キュービクル(受変電設備)の変圧器は、高圧側の6600Vを低圧側の200Vや100Vへと 変換している。コイルが2つ、鉄心を挟んで向き合っているだけの、動く部分のない機械だ。
なぜ、ただ巻線の巻数を変えるだけで電圧を自在に変えられるのか。そして電圧を下げると、 なぜ電流のほうは逆に増えるのか。この「変える力」の正体と、現実の変圧器が理想どおりに 動かない部分(漏れ・励磁)をどう回路図に描き加えるかが分かれば、変圧器の計算問題は ほとんど機械的に解けるようになる。
このトピックを読み終えるころには、変圧器の巻数比から電圧・電流・インピーダンスの 換算を迷わず計算し、等価回路の各要素が何を表しているかを説明できるようになっている。
種明かしは、電磁誘導の法則が生む理想変圧器の2つの比例式と、現実の巻線・鉄心が 持つ「ロス」を回路素子として描き足した等価回路にある。
理想変圧器 — 電圧は巻数比そのもの、電流はその逆比
一次巻線に交流電圧を加えると、鉄心の中に交番磁束が生まれる。この磁束は二次巻線も 貫くため、二次巻線にも電圧が誘導される。誘導される電圧の大きさは巻数に比例するので、 一次・二次の電圧比は巻数比と一致する。
を巻数比と呼ぶ。一次巻数 のほうが多ければ となり、一次電圧のほうが 高い(降圧変圧器)。
一方、理想変圧器では鉄心での損失がないため、一次側が受け取る電力と二次側が送り出す 電力は等しい()。この電力保存の関係から、電流比は電圧比の逆比 になる。
電圧が上がった側は電流が下がり、電圧が下がった側は電流が上がる——「電力は保存される」 という一点から、この2つの式は自然に導かれる。
例題
一次巻数1000回、二次巻数100回の変圧器に6600Vを加えたとき、二次電圧は何Vか。
二次側を一次側に「換算」する — インピーダンスは巻数比の2乗
変圧器の計算では、二次側にある抵抗やリアクタンスを一次側の値に置き換えて、 1つの回路として扱うことがよくある。このとき、電圧・電流の換算が巻数比の1乗であるのに 対し、インピーダンスの換算は巻数比の2乗になる。
理由はオームの法則 から追える。二次側の電圧を一次側に換算するとa倍、 二次側の電流を一次側に換算すると1/a倍——この2つが の分子・分母に入るため、 という形で2乗が現れる。
例題
巻数比a=20の変圧器で、二次側の抵抗が0.02Ωであるとき、一次側に換算した値は何Ωか。
変圧器の等価回路 — 漏れインピーダンスと励磁回路の2系統
現実の変圧器は、理想変圧器とは違って完全に理想的には動かない。巻線には抵抗があり、 鉄心を貫くはずの磁束の一部が漏れて空気中を通る(漏れ磁束)。さらに、鉄心を磁化するために 一次側からわずかな電流(励磁電流)を取り込む必要がある。これらを回路素子として 描き加えたものが、変圧器の等価回路だ。
等価回路は大きく2つの系統に分かれる。
- 漏れインピーダンス(直列枝) — 一次巻線の抵抗・漏れリアクタンス、 二次巻線の抵抗・漏れリアクタンス(一次側に換算したもの)を直列に並べたもの。 負荷電流はここを通って二次側へ渡される。
- 励磁回路(並列枝) — 鉄損(うず電流損・ヒステリシス損)を表す励磁コンダクタンスと、 磁化電流を表す励磁サセプタンスからなる並列回路。負荷の有無にかかわらず、 一次電圧が加わっている限り流れ続ける。
励磁電流は負荷電流に比べてかなり小さいため、実務上の計算では励磁回路を無視して 「一次巻線の抵抗・漏れリアクタンス+二次側換算の抵抗・漏れリアクタンス」だけの 直列回路として近似する簡易等価回路がよく使われる。
短絡試験 — 巻線定数を、実測で求める
ここまでの等価回路の話は「漏れインピーダンスがある」という前提だったが、実際の値は どうやって求めるのか。その答えが短絡試験だ。変圧器の二次側を短絡し、一次側に 電流計・電圧計・電力計をつないで、一次電流が定格電流相当になるまで電圧を上げていく。 このとき電圧計・電力計が示す値から、簡易等価回路(励磁回路を無視した、漏れインピーダンス だけの直列回路)の定数を求められる。
- (等価インピーダンス)は、電圧計の読みを電流計の読みで割るだけで求まる「大きさ」
- (等価抵抗)は、電力計の読み(短絡試験では巻線の抵抗損=銅損に相当する有効電力) をで割って求める「抵抗分」
- (漏れリアクタンス)は、とを三平方の定理で組み合わせて初めて求まる「残りの成分」
二次側を短絡しているため一次電圧はごくわずかで済み、鉄心はほとんど磁化されない (励磁電流・鉄損は無視できるほど小さい)。だからこそ、この試験結果は 「一次側換算の漏れインピーダンスだけ」を切り出して測れる、という理屈になっている。
例題(自作の数値例)
単相変圧器の一次側で短絡試験を行ったところ、電流計は20A、電圧計は100V、 電力計は1200Wを示した。この変圧器の一次側からみた漏れリアクタンスを求める。
温度上昇試験 — 大形変圧器では「返還負荷法」で電力を使い回す
短絡試験が「巻線の定数」を求める試験だったのに対し、変圧器を実際に定格負荷で 連続運転させたとき、内部(巻線・油・鉄心)の温度がどこまで上がるかを確認する試験が 温度上昇試験だ。試験のやり方は、変圧器の大きさによって大きく変わる。
小形変圧器では、実際に抵抗器などの負荷を接続し、定格電流を流し続ける実負荷法が 使われる。だが電力用の大形変圧器になると、定格容量(数百kV・A〜数万kV・A)を まるごと消費できるだけの試験用電源・負荷を用意するのは現実的ではない。
そこで大形変圧器の温度上昇試験には、返還負荷法という方法が使われる。同じ仕様の 変圧器を2台用意し、二次側どうしを電気的に結んで、外部電源からはこのループの中で 生じる損失(鉄損・銅損に相当する電力)だけを供給すればよいようにする。ループの中で 電力を循環させ、目減りした分だけを外部電源が「返す」というイメージだ。この方法なら、 試験用電源は定格容量よりはるかに小規模なもので済む。
単巻変圧器 — 巻線を一部共有して、小型・低損失にする工夫
ここまで見てきた変圧器は、一次巻線と二次巻線が電気的に分かれている(絶縁されている) 構造を前提にしていた。これに対し単巻変圧器は、1つの巻線の一部を一次・二次で 共用する構造を持つ。
- 分路巻線:一次・二次に共通する巻線部分
- 直列巻線:共通でない巻線部分
分路巻線の端子を一次側に、直列巻線を含めた端子を二次側に接続すると、通常の変圧器と 同じように電圧を変換できる。ここで押さえておきたいのが、自己容量と負荷容量の違いだ。
- 負荷容量(通過容量):二次側に接続された負荷が実際に受け取る容量。 で計算する、ふつうの意味での「変圧器の容量」
- 自己容量:直列巻線が実際にやり取りする(変圧器としての変換作用が働いている)容量
一次・二次の電圧差が小さいほど自己容量は負荷容量よりずっと小さくなる。つまり単巻変圧器は、 実際に流れる負荷容量のわりに、変圧器本体(巻線・鉄心)が小さくて済む——同じ容量の ふつうの変圧器と比べて、小型・軽量・低損失に作れるということだ。
例題
一次電圧100V、二次電圧110Vの単巻変圧器で、二次側の負荷容量が110kV・Aのとき、 自己容量はいくらか。
巻線を共用している分、単巻変圧器は漏れ磁束が少なく、電圧変動率も小さい。ただし、 一次側と二次側の巻線が直接つながっており電気的に絶縁されていないため、高圧側の 異常電圧がそのまま低圧側に及ぶおそれがある——始動補償器(始動時だけ電圧を落とす オートトランス)など、電圧差の小さい用途で単巻変圧器がよく使われる理由も、この 自己容量の小ささと表裏一体になっている。
変圧器の構造 — 巻線・鉄心・冷却方式という「中身」
ここまでは等価回路という電気的なふるまいの話だったが、変圧器の性能・寿命は、実際の 構造にも大きく左右される。
巻線には、加工しやすく電気抵抗の小さい軟銅線が使われる。鉄心に絶縁を施した上に 巻線を直接巻きつける方法や、あらかじめ円筒巻線・板状巻線として巻いておき、これを 鉄心にはめ込む方法などがある。
鉄心には、飽和磁束密度と比透磁率が大きい電磁鋼板(ケイ素鋼板)が使われる。ここで 押さえておきたいのが、鉄損の2つの成分(ヒステリシス損・渦電流損)それぞれへの対策が 別々の工夫で行われている点だ。
- ケイ素を数%含有させる:鋼板の材質そのものを変える工夫で、ヒステリシス損を低減する
- 薄い鋼板を積層し、表面を絶縁被膜で覆う:うず電流の通り道を構造的に断ち切る工夫で、 渦電流損を低減する
冷却方式は、用いる冷媒によって、絶縁油を使う油入式、空気を使う乾式、ガスを 使うガス冷却式などに分かれる。変圧器油は、巻線を浸して絶縁耐力を高めるとともに、 冷却によって本体の温度上昇を防ぐために使われ、化学的に安定・引火点が高い・流動性に 富む・比熱が大きく冷却効果が大きい、といった性質が求められる。
大型の油入変圧器では、負荷変動に伴って油の温度が変動し、油が膨張・収縮を繰り返す。 これにともなって外気が変圧器内部に出入りを繰り返す現象を呼吸作用といい、外気中の 水分や不純物が油に混入することで油の劣化を招く。この劣化を防ぐため、本体の外部に コンサベータ(油の膨張・収縮を吸収する予備タンク)やブリーザ(出入りする空気を 乾燥剤で除湿する装置)を設けるのが一般的だ。
受変電設備の変圧器で、この等価回路が意味すること
キュービクルの変圧器銘板に書かれている「%インピーダンス」は、この等価回路の 漏れインピーダンスをパーセントで表したものだ。%インピーダンスが分かれば、 短絡電流の見積もりや、複数台の変圧器を並行運転させたときの負荷分担 (この続きは次のトピックで扱う)まで計算できるようになる。
鉄心を磁化するための励磁電流も、無視できる場面ばかりではない。変圧器を軽負荷や 無負荷のまま長時間通電すると、負荷電流はごくわずかでも励磁電流と鉄損は流れ続けている。 これが、変圧器の「無負荷損」が省エネルギー上の課題として扱われる理由でもある。
冒頭のキュービクルの変圧器で、電圧・電流・インピーダンスがそれぞれどう変換されているか ——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。