考えてみよう
制御盤を開けると、センサーの手前に小さな抵抗が2本、直列に並んでいる基板をよく見かける。
片方はセンサー本体、もう片方はただの抵抗器だ。
24Vの電源から、なぜこの2本の抵抗だけで「センサーが正常なら3V、断線したら24V近く」という
都合のいい信号を作り出せるのか。抵抗を1本追加しただけで、電圧をこちらの思い通りに
切り分けられる仕組みは何なのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤の中のその2本の抵抗を見て、
何のために置かれているかをその場で言い当てられるようになっている。
種明かしは、直列につながった抵抗が電圧を、並列につながった抵抗が電流を、
それぞれ抵抗値の比率で分け合うという2つの法則にある。
分圧の法則 — 直列抵抗は、電圧を「自分の抵抗値の比」で受け持つ
2つの抵抗 R1、R2 を直列につなぎ、電源電圧 V を加えたとき、
それぞれの抵抗にかかる電圧 V1、V2 は次の式で求まる。
V1=V×R1+R2R1,V2=V×R1+R2R2
分子には「電圧を求めたい、その抵抗自身」が来る。抵抗値が大きいほど、自分が受け持つ電圧の
割合も大きくなる——というのは、オームの法則 V=IR を思い出せば当然のことだ。
直列回路には同じ大きさの電流 I が流れているから、抵抗が大きい方が V=IR の右辺も大きくなる。
分圧の法則は、オームの法則をただ2つの抵抗に同時に当てはめただけのものだ。
例題
100Vの電源に、20Ωと30Ωの抵抗を直列に接続した。30Ωの抵抗にかかる電圧は何Vか。
V30=100×20+3030=100×0.6=60V
分圧の式は、極端な値を入れて検算すると身体になじむ。もしR1が限りなく大きく、R2がほぼ0なら、
電源電圧はほとんど全部R1にかかり、R2にはほとんど電圧がかからないはずだ。式に
$R_1 \to \infty$、$R_2 \to 0$ を入れると、$V_1 \to V$、$V_2 \to 0$ になり、直感と一致する。
迷ったときはこの極端値チェックで、分子に置いた抵抗が正しいかを確かめられる。
分流の法則 — 並列抵抗は、電流を「相手の抵抗値の比」で受け持つ
並列につないだ2つの抵抗には、今度は電流が分かれて流れる。ここが分圧と紛らわしいところで、
分流だけは分子と分母の抵抗が入れ替わる。
I1=I×R1+R2R2,I2=I×R1+R2R1
I1(R1に流れる電流)を求める式の分子に、R1ではなくR2が来ている。
なぜか。並列回路では、2つの抵抗に同じ電圧がかかっている。抵抗が小さい方が
I=V/R の分母が小さくなるので、電流はたくさん流れる。つまり抵抗が小さいほど、
自分が受け持つ電流の割合が大きくなる——分圧とは逆向きの関係だ。この「逆向き」を
式の形(分子と分母が入れ替わる)が表している。
例題
10Aの電流が流れる回路に、6Ωと4Ωの抵抗を並列に接続した。6Ωの抵抗に流れる電流は何Aか。
I6=10×6+44=10×0.4=4A
抵抗値の大きい6Ω側には、相対的に少ない電流(4A)しか流れない。抵抗の小さい4Ω側に、
残りの6Aが流れることになる。
分流の式も、極端な値で検算できる。R1が限りなく大きければ、電流はほとんどR2側(抵抗の小さい方)
に流れ、R1にはほとんど電流が流れないはずだ。式に $R_1 \to \infty$ を入れると
$I_1 = I \times R_2/(R_1+R_2) \to 0$ になり、直感と一致する。
電池の起電力と内部抵抗 — 見えない抵抗を連立方程式で暴く
ここまでは「値のわかっている2つの抵抗」を分け合う話だった。ここで少し視点を変えて、
電池そのものの中にも抵抗が隠れているという話をする。
実際の電池は、理想的な起電力 E[V]と、電池内部の内部抵抗 r[Ω]が直列につながった
ものとしてモデル化できる。この電池に外部抵抗 R[Ω]をつなぐと、回路全体は
「起電力E、直列抵抗が(r+R)」の単純な直列回路になる。オームの法則をそのまま当てはめると、
E=I(r+R)
という関係が成り立つ。これは、この章の冒頭で見た分圧の考え方——直列につながった抵抗に
オームの法則を当てはめる——を、目に見えない内部抵抗にまで広げただけのものだ。
厄介なのは、Eとrが両方とも未知数だという点だ。式1本には未知数が2つ含まれているため、
外部抵抗Rを1つの値に固定した測定を1回しただけでは、Eとrを別々に決定できない。
そこで、可変抵抗Rの値を2通りに変えて、それぞれの電流を測定する。
E=I1(r+R1),E=I2(r+R2)
未知数が2つ(E、r)、式も2本そろったので、連立方程式として解ける。
例題
ある電池に可変抵抗Rをつなぎ、R=2Ωのとき電流3A、R=4Ωのとき電流2Aが流れた。
この電池の起電力Eと内部抵抗rを求めよ。
E=3(r+2)=3r+6,E=2(r+4)=2r+8
2つの式の右辺が等しいので、
3r+6=2r+8⇒r=2Ω
r=2Ωを最初の式に代入して、
E=3(2+2)=12V
検算として2つ目の式にも代入すると 2(2+4)=12V となり、一致する。
「未知数の数」と「式の本数」を先に数える癖をつけると、内部抵抗の問題で迷わなくなる。
求めたいものがE・rの2つなら、測定条件(Rの値)も2通り必要だと、式を立てる前に
見当をつけておく。3つ以上の測定値が与えられている場合も、考え方は同じで、
どの2組を選んでも同じE・rが出てくるはずだ、という検算にも使える。
抵抗の温度係数 — 金属の抵抗は、温めると大きくなる
ここまでは抵抗値を「一定の値」として扱ってきたが、実際の金属導体の抵抗値は温度によって
変化する。多くの金属は、温度が上がると抵抗値も大きくなる。基準温度 t0 での抵抗値を
R0、温度係数を α とすると、温度が t になったときの抵抗値 Rt は次の式で求まる。
Rt=R0(1+α(t−t0))
この式は「基準温度からの温度差」に比例して抵抗が増えていく、という単純な1次式だ。
一定電圧の電源につないだ回路でこの抵抗が発熱して温度が上がると、抵抗値が大きくなる分だけ、
オームの法則 I=V/R より電流はその逆数倍に減っていく。
例題
基準温度20℃で抵抗値100Ω、温度係数 α=0.004/∘C の抵抗器がある。
温度が70℃まで上昇したとき、抵抗値はいくらになるか。
R70=100×(1+0.004×(70−20))=100×1.2=120Ω
この抵抗器を一定電圧の電源につないだままにしておくと、抵抗値が1.2倍になった分だけ、
電流は 1/1.2≒0.83 倍(約17%減)に落ち着く。
「温度が上がれば電流も増えるはず」という直感で答えると、金属導体では逆になる。抵抗値が
$R_t=R_0(1+\alpha(t-t_0))$ の式で大きくなる一方、電源電圧が一定であればオームの法則
$I=V/R$ の分母が大きくなるだけなので、電流はむしろ**減る**。「発熱→抵抗増加→電流減少」
という順序を、分圧・分流と同じくオームの法則から毎回導き直す癖をつけておきたい。
電線の直流抵抗 — 材質・長さ・断面積の3つで決まる
ここまでは「抵抗値がすでに分かっている」前提で分圧・分流を計算してきた。ここで少し土台に
戻り、その抵抗値そのものが何によって決まるかを見ておく。電線1本の直流抵抗Rは、
次の式で求まる。
R=ρAL
ρ(ロー)は材質ごとに決まった抵抗率[Ω・m]、Lは電線の長さ[m]、Aは電線の
断面積[m²]だ。長さが長いほど(電子が通る道のりが長いほど)抵抗は大きくなり、断面積が
広いほど(電子が通れる道幅が広いほど)抵抗は小さくなる——水道管の長さと太さのイメージに
近い。
例題
銅(抵抗率ρ=1.68×10−8Ω・m)でできた、長さ200m、断面積2×10−6m²
(2mm²)の電線がある。この電線の直流抵抗Rを求める。
R=ρAL=2×10−61.68×10−8×200=1.68Ω
複数の電線を比較する問題で気をつけたいのは、「抵抗率が小さい材質だから、抵抗も小さいはずだ」
と早合点しないことだ。抵抗率$\rho$・長さ$L$・断面積$A$の3つすべてが抵抗値を決めており、
抵抗率が小さくても断面積がそれ以上に細ければ、抵抗はかえって大きくなることがある。比較問題では
必ずR=ρL/Aの式にそれぞれの数値を代入し、実際に計算してから大小を判断する。
例題(材質が違う2本の電線を比較する)
次の2種類の電線を比較する。A:銅(ρ=1.68×10−8Ω・m)、長さ500m、断面積
3×10−6m²(3mm²)。B:アルミニウム(ρ=2.75×10−8Ω・m)、長さ500m、
断面積5×10−6m²(5mm²)。
RA=3×10−61.68×10−8×500≒2.8Ω,RB=5×10−62.75×10−8×500=2.75Ω
銅(A)の方が抵抗率は小さいのに、断面積もAの方が小さい(3mm²<5mm²)ため、2つの効果が
打ち消し合い、結果はほぼ同じ(むしろわずかにAの方が大きい)という結果になる。
「抵抗率が小さい銅の方が、電線としても必ず有利(低抵抗)」とは限らない、というのがこの例の
核心だ。実際のケーブル選定でも、電線の太さ(断面積、いわゆる「サイズ」「sq」の表記)と材質の
両方を見て初めて、実際の抵抗値・電圧降下を評価できる。抵抗率だけを見て判断すると、断面積の
違いを見落として順位を誤る。
なぜ制御盤の中で、この2つが使われているのか
分圧回路の使い道は幅広い。制御盤のセンサー回路で基準電圧を作るのはもちろん、
テスタや電圧計の中にある「倍率器」も、大きな電圧を小さな範囲に収めて測るための分圧回路だ。
一方、電流計の中の「分流器」は分流の法則を使って、大きな電流の一部だけを計器に取り込んでいる。
制御盤の断線検知回路が分圧を使う理由も、この式から読み解ける。センサーが正常なら
センサー側の抵抗(R2)は小さく、出力電圧は低い値で安定する。センサーが断線すると
R2 が限りなく大きくなり、出力電圧は電源電圧に張り付く。「断線したら電圧が上がる」
という一見直感に反する挙動は、分圧の式がそのまま説明してくれる。
冒頭の制御盤の基板で何が起きていたか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。