考えてみよう
受変電設備の動力盤で、リアクトル(コイル)とコンデンサが直列に入った回路をテスタ(交流電圧計)で当たってみる。コイル端子間で200V、コンデンサ端子間で140Vという値が出た。だが盤に入ってきている電源はたったの100Vのはずだ。
テスタが壊れているのか、それとも配線を間違えたのか。
実はどちらでもない。交流回路では、直流の感覚で「各部の電圧を全部足せば電源電圧になるはず」という前提そのものが崩れる。
このトピックを読み終えるころには、電圧計の読みが電源電圧より大きく見えても慌てず、その場でベクトル図を思い浮かべて説明できるようになっている。
種明かしは、抵抗・コイル・コンデンサでは電流に対する電圧の「向き」(位相)がそれぞれ違う、という点にある。同じ電流が流れていても、3つの電圧は同じ方向を向いていない。だから足し算ではなく、向きを考慮したベクトルの合成が必要になる。
電流を基準にすると、R・L・Cの電圧は向きが違う
直列回路では、どの素子にも同じ電流 I が流れる。この電流を基準(0°)にとると、それぞれの素子にかかる電圧の位相は次のようになる。
VR=IR (電流と同位相),VL=IXL (電流より90°進み),VC=IXC (電流より90°遅れ)
ここで XL=2πfL(誘導性リアクタンス)、XC=2πfC1(容量性リアクタンス)だ。抵抗は電圧と電流が常に同じ方向を向くが、コイルとコンデンサはそれぞれ逆向きに90°だけ電流からずれる——しかもコイルとコンデンサは互いに正反対の方向を向く。
ベクトル図で見る合成電圧
コイルの電圧とコンデンサの電圧は、ベクトル図の上で正反対の方向を向いているため、まず打ち消し合ってから抵抗の電圧と合成される。
V=VR2+(VL−VC)2,Z=R2+(XL−XC)2
例題
R=8Ω、XL=20Ω、XC=14Ωを直列に接続した回路に、電源電圧100Vを加えた。回路に流れる電流と、各素子の電圧を求めよ。
Z=82+(20−14)2=64+36=10Ω,I=10100=10A
VR=10×8=80V,VL=10×20=200V,VC=10×14=140V
検算はベクトル和で行う。√(VR² + (VL−VC)²) = √(80² + 60²) = √(6400+3600) = √10000 = 100V。
求めた各素子の電圧を使ってこの式に戻し、電源電圧100Vと一致するかを確認する——一致すれば計算が正しいという強力な検算になる。VLとVCがどちらも電源電圧より大きい値になっていても、この検算が通れば異常ではない。
誘導性か容量性か——位相角と力率
R・L・Cが混在する回路が、全体として誘導性(コイル寄り)か容量性(コンデンサ寄り)かは、正味のリアクタンス X=XL−XC の符号だけで決まる。
cosθ=ZR,θ=arctanRXL−XC
先ほどの例題では X=20−14=6Ω、Z=10Ω なので cosθ=8/10=0.8、θ≈36.9°。XL>XC なので回路全体は誘導性であり、電流は電圧より遅れる。
極端な値で確認すると腹落ちする。もしRが限りなく小さければ、cosθ=R/Zは0に近づき、回路はほぼ純粋な反応性(電流と電圧の位相差が90°近く)になる。逆にRが(XL−XCに対して)圧倒的に大きければ、cosθは1に近づき、回路はほぼ抵抗だけの回路のように振る舞う。Rの大きさが、回路がどれだけ「素直」に振る舞うかを決めている。
周波数が極端なとき、コイルとコンデンサはどう振る舞うか
XL=2πfL、XC=2πfC1 という式をよく見ると、周波数 f を動かしたときにXLとXCがどちらに向かうかが分かる。
周波数 f が限りなく0に近づく(直流に近づく)とき、
XL=2πfL→0 (短絡とみなせる),XC=2πfC1→∞ (開放とみなせる)
逆に周波数 f が限りなく大きくなるとき、
XL=2πfL→∞ (開放とみなせる),XC=2πfC1→0 (短絡とみなせる)
つまり低周波側ではコイルが「素通り」、コンデンサが「通行止め」。高周波側ではその逆——コンデンサが「素通り」、コイルが「通行止め」になる。
覚え方の軸は式そのものにある。コイルは電流の変化が速いほど大きな逆起電力を出して電流を妨げるので、変化がゆっくりな低周波では抵抗として働かず素通りし、変化が速い高周波では通行止めになる。コンデンサはその逆で、電流の変化がゆっくりだと充電しきって電流が止まる(低周波で通行止め)が、変化が速いほど充放電を繰り返して電流を通しやすくなる(高周波で素通り)。
RLC並列回路での電流の流れ方
R・L・Cを並列に接続した回路に交流電源をつなぐと、各枝には電源と同じ電圧がかかるが、電流がどの枝に集中するかは周波数によって大きく変わる。
- 低周波では、L側のXLがほぼ0(短絡に近い)になるため、電流の大部分はL側に流れ込む。C側はXCがほぼ無限大(開放に近い)なので、ほとんど電流が流れない。
- 高周波では逆に、C側のXCがほぼ0(短絡に近い)になるため、電流の大部分はC側に流れ込む。L側はXLがほぼ無限大(開放に近い)なので、ほとんど電流が流れない。
自作の数値で確かめる。L=1mH、C=1μFの並列回路に、f=10Hz(低周波側)とf=100kHz(高周波側)を加えたときのXL・XCを比較する。
f=10Hz: XL=2π×10×0.001≈0.063Ω,XC=2π×10×10−61≈15915Ω
f=100kHz: XL=2π×105×0.001≈628Ω,XC=2π×105×10−61≈1.6Ω
低周波側ではL側の抵抗(0.063Ω)がC側(約16kΩ)よりも圧倒的に小さいため電流はL側に集中し、高周波側ではC側の抵抗(1.6Ω)がL側(628Ω)より圧倒的に小さいため電流はC側に集中する。これが「低周波を通すか高周波を通すかを選び分けるフィルタ回路(ローパスフィルタ・ハイパスフィルタ)」の最も基本的な考え方であり、次のトピックで扱う共振(並列共振を含む)を理解する土台にもなる。
制御盤・受変電設備での実務との接点
制御盤内のリアクトルや力率改善用コンデンサを選定・点検するとき、電源電圧だけを見て「これ以上の電圧はかからない」と判断すると危険な場合がある。今回の例題のように、コイルやコンデンサ単体には電源電圧を超える電圧がかかることがあり、絶縁や耐圧はその実際にかかる電圧を基準に考える必要がある。
さらに、XLとXCの大きさが偶然近づくと、正味のリアクタンスXが小さくなり、コイル・コンデンサそれぞれの電圧はより大きく膨れ上がる。この「XLとXCが接近する」現象を突き詰めると、次のトピックで扱う「共振」にたどり着く。
冒頭の制御盤の測定値——答え合わせは、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。