制御盤や設備室の片隅に置かれたUPS(無停電電源装置)を開けると、中には鉛蓄電池が 何個も直列につながっている。12Vの電源装置を作るのに、なぜ「12Vのセル1個」ではなく 「2Vのセルを6個」直列にするのか。
一方、金属加工の現場では電気めっきや電解精錬という、電気の力で金属を溶かしたり 析出させたりする工程がある。電流を流す時間や大きさから、析出する金属の量を 前もって計算できるのはなぜか。
このトピックを読み終えるころには、蓄電池のセル電圧の作られ方と、電気分解で 金属が析出する量の計算が、実は同じ「電子の受け渡し」という1つの理屈でつながっている ことが見えるようになっている。
種明かしは、電気分解も電池も、どちらも酸化還元反応——電子を放出する側(酸化)と 受け取る側(還元)の反応が対になって進む現象だという点にある。違うのは、その反応が 「外部から電気を注入されて強制的に起こる」か、「自発的に電気を生み出す」かだけだ。
ファラデーの電気分解の法則 — 析出量は「電気量」に比例する
電気分解で電極に析出(または溶解)する物質の質量 は、流した電気量 (電流×時間) に比例する。これがファラデーの電気分解の法則だ。
- :電流[A]、:時間[s]( で電気量[C]になる)
- :析出する物質の原子量(モル質量)
- :イオンの価数(1個の原子が析出するのに何個の電子をやり取りするか)
- :ファラデー定数(電子1molが運ぶ電気量、約96,500C/mol)
この式は、実は2段階の割り算でできている。まず電気量 をファラデー定数 で割ると、 「流れた電子が何mol分か」が分かる。それを価数 で割れば、「析出した物質が何mol分か」が 分かる。あとはモル質量 をかければ質量になる——という素直な積み上げだ。
例題
硫酸銅水溶液に10Aの電流を32分10秒(=1930秒)流し、銅(原子量63.5、2価)を析出させた。 析出する銅の質量は何gか。
電池の起電力 — セル電圧を積み上げて電源電圧を作る
電池(一次電池・二次電池)は、電気分解とは逆に、酸化還元反応が自発的に進むことで 電気エネルギーを取り出す装置だ。1個のセル(単電池)が出せる電圧はおおむね決まっており、 鉛蓄電池なら公称2.0V、ニッケル水素電池・ニッケルカドミウム電池なら公称1.2V前後になる。
必要な電源電圧は、このセルを複数個直列に接続して積み上げることで作る。
鉛蓄電池のセルを6個直列にすれば 、 UPSや自動車で見慣れる12Vという電圧の正体は、まさにこの積み上げだ。
鉛蓄電池の中身 — 正極PbO2・負極Pbが、放電で共通の物質に変わる
鉛蓄電池は、正極に二酸化鉛(PbO2)、負極に鉛(Pb)という異なる物質を使い、 電解液には希硫酸を用いる、代表的な二次電池(充電できる電池)だ。
放電が進むと、正極・負極どちらの物質も、電解液中の硫酸と反応して硫酸鉛(PbSO4) という共通の物質に変化していく。同時に電解液中の硫酸が消費され、代わりに水が生成 されるため、放電が進むほど電解液の濃度(比重)は下がっていく——鉛蓄電池の比重計で 充電状態を確認できるのは、この反応が理由だ。
充電すると、この反応がちょうど逆向きに進む。正極は硫酸鉛からもとの二酸化鉛へ、 負極は硫酸鉛からもとの鉛へと戻り、電解液中の水は再び硫酸に変わって濃度が回復する。
過充電で発生するガス — 電気分解と同じ理屈で正極から酸素、負極から水素
鉛蓄電池が満充電に近づいてもなお充電を続けると(過充電)、それ以上は正極・負極の 物質を元に戻す反応が進まなくなり、代わりに電解液中の水が電気分解される形で 反応が進んでしまう。このとき、
- 正極からは酸素ガス
- 負極からは水素ガス
がそれぞれ発生する。これは、このトピックの前半で見た「電気分解では陽極(酸化)側から 酸素、陰極(還元)側から水素が発生しやすい」という一般的な電気分解の理屈と、 向きの対応がそのまま一致している。
電気分解の電極と、電池の電極が「逆転」する理由
電気分解では、外部電源の-端子につながった電極(陰極)で還元反応が起こり、金属が析出する。 +端子につながった陽極では酸化反応(金属の溶解や気体の発生)が起こる。
ところが電池が放電するとき、この対応は逆転する。+端子側の電極(正極)でむしろ還元反応が 起こり、-端子側の電極(負極)で酸化反応が起こる。
電材業界での関わり方 — UPS蓄電池と電食・防食
電材商社の実務でこの分野が直接顔を出すのは、UPS(無停電電源装置)や非常用電源に使われる 鉛蓄電池・アルカリ蓄電池だ。停電時にどれだけの時間バックアップできるかは蓄電池の容量で決まり、 セル数と公称電圧の関係を理解していれば、電源装置の仕様書に書かれた電圧構成を読み解きやすくなる。
もう1つの接点が、埋設された金属配管や接地極の腐食(電食)だ。異なる金属が水分を介して 接触すると、電池と同じ酸化還元反応が意図せず起こり、一方の金属だけが徐々に溶け出す。 接地工事や配管の異種金属接続で防食が問題になるのは、この電気化学的な反応が背景にある。
冒頭のUPSのセル数、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。