工場の受変電設備には、力率を改善するための進相コンデンサが設置されていることが多い。 だが大型の設備では、コンデンサの代わりに「過励磁で運転している同期電動機」が 同じ役割を果たしていることがある。ただ電動機を回しているだけに見えるその機械が、 なぜコンデンサの代わりになれるのか。
そしてもう一つ。この電動機は、電源につないだ瞬間には自分の力で回り出すことすらできない。 励磁を与えれば磁石として力が働くはずなのに、なぜ自己始動できないのか。
このトピックを読み終えるころには、同期電動機が誘導電動機とどう違うのか、 そしてなぜ力率を自在に操れる機械になるのかを、原理から説明できるようになっている。
種明かしは、同期電動機が誘導電動機と違ってすべりを持たないという性質と、 界磁電流(励磁)の強さが電機子電流の位相そのものを動かすという性質にある。
誘導電動機との決定的な違い — すべりを持たない
同期電動機は、同期発電機と基本構造がよく似ている。固定子側に回転磁界を作る電機子巻線、 回転子側にDC励磁された界磁を持つ。この界磁の磁極が、固定子の回転磁界に同期して 追従することで回転する。
誘導電動機は、負荷が増えるとすべりが増え、回転速度がわずかに下がる。だが同期電動機は、 脱調(同期が外れること)しない限り、負荷の大小にかかわらず常に同期速度で回り続ける。 負荷が増えたときに変化するのは回転速度ではなく、内部の起電力と端子電圧の間の位相差 (負荷角)である。負荷角が広がりすぎると同期を保てなくなり、電動機は脱調する。
例題
8極の同期電動機を60Hzの電源で運転すると(脱調していない限り)、 rpm で回転し続ける。負荷を増やしても、この900rpmという 数値自体は変わらない。
励磁とV曲線 — 界磁電流が、力率を自在に動かす
同期電動機のもう一つの特徴は、界磁電流(励磁)の強さを変えることで、電機子電流の 力率を進み側・遅れ側に動かせることにある。
- 不足励磁(界磁電流を定格より弱くする):電機子電流は遅れ力率になる
- 過励磁(界磁電流を定格より強くする):電機子電流は進み力率になる
負荷を一定にしたまま界磁電流を変化させ、電機子電流の大きさをグラフにすると、 力率1(電機子電流が最小)の点を底にしたV字型の曲線になる(V曲線)。
等価回路で内部起電力を求める — 発電機とは符号が逆になる
V曲線は「界磁電流を変えると力率がどちらに動くか」という定性的な関係だったが、同期電動機の 1相分の等価回路を使うと、相電圧・電機子電流・同期リアクタンスから内部誘導起電力(逆起電力) の大きさを実際に計算できる。電機子巻線抵抗を無視すると、等価回路は相電圧・ 同期リアクタンス・内部誘導起電力の直列回路で表せる。
この式をについて解くと、
前のトピックで見た同期発電機の関係()と、電圧降下の符号が 逆になっている点に注意したい。発電機は内部起電力側が電源で、そこから外部(側)へ 電力が流れ出す。電動機は逆に、端子電圧側が電源で、そこから内部(側)へ電力が流れ込む ——電源側が反対になっているため、の符号も反対になる。
力率1(電機子電流が相電圧と同位相)で運転しているときは、の ベクトルがに対してちょうど90°ずれる。したがって、内部誘導起電力の大きさは 三平方の定理で求められる。
例題(自作の数値例)
ある三相同期電動機の1相分の等価回路で、相電圧V、同期リアクタンスの 電動機を力率1で運転したところ、電機子電流Aになった。このときの内部誘導起電力は、
同期調相機 — 電動機なのに、力率改善設備として使う
同期電動機を無負荷に近い状態で過励磁運転すると、電動機は仕事(トルク)をほとんどせずに、 系統に進み無効電力だけを供給する状態になる。この使い方を同期調相機(synchronous condenser)という。工場の受変電設備で、進相コンデンサの代わりに、あるいはコンデンサと 組み合わせて力率改善に使われることがある。コンデンサと違って界磁電流を連続的に調整できるため、 必要な無効電力の量を細かく変えられる点が特徴だ。
なぜ自己始動できないのか
同期電動機は、静止した回転子にそのまま定格のDC励磁を与えただけでは、自分の力で 回り始めることができない。固定子の回転磁界に対して、静止した回転子の磁極が追従できず、 引力と反発力を交互に受けて、トルクの向きが周期的に反転してしまう。1周期の中でトルクを 平均するとゼロになり、正味の始動トルクが得られないためである。
このため、同期電動機の始動には別の仕組みが必要になる。代表的なのが、回転子に かご形誘導電動機と同じような制動巻線を追加し、始動時はこの巻線による誘導電動機的な トルクで回転数を上げ、同期速度に近づいたところで界磁のDC励磁を投入して同期に引き込む方法 (誘導始動)である。ほかにも、始動用の電動機で回転数を上げてから同期投入する方法や、 インバータで低い周波数から徐々に加速する方法が使われる。
脱出トルクと乱調 — 同期を保てる限界と、そこに至るまでの振動
同期電動機のトルク[N・m]は、負荷角(内部の起電力と端子電圧の位相差)の 正弦()に比例する。円筒形2極の同期電動機であれば、次の関係が成り立つ。
負荷が増えるほどは広がっていくが、は(90°)で最大値1を とる周期関数だ。したがって、こので電動機のトルクは最大になる。同期電動機が 脱調せずに耐えられるこの最大トルクを脱出トルクという。がこれを超えて さらに広がると、トルクはむしろ減少していき、電動機は同期を保てなくなって脱調する ——この関係は、前のトピックで見た同期発電機の出力と、まったく 同じの山型カーブに基づいている。
負荷が急激に変化すると、負荷角は新しい釣り合い点へ瞬時には落ち着かない。 回転子には慣性(はずみ)があるため、新たなを中心として、行き過ぎては戻り、 また行き過ぎては戻り……という周期的な変動が生じることがある。これを乱調と呼ぶ。 乱調は負荷の急変だけでなく、電源の電圧や周波数が変動した場合にも生じうる。
乱調を抑制する代表的な方法が、始動法のところで見た制動巻線をそのまま活用することだ。 制動巻線は始動時にはかご形導体として誘導始動トルクを生んでいたが、通常運転中に 負荷角が変動しようとする瞬間にも、回転磁界に対してわずかな相対運動が生じて誘導電流が 流れ、その振動を打ち消す方向のトルクを発生させる。ほかにも、回転部分にはずみ車 (フライホイール)を取り付けて回転子の慣性を大きくし、変動そのものを緩やかにする 方法も併用される。
冒頭の「過励磁の同期電動機がなぜコンデンサの代わりになれるのか」—— 答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。