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理論 ・ 9 / 16

RLC直列回路とベクトル図

読み終えると、こうなる

交流回路の電圧計の読みが電源電圧より大きく見えても慌てず、その場でベクトル図を思い浮かべて理由を説明できるようになる

  • R・XL・XCの値から合成インピーダンスZ、電流I、各素子の電圧をベクトル図の考え方で求められる
  • 電圧・電流の位相差(進み/遅れ)をベクトル図から読み取り、力率cosθを計算できる
  • 回路が誘導性か容量性かを、XLとXCの大小関係だけでその場で判定できる
考えてみよう

受変電設備の動力盤で、リアクトル(コイル)とコンデンサが直列に入った回路をテスタ(交流電圧計)で当たってみる。コイル端子間で200V、コンデンサ端子間で140Vという値が出た。だが盤に入ってきている電源はたったの100Vのはずだ。

テスタが壊れているのか、それとも配線を間違えたのか。

実はどちらでもない。交流回路では、直流の感覚で「各部の電圧を全部足せば電源電圧になるはず」という前提そのものが崩れる。

このトピックを読み終えるころには、電圧計の読みが電源電圧より大きく見えても慌てず、その場でベクトル図を思い浮かべて説明できるようになっている。

種明かしは、抵抗・コイル・コンデンサでは電流に対する電圧の「向き」(位相)がそれぞれ違う、という点にある。同じ電流が流れていても、3つの電圧は同じ方向を向いていない。だから足し算ではなく、向きを考慮したベクトルの合成が必要になる。

電流を基準にすると、R・L・Cの電圧は向きが違う

直列回路では、どの素子にも同じ電流 II が流れる。この電流を基準(0°)にとると、それぞれの素子にかかる電圧の位相は次のようになる。

VR=IR (電流と同位相),VL=IXL (電流より90°進み),VC=IXC (電流より90°遅れ)V_R = IR \ (\text{電流と同位相}), \quad V_L = IX_L \ (\text{電流より90°進み}), \quad V_C = IX_C \ (\text{電流より90°遅れ})

ここで XL=2πfLX_L = 2\pi f L(誘導性リアクタンス)、XC=12πfCX_C = \dfrac{1}{2\pi f C}(容量性リアクタンス)だ。抵抗は電圧と電流が常に同じ方向を向くが、コイルとコンデンサはそれぞれ逆向きに90°だけ電流からずれる——しかもコイルとコンデンサは互いに正反対の方向を向く。

ベクトル図で見る合成電圧

コイルの電圧とコンデンサの電圧は、ベクトル図の上で正反対の方向を向いているため、まず打ち消し合ってから抵抗の電圧と合成される。

V=VR2+(VLVC)2,Z=R2+(XLXC)2V = \sqrt{V_R^2 + (V_L - V_C)^2}, \qquad Z = \sqrt{R^2 + (X_L-X_C)^2}

例題

R=8Ω、XL=20Ω、XC=14Ωを直列に接続した回路に、電源電圧100Vを加えた。回路に流れる電流と、各素子の電圧を求めよ。

Z=82+(2014)2=64+36=10Ω,I=10010=10AZ = \sqrt{8^2+(20-14)^2} = \sqrt{64+36} = 10\Omega, \qquad I = \frac{100}{10} = 10\text{A} VR=10×8=80V,VL=10×20=200V,VC=10×14=140VV_R = 10\times8=80\text{V}, \quad V_L = 10\times20=200\text{V}, \quad V_C = 10\times14=140\text{V}
検算はベクトル和で行う。√(VR² + (VL−VC)²) = √(80² + 60²) = √(6400+3600) = √10000 = 100V。 求めた各素子の電圧を使ってこの式に戻し、電源電圧100Vと一致するかを確認する——一致すれば計算が正しいという強力な検算になる。VLとVCがどちらも電源電圧より大きい値になっていても、この検算が通れば異常ではない。

誘導性か容量性か——位相角と力率

R・L・Cが混在する回路が、全体として誘導性(コイル寄り)か容量性(コンデンサ寄り)かは、正味のリアクタンス X=XLXCX = X_L - X_C の符号だけで決まる。

cosθ=RZ,θ=arctanXLXCR\cos\theta = \frac{R}{Z}, \qquad \theta = \arctan\frac{X_L-X_C}{R}

先ほどの例題では X=2014=6ΩX=20-14=6\OmegaZ=10ΩZ=10\Omega なので cosθ=8/10=0.8\cos\theta = 8/10 = 0.8θ36.9°\theta \approx 36.9°XL>XCX_L > X_C なので回路全体は誘導性であり、電流は電圧より遅れる。

極端な値で確認すると腹落ちする。もしRが限りなく小さければ、cosθ=R/Zは0に近づき、回路はほぼ純粋な反応性(電流と電圧の位相差が90°近く)になる。逆にRが(XL−XCに対して)圧倒的に大きければ、cosθは1に近づき、回路はほぼ抵抗だけの回路のように振る舞う。Rの大きさが、回路がどれだけ「素直」に振る舞うかを決めている。

周波数が極端なとき、コイルとコンデンサはどう振る舞うか

XL=2πfLX_L = 2\pi f LXC=12πfCX_C = \dfrac{1}{2\pi f C} という式をよく見ると、周波数 ff を動かしたときにXLとXCがどちらに向かうかが分かる。

周波数 ff が限りなく0に近づく(直流に近づく)とき、

XL=2πfL0 (短絡とみなせる),XC=12πfC (開放とみなせる)X_L = 2\pi f L \to 0 \ (\text{短絡とみなせる}), \qquad X_C = \frac{1}{2\pi f C} \to \infty \ (\text{開放とみなせる})

逆に周波数 ff が限りなく大きくなるとき、

XL=2πfL (開放とみなせる),XC=12πfC0 (短絡とみなせる)X_L = 2\pi f L \to \infty \ (\text{開放とみなせる}), \qquad X_C = \frac{1}{2\pi f C} \to 0 \ (\text{短絡とみなせる})

つまり低周波側ではコイルが「素通り」、コンデンサが「通行止め」。高周波側ではその逆——コンデンサが「素通り」、コイルが「通行止め」になる。

覚え方の軸は式そのものにある。コイルは電流の変化が速いほど大きな逆起電力を出して電流を妨げるので、変化がゆっくりな低周波では抵抗として働かず素通りし、変化が速い高周波では通行止めになる。コンデンサはその逆で、電流の変化がゆっくりだと充電しきって電流が止まる(低周波で通行止め)が、変化が速いほど充放電を繰り返して電流を通しやすくなる(高周波で素通り)。

RLC並列回路での電流の流れ方

R・L・Cを並列に接続した回路に交流電源をつなぐと、各枝には電源と同じ電圧がかかるが、電流がどの枝に集中するかは周波数によって大きく変わる。

  • 低周波では、L側のXLがほぼ0(短絡に近い)になるため、電流の大部分はL側に流れ込む。C側はXCがほぼ無限大(開放に近い)なので、ほとんど電流が流れない。
  • 高周波では逆に、C側のXCがほぼ0(短絡に近い)になるため、電流の大部分はC側に流れ込む。L側はXLがほぼ無限大(開放に近い)なので、ほとんど電流が流れない。

自作の数値で確かめる。L=1mH、C=1μFの並列回路に、f=10Hz(低周波側)とf=100kHz(高周波側)を加えたときのXL・XCを比較する。

f=10Hz: XL=2π×10×0.0010.063Ω,XC=12π×10×10615915Ωf=10\text{Hz}: \ X_L = 2\pi\times10\times0.001 \approx 0.063\Omega, \quad X_C = \frac{1}{2\pi\times10\times10^{-6}} \approx 15915\Omega f=100kHz: XL=2π×105×0.001628Ω,XC=12π×105×1061.6Ωf=100\text{kHz}: \ X_L = 2\pi\times10^5\times0.001 \approx 628\Omega, \quad X_C = \frac{1}{2\pi\times10^5\times10^{-6}} \approx 1.6\Omega

低周波側ではL側の抵抗(0.063Ω)がC側(約16kΩ)よりも圧倒的に小さいため電流はL側に集中し、高周波側ではC側の抵抗(1.6Ω)がL側(628Ω)より圧倒的に小さいため電流はC側に集中する。これが「低周波を通すか高周波を通すかを選び分けるフィルタ回路(ローパスフィルタ・ハイパスフィルタ)」の最も基本的な考え方であり、次のトピックで扱う共振(並列共振を含む)を理解する土台にもなる。

制御盤・受変電設備での実務との接点

制御盤内のリアクトルや力率改善用コンデンサを選定・点検するとき、電源電圧だけを見て「これ以上の電圧はかからない」と判断すると危険な場合がある。今回の例題のように、コイルやコンデンサ単体には電源電圧を超える電圧がかかることがあり、絶縁や耐圧はその実際にかかる電圧を基準に考える必要がある。

さらに、XLとXCの大きさが偶然近づくと、正味のリアクタンスXが小さくなり、コイル・コンデンサそれぞれの電圧はより大きく膨れ上がる。この「XLとXCが接近する」現象を突き詰めると、次のトピックで扱う「共振」にたどり着く。

冒頭の制御盤の測定値——答え合わせは、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 各素子の電圧をVR + VL + VCとスカラーのまま足し算してしまう

    なぜ引っかかる直流のキルヒホッフの電圧則(電圧を単純に足す・引く)の感覚をそのまま交流に持ち込むと、位相のずれを無視して足し算したくなる。個別の電圧の方が電源電圧より大きく出ていると、なおさら「測定ミスでは」と混乱する。

    見破り方VL・VCの少なくとも一方が電源電圧を上回っていたら、その時点でスカラー和ではあり得ないと気づける。合成はV = √(VR² + (VL−VC)²)というベクトル和で行い、実際に計算して電源電圧と一致するかを検算する。

  2. 誘導性・容量性の判定で、正味のリアクタンスXL−XCの符号ではなく、コンデンサだけの回路の性質(電流が進む)をそのまま持ち込んでしまう

    なぜ引っかかるコンデンサ単体の回路では電流が電圧より進むという性質を覚えていると、L・Cが混在する回路でも「コンデンサがあるから電流は進むはず」と早合点しやすい。

    見破り方正味のリアクタンスX = XL − XCの符号だけで機械的に判定する。Xが正(XL > XC)なら回路全体としては誘導性で電流は電圧より遅れ、Xが負(XC > XL)なら容量性で電流は電圧より進む。

  3. 分圧の式(直流)の感覚で、VLやVCを電源電圧の一部としてそのまま比例配分しようとする

    なぜ引っかかる直流の分圧では各抵抗の電圧を足すと必ず電源電圧になるため、交流でも同じ発想でVL・VCを電源電圧の中の「取り分」として扱ってしまう。

    見破り方交流のRLC直列回路では、まずインピーダンスZを求めて電流Iを出し、I×R、I×XL、I×XCとそれぞれ個別に計算してから、最後にベクトル合成で電源電圧と一致するか確認する、という順序を崩さない。

  4. 低周波でコンデンサが素通り、高周波でコイルが素通りだと、LとCの役割を逆に覚えてしまう

    なぜ引っかかる「コイルは低周波、コンデンサは高周波」という語呂だけでふわっと覚えると、どちらがどちらの周波数で素通り(短絡)するのかを取り違えやすい。

    見破り方必ずXL=2πfL、XC=1/(2πfC)の式に立ち返って判定する。fが小さいほどXLは0に近づき(短絡)、XCは∞に近づく(開放)——これは「コンデンサは直流をカットする」という基礎知識(f=0=直流でXCが開放になる)とも一致する、と確認すれば取り違えない。

参考文献・出典

理解度チェック(7問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、7問で確認しよう。 内訳は基本4問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 7 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 抵抗の電圧は電流と同位相、コイルの電圧は電流より90°進み、コンデンサの電圧は電流より90°遅れる
  2. 合成インピーダンスはZ = √(R² + (XL−XC)²)。各素子の電圧は単純なスカラー和ではなく、ベクトル和でV = √(VR² + (VL−VC)²)になる
  3. XL > XCなら誘導性(電流が電圧より遅れる)、XL < XCなら容量性(電流が電圧より進む)
  4. 力率cosθ = R/Z。RとXの正味の差だけがインピーダンスと位相角を決める
  5. 周波数fが0に近づくとXL=2πfL→0(短絡とみなせる)・XC=1/(2πfC)→∞(開放とみなせる)。fが限りなく大きくなると逆になる——コイルは低周波で素通り、コンデンサは高周波で素通りする
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