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理論 ・ 8 / 16

交流の実効値・平均値・波形率

読み終えると、こうなる

テスタが示す交流電圧・電流の数値が、変化し続ける波形のどの部分を代表した値なのかを、実効値の定義から説明できるようになる

  • 正弦波交流の最大値から、実効値・平均値をそれぞれ計算できる
  • 波形率・波高率の定義式を使って、正弦波の値(波形率≒1.11、波高率≒1.414)を導け、測定値の波形率が理論値からずれている場合に波形がひずんでいる可能性を判断でき、平均値応答実効値表示のテスタがひずみ波形で誤差を生む理由も説明できる
  • 直流電源と交流電源が混在する回路で、瞬時電流を直流成分と交流成分に分けて考え(重ね合わせの理)、合成された電流の実効値を、直流成分と交流成分(実効値)それぞれの2乗の和の平方根 I=√(Idc²+Iac²) として求められる
考えてみよう

「AC100V」のコンセントにテスタを当てると「100V」と表示される。だが交流電圧は、 1秒間に何十回、何百回と大きさが0からピークまで、さらにマイナスのピークまで変化し続けている。 瞬間ごとに値が変わり続けているのに、なぜ「100V」というたった1つの数字で表せるのか。 その「100V」は、波形のどの部分の値なのか——最大値でも、途中の値でもない。

このトピックを読み終えるころには、テスタが示す交流の数値が波形のどの性質を代表した値なのかを、 式から説明できるようになっている。

種明かしは、「実効値」という、直流に置き換えて考える物差しにある。

実効値 — 「同じ発熱をする直流」に置き換えた値

交流電圧・電流を抵抗に加えると、抵抗は熱を出す。瞬間ごとに大きさが変わる交流でも、 1周期を通して見れば一定量の熱を発生させ続ける。「同じ抵抗に加えたとき、直流と同じだけの 発熱(仕事)をする交流の値」として定義されたのが実効値だ。

正弦波交流 v=Vmsinωtv = V_m\sin\omega tVmV_mは最大値)の実効値 VV は、次の式で求まる。

V=Vm20.707VmV = \frac{V_m}{\sqrt{2}} \fallingdotseq 0.707 V_m

なぜ2\sqrt{2}で割るのかは、瞬時値を2乗して平均を取り、その平方根を取る(二乗平均平方根、 Root Mean Square=RMS)という手順から導かれる。電力は電圧・電流の2乗に比例するため、 「発熱の平均」を考えるには2乗の平均をとる必要があり、そこから元の電圧の次元に戻すために 平方根を取る——これがRMSという名前の由来でもある。

例題

正弦波交流の最大値が200Vのとき、実効値は何Vか。

V=2002141.4VV = \frac{200}{\sqrt{2}} \fallingdotseq 141.4\text{V}

平均値 — 単純に「面積」を平均した値

もう1つの代表値が平均値だ。こちらは発熱量ではなく、半周期にわたる瞬時値を単純に平均したもの。 正弦波では次の式になる。

Vave=2πVm0.637VmV_{ave} = \frac{2}{\pi}V_m \fallingdotseq 0.637 V_m
実効値(0.707×最大値)と平均値(0.637×最大値)は数値が近く紛らわしいが、正弦波では 実効値の方が必ず大きい。「実効値0.707 > 平均値0.637」という大小関係を先に覚えておけば、 どちらの数値かを取り違えたときに違和感で気づける。

例題

正弦波交流の実効値が100Vのとき、平均値は何Vか。

まず実効値から最大値を逆算する。

Vm=100×2141.4VV_m = 100 \times \sqrt{2} \fallingdotseq 141.4\text{V} Vave=2π×141.490.0VV_{ave} = \frac{2}{\pi} \times 141.4 \fallingdotseq 90.0\text{V}

AC100Vのコンセントの電圧は、実効値では100Vだが、平均値では約90V、そして瞬間の最大値では 約141Vにまで達している——同じ交流電圧を指していても、どの物差しで見るかで数字が変わる。

波形率と波高率 — 波形の「とがり具合」を測る

実効値・平均値・最大値の3つの比をとると、波形の形そのものを特徴づける指標が得られる。

波形率=実効値平均値,波高率=最大値実効値\text{波形率} = \frac{\text{実効値}}{\text{平均値}}, \qquad \text{波高率} = \frac{\text{最大値}}{\text{実効値}}

正弦波では、波形率は約1.11、波高率(クレストファクタ)は約1.414(2\sqrt{2})になる。 これらの値は正弦波にだけ成り立つ「指紋」のようなもので、波形が方形波や三角波、あるいは 高調波を含んでひずんだ波形になれば、値も変わる。

波形率・波高率は、正弦波では「最大値>実効値>平均値」という大小関係を反映して、 どちらも1より大きい値になる。「大きい方の値を分子に置く」というルールで統一しておけば、 分子・分母を逆にする間違いを防げる。

なぜ実務でこの区別が問題になるのか

一般的な交流用テスタの多くは、実は実効値を直接測っているわけではない。整流した波形の 平均値を内部で測定し、それに正弦波の波形率(約1.11)を掛けて「実効値相当」として 表示する、平均値応答実効値表示という方式が広く使われている。電力系統の電圧のように 波形がほぼきれいな正弦波であれば、この換算で正確な実効値が得られる。

だが、インバータやスイッチング電源の出力のように高調波を多く含むひずみ波形では、 実際の波形率が正弦波の1.11から外れているため、この換算に誤差が生じる。表示値が実際の 実効値より高くなることも低くなることもあり、波形によって誤差の向きは一定しない。 制御盤の周辺でインバータ出力側の電圧・電流を正確に測りたい場合には、波形によらず 二乗平均平方根を直接計算する実効値型(true RMSとも呼ばれる)のテスタを選ぶ必要がある。

具体例で見る指示値のズレ — 矩形波を測ってみると

数値で確認してみよう。振幅(最大値)50Vの矩形波(常に+50Vと-50Vの間を瞬時に 切り替わる波形)を、平均値応答実効値表示型の電圧計で測定した場合を考える。

矩形波は時間によらず大きさが常に50Vのまま(符号が反転するだけ)なので、真の実効値 (二乗平均平方根)は、瞬時値の2乗が常に50250^2で一定であることから、

Vrms=502=50VV_{rms} = \sqrt{50^2} = 50\text{V}

となり、真の実効値が最大値と一致する(波高率=1)。一方、全波整流した波形も 常に大きさ50Vのままなので、平均値も50Vだ。ここで平均値応答実効値表示型の電圧計は、 波形によらず「正弦波なら平均値×1.11=実効値になる」という換算を機械的に適用して 指示値を作るため、

指示値=50V×1.1155.5V\text{指示値} = 50\text{V} \times 1.11 \fallingdotseq 55.5\text{V}

真の実効値50Vに対して指示値は約55.5V——約11%も高く表示されることになる。 矩形波は波形率(実効値/平均値=50/50=1)が正弦波の1.11より小さいため、正弦波用の 換算係数をそのまま当てはめると指示値が実際より高く出る側にずれる。これが「整流形計器は ひずみ波形を正しく測れない」という注意点の、数字で見た中身だ。

波形が変われば波形率も変わり、正弦波用の換算係数(×1.11)による指示値のズレ方も 変わる。矩形波(波形率1)では指示値が真の実効値より高く出るが、波形率が1.11より 大きい波形(尖った波形)では逆に低く出ることもある。「整流形計器のズレは波形次第で 高くも低くもなる」という前提を、数値例と結びつけて覚えておく。

直流と交流が混在する回路の実効値 — 別々に求めて、2乗の和の平方根で合成する

ここまでは交流だけの波形を扱ってきたが、制御盤の中には直流電源と交流電源の両方が 同じ回路につながっている場面もある(例えば、直流のバイアス電源に交流信号を重ねる回路)。 このとき、抵抗を流れる瞬時電流は、直流成分IdcI_{dc}と交流成分iac(t)i_{ac}(t)を足した形になる。

i(t)=Idc+iac(t)i(t) = I_{dc} + i_{ac}(t)

この合成された電流の実効値は、IdcI_{dc}と交流成分の実効値IacI_{ac}を単純に足し算 したものにはならない。実効値の定義(二乗平均平方根)に立ち返ってi(t)i(t)を2乗してみる。

i(t)2=Idc2+2Idciac(t)+iac(t)2i(t)^2 = I_{dc}^2 + 2I_{dc}\,i_{ac}(t) + i_{ac}(t)^2

この式を1周期にわたって平均すると、真ん中の項(直流と交流の積)は、交流成分iac(t)i_{ac}(t) の1周期平均がゼロであることから、平均すると消えてしまう。残るのはIdc2I_{dc}^2iac(t)2i_{ac}(t)^2の平均(=交流成分の実効値の2乗Iac2I_{ac}^2)だけだ。ここに平方根を取ると、

I=Idc2+Iac2I = \sqrt{I_{dc}^2 + I_{ac}^2}

という、直流分・交流分それぞれの実効値の2乗の和の平方根で合成された実効値が求まる。

「実効値どうしなら単純に足し算できるはず」という直感は誤りだ。実効値は2乗して平均する という手順を経て定義されているため、直流と交流のように性質の異なる2つの成分を合成する ときも、必ず2乗の和の平方根という同じ手順を踏む必要がある。抵抗の消費電力を求めるときも、 この合成した実効値をP=I²Rに代入する方法と、直流分の電力・交流分の電力を別々に求めて 単純に足し合わせる方法(P=Idc²R+Iac²R)のどちらでも同じ結果になる——交流分と直流分の 『積』の項が電力の平均でも消えてしまうためだ。

例題

ある抵抗に、直流電源による3Aの電流と、交流電源による実効値4Aの電流が、重ね合わせの理 によって同時に流れている。この抵抗を流れる電流全体の実効値を求める。

I=Idc2+Iac2=32+42=9+16=25=5AI = \sqrt{I_{dc}^2+I_{ac}^2} = \sqrt{3^2+4^2} = \sqrt{9+16} = \sqrt{25} = 5\text{A}

3・4・5という見慣れた数の組み合わせだが、3+4=73+4=7Aという単純な足し算ではなく、 55Aという2乗の和の平方根が正しい合成値になる。

冒頭のコンセントの「100V」という数字の正体——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 実効値と平均値を取り違え、正弦波でも同じ値になると誤解する

    なぜ引っかかるどちらも『波形を1つの代表値にまとめたもの』という点で似ているため、区別せずに『交流の代表値』として1つに丸めて覚えてしまう

    見破り方実効値は『発熱・仕事量』基準(2乗して平均してルートを取る、二乗平均平方根)、平均値は単純な『瞬時値の面積の平均』という定義の違いに立ち返る。正弦波では実効値(約0.707×最大値)の方が平均値(約0.637×最大値)より必ず大きいことを覚えておけば、数値の取り違えに気づける

  2. 波形率・波高率の分子分母を逆にする

    なぜ引っかかるどちらも『大きい値/小さい値』の比になっており、実効値・平均値・最大値の大小関係(正弦波では最大値>実効値>平均値)を覚えていないと、どちらを分子に置くべきか迷う

    見破り方正弦波では常に『最大値>実効値>平均値』の順になることを先に押さえ、波形率=実効値/平均値、波高率=最大値/実効値という『大きい方を分子に置く』というルールで統一する

  3. ひずみ波形(インバータ出力など)でも、正弦波と同じ0.707・0.637という換算係数がそのまま使えると思い込む

    なぜ引っかかる実効値=0.707×最大値という関係は正弦波特有の性質であり、波形が変われば実効値と最大値・平均値の関係も変わる。学校で覚えた係数を万能の公式だと思い込みやすい

    見破り方その換算係数がどの波形を前提にしたものかを常に確認する。方形波なら実効値=最大値(波形率1)、三角波なら実効値=最大値/√3など、波形ごとに実効値の定義(二乗平均平方根)から導き直す姿勢を持つ

  4. 直流電源と交流電源が混在する回路で、合成された電流の実効値を、直流分と交流分(実効値)の単純な足し算I=Idc+Iacで計算してしまう

    なぜ引っかかる『実効値どうしなら足し算できるはず』という直感で考えると、瞬時値の2乗を平均してから平方根を取るという実効値本来の定義(二乗平均平方根)を経由せずに、値をそのまま加算してしまいやすい。

    見破り方瞬時電流i(t)=Idc+iac(t)を2乗すると、Idc²+2×Idc×iac(t)+iac(t)²という3つの項が出てくる。1周期にわたって平均すると、直流と交流の積の項(2×Idc×iac(t))は交流成分の平均がゼロであることから消え、残るのはIdc²とiac(t)²の平均(=Iac²)だけになる。ここに平方根を取ると、I=√(Idc²+Iac²)という『2乗の和の平方根』の形になることを、毎回この3項展開から確認する。

参考文献・出典

理解度チェック(9問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、9問で確認しよう。 内訳は基本4問・応用2問・ひっかけ3問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 9 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 実効値は「同じ抵抗に加えたとき、直流と同じ発熱(仕事)をする交流の値」として定義される。正弦波では実効値=最大値/√2≒0.707×最大値
  2. 平均値は「半周期にわたる瞬時値の平均」。正弦波では平均値=(2/π)×最大値≒0.637×最大値
  3. 波形率=実効値/平均値(正弦波では約1.11)。波高率(クレストファクタ)=最大値/実効値(正弦波では√2≒1.414)
  4. 波形率・波高率は波形の『とがり具合』を表す指標で、正弦波以外(方形波・三角波など)では値が変わる
  5. 一般的なテスタや機器の定格電圧・電流の表記は、特に断りがなければ実効値
  6. 矩形波では実効値=平均値=最大値(波形率=1)になるため、正弦波用の換算(平均値×1.11)を使う整流形計器で測ると、真の実効値より約11%高い値が指示される
  7. 直流電源Idcと交流電源(実効値Iac)が同じ抵抗に重ね合わせの理で電流を供給しているとき、瞬時電流はi(t)=Idc+iac(t)と表せる。この瞬時値の2乗を1周期にわたって平均すると、直流と交流の積の項(2×Idc×iac(t))は1周期で平均するとゼロになるため、合成された電流の実効値はI=√(Idc²+Iac²)という『2乗の和の平方根』で求まる——単純にIdcとIacを足し算(I=Idc+Iac)するのは誤り
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