分圧・分流の法則は、抵抗が1本道(直列)か、枝分かれして再び合流するだけ(並列)の 回路にしか使えない。では、電源が2つあって、枝が3本以上に分かれ、単純な直列・並列に 分解できない回路網——制御盤の中でよく見るような複雑な配線——は、いったいどうやって 各枝の電流を求めればいいのか。
分圧・分流という「近道」が使えない場面で、それでも電気は必ず解ける形で振る舞っている。 このトピックを読み終えるころには、どんなに複雑な回路網を渡されても、 「まず何を式に立てればいいか」が最初の1手として見えるようになっている。
種明かしは、電気が帳簿を絶対にごまかさないという性質にある。ドイツの物理学者 キルヒホッフが整理した2つの法則——電流則(KCL)と電圧則(KVL)——は、 どんなに複雑な回路網でも必ず成り立つ、いわば電気の「複式簿記」だ。
電流則(KCL)— 節点では、入りと出が必ず一致する
配線が分岐する点(節点)では、そこに流れ込む電流の合計と、そこから流れ出す電流の合計が 必ず等しい。
考えてみれば当たり前のことだ。電流は「その場に溜まる」ということがない。1本の水道管が 枝分かれしていて、入ってきた水の量より多くの水が出ていく、ということはあり得ないのと同じだ。 だが当たり前だからこそ、この法則は電源がいくつあっても、抵抗がどんな配置でも、 例外なく成り立つ。
例題
ある節点に、2Aと3Aの電流が流れ込み、1本の枝から電流 が流れ出している。他に流れ出す枝が ないとき、 はいくらか。
電圧則(KVL)— ループを1周すると、電位は必ず出発点に戻る
もう1つの法則は、閉じたループ(電流が一周して戻ってくる経路)に注目する。ループを1周たどると、 電源の起電力の合計は、通過した抵抗での電圧降下の合計と必ず等しくなる。
これも当たり前のことの言い換えだ。ループを1周してもとの場所に戻ってきたなら、電位(高さ)も 出発したときと同じ場所に戻っているはずだ。途中で電源によって電位が持ち上げられた分は、 どこかの抵抗で必ず電圧降下として使い切られている。
例題
起電力10Vの電源1つと、抵抗2Ω・3Ωが直列に接続された単純なループがある。このとき、
が成り立つ。これは分圧の法則で見た関係と、実は同じことを言っている。分圧の法則は、 KVLを直列回路という特別な場合に当てはめて導いた「近道の公式」にすぎない。
複雑な回路網の解き方 — 節点と閉路の数を数える
電源が複数ある回路網では、次の手順で連立方程式を立てる。
- 各枝の電流に、仮の向きを矢印で決める
- 節点の数から1を引いた数だけ、KCLの式を立てる(節点がn個なら、独立な式はn-1個。最後の1つは残りから自動的に導けるため、律儀に全節点分を立てると式が余る)
- 残りの未知数の数だけ、独立な閉路をたどってKVLの式を立てる
- 連立方程式を解く
節点が2つ、未知の枝電流が3本ある回路なら、KCLで1本、KVLで2本の式を立てれば、 3元連立方程式が解ける——という具合に、必要な式の数は回路の構造から機械的に決まる。
なぜ「帳簿」という比喩がふさわしいのか
電材を扱う仕事をしていれば、入庫と出庫、仕入と払出の帳簿が必ず一致することは体で分かっている はずだ。数量が合わなければ、どこかに記帳漏れか誤りがある——それは会計の話であって、 電気とは無関係に思えるかもしれない。
だが電流則が言っているのは、まさに同じ構造の話だ。節点という「窓口」に出入りする電流は、 必ず帳尻が合う。 合わないように見えたら、見落としている枝があるか、向きを取り違えているか、 そのどちらかだ。電圧則も同じで、ループを1周した電位の変化は必ずゼロに戻る——出発した支店に、 最後は必ず戻ってくる巡回ルートのようなものだ。
制御盤の配線図を前にして「どこから手をつければいいか分からない」となったとき、 このキルヒホッフの2法則に立ち返れば、複雑さの度合いに関係なく、必ず解く道筋が見えてくる。
冒頭で出した「電源が2つ、枝が3本以上ある回路網」の解き方——答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。