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理論 ・ 2 / 16

キルヒホッフの法則

読み終えると、こうなる

枝分かれが複雑な制御盤の配線図を見ても、「まず何を式に立てればいいか」が最初の1手として見えるようになる

  • 節点(配線の分岐点)に集まる電流を見て、キルヒホッフの電流則(KCL)の式をその場で書ける
  • 電源が2つ以上ある回路でも、電圧則(KVL)でループを1周たどり、連立方程式を立てられる
  • 分圧・分流だけでは解けない回路(電源が複数ある、枝が3本以上ある)に出会ったとき、キルヒホッフに切り替える判断ができる
考えてみよう

分圧・分流の法則は、抵抗が1本道(直列)か、枝分かれして再び合流するだけ(並列)の 回路にしか使えない。では、電源が2つあって、枝が3本以上に分かれ、単純な直列・並列に 分解できない回路網——制御盤の中でよく見るような複雑な配線——は、いったいどうやって 各枝の電流を求めればいいのか。

分圧・分流という「近道」が使えない場面で、それでも電気は必ず解ける形で振る舞っている。 このトピックを読み終えるころには、どんなに複雑な回路網を渡されても、 「まず何を式に立てればいいか」が最初の1手として見えるようになっている。

種明かしは、電気が帳簿を絶対にごまかさないという性質にある。ドイツの物理学者 キルヒホッフが整理した2つの法則——電流則(KCL)と電圧則(KVL)——は、 どんなに複雑な回路網でも必ず成り立つ、いわば電気の「複式簿記」だ。

電流則(KCL)— 節点では、入りと出が必ず一致する

配線が分岐する点(節点)では、そこに流れ込む電流の合計と、そこから流れ出す電流の合計が 必ず等しい。

I流入=I流出\sum I_{\text{流入}} = \sum I_{\text{流出}}

考えてみれば当たり前のことだ。電流は「その場に溜まる」ということがない。1本の水道管が 枝分かれしていて、入ってきた水の量より多くの水が出ていく、ということはあり得ないのと同じだ。 だが当たり前だからこそ、この法則は電源がいくつあっても、抵抗がどんな配置でも、 例外なく成り立つ。

例題

ある節点に、2Aと3Aの電流が流れ込み、1本の枝から電流 IxI_x が流れ出している。他に流れ出す枝が ないとき、IxI_x はいくらか。

Ix=2A+3A=5AI_x = 2\text{A} + 3\text{A} = 5\text{A}
計算結果がマイナスになっても、慌てなくていい。電流の向きは式を立てる前に「仮に」決めるもので、 実際の向きと逆に仮定しても構わない。計算結果が負になったら、それは単に「仮定した向きが 実際とは逆だった」ことを意味するだけだ。符号を反転させ、絶対値の大きさで逆向きに読み替えれば、 計算をやり直す必要はない。

電圧則(KVL)— ループを1周すると、電位は必ず出発点に戻る

もう1つの法則は、閉じたループ(電流が一周して戻ってくる経路)に注目する。ループを1周たどると、 電源の起電力の合計は、通過した抵抗での電圧降下の合計と必ず等しくなる。

E=IR\sum E = \sum IR

これも当たり前のことの言い換えだ。ループを1周してもとの場所に戻ってきたなら、電位(高さ)も 出発したときと同じ場所に戻っているはずだ。途中で電源によって電位が持ち上げられた分は、 どこかの抵抗で必ず電圧降下として使い切られている。

例題

起電力10Vの電源1つと、抵抗2Ω・3Ωが直列に接続された単純なループがある。このとき、

10V=V2Ω+V3Ω10\text{V} = V_{2\Omega} + V_{3\Omega}

が成り立つ。これは分圧の法則で見た関係と、実は同じことを言っている。分圧の法則は、 KVLを直列回路という特別な場合に当てはめて導いた「近道の公式」にすぎない。

分圧・分流は、電源が1つで抵抗が純粋な直列・並列関係にあるという条件のもとでだけ使える近道だ。 電源が2つ以上あって互いに異なるループに影響する回路、枝が3本以上に分かれて単純な直列・並列に 分解できない回路網では、この近道が使えなくなる。そのときに立ち返る先が、KCL・KVLという どんな回路でも成り立つ2つの原則だ。

複雑な回路網の解き方 — 節点と閉路の数を数える

電源が複数ある回路網では、次の手順で連立方程式を立てる。

  1. 各枝の電流に、仮の向きを矢印で決める
  2. 節点の数から1を引いた数だけ、KCLの式を立てる(節点がn個なら、独立な式はn-1個。最後の1つは残りから自動的に導けるため、律儀に全節点分を立てると式が余る)
  3. 残りの未知数の数だけ、独立な閉路をたどってKVLの式を立てる
  4. 連立方程式を解く

節点が2つ、未知の枝電流が3本ある回路なら、KCLで1本、KVLで2本の式を立てれば、 3元連立方程式が解ける——という具合に、必要な式の数は回路の構造から機械的に決まる。

なぜ「帳簿」という比喩がふさわしいのか

電材を扱う仕事をしていれば、入庫と出庫、仕入と払出の帳簿が必ず一致することは体で分かっている はずだ。数量が合わなければ、どこかに記帳漏れか誤りがある——それは会計の話であって、 電気とは無関係に思えるかもしれない。

だが電流則が言っているのは、まさに同じ構造の話だ。節点という「窓口」に出入りする電流は、 必ず帳尻が合う。 合わないように見えたら、見落としている枝があるか、向きを取り違えているか、 そのどちらかだ。電圧則も同じで、ループを1周した電位の変化は必ずゼロに戻る——出発した支店に、 最後は必ず戻ってくる巡回ルートのようなものだ。

制御盤の配線図を前にして「どこから手をつければいいか分からない」となったとき、 このキルヒホッフの2法則に立ち返れば、複雑さの度合いに関係なく、必ず解く道筋が見えてくる。

冒頭で出した「電源が2つ、枝が3本以上ある回路網」の解き方——答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 電流則の式を立てるとき、電流の向き(流入か流出か)の符号を取り違える

    なぜ引っかかる節点に集まる複数の電流のうち、どれが流れ込みでどれが流れ出しかは、仮に決めた矢印の向き次第で変わる。計算の途中で向きの前提を忘れると、符号がずれて式全体が狂う。

    見破り方式を立てる前に、各枝の電流の向きを矢印で回路図に書き込んでおく。計算結果が負の値になった場合は「向きを逆に仮定していただけ」であり、矢印を逆にして絶対値で答えればよい——マイナスが出ても慌てない。

  2. 電圧則でループを一周する向きと、電源・抵抗の極性の符号を混同する

    なぜ引っかかるループをたどる向きと電流が流れる向きが逆の抵抗では、電圧降下の符号がプラスからマイナスに変わる。この符号のルールを機械的に覚えていないと、電源の起電力の符号と混同しやすい。

    見破り方ループをたどる向きを先に矢印で決め、その矢印の向きに沿って「電源は+端子から入れば+、抵抗は電流の向きと同じ向きにたどれば-(電圧降下)」というルールを一貫させる。たどり終えたら出発点の電位に戻ることを検算に使う。

  3. 節点の数だけKCLの式を立てて、方程式が余ってしまう(実際には1つ少なくてよい)

    なぜ引っかかるn個の節点があるとき、独立なKCLの式はn-1個しか立てられない(最後の1つは残りの式から自動的に導ける)。これを知らずにn個すべて律儀に立てると、連立方程式が矛盾しているように見えて混乱する。

    見破り方節点の数から1を引いた数だけKCLの式を立て、残りはKVL(ループの式)で補う、という役割分担を先に決めてから式を立て始める。

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 電流則(KCL):1つの節点に流れ込む電流の合計=流れ出す電流の合計。電流は行き場を必ず持つ
  2. 電圧則(KVL):1つの閉じたループを1周すると、電源の起電力の合計=抵抗での電圧降下の合計。電位はループの出発点に必ず戻る
  3. 分圧・分流は直列・並列だけの回路の近道。電源が複数ある、枝が3本以上あるなど近道が使えない回路では、キルヒホッフの2法則に立ち返れば必ず解ける
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