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機械 ・ 3 / 16

誘導電動機の原理とすべり

読み終えると、こうなる

制御盤やインバータ盤にある三相誘導電動機の銘板(極数・周波数・定格回転速度)を見て、その電動機が今どのくらいの『すべり』で回っているかを暗算できるようになる

  • 電源周波数と極数から回転磁界の同期速度を計算し、実際の回転速度との差からすべりをパーセントで計算でき、すべりから二次周波数も求められる
  • 誘導電動機の二次入力・二次銅損・機械的出力が1:s:(1-s)の比で配分されることを使って、二次銅損や機械的出力を計算できる
  • 誘導機を同期速度より速く回すとすべりが負になり誘導発電機として動作することを説明でき、銅損・鉄損(渦電流損+ヒステリシス損)・機械損という電気機器の損失の3分類も説明できる
  • 固定子(一次)と回転子(二次)の関係を変圧器とのアナロジーで説明でき、二次起電力がすべり倍になることや、一次巻線抵抗測定・無負荷試験・拘束試験から等価回路定数を求める手順(変圧器の短絡試験との対応)も説明できる
考えてみよう

制御盤の奥で唸っている三相誘導電動機の回転子には、電線が1本もつながっていない。 外部から電気を受け取っているのは固定子側の巻線だけで、回転している側(回転子)には 電源との直接の配線が存在しない。

配線でつながっていないのに、なぜ回転子には電流が流れ、トルクが生まれて回り続けるのか。 そして、電動機の回転速度は電源周波数と極数だけで決まる「同期速度」ぴったりには 決してならないという。この「わずかなズレ」こそが、誘導電動機を回し続けている 仕組みそのものだ。

このトピックを読み終えるころには、電源周波数と極数から同期速度を計算し、 実際の回転速度との差から「すべり」を求め、回転子側に流れる電流の周波数まで 計算できるようになっている。

種明かしは、回転磁界に、回転子がほんの少し遅れてついていくという、 誘導電動機の名前そのものが表す仕組みにある。

回転磁界と同期速度 — 電源周波数と極数だけで決まる速さ

三相の固定子巻線に三相交流を流すと、固定子の内側には回転する磁界が生まれる。 この回転磁界の速さ(同期速度)は、電源周波数 ff と極数 pp だけで決まり、 負荷の大きさや回転子の構造とは無関係だ。

Ns=120fp[rpm]N_s = \frac{120f}{p} \quad [\text{rpm}]

例題

電源周波数50Hz、4極の電動機の同期速度は何rpmか。

Ns=120×504=1500rpmN_s = \frac{120 \times 50}{4} = 1500\text{rpm}

なぜ回転子は「同期速度どおり」には回らないのか

回転磁界が回転子を通過するとき、回転子側の導体は磁界を「横切る」ことになり、 電磁誘導によって回転子に電流が誘導される(変圧器の二次巻線に電流が誘導されるのと 同じ原理)。この誘導電流と回転磁界が作用し合うことで、回転子にトルクが生まれる。

ここで重要なのは、磁界を横切る(相対運動がある)ときにしか誘導電流は生まれない という点だ。もし回転子が回転磁界とまったく同じ速度(同期速度)で回ってしまえば、 回転子から見た磁界は静止して見え、横切る動きがなくなるため誘導電流もトルクも 生まれなくなる。

だから誘導電動機の回転子は、必ず同期速度よりわずかに遅れて回る。この遅れの量を すべり ss と呼ぶ。

s=NsNNss = \frac{N_s - N}{N_s}

NN は実際の回転速度。始動直後(回転子が停止している状態)は N=0N=0 なので s=1s=1、 負荷が軽くなるほど回転子は同期速度に近づき、ss は数%程度まで小さくなる (ただし理論上、s=0s=0 には決してならない)。

例題

同期速度1500rpmの電動機が、実際には1455rpmで回転しているときのすべりは何%か。

s=150014551500=451500=0.033%s = \frac{1500-1455}{1500} = \frac{45}{1500} = 0.03 \rightarrow 3\%
すべりの正体は「回転子が、回転磁界にどれだけ食らいついていけていないか」の割合だ。 軽負荷ならほとんど食らいついていける(sが小さい)が、負荷が重くなるほど遅れが 大きくなる(sが大きくなる)。「同期速度と完全に一致した状態が一番良い」という 直感は誘導電動機には当てはまらない。一致した瞬間、トルクを生む仕組みそのものが 失われるからだ。

回転子側の電流は、電源周波数とは違う周波数で流れている

回転子から見ると、回転磁界は「同期速度と実際の回転速度の差の分」だけ、 相対的に動いて見える。この相対速度に対応する周波数が、回転子に誘導される電流の 周波数(二次周波数)f2f_2 で、電源周波数 f1f_1 とすべり ss を使ってこう表せる。

f2=s×f1f_2 = s \times f_1

例題

電源周波数50Hz、すべり5%で運転している電動機の二次周波数は何Hzか。

f2=0.05×50=2.5Hzf_2 = 0.05 \times 50 = 2.5\text{Hz}
極端な値で検算すると、この式の向き(比例か反比例か)を確認できる。始動直後 ($s=1$、回転子は静止)は、回転子が磁界に対してまったく動いていないので、 電源とまったく同じ周波数の電流が誘導される($f_2=f_1$)。仮に同期速度に達した とすれば($s=0$)、相対運動がなくなり $f_2=0$ になる。$s=1$ で $f_2=f_1$、 $s=0$ で $f_2=0$——これは比例(掛け算)の関係であって、反比例ではない。

二次入力の行き先 — 二次銅損と機械的出力への配分

固定子側から回転子側へ、空隙(エアギャップ)を通じて伝わる電力を二次入力 P2P_2 と呼ぶ。 この P2P_2 は、すべてが軸のトルクに変わるわけではない。回転子側の巻線抵抗で消費される 二次銅損 Pc2P_{c2} と、実際に軸から取り出せる機械的出力 PmP_m の2つに分かれる。

この配分の比は、すべり ss そのものを使ってきれいに表せる。

P2:Pc2:Pm=1:s:(1s)P_2 : P_{c2} : P_m = 1 : s : (1-s) Pc2=s×P2,Pm=(1s)×P2P_{c2} = s \times P_2, \qquad P_m = (1-s) \times P_2
この比を丸暗記するより、極端な値で検算して意味を確認するほうが記憶に残りやすい。 始動直後($s=1$、回転子は静止していて機械的な仕事はゼロ)を考えると、二次入力は すべて銅損として捨てられるはずだから $P_{c2}=P_2$、$P_m=0$ でなければならない。 比の式に$s=1$を代入すると、ちょうどこの通りになる——すべりが大きいほど、 二次入力のうち機械的な仕事に変わらず銅損として捨てられる割合が大きくなる、 という関係がこの1本の式にまとまっている。

例題

三相誘導電動機の二次入力が600W、すべりが5%で運転している。二次銅損と機械的出力は それぞれいくらか。

Pc2=0.05×600=30W,Pm=0.95×600=570WP_{c2} = 0.05 \times 600 = 30\text{W}, \qquad P_m = 0.95 \times 600 = 570\text{W}

一次側から見ると、電源から供給される一次入力のうち、鉄損と一次銅損が一次側で 先に失われ、残りが二次入力P2P_2として空隙を越えて回転子側に伝わる。二次入力を 求めるときは、まず一次入力から一次側の損失(鉄損・一次銅損)を差し引く、という 1段階前の計算が必要になる場面もある。

誘導電動機は「回転する変圧器」— 固定子と回転子を一次・二次にたとえる

回転磁界と回転子の関係をもう一段掘り下げると、誘導電動機は原理的に変圧器とよく似た 構造をしていることが見えてくる。固定子巻線に電流が流れて生まれる回転磁界が、回転子巻線を 切ることで起電力を誘導する——この関係は、変圧器の一次巻線が作る磁束が二次巻線を貫いて 起電力を誘導する仕組みと、原理的にまったく同じだ。

  • 固定子巻線 ⇔ 変圧器の一次巻線
  • 回転子巻線 ⇔ 変圧器の二次巻線

回転子(二次側)に電流が流れると、その電流は自分自身の起磁力をつくる。この起磁力は、 固定子(一次側)がつくった磁束を打ち消す向きに働く。すると、その打ち消された分を 補うように、固定子側にも追加の電流が流れ込む——ちょうど変圧器で二次側に負荷電流が 流れると、それを打ち消すように一次側にも電流が誘起されて流れ込むのと同じ関係だ。

二次起電力とすべりの関係 — 静止時の何倍になるか

回転子が完全に停止している状態(s=1s=1)では、回転磁界は固定子を切るのと同じ速さで 回転子巻線を切る。このときの二次起電力(相電圧)をE20E_{20}(静止時二次起電力)と呼ぶ。

回転子が回転しはじめると、回転磁界と回転子の相対速度はすべりssの分だけ小さくなる ため、誘導される二次起電力もそれに応じて小さくなる。

E2s=s×E20E_{2s} = s \times E_{20}

E2sE_{2s}はすべりssで運転しているときの二次起電力だ。この式は、以前見た二次周波数の式 f2=sf1f_2 = s f_1と、まったく同じ「すべりssをかける」構造をしている。

例題(自作の数値例)

回転子が停止している状態(s=1s=1)での二次起電力(相電圧)が150Vの誘導電動機がある。 すべり5%で運転しているときの二次起電力は、

E2s=0.05×150=7.5VE_{2s} = 0.05 \times 150 = 7.5\text{V}
静止時の二次起電力E20と、運転中の二次起電力E2sを混同しないこと。極端な値で検算すると 分かりやすい。s=1(始動直後)ではE2s=E20と一致し、sが0に近づく(同期速度に近づく) ほどE2sも0に近づいていく——この2点をE2s=s×E20に当てはめて確認すれば、静止時の値を そのまま運転中の値として使ってしまう誤りに気づける。

等価回路定数の測定 — 一次巻線抵抗測定・無負荷試験・拘束試験

誘導電動機を「回転する変圧器」として等価回路で扱うと決めても、そこに入る抵抗・リアクタンスの 具体的な数値は、設計値ではなく実際に測定して求める。変圧器のときと同じく、次の3つの試験を 組み合わせる。

  1. 一次巻線抵抗測定:回転子を回さない静止状態で、一次巻線の各端子間の抵抗を直流で測定する。 絶縁材料の耐熱クラスによって定められた基準巻線温度(75℃や115℃など)に換算してから、 等価回路の一次抵抗として使う。
  2. 無負荷試験:一次巻線に定格周波数の定格一次電圧を印加して無負荷運転し、一次側の 電圧・電流・電力を測定する。この結果から、鉄心を磁化するための励磁回路(サセプタンス・ コンダクタンス)の値が求まる。
  3. 拘束試験:回転子を回転しないように固定し、一次電流が定格電流程度になるよう電圧を 低く抑えて通電し、そのときの電圧・電流・電力を測定する。この結果から、一次二次の 合成漏れリアクタンス二次抵抗が求まる。
拘束試験を「回転子を固定したまま定格電圧を印加する試験」だと思い込むと、始動電流と同じ桁違いに 大きな電流を流すことになり、危険なうえ測定にも適さない。誘導電動機は「回転する変圧器」であり、 拘束試験は変圧器の**短絡試験**(二次側短絡、低電圧で定格電流相当を流す)にそのまま対応する ——「拘束試験=誘導電動機版の短絡試験」と結びつけて覚えれば、無負荷試験(定格電圧)との 条件の違いを取り違えない。

誘導機は発電機としても使える — 同期速度を超えると、すべりは負になる

すべりの式 s=(NsN)/Nss = (N_s-N)/N_s は、回転子が同期速度より遅い(N<NsN<N_s)場合しか 扱えないわけではない。もし外部の原動機(風車やタービンなど)で回転子を同期速度より 速く回してしまうとどうなるか。

このとき N>NsN>N_s となるため、すべり ss負の値になる。回転子は回転磁界を 追い越す形になり、誘導される電流の向き・トルクの向きが逆転する。電動機として 電力を消費する代わりに、電力を系統側へ送り出す誘導発電機として動作するように なる。

ただし誘導発電機には、同期発電機にはない制約がある。誘導機は直流で励磁する界磁巻線や 永久磁石を持たず、固定子に交流の励磁電流が流れ込むことで初めて回転磁界(界磁)が できる。つまり誘導発電機は**自分で励磁電流を作れない**——系統に接続され、系統側から 励磁電流を供給してもらって初めて発電運転が成立する。系統から切り離された状態では、 単独で電圧を作り出すことができない。

三相かご形誘導機は構造がシンプルで安価なため、この制約を理解した上で、一部の 小水力発電・風力発電で誘導発電機として使われている。

損失の全体像 — 銅損・鉄損・機械損の3分類

ここまで見た二次銅損は、誘導電動機が持つ損失のうちの1種類にすぎない。電気機器の損失は、発生の仕組みによって大きく3つに分類できる。

  • 銅損:巻線の抵抗によるジュール熱。一次側の巻線で生じる一次銅損と、回転子側で生じる二次銅損(このトピックで見たPc2)がある。電流の2乗に比例する。
  • 鉄損:鉄心に交流磁束が通ることで生じる損失。うず電流損とヒステリシス損の2成分の合計であり、電圧・周波数がほぼ一定であれば、負荷の大小にかかわらずほぼ一定の値になる。
  • 機械損:軸受(ベアリング)の摩擦損失や、冷却ファンが空気を動かすことで生じる風損など、回転部分そのものに起因する損失。回転速度でほぼ決まる。

誘導電動機の場合、これらの損失は次の順番で電力から差し引かれていく。

一次入力一次銅損鉄損P2(二次入力)二次銅損Pm(機械的出力)機械損軸出力\text{一次入力} \xrightarrow{-\text{一次銅損}-\text{鉄損}} P_2\text{(二次入力)} \xrightarrow{-\text{二次銅損}} P_m\text{(機械的出力)} \xrightarrow{-\text{機械損}} \text{軸出力}
鉄損・機械損を、二次銅損と同じように「すべりsで決まる」と考えないこと。P2:Pc2:Pm = 1:s:(1−s)という比が当てはまるのは、あくまで二次入力P2の内訳(二次銅損と機械的出力の配分)だけだ。鉄損は一次側の電圧・周波数でほぼ決まり、機械損は回転速度でほぼ決まる——どちらもすべりとの間に単純な比例関係はない。

例題(自作の数値例)

三相誘導電動機の一次入力が6000W、一次銅損と鉄損の合計が400W、すべりが5%、機械損が100Wで運転しているときの軸出力を求める。

P2=6000400=5600W,Pm=(10.05)×5600=5320WP_2 = 6000 - 400 = 5600\text{W}, \qquad P_m = (1-0.05)\times5600 = 5320\text{W} 軸出力=Pm100=5320100=5220W\text{軸出力} = P_m - 100 = 5320 - 100 = 5220\text{W}

一次入力から軸出力まで、損失を1つずつ順番に差し引いていく流れそのものが、誘導電動機の効率を計算するときの基本手順になる。

制御盤・現場での「すべり」の意味

制御盤やインバータ盤で三相誘導電動機を扱うとき、銘板に書かれた「定格回転速度」は 同期速度そのものではなく、定格負荷時のすべりを差し引いた実際の回転速度が表示されている。 たとえば4極・50Hzで同期速度1500rpmの電動機の銘板が「1450rpm」となっていれば、 定格負荷時のすべりはおよそ3.3%だと逆算できる。

インバータで電動機の速度を制御する場合も、出力周波数を変えることで同期速度そのものを 動かしている。実際の回転速度は、その同期速度からすべりの分だけ遅れた値になる—— この関係は、インバータの周波数設定と実測回転速度にズレがあるときの点検の 出発点にもなる。

冒頭で見た、回転子に電線がつながっていないのに回り続ける仕組み——答え合わせは 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 『回転子が同期速度に達するほどよく回っている』と考え、同期速度=理想的な運転状態だと誤解する

    なぜ引っかかる同期電動機とは違い、誘導電動機は回転子と回転磁界の間に速度差(すべり)がなければトルクを生み出せない。この構造を知らないと、『効率よく回っている=同期速度に近い』という発想から、『同期速度と完全に一致した状態がベスト』だと誤って推測してしまう。

    見破り方『誘導』電動機という名前の由来に立ち返る。回転子に電流が誘導されるのは、回転磁界と回転子の間に相対運動(速度差)があるからであり、速度差がゼロ(s=0)になった瞬間、誘導電流もトルクもゼロになる。誘導電動機は原理上、常にわずかなすべりを持ったまま回り続ける。

  2. すべりの式 s = (Ns − N)/Ns の分母を、Nsではなく実際の回転速度Nと取り違える

    なぜ引っかかる分母は基準となる同期速度Nsであり、実際の回転速度Nではない。この分母を取り違えると、同じ速度差でも計算されるすべりの値が変わってしまう。特に極数が多く同期速度が低い電動機では、この違いが計算結果に無視できない誤差を生む。

    見破り方すべりの定義を『実際の速度が、同期速度からどれだけの割合遅れているか』という日本語で確認してから式を立てる。割合(分母)は必ず基準となるNs(回転磁界の速度)になる。

  3. 二次周波数の式 f2 = s × f1 を、f2 = f1 / s のように逆数の関係だと誤解する

    なぜ引っかかるすべりが小さくなるほど回転子側の周波数(二次周波数)が『下がる』という関係を、感覚的に『反比例(割り算)』だと思い込みやすい。実際には比例(掛け算)の関係であり、すべりが半分になれば二次周波数も半分になる。

    見破り方極端な値で検算する。s=1(始動直後、回転子が停止)のときは f2 = f1(回転子は回転磁界に対して完全に静止しているので、電源と同じ周波数の電流が誘導される)。s=0(もし仮に同期速度に達したら)のときは f2=0。この2点を式に当てはめて、比例の関係(掛け算)であることを確認できる。

  4. 二次入力(P2)のうち、二次銅損として失われる割合を『すべりsそのもの』ではなく『1-s』だと取り違える

    なぜ引っかかる『すべりが大きい=効率が悪い=損失が大きい』という方向性自体は正しいため、P2:Pc2:Pm = 1:s:(1-s) のうち、どちらがsでどちらが(1-s)なのかをうっかり逆に当てはめやすい。

    見破り方極端な値で検算する。s=1(始動直後、回転子は静止=機械的な仕事はゼロ)のとき、二次入力はすべて銅損として捨てられるはずなので Pc2=P2、Pm=0でなければならない。この条件を1:s:(1-s)に当てはめると、s=1でPc2の係数が1、Pmの係数が0になる——Pc2の係数がsであることがこの検算で確認できる。

  5. 誘導発電機は、同期発電機と同じように単独で(系統につながずに)電圧を作り出せると誤解する

    なぜ引っかかる『発電機』という名前から、同期発電機と同様に自らの界磁だけで電圧を作り出せると思い込みやすい。だが誘導機には直流で励磁する界磁巻線がなく、回転磁界を作る励磁電流をどこかから供給してもらう必要がある。

    見破り方誘導機の固定子には交流の励磁電流を流す巻線しかなく、界磁を単独で作る仕組み(直流励磁や永久磁石)を持たないことを思い出す。系統に接続されて初めて、系統から流れ込む励磁電流を使って回転磁界を作り、発電運転が成立する。

  6. 鉄損(渦電流損・ヒステリシス損)や機械損(軸受摩擦損・風損)を、二次銅損と同じく『すべりに比例する損失』だと思い込む

    なぜ引っかかるP2:Pc2:Pm = 1:s:(1-s)という比の式が印象に強く残っていると、他の損失もすべて同じようにすべりで説明できると錯覚しやすい。だが鉄損は一次電圧・周波数でほぼ決まる損失、機械損は回転速度でほぼ決まる損失であり、どちらもすべりsとの間に単純な比例関係はない。

    見破り方『この損失は、二次入力P2の配分(1:s:(1-s))の話か、それとも一次側や回転部分の別の損失か』を先に切り分ける。二次銅損だけがすべりsで機械的に決まり、鉄損・機械損はそれぞれ別の要因(電圧・周波数、回転速度)で決まる、と分けて覚える。

  7. 静止時の二次起電力E20と、運転中(すべりs)の二次起電力E2sを混同し、E2s=E20のまま計算してしまう

    なぜ引っかかる『回転子には電流が誘導され続けている』という理解だけが先に立つと、その起電力の大きさが回転速度(すべり)によって変わるという点が抜け落ち、静止時の値をそのまま運転中の値として使ってしまいやすい。

    見破り方極端な値で検算する。s=1(始動直後、回転子は静止)のときはE2s=E20と一致するはずで、sが0に近づく(同期速度に近づく)ほどE2sも0に近づいていくはずだ。この2点を式E2s=s×E20に当てはめて確認すれば、静止時の値をそのまま使う誤りに気づける。

  8. 拘束試験でも無負荷試験と同じように定格周波数の定格一次電圧を印加すると思い込む

    なぜ引っかかる無負荷試験は定格電圧を印加するのが正しいため、その印象を拘束試験にもそのまま当てはめてしまいやすい。だが拘束試験は回転子を固定した状態(すべり1相当)のまま定格電圧を印加すると、始動電流と同じ桁違いに大きな電流が流れてしまい危険なうえ、等価回路定数の測定にも適さない。

    見破り方変圧器の短絡試験(二次側短絡、低電圧で定格電流相当を流す)との対応を思い出す。誘導電動機は『回転する変圧器』であり、拘束試験は誘導電動機版の短絡試験にあたる。定格電流程度に収まる低い電圧を印加する、という条件を先に確認する。

参考文献・出典

理解度チェック(15問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、15問で確認しよう。 内訳は基本8問・応用4問・ひっかけ3問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 15 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 同期速度は Ns = 120f/p(f:周波数[Hz]、p:極数)で決まる。回転子の構造や負荷の大きさとは無関係
  2. すべり s = (Ns − N) / Ns。回転子は同期速度Nsより必ずわずかに遅れて回る(N < Ns)
  3. 回転子が同期速度と完全に一致してしまうと、磁界に対する相対運動がなくなり誘導電流が流れなくなる。つまりトルクも消える——誘導電動機は原理上、同期速度そのものでは回れない
  4. 回転子に誘導される電流の周波数(二次周波数)は f2 = s × f1。すべりが小さいほど、回転子側の周波数は電源周波数よりずっと低くなる
  5. 始動直後(回転子が止まっている状態)はs=1、無負荷に近い運転ではsは数%程度まで小さくなる
  6. 回転子(二次側)に伝わる電力(二次入力P2)は、二次銅損Pc2と機械的出力Pmに配分される。その比はP2:Pc2:Pm = 1:s:(1-s)——すべりsがそのまま『二次入力のうち銅損として捨てる割合』になる
  7. 電気機器の損失は大きく3つに分類される:①銅損(巻線抵抗によるジュール熱)、②鉄損(鉄心を交流磁束が通ることで生じる損失。うず電流損とヒステリシス損の合計)、③機械損(軸受の摩擦損や冷却ファンの風損など、回転部分に特有の損失)
  8. 誘導電動機全体の損失の流れは、一次入力→(一次銅損・鉄損を差し引く)→二次入力P2→(二次銅損s×P2を差し引く)→機械的出力Pm→(機械損を差し引く)→軸出力(実際に取り出せる出力)という順に絞り込まれていく
  9. 誘導電動機は原理的に『回転する変圧器』とみなせる。固定子巻線が変圧器の一次巻線、回転子巻線が二次巻線に相当し、回転子の起磁力は固定子の磁束を打ち消す向きに働く(変圧器の二次電流が一次側に電流を誘起させるのと同じ関係)
  10. 回転子が停止している状態(s=1)の二次起電力(相電圧)をE20とすると、すべりsで運転しているときの二次起電力E2sはE2s=s×E20という比例関係になる。f2=sf1と同じ『sをかける』構造で、s=1でE2s=E20、s=0に近づくとE2sも0に近づく
  11. 誘導電動機の等価回路定数は、一次巻線抵抗測定(静止状態で直流測定し、絶縁材料の耐熱クラスで定まる基準巻線温度に換算)・無負荷試験(定格周波数の定格一次電圧を印加して無負荷運転し、励磁回路のサセプタンス・コンダクタンスを求める)・拘束試験(回転子を固定し、一次電流が定格電流程度になるよう電圧を低く抑えて通電し、一次二次の合成漏れリアクタンスと二次抵抗を求める)の3つの試験の組み合わせで求める。拘束試験は変圧器の短絡試験に相当する
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