古いビルのエレベーター機械室や、更新前の工場設備の現場で、天井近くに大きな回転機が 2台、軸を連結されて並んでいるのを見かけることがある。片方はふつうの三相誘導電動機、 もう片方は——直流発電機だ。
なぜわざわざ交流電動機で直流発電機を回し、そこから直流を取り出していたのか。 交流の電気はすでに来ているのに、一度「回転」というワンクッションを挟んでまで 直流を作る必要が、いったいどこにあったのか。
このトピックを読み終えるころには、直流発電機がどうやって電気を生み出しているかを 式で説明でき、次のトピックにつながる伏線——なぜ今ではその役割の多くを半導体に 譲ったのか——まで見通せるようになっている。
種明かしの前半は、回転する導体が磁束を切るとそこに起電力が生まれるという、 電磁誘導のもっとも基本的な性質にある。
直流発電機の原理 — 回転する導体がつくる起電力
磁界の中で導体を動かすと、フレミングの右手の法則に従って導体に起電力が生じる。 直流発電機の電機子(回転する巻線)は、この原理で交流の起電力を生み出しているが、 それをそのまま外に取り出せば交流のままだ。ここで働くのが整流子とブラシで、 回転に合わせて接続を機械的に切り替えることで、外部から見ると常に同じ向きの 直流として取り出せるようにしている。
電機子全体で生まれる起電力の大きさは、次の式でまとまる。
は極数、は電機子の総導体数、は1極あたりの磁束、は回転速度[min⁻¹]、 は巻線の並列回路数(波巻なら極数によらず、重巻なら)だ。 磁束が強いほど、導体の数が多いほど、そして速く回すほど、起電力は大きくなる—— という直感どおりの関係が、この1本の式にまとまっている。
例題
極数4、電機子総導体数300、1極あたりの磁束0.02Wb、回転速度1200min⁻¹、波巻()の 直流発電機がある。この発電機の起電力はいくらか。
直流機の構造 — 固定子と回転子、なぜ電機子鉄心は積層されているのか
起電力の式の中身に入る前に、直流機がどんな部品で組み立てられているかを押さえておく。 直流機は大きく固定子と回転子の2つに分かれ、それぞれ役割の違う部品で構成されている。
- 固定子:界磁巻線を巻きつける界磁鉄心(主磁極)と、磁気回路を閉じる外殻である 継鉄(ヨーク)からなる。ここで直流の界磁電流をつくり、一定方向の磁束(界磁磁束)を つくり出す。
- 回転子:電機子巻線を収める多数のスロットを持つ電機子鉄心(電機子)と、 回転に合わせて巻線の接続を切り替える整流子からなる。
回転子側の電機子鉄心には、もう1つ押さえておきたい工夫がある。積層鉄心だ。電機子は 回転しているため、界磁から見た電機子鉄心内部の磁束の向きは絶えず変化する交番磁束になる。 無垢の鉄塊のままだと、この交番磁束によって鉄心内部に大きなうず電流が流れ、うず電流損 として発熱・損失につながってしまう。そこで、薄い鋼板を1枚ずつ絶縁して重ね合わせた積層鉄心を 使うことで、うず電流の通り道を断ち切り、損失を抑えている。一方、継鉄のように磁束の変化が 比較的少ない部分では、電機子鉄心ほど積層の必要性は高くない。
電機子巻線の接続方法にも、重ね巻と波巻の2種類がある。重ね巻は並列回路数が極数と 同じになり()、多くの並列回路で大きな電流を扱いやすい。波巻は並列回路数が極数に 関係なく常にになり、少ない電流で高い電圧を得やすい——大電流機には重ね巻、 高電圧機には波巻、という使い分けの背景にはこの並列回路数の違いがある。
界磁の与え方 — 他励と自励(分巻・直巻・複巻)
起電力の式の中の(磁束)は、界磁巻線に流す電流でつくられる。この界磁電流を どこから取るかで、発電機は性格の違う何種類かに分かれる。
- 他励:界磁巻線を、電機子とは別の外部電源につないで励磁する。電機子側の状態に 関係なく磁束を独立して制御できる。
- 分巻:界磁巻線を電機子(端子)に並列に接続し、発電機自身の出力電圧で 励磁する。追加の電源が要らない代わりに、負荷をかけると端子電圧がわずかに下がり、 界磁電流もそれに応じて変化する。
- 直巻:界磁巻線を負荷回路に直列に接続し、負荷電流そのものを界磁電流として 使う。負荷が変わると磁束が大きく変わるため、単独では電圧が安定しにくい。
- 複巻:分巻と直巻の界磁巻線を両方持ち、双方の特性を組み合わせる。
分巻発電機では、界磁巻線が電機子の出口(ブラシ)に並列に接続されているため、 電機子はブラシから見て「負荷側」と「界磁側」の2方向に電流を供給していることになる。
例題
端子電圧200V、界磁抵抗100Ω、負荷電流50Aの分巻発電機がある。この発電機の電機子電流は いくらか。
電圧変動率と電機子反作用 — 負荷をかけると電圧はどれだけ下がるか
発電機に負荷をかけると、電機子巻線の抵抗による電圧降下()に加えて、 電機子反作用と呼ばれる現象が働く。電機子に流れる電流自身がつくる磁束が、界磁が つくる主磁束に重なって磁束の分布を歪ませ、実質的な磁束をわずかに減らす方向に働く。 その結果、負荷をかけたときの端子電圧は、単純なの計算だけで見積もるより さらに下がりやすい。
この「負荷をかけると電圧がどれだけ下がるか」を表す指標が電圧変動率だ。
は無負荷時の端子電圧、は定格負荷時の端子電圧を表す。
例題
ある直流発電機の無負荷時端子電圧は220V、定格負荷時の端子電圧は200Vだった。この発電機の 電圧変動率はいくらか。
自己励磁が起きないとき — 電圧が立ち上がらない3つの原因
分巻発電機のように自分自身の出力で界磁を励磁する自己励磁方式は、実は少し不思議な 仕組みで動いている。回り始めた瞬間は界磁電流がまだゼロのはずなのに、そこからどうやって 電圧が育っていくのか。答えは、鉄心にわずかに残っている残留磁気にある。残留磁気が 生む小さな起電力が界磁電流をわずかに流し、それがさらに磁束を強め、起電力を増やし……と 連鎖的に電圧が立ち上がっていく。
この連鎖が起きるには、次の3条件がそろう必要がある。
- 電機子に残留磁気が残っていること
- 界磁抵抗が、電圧が発散的に立ち上がれる限界の値(臨界界磁抵抗)より小さいこと
- 界磁の結線極性が、残留磁気による磁束を打ち消さず強め合う向きになっていること
このどれか1つでも欠けると、発電機を回しても電圧はいつまでも立ち上がらない。
電機子反作用の緩和策 — 補償巻線・補極・ブラシ移動
電機子反作用は、電機子電流がつくる磁束が界磁の主磁束に重なることで、磁束の分布を歪ませる現象だった。この歪みを放置すると、整流(ブラシで巻線の接続が切り替わる瞬間)のタイミングがずれて火花が生じたり、実効的な磁束が変化して起電力が不安定になったりする。実務では、この影響を緩和するために次の3つの対策が組み合わせて使われる。
- 補償巻線:主磁極の磁極片(ポールシュー)の表面に設けた巻線に、電機子電流をそのまま流す。電機子電流がつくる歪みを、位置的に近いところで直接打ち消すのが狙いで、大容量の直流機ほど効果が大きい。
- 補極:N極とS極の間(幾何学的中性点の付近)に小さな磁極を追加し、そこに巻いたコイルに電機子電流を流す。主な狙いは整流の改善——ブラシが接触を切り替える瞬間に、ちょうど良い向きの磁束を補って火花の発生を抑える。
- ブラシの位置移動:ブラシの位置そのものを、電機子反作用でずれた実際の中性点に合わせて動かす。補償巻線や補極を追加しない小容量機では、この方法だけで対応することもある。
なぜ今、直流発電機はほとんど姿を消したのか
かつて、直流電動機の速度を滑らかに変えたい場面(エレベーターやクレーン、圧延機など) では、直流発電機の界磁電流を加減して発生電圧そのものを連続的に変化させ、それを 電動機に供給するという方式(ワードレオナード方式)が使われていた。半導体による 電力変換がまだなかった時代、「回転機の界磁を加減する」ことが、直流電圧を滑らかに 変える唯一に近い実用的な手段だったからだ。
制御盤や電源装置の中を今のぞいても、この種の回転機セットにはまず出会わない。 代わりにそこにあるのは、ダイオードやサイリスタで交流を直流に変える整流回路だ。 「回転で電圧をつくる」という直流発電機の役割は、半導体による整流回路へとほぼ 置き換わっている。この置き換えの中身は、次のトピックで扱う。
冒頭で見た「なぜ回転機を2台連結してまで直流を作っていたのか」——答え合わせは 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。