前のトピックで見た「直流発電機を使って電動機の速度を制御する」という方法 (ワードレオナード方式)は、今ではほとんど姿を消した。工場にも制御盤にも、 あの大きな回転機のペアはもう見当たらない。
では、直流電圧を自在に作り出し、しかもなめらかに変化させるという同じ仕事を、 今の設備はいったい何を使ってやっているのか。制御盤の中の小さな箱ひとつで、 交流から直流への変換と、その電圧の微調整までを同時にこなせてしまう理由は何なのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤や電源装置の中で交流が直流に変わる仕組みと、 その直流電圧を無段階に調整できる理由まで、式で説明できるようになっている。
種明かしは、ダイオードやサイリスタといった半導体素子が、電流を「一方向にしか 流さない」という単純な性質を、回路の組み方ひとつで直流電圧づくりの道具に 変えているところにある。
整流の基本 — なぜダイオードで交流が直流になるのか
ダイオードは、順方向には電流を流し、逆方向には流さない素子だ。交流電源に ダイオード1本と抵抗負荷をつないだだけの回路(単相半波整流回路)では、交流の プラス側の半周期だけ電流が流れ、マイナス側の半周期は電流が流れない。出力側には プラスの波形だけが半周期おきに現れる、脈打つ直流が生まれる。
この波形を平均した値(直流平均電圧)は、次の式で表される。
は交流電圧の実効値だ。ピーク値()そのものではなく、半周期分の 波形を平均した値になるため、係数は0.45と1より小さくなる。
例題
実効値100Vの交流電圧を、単相半波整流回路に加えた。整流後の直流平均電圧はおよそいくらか。
全波整流 — 脈動を減らす
ダイオードを4本組み合わせたブリッジ回路(単相全波整流回路)を使うと、交流の プラス側だけでなくマイナス側の半周期も向きを揃えて取り出せるようになる。1周期の うち電流が流れない区間がなくなり、出力は半波整流よりずっとなめらかになる。
例題
実効値100Vの交流電圧を、単相全波整流回路に加えた。整流後の直流平均電圧はおよそいくらか。
三相整流 — 大電力の直流化
工場の大型設備など、扱う電力が大きい場面では三相交流をそのまま整流する (三相全波整流回路、ダイオード6本のブリッジ)ことが多い。1周期のうちに 6回整流される(6パルス整流)ため、単相の全波整流よりさらに脈動が小さくなる。
は三相交流の線間電圧(実効値)を表す。
例題
線間電圧200Vの三相交流電源を、三相全波整流回路に加えた。整流後の直流平均電圧は およそいくらか。
サイリスタによる位相制御 — 直流電圧を「つまみ」のように変える
ダイオードは導通のタイミングを選べないが、サイリスタは「点弧角(制御角)」と 呼ばれるタイミングでゲートに信号を送ることで、導通を始めるタイミングを自在に 遅らせられる。この遅らせる角度を大きくするほど、電流が流れる区間が 短くなり、直流電圧は下がっていく。
は点弧角0°(ダイオードと同じ全導通状態)のときの直流電圧を表す。 コサインの関係であるため、を大きくしていくと電圧は直線的にではなく、 最初はゆるやかに、90°に近づくにつれて急激に下がっていく。
例題
単相全波サイリスタ整流回路で、点弧角をα=60°に設定した。点弧角0°のときの直流電圧に 対して、この直流電圧はおよそ何倍になるか。
α=60°では、全導通時の0.5倍の直流電圧になる。
転流重なり角と順電圧降下 — 理論値と実際の出力電圧のズレ
ここまでのの式は、ダイオードの切り替わり(転流)が瞬時に終わるという理想化のうえに 成り立っている。しかし実際の交流電源には必ずインダクタンス(変圧器の漏れリアクタンスや配線の リアクタンス)があり、電流の変化を妨げようとする性質を持つ。そのため電流が1つのダイオードから 次のダイオードへ移る転流は瞬時には終わらず、前後2つのダイオードが同時に導通する短い期間が生じる。 この期間の角度を重なり角(転流角)と呼ぶ。
重なり角の期間中は、出力電圧が瞬間的に理論値より低い値しか取り出せない。これを平均すると、 実際の直流出力電圧は次のように整理できる。
- :重なり角も順電圧降下もないと仮定した理論上の直流電圧(これまでの式で求めた値)
- :交流側リアクタンスによる、重なり角に起因する電圧降下分(負荷電流が大きいほど、 リアクタンスが大きいほど増える)
- :整流素子の順電圧降下による電圧降下分。三相ブリッジ整流回路では、ある瞬間に 電流経路上で常に2個の素子が直列に導通しているため、素子1個あたりの順電圧降下の2倍が効いてくる
例題(自作の簡略化した数値例)
線間電圧200Vの三相交流電源を三相全波整流回路(ダイオード6本のブリッジ)につないだ。理想的な 場合の直流電圧はVである。実際には、交流側リアクタンスに よる重なり角の影響で5V、ダイオード1個あたりの順電圧降下を1Vとして直列2個分で2Vの電圧降下が 生じるとする。
誘導性負荷(RL)の整流回路 — 環流ダイオードが電流をつなぐ
ここまでの直流平均電圧の式は、抵抗のみの負荷を前提にしていた。抵抗負荷では、電流は 電源電圧の波形にそのまま比例して増減し、電圧がゼロになれば電流も同時にゼロになる。
しかし実際の負荷には、モータの巻線のようにコイル(インダクタンス)を含むものが多い。 このような誘導性負荷(RL負荷)では話が変わる。コイルは電流の急な変化を妨げようと する性質(電磁エネルギーの蓄積・放出)を持つため、単相半波整流回路にRL負荷をつなぐと、 電源電圧がゼロを過ぎてマイナス側に転じたあとも、コイルに蓄えられたエネルギーによって 電流はしばらく流れ続ける。この間、ダイオードはまだ導通しているため、負荷電圧が 一時的に負の値になる。
このRL負荷に並列に、負荷側に向きを合わせたダイオード(環流ダイオード、 フリーホイーリングダイオードとも呼ばれる)を追加すると、電源側のダイオードが 逆バイアスで遮断したあとも、コイルに残ったエネルギーによる電流は環流ダイオードを 通って流れ続けられる。この結果、
- 負荷電圧は環流ダイオードによってほぼ0V(順電圧降下分のみ)にクランプされ、 環流ダイオードがない場合のように負の電圧にはならない
- 電流が流れる期間(通流期間)は、環流ダイオードがない場合よりも長くなる
環流ダイオードは、インバータの出力段やDC-DCコンバータなど、誘導性負荷(モータ巻線や リアクトル)を駆動する回路で広く使われる基本部品だ。
パワー半導体デバイスの違い — 自己消弧能力の有無で見分ける
ここまで整流回路の主役として扱ってきたダイオードとサイリスタのほかにも、パワーエレクトロニクスの回路にはパワーMOSFETやIGBTといった半導体デバイスが登場する。これらの違いを整理する軸は1つ——ゲート信号で、順方向電流を能動的に遮断できるか(自己消弧能力があるか)という点だ。
- ダイオード:外部からの制御端子を一切持たない。素子に加わる電圧の極性だけで、順方向なら導通、逆方向なら非導通が自動的に決まる。
- サイリスタ:ゲートに信号を与えると導通を「開始」できる。だが、いったん順方向電流が流れ始めると、その後ゲート信号を取り去っても電流は流れ続ける。導通を止められるのは、電流が自然にゼロに近づいたとき(自然転流)や、外部回路で強制的に電流を打ち消したとき(強制転流)だけで、ゲートで能動的に止めることはできない。
- パワーMOSFET:ゲート電圧を与えている間だけ導通し、ゲート電圧を取り去れば順方向電流を能動的に遮断できる。構造上、ボディーダイオードと呼ばれる寄生ダイオードを内蔵しており、オンのゲート電圧がなくても、逆方向の電圧が加われば逆方向の電流が流れる。
- IGBT:パワーMOSFETと同じくゲート電圧で能動的にオン・オフを制御できる。順電圧が印加された状態でオンのゲート電圧を与えると順電流を流し、ゲート電圧を取り去ると非導通になる。
なぜ今、制御盤の直流電源は「整流回路」でできているのか
前のトピックで見た直流発電機やワードレオナード方式は、界磁電流という「回転機の つまみ」を加減することで直流電圧を連続的に変えていた。サイリスタ整流回路の 点弧角制御は、これとまったく同じ役割——直流電圧を連続的に、なめらかに変える という仕事——を、回転する部品を一切使わずに半導体だけでこなしている。
制御盤の中の直流電源ユニット(センサーや制御回路用の低圧直流電源)や、モーターを 駆動するインバータの内部も、基本構成は同じだ。まず整流回路で交流を直流に変換し、 その直流を土台にして、インバータであれば今度はスイッチングで再び任意の周波数の 交流波形を作り出し、モーターの速度を制御している。回転機2台を連結して直流電圧を 作っていた時代から、半導体1つで交流と直流を自在に行き来できる時代へ——その転換点に あるのが、この整流回路だ。
冒頭の「回転機なしで、なぜ直流電圧を自在に作り、調整できるのか」——答え合わせは 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。