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電気化学(電気分解・電池)

読み終えると、こうなる

制御盤やUPS(無停電電源装置)の中にある蓄電池を見て、なぜ2Vや12Vという電圧単位で構成されているか、電気めっき・電解精錬の原理までを一つの理屈でつなげて見られるようになる

  • 電流・時間・原子量・価数からファラデーの法則で析出する物質の質量を計算できる
  • 電気分解の陰極・陽極と、電池放電時の正極・負極で、+/-端子との対応関係がなぜ入れ替わるかを説明できる
  • 鉛蓄電池のセル電圧(公称2.0V)から、UPSや制御盤の直流電源が何セル直列でできているかを逆算できる
  • 鉛蓄電池の充放電に伴う正極・負極の化学反応(放電で両極とも硫酸鉛に変化する仕組み)を説明でき、過充電時に正極・負極からそれぞれ発生するガスの種類も説明できる
考えてみよう

制御盤や設備室の片隅に置かれたUPS(無停電電源装置)を開けると、中には鉛蓄電池が 何個も直列につながっている。12Vの電源装置を作るのに、なぜ「12Vのセル1個」ではなく 「2Vのセルを6個」直列にするのか。

一方、金属加工の現場では電気めっきや電解精錬という、電気の力で金属を溶かしたり 析出させたりする工程がある。電流を流す時間や大きさから、析出する金属の量を 前もって計算できるのはなぜか。

このトピックを読み終えるころには、蓄電池のセル電圧の作られ方と、電気分解で 金属が析出する量の計算が、実は同じ「電子の受け渡し」という1つの理屈でつながっている ことが見えるようになっている。

種明かしは、電気分解も電池も、どちらも酸化還元反応——電子を放出する側(酸化)と 受け取る側(還元)の反応が対になって進む現象だという点にある。違うのは、その反応が 「外部から電気を注入されて強制的に起こる」か、「自発的に電気を生み出す」かだけだ。

ファラデーの電気分解の法則 — 析出量は「電気量」に比例する

電気分解で電極に析出(または溶解)する物質の質量 ww は、流した電気量 Q=ItQ = It(電流×時間) に比例する。これがファラデーの電気分解の法則だ。

w=ItMnFw = \frac{ItM}{nF}
  • II:電流[A]、tt:時間[s](ItIt で電気量[C]になる)
  • MM:析出する物質の原子量(モル質量)
  • nn:イオンの価数(1個の原子が析出するのに何個の電子をやり取りするか)
  • FF:ファラデー定数(電子1molが運ぶ電気量、約96,500C/mol)

この式は、実は2段階の割り算でできている。まず電気量 QQ をファラデー定数 FF で割ると、 「流れた電子が何mol分か」が分かる。それを価数 nn で割れば、「析出した物質が何mol分か」が 分かる。あとはモル質量 MM をかければ質量になる——という素直な積み上げだ。

例題

硫酸銅水溶液に10Aの電流を32分10秒(=1930秒)流し、銅(原子量63.5、2価)を析出させた。 析出する銅の質量は何gか。

w=10×1930×63.52×96,500=1,225,550193,000=6.35gw = \frac{10 \times 1930 \times 63.5}{2 \times 96{,}500} = \frac{1{,}225{,}550}{193{,}000} = 6.35\text{g}
ファラデーの法則を暗記するより、「電気量→電子の物質量→物質の物質量→質量」という 2段階の割り算の流れで覚えるほうが式を立てやすい。まず $Q=It$、次に $Q/F$(電子mol)、 次に $(Q/F)/n$(物質mol)、最後に $M$ をかけて質量——この順番さえ崩さなければ、 公式を丸暗記していなくてもその場で組み立てられる。

電池の起電力 — セル電圧を積み上げて電源電圧を作る

電池(一次電池・二次電池)は、電気分解とは逆に、酸化還元反応が自発的に進むことで 電気エネルギーを取り出す装置だ。1個のセル(単電池)が出せる電圧はおおむね決まっており、 鉛蓄電池なら公称2.0V、ニッケル水素電池・ニッケルカドミウム電池なら公称1.2V前後になる。

必要な電源電圧は、このセルを複数個直列に接続して積み上げることで作る。

V全体=Vセル×nセル数V_{\text{全体}} = V_{\text{セル}} \times n_{\text{セル数}}

鉛蓄電池のセルを6個直列にすれば 2.0V×6=12.0V2.0\text{V} \times 6 = 12.0\text{V}、 UPSや自動車で見慣れる12Vという電圧の正体は、まさにこの積み上げだ。

鉛蓄電池の中身 — 正極PbO2・負極Pbが、放電で共通の物質に変わる

鉛蓄電池は、正極に二酸化鉛(PbO2)、負極に鉛(Pb)という異なる物質を使い、 電解液には希硫酸を用いる、代表的な二次電池(充電できる電池)だ。

放電が進むと、正極・負極どちらの物質も、電解液中の硫酸と反応して硫酸鉛(PbSO4) という共通の物質に変化していく。同時に電解液中の硫酸が消費され、代わりに水が生成 されるため、放電が進むほど電解液の濃度(比重)は下がっていく——鉛蓄電池の比重計で 充電状態を確認できるのは、この反応が理由だ。

充電すると、この反応がちょうど逆向きに進む。正極は硫酸鉛からもとの二酸化鉛へ、 負極は硫酸鉛からもとの鉛へと戻り、電解液中の水は再び硫酸に変わって濃度が回復する。

「正極と負極で別々の物質に変化する」と考えがちだが、鉛蓄電池の放電生成物は 正極・負極とも同じ硫酸鉛(PbSO4)である点が特徴的だ。出発点(PbO2とPb)は違っても、 行き着く先(PbSO4)は共通——この対称性を知っておくと、化学反応式を丸暗記しなくても 「放電後は両極とも同じ物質になるはずだ」と当たりをつけやすくなる。

過充電で発生するガス — 電気分解と同じ理屈で正極から酸素、負極から水素

鉛蓄電池が満充電に近づいてもなお充電を続けると(過充電)、それ以上は正極・負極の 物質を元に戻す反応が進まなくなり、代わりに電解液中のが電気分解される形で 反応が進んでしまう。このとき、

  • 正極からは酸素ガス
  • 負極からは水素ガス

がそれぞれ発生する。これは、このトピックの前半で見た「電気分解では陽極(酸化)側から 酸素、陰極(還元)側から水素が発生しやすい」という一般的な電気分解の理屈と、 向きの対応がそのまま一致している。

過充電時のガス発生を丸暗記しにくいときは、鉛蓄電池の正極がもともと酸化物(PbO2)で あることを手がかりにする。「正極=酸化物由来=酸素ガス」「負極=金属由来=水素ガス」 という対応で覚えておけば、電気分解の一般則を思い出すよりも早く判断できる。密閉形の 制御弁式鉛蓄電池(UPSなどでよく使われる)では、このガス発生を内部で再結合させて 外部への放出を抑える工夫がされているが、過充電そのものを避ける充電管理が 実務上は基本になる。

電気分解の電極と、電池の電極が「逆転」する理由

電気分解では、外部電源の-端子につながった電極(陰極)で還元反応が起こり、金属が析出する。 +端子につながった陽極では酸化反応(金属の溶解や気体の発生)が起こる。

ところが電池が放電するとき、この対応は逆転する。+端子側の電極(正極)でむしろ還元反応が 起こり、-端子側の電極(負極)で酸化反応が起こる。

「陰極で還元」という言葉だけを覚えると、電気分解でも電池でも同じだと思い込みやすいが、 決め手はエネルギーの向きだ。電気分解は外部から電気を注入されて起こる**非自発反応**、 電池の放電は自然に電気を生み出す**自発反応**。この向きが逆だからこそ、+/-端子と 還元・酸化の対応も逆転する。迷ったら「今どちらの向きにエネルギーが流れているか」を 先に確認するとよい。

電材業界での関わり方 — UPS蓄電池と電食・防食

電材商社の実務でこの分野が直接顔を出すのは、UPS(無停電電源装置)や非常用電源に使われる 鉛蓄電池・アルカリ蓄電池だ。停電時にどれだけの時間バックアップできるかは蓄電池の容量で決まり、 セル数と公称電圧の関係を理解していれば、電源装置の仕様書に書かれた電圧構成を読み解きやすくなる。

もう1つの接点が、埋設された金属配管や接地極の腐食(電食)だ。異なる金属が水分を介して 接触すると、電池と同じ酸化還元反応が意図せず起こり、一方の金属だけが徐々に溶け出す。 接地工事や配管の異種金属接続で防食が問題になるのは、この電気化学的な反応が背景にある。

冒頭のUPSのセル数、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. ファラデーの法則で、析出量が電流だけに比例すると思い込み、時間を掛け忘れる

    なぜ引っかかる『電流が大きいほどたくさん析出する』という感覚だけで式を覚えると、析出量が本当に比例しているのは電流ではなく電気量(電流×時間)であることを忘れやすい。同じ電流でも、流す時間が短ければ析出量は少ない。

    見破り方計算の最初に必ず Q = I×t [C] を求める癖をつける。析出量の式にIやtが単独で出てこないか(必ずI×tの形になっているか)を確認する。

  2. 電気分解時の陰極・陽極と、電池放電時の正極・負極の対応を混同する

    なぜ引っかかる『陰極では還元』という言葉だけを丸暗記していると、電気分解と電池放電で+/-端子と反応の対応が逆転することに気づかず、どちらの場合も同じ端子で同じ反応が起きると誤解する。

    見破り方電気分解は外部から電気を『注入されて』強制的に起こる非自発反応、電池の放電は『自然に電気を生み出す』自発反応——このエネルギーの向きの違いを先に確認してから、どちらの端子で還元が起きるかを判断する。

  3. 鉛蓄電池を過充電したときに正極・負極から発生するガスの種類(酸素・水素)を逆に覚えてしまう

    なぜ引っかかる『どちらが酸素でどちらが水素か』を丸暗記だけに頼ると、正極・負極という言葉の並び順や語感につられて逆に記憶してしまいやすい。

    見破り方過充電時のガス発生も、電気分解と同じ酸化還元の理屈で考える。正極ではさらに酸化反応が進み酸素ガスが、負極ではさらに還元反応が進み水素ガスが発生する。鉛蓄電池の正極がもともと酸化物(PbO2)であることを手がかりに、『正極=酸素』と結びつけて覚えるとよい。

  4. 析出量の計算で、価数(n)を掛け忘れる、または1価と2価を取り違える

    なぜ引っかかる同じ電気量でも、1価のイオン(例:銀イオン)と2価のイオン(例:銅イオン)とでは、同じ物質量を析出させるのに必要な電子の数が異なる。価数を式に反映し忘れると、答えが2倍・半分にずれる。

    見破り方反応式を先に書き、金属イオンが何個の電子を受け取って析出するか(価数n)を確認してから w = ItM/(nF) に代入する。

参考文献・出典

理解度チェック(7問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、7問で確認しよう。 内訳は基本4問・応用1問・ひっかけ2問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 7 問正解

覚えておきたいポイント

  1. ファラデーの電気分解の法則:析出(または溶解)する物質の質量は、流れた電気量(電流×時間)に比例する。w = ItM/(nF)
  2. ファラデー定数 F ≈ 96,500 C/mol は、電子1molが運ぶ電気量。析出量の計算は「電気量→電子の物質量→物質の物質量→質量」という2段階の割り算
  3. 電気分解では陰極(外部電源の-端子側)で還元反応が起こり、金属が析出する
  4. 電池の放電では逆に、+端子側が還元反応の起こる電極になる——外部から電流を注入する電気分解と、自発的に電流を生む電池放電とで、端子の+/-と反応の対応が入れ替わる
  5. 鉛蓄電池は1セルあたり公称2.0V。これを複数個直列に接続して12V・24Vなどの電源電圧を作る
  6. 鉛蓄電池は正極に二酸化鉛(PbO2)、負極に鉛(Pb)を用い、電解液には希硫酸を使う。放電すると両極とも電解液中の硫酸と反応して硫酸鉛(PbSO4)に変化し、水が生成されて電解液の濃度(比重)が下がる。充電すると逆の反応が進み、両極ともそれぞれ元のPbO2・Pbに戻る
  7. 鉛蓄電池を過充電すると、電解液中の水が電気分解され、正極から酸素ガス、負極から水素ガスが発生する
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