制御盤の起動ボタンを、ほんの一瞬だけ押してすぐ指を離しても、モータは回り続ける。 ボタンに電気を流し続けているわけでもないのに、回路はまるで「押されたこと」を 覚えているかのように動作を保っている。
一方で、正転用と逆転用、2つのボタンを同時に押しても、モータは決して同時に 両方向へは回らない仕組みになっている制御盤もある。
この「覚える力」と「同時に動かさせない力」は、どちらもリレーという単純な部品の 接点の組み方だけでつくられている。このトピックを読み終えるころには、 制御盤の配線を見て、それが自己保持なのかインターロックなのかを、 接点の配置だけで読み解けるようになっている。
種明かしは、あらかじめ定めた順序・条件で動くシーケンス制御の考え方と、 その最小部品であるリレーのa接点・b接点の組み合わせにある。
シーケンス制御とは — あらかじめ決めた順序・条件で進む制御
前のトピックで扱ったフィードバック制御は、出力を常に測定し、目標値との偏差を 修正し続ける制御だった。これに対してシーケンス制御は、あらかじめ定めた 順序・条件に従って、制御の各段階を逐次進めていく制御だ。
信号機が「青→黄→赤」と順番に切り替わる、洗濯機が「給水→洗濯→すすぎ→脱水」と 工程を進める、制御盤の起動シーケンスがボタン操作の順に段階を踏む——こうした 「次に何をするか」があらかじめ決めた手順表(条件)で決まっている制御が シーケンス制御にあたる。
リレーの基本 — a接点とb接点
シーケンス制御を実際の回路にするための最小部品が電磁リレー(継電器)だ。 コイルに電流を流すと鉄心が電磁石になり、可動接点を吸引して接点を開閉する。
- a接点(メーク接点、常開):コイルが無励磁のとき開いており、励磁すると閉じる(ON)
- b接点(ブレーク接点、常閉):コイルが無励磁のとき閉じており、励磁すると開く(OFF)
a接点を複数直列につなぐと、すべてが閉じたときだけ導通するAND動作になり、 並列につなぐと、いずれか1つでも閉じれば導通するOR動作になる。b接点は、 コイルが動作すると回路を切る働きを持つため、NOT(否定)に相当する動作をつくる。
自己保持回路 — 一瞬押しただけで動作を保つ仕組み
起動用の押しボタンPB1(a接点)を押すとリレーRのコイルが励磁される。ここで、 Rの補助a接点をPB1と並列に入れておくと、PB1を離した瞬間にも、R自身の接点を 通る電流経路が残っているため、コイルの励磁は保持され続ける。これが自己保持回路だ。
停止用の押しボタンPB2(b接点)をコイル回路に直列に入れておけば、PB2を押した 瞬間に電流経路そのものが切れ、いつでも保持を解除できる。
例題
押しボタンPB1(起動用)を押すとリレーRが動作し、PB1を離してもRの動作を継続させたい。 リレーRの補助a接点はどのように配置すればよいか——答えは「PB1と並列に接続する」。 直列に接続すると、PB1を離した瞬間に電流経路が切れてしまい、自己保持は成立しない。
インターロック回路 — 同時に動かせない仕組み
正転用リレーRfと逆転用リレーRrのように、同時に動作すると機器の破損や短絡につながる 2つの回路には、インターロックをかける。Rfのコイル回路にRrのb接点を直列に入れ、 同時にRrのコイル回路にもRfのb接点を直列に入れておくと、どちらか一方が動作している間は もう一方のコイル回路が切れ、動作できなくなる。
なぜa接点ではなくb接点を使うのか——「相手が動作しているときは自分が動作できない」 という排他条件は、相手が励磁されたときに開く接点でなければ実現できない。 励磁で開く接点はb接点であり、a接点を使うと逆に「相手が動作しているときだけ 自分も動作できる」という連動回路になってしまう。実務では、この電気的インターロックに 加えて、機械的な機構によるインターロックも併用することが多い。
タイマー(限時継電器)— 時間差をつくる部品
コイルが励磁されてから、あるいは無励磁になってから、一定時間後に接点が動作する リレーをタイマー(限時継電器)と呼ぶ。
- オンディレイタイマー:コイル励磁後、設定時間が経過してから接点が動作する(遅れてON)
- オフディレイタイマー:コイル無励磁後、設定時間が経過してから接点が復帰する(遅れてOFF)
制御盤では、モータをY(スター)結線で始動し、一定時間後にΔ(デルタ)結線の 通常運転へ切り替えるY-Δ始動のような、時間差を持たせた切替にオンディレイタイマーが 使われる。始動直後の突入電流を抑えつつ、加速が進んだところで自動的に運転結線へ移行できる。
論理回路の基礎 — ANDゲート・ORゲート・NOTゲートとリレー接点の対応
リレーのa接点・b接点の組み合わせは、実は論理回路という、もう少し一般的な考え方の 具体例そのものだ。論理回路では、入力・出力は「1(ON)」か「0(OFF)」かの2値しか取らず、 その変換規則を表す最小単位が次の3つの基本ゲートになる。
- ANDゲート(論理積):すべての入力が1のときだけ、出力が1になる
- ORゲート(論理和):入力のどれか1つでも1なら、出力が1になる
- NOTゲート(否定):入力を反転させる(1なら0、0なら1)
この3つは、前の節で見たリレー接点の性質とそのまま対応している。a接点の直列接続は すべてが閉じないと導通しない=AND、a接点の並列接続はどれか1つでも閉じれば導通する=OR、 b接点は励磁で開く=NOT——シーケンス制御の回路図が読めれば、論理回路の基本ゲートも 同じ発想で読み解ける。
入力の組合せをすべて書き出し、それぞれに対応する出力をまとめた表を真理値表、 時間の経過に沿って入力・出力がどう変化するかをグラフにしたものをタイムチャートと呼ぶ。 複数のゲートが組み合わさった回路でも、入力から出力へ向かって、ゲートを1つずつ 順番に計算していけば、最終的な出力を機械的に求められる。
例題
2つの入力A・Bに対し、出力X = (AとBのAND) OR (Bの反転=NOT B) という論理回路がある。 A=0、B=0を入力したときの出力Xはどうなるか。
AND部分:A AND B = 0 AND 0 = 0 NOT部分:NOT B = NOT 0 = 1 出力:X = (AND部分) OR (NOT部分) = 0 OR 1 = 1
入力から出力まで、ゲートを1つずつ順番にたどれば、複雑に見える組合せ回路でも 機械的に答えを導ける。
発展的な論理演算 — ExOR・NORと2進数の16進数変換
AND・OR・NOTの3つは論理回路の基本だが、実務やPLC(プログラマブルロジックコントローラ) のビット演算では、これに加えて排他的論理和(ExOR)と否定論理和(NOR)もよく使われる。
- ExOR(排他的論理和):2つの入力が異なるときだけ出力が1になる(同じなら0)
- NOR(否定論理和):ORの結果を反転させたもの(両方とも0のときだけ出力が1になる)
例題(自作の数値例)
ビットパターン1100と1010のビットごとの論理演算を求めてみる。
- AND(1桁ずつ両方1のときだけ1):1100 AND 1010 = 1000
- OR(1桁ずつどちらかが1なら1):1100 OR 1010 = 1110
- NOR(ORの結果を反転):1100 NOR 1010 = 0001
- ExOR(1桁ずつ異なるときだけ1):1100 ExOR 1010 = 0110
こうしたビットパターンは、PLCの入出力状態や通信データの一部としてそのまま16進数で 扱われることが多い。2進数を16進数に変換するには、右端から4ビットずつ区切り、 それぞれを0〜Fの1桁に対応づければよい。
半加算器と全加算器 — 論理ゲートを組み合わせて「足し算」を作る
ここまで見た論理ゲート(AND・OR・NOT・ExOR)を組み合わせると、2進数の足し算を 行う回路を作れる。この最も基本的な単位が半加算器(half adder)と 全加算器(full adder)だ。
半加算器は、2つの1ビット入力A・Bを足し算し、和S(Sum)と桁上げC(Carry)の 2つを出力する回路だ。
A=0,B=0→S=0,C=0(0+0=00)、A=0,B=1→S=1,C=0(0+1=01)、A=1,B=0→S=1,C=0(1+0=01)、 A=1,B=1→S=0,C=1(1+1=10、2進数の10は10進数の2)——2進数の足し算の結果と ちょうど一致する。
半加算器を2個と、ORゲート1個を組み合わせると、下位桁からの繰り上がり入力も 受け取れる全加算器を作れる。全加算器は3つの1ビット入力(A・B・下位桁からの 繰り上がり)を受け取り、和Sと上位桁への繰り上がりを出力する。
例題(自作の数値例)
全加算器にA=1、B=1、=1を入力する。1+1+1=3(10進)=11(2進)なので、 和S=1、繰り上がり=1になるはずだ。これを2つの半加算器で確かめる。
1段目の半加算器(AとBを加算):
2段目の半加算器(とを加算):
最終的な繰り上がりは、1段目の桁上げと2段目の桁上げのORで求まる。
結果、S=1、=1となり、3(10進)=11(2進)と一致する。
論理式の簡単化 — ブール代数で回路をシンプルにする
論理ゲートを組み合わせた式は、そのままではゲート数が多く、リレー接点の数やPLCの ロジック行数がかさむことがある。ブール代数の法則を使うと、こうした論理式を より少ない項・少ないゲート数に書き換えられる。実務では、これがそのまま配線数の 削減やプログラムの見通しの良さに直結する。
代表的な法則は次のとおり。
- 分配則:(数式の分配法則と同じ形)
- 吸収則:(Bがどうであれ、Aが1なら全体が1、Aが0ならも0で結局Aのまま)
- 吸収則(もう1つの形):(という条件だけが外れ、Bの項自体は残る)
- ド・モルガンの定理:、(ANDとORが、否定を挟むと入れ替わる)
例題(自作の数値例)— 積和形式を簡単化する
論理式 を積和形式のまま 簡単化してみる。
まず第1項と第2項に共通するでくくる。
(補元則:どちらか一方は必ず成り立つので、全体は常に真になる)を使った。 ここまでで式は に縮まる。残った2項に共通するBで さらにくくる。
カッコの中は、さきほど見た吸収則の形そのものだ。これを適用すると、
3項あった式が2項になった。なら元の3つの項はすべて0になるので必ず、 なら(吸収則の結果)になる——この2点を確かめれば、簡単化した式が 元の式と常に同じ値を返すことを検算できる。
例題(自作の数値例)— 和積形式を簡単化する
積和形式だけでなく、OR項をANDでつなぐ和積形式の簡単化にも同じ分配則が使える。 を展開すると、
(を使った)。ここでの部分は、吸収則を 2回使うとAだけに縮む。結果、
という和積形式2項の式が、という積和形式1項+1項の式に 変わった——見た目の形(和積か積和か)が変わっても、真理値表で全パターンを確認すれば 両辺は常に一致する。
なぜ制御盤にこの仕組みが積み重なっているのか
制御盤の内部を見ると、自己保持回路とインターロック回路とタイマーが何段にも 組み合わさって、複雑に見える配線ができあがっている。だが1つ1つは、 a接点・b接点をどう配置するかという単純な選択の積み重ねにすぎない。
「押しボタンを離しても動作を保ちたい」なら自己保持(自分のa接点を並列に)、 「相手が動いている間は自分を止めたい」ならインターロック(相手のb接点を直列に)、 「一定時間おいて次の段階へ進みたい」ならタイマー——シーケンス制御の回路図は、 この3つの基本パターンの組み合わせとして読み解ける。
冒頭の「一瞬押しただけでモータが回り続ける仕組み」の答え合わせは、 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。