制御盤の温度調節器は、扉を開け閉めして庫内の温度が下がっても、しばらくすると また設定温度にぴたりと戻っている。インバータで動くモータも、負荷がかかって 回転数が落ちそうになると、勝手に出力を上げて速度を保とうとする。
誰も操作していないのに、なぜこの装置たちは「ずれたら、自動で戻す」ことができるのか。 一方で、タイマーで時間だけを決めて動く装置は、同じ「自動」でもこの戻す力を持たない。 両者の違いはどこにあるのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤の中の機器を見て、それが 「測って→比べて→直す」というフィードバックの輪を持っているかどうかを、 その場で見抜けるようになっている。
種明かしは、制御には出力を測って目標値と比べ直す仕組みを持つもの(フィードバック制御)と、 それを持たないもの(開ループ制御)の2種類がある、という区別にある。
開ループ制御とフィードバック制御 — 「測って比べる」ループの有無
タイマーで一定時間モータを回して止める、あらかじめ決めたパターンで照明を点滅させる—— こうした制御は、出力(実際にどう動いたか)をまったく測定していない。決めた手順を 順番に実行するだけなので、開ループ制御と呼ばれる。手順どおりに動く保証はあるが、 負荷変動や外乱があっても、それに応じて動作を修正することはできない。
これに対してフィードバック制御は、制御量(実際の出力)を検出部で測定し、 目標値と比較部で比較して偏差(目標値と実際の値のずれ)を求め、その偏差を なくす方向に調節部・操作部を動かす。この「検出→比較→操作」のループが、 外乱があっても自動的に目標値へ近づけていく力の正体だ。
フィードバック制御系の構成とブロック線図
フィードバック制御系は、次の要素で構成される。
- 目標値:制御量をどうしたいかという設定値
- 検出部:制御量(出力)を測定するセンサ
- 比較部:目標値と検出値の差=偏差を求める部分
- 調節部:偏差に応じて操作量を計算する部分(コントローラ)
- 操作部:実際に制御対象を動かすアクチュエータ
- 制御対象:温度・速度・圧力など、制御したいプロセスそのもの
- 外乱:制御対象に外から加わる、望まない影響
制御対象までの一巡りの利得(伝達関数)を、検出部の伝達率をとすると、 目標値から制御量までの全体の利得(閉ループ利得)は次の式で表される。
分母にが加わっているのは、偏差=目標値-検出値という引き算の構造(負帰還)を 持つためだ。検出した値をそのまま目標値から差し引いて次の操作を決めるので、 単独の利得よりも全体の利得は小さくなり、これが制御系を安定側に働かせる。
例題
単位フィードバック()のフィードバック制御系で、制御対象の利得がのとき、 全体の閉ループ利得はいくらか。
フィードフォワード経路が加わったブロック線図の合成
実際のブロック線図は、の単純な1経路だけとは限らない。制御対象へたどり着く 前に、外乱や目標値の情報を先回りして加えるフィードフォワード経路が、フィードバックの 主経路と並列に加わることがある。経路が増えると式が急に複雑に見えるが、考え方は変わらない。 信号が分岐・合流する点を1つずつ、入力側から順に追っていくだけでよい。
自作の簡単な例で確認しよう。前向き経路に要素とが直列に入っており、と並列に フィードフォワード経路(利得)が加わって、の手前の合流点で合流するとする。 フィードバックは単位フィードバック()とする。
- 最初の合流点(偏差):目標値から、検出したフィードバック分を引く。
- 2番目の合流点(フィードフォワードとの合流):を通った信号と、を通った フィードフォワード信号が、同じ点で足し合わされる。 ここがポイントだ。並列に入った2つの経路は、同じ合流点で単純に足し算すればよい。
- 出力までの直列要素:合流した信号にが直列に掛かって出力になる。
ここまでで分かるのは、とをまとめたとの積、つまり が、入力側から見た「等価な前向き利得」になっているということだ。 これをと呼べば、あとは1章で使った公式にそのまま乗せられる。
例題
、、、のとき、全体の閉ループ伝達関数を求める。
P・I・D — 3つの動作が担う異なる役割
調節部の代表的な動作が、比例(P)・積分(I)・微分(D)の3つで、これらを組み合わせたものが PID制御だ。
- 比例動作(P):偏差の大きさにそのまま比例して操作量を出す。応答は速いが、 負荷が変わり続ける状況では偏差がゼロになりきらず、定常偏差(オフセット)が残ることがある。
- 積分動作(I):偏差を時間で積分(足し込み)した量に比例して操作量を出す。 偏差が残っている限りずっと出力を増やし続けるため、最終的に定常偏差をゼロに近づけることができる。 ただし応答が遅れがちで、行き過ぎ(オーバーシュート)や振動を招くことがある。
- 微分動作(D):偏差の変化の速さに比例して操作量を出す。急激な変化に素早く反応するため、 応答を速め、行き過ぎを抑える働きを持つ。一方でノイズの影響を受けやすい。
なぜ制御盤の中でPID制御が使われているのか
制御盤の温度調節器(TIC)は、庫内温度という制御量を熱電対などで検出し、設定温度との 偏差をPID演算にかけてヒーターの出力を調整している。比例動作だけでは扉の開閉のような 外乱のたびに温度がわずかにずれたままになるが、積分動作が加わることで最終的に設定温度へ ぴたりと戻る。微分動作は、急な温度変化に対する応答を速め、行き過ぎを抑える役割を担う。
インバータの速度制御ループも同じ構造だ。モータの実際の回転数を検出し、指令速度との 偏差をPID演算で処理して出力周波数を調整することで、負荷変動があっても目標の回転数を 保ち続けている。
ボード線図 — 周波数によってゲインがどう変わるかを折線で見る
制御系の性質は、時間の経過だけでなく「入力の周波数を変えたとき、出力がどう追従するか」 という周波数特性でも評価される。これをグラフにしたものがボード線図で、横軸に 角周波数の対数、縦軸にゲイン(利得)をdB(デシベル)で取る。
制御系でよく登場する一次遅れ要素を例に考えよう。伝達関数は次の形をしている。
は時定数だ。このゲイン(dB表示)は次の式で求められる。
この式を毎回計算するのは大変なので、実務では次の折線近似で概形をつかむ。
- (折れ点より低い周波数):となるので、 ゲインはほぼ0dB一定。低い周波数の入力には、ほぼそのまま追従する。
- (折れ点より高い周波数):と 近似でき、ゲインはが10倍(1デカード)増えるごとに-20dBずつ下降する (-20dB/decadeの傾き)。高い周波数の入力には追従しきれなくなっていく。
この2本の直線が交わる点を折れ点角周波数と呼び、、つまり
で求められる。
例題
時定数の一次遅れ要素のボード線図を、折線近似で描く。
折れ点角周波数は。したがって、 より低い周波数ではゲインはほぼで横ばい、 を超えるとの傾きで下降していく。 たとえば1デカード上のでは約、 2デカード上のでは約まで下がる。
ベクトル軌跡(ナイキスト線図)— 複素平面上でゲインと位相を一度に見る
ボード線図は、ゲイン(大きさ)と位相を別々の2枚のグラフに分けて表す。これに対し ベクトル軌跡(ナイキスト線図)は、一巡伝達関数を、を0から∞まで 変化させながら複素平面上に1本の曲線としてプロットしたものだ。曲線上のある1点の 位置が、その周波数での「大きさ(原点からの距離)」と「位相(実軸となす角度)」を 同時に表している。
一次遅れ要素にゲインが掛かったの形を例に、 軌跡がどんな曲線を描くか追ってみる。
- :(実軸上の点)。位相は0°
- (折れ点角周波数):分母の実部と虚部の大きさが等しくなるため、 位相はちょうど、大きさは
- :分母が限りなく大きくなるため、(原点に収束)。位相はに近づく
実部・虚部に分けて整理すると、
虚部の符号が常に負であることから、軌跡は実軸より下側(第4象限)にだけ現れる。 この式は、実軸上のとを直径の両端とする、半径の半円を描く—— で実軸上のから出発し、が大きくなるにつれて下側へ弧を描きながら、 で原点に収束する。
例題(自作の数値例)
のベクトル軌跡を考える。
- :(実軸上の点)
- 折れ点角周波数:位相、大きさ
- :原点に収束
実軸上のとを直径とする、下側(第4象限)に膨らむ半円を描く。
冒頭の問いかけ——「なぜ装置は、ずれたら自動で戻せるのか」の答え合わせは、 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。