込まれた始動抵抗器や電子式ソフトスタータは、まさにこの始動の瞬間だけ 電機子回路に抵抗を追加し、回転が上がるにつれて段階的に抵抗を抜いていくことで、 過大な始動電流を抑えている。
永久磁石電動機の効率 — 始動電流から電機子抵抗を逆算する
小形の直流電動機には、界磁に電磁石ではなく永久磁石を使うタイプがある。界磁巻線が 存在しないため界磁側の銅損がなく、損失は電機子抵抗による銅損だけ——という単純な構造が 効率計算の見通しをよくしてくれる。
ここで役に立つのが、さきほどの始動電流の考え方だ。始動の瞬間(、)は 電圧方程式がだけになるので、始動電流が分かれば、そこから 電機子抵抗を逆算できる。
電機子抵抗が分かれば、定格運転時の電流における銅損()が求まり、 入力電力との差から効率を計算できる。
例題(自作の数値例)
界磁に永久磁石を用いた小形直流電動機がある。電源電圧は定格の100V、始動電流は20A、 定格電流は4Aである。損失は電機子巻線による銅損しか存在しないものとして、定格運転時の 効率を求める。
分巻・直巻・複巻の違いと、直巻電動機の暴走リスク
界磁の与え方は発電機と同じく、分巻・直巻・複巻に分かれる。
- 分巻電動機:界磁が端子電圧に並列接続され、負荷が変わっても磁束Φはほぼ 一定に保たれる。速度が負荷によらず安定しているため、工作機械などに向く。
- 直巻電動機:界磁が電機子・負荷と直列接続され、負荷電流がそのまま界磁電流に なる。始動時など電流が大きいときほど磁束も強くなるため、始動トルクが非常に 大きく、クレーンや電車の駆動など大きな始動トルクが必要な用途に向く。反面、 負荷が外れて電流が下がると磁束Φも一緒に下がり、の関係から 回転速度が制御不能なほど上昇する——「暴走」と呼ばれる危険がある。直巻電動機は 必ず負荷に直結して使い、外れる恐れのあるベルト駆動などは避けるのが実務上の鉄則だ。
- 複巻電動機:分巻と直巻の両方の界磁巻線を持ち、双方の特性を組み合わせる。
交流整流子モータ(ユニバーサルモータ)— 直巻構造を交流でも使う
直巻電動機の構造(界磁巻線と電機子巻線の直列接続)をそのまま交流電源で動かせるようにした ものが、交流整流子モータ(ユニバーサルモータ)だ。直流直巻電動機に加える電圧の極性を 逆にしても、界磁巻線と電機子巻線は同じ回路を流れる同じ電流によってつながっているため、 磁束の向きと電機子電流の向きは同時に反転する。トルクは磁束と電機子電流の積 ()で決まるので、両方が同時に符号を変えれば積の符号(トルクの向き)は 変わらない——これが交流を流しても一方向の回転力を保てる原理だ。
交流整流子モータは、直巻電動機由来の特性(始動トルクが大きい、高速回転が可能)を そのまま受け継いでいるため、始動時に大きな力を必要とし高速で回転する小型の機器 ——電気ドリル、電気掃除機、小型ミキサなど——のモータとして広く使われている。 なお、小容量のものは交流・直流のどちらの電源でも使用できる汎用性を持ち、その名の とおりユニバーサルモータと呼ばれる。
冒頭の「界磁を弱めたら速度が上がった」という話——答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。