制御盤の設計で、ある信号線につなぐ終端抵抗の値を、10Ω・22Ω・47Ωの3パターンで比較検討したいとする。 信号源側は電源と抵抗が複雑に組み合わさった回路網で、終端抵抗をつなぐ2つの端子だけが決まっている。
このとき、抵抗値を変えるたびに回路全体をキルヒホッフの連立方程式で解き直すのは、 あまりに非効率だ。もっと賢い方法はないのか。
このトピックを読み終えるころには、複雑な回路網を「見たい枝」から眺めたときに、 それを1個の電池と1個の抵抗にまで単純化してしまう発想が身についている。
種明かしは、回路網は、注目する2端子から見れば必ず1個の電池(起電力E0+内部抵抗R0) と等価になるというテブナンの定理にある。
テブナンの定理とは何か
どんなに複雑な回路網でも、その中の特定の2端子(今回なら終端抵抗をつなぐ端子)から見た 「外側の世界」は、次の1個の等価回路に置き換えられる。
負荷(今回の終端抵抗)を差し替えても、置き換わった後のE0とR0は変わらない。 これがテブナンの定理の核心で、負荷側の条件だけをいろいろ変えて検討したい場面で威力を発揮する。
テブナン電圧E0の求め方 — 負荷を外して「開放」する
まず、注目する枝(負荷)を回路から取り外し、その2端子を何もつながない「開放」状態にする。 このとき2端子間に現れる電圧が、テブナン電圧 だ。
負荷を外すと、負荷の枝には電流が流れない。一方、回路網の中の電源と抵抗には、 電流が流れ続けていることが多い。回路網の中の電源と抵抗だけで、2端子の間にどのような 電圧が生じているかを、分圧の法則やキルヒホッフの法則を使って求める。
例題
次の回路網を考える。電源12Vの+側からR1=4Ωを通って端子aへ、端子aと端子b (電源の−側)の間にR2=8Ωがつながっている。R1とR2は、等価回路に置き換える回路網の 側である。検討したい負荷(たとえば終端抵抗)は、あとから端子a-bに、R2と並列に 接続する。いまは負荷を外して端子a-bを開放にし、そのときの電圧(テブナン電圧)を求める。
負荷の枝には電流が流れないが、電源→R1→R2→電源の経路には、R2を含めて電流が流れ続けている。 その電流は で、R2の両端(=端子a-b間)の電圧がそのままE0になる。 分圧の式で書くと次のとおりだ。
テブナン抵抗R0の求め方 — 電源を「無力化」して2端子から見る
次に、テブナン抵抗 を求める。ここでの操作は「電源を無力化する」ことだ。
- 起電力源(電圧源)は、内部抵抗0の理想的な電池とみなし、両端子を導線でつないで短絡する
- (電流源が含まれる場合は、逆に両端子を切り離して開放する。ただしこのトピックでは起電力源のみを扱う)
電源を無力化した状態で、負荷を外した2端子から回路網を見たときの合成抵抗が になる。
例題
先ほどの回路網(電源12V、R1=4Ω、R2=8Ω)で、電源を短絡した状態を考える。 電源を短絡すると、電源があった位置は単なる導線になる。この状態で端子a-bから回路網を見ると、 R1とR2は並列の関係になる。
等価回路を組み立てて、負荷の電流を求める
と が求まったら、あとは単純だ。負荷抵抗 をつなぎ直し、・・ の 直列回路として電流を求める。
先ほどの例で、負荷抵抗として の終端抵抗を端子a-bに接続すると、
確かめとして、キルヒホッフ側から直接解いてみる。負荷8ΩとR2=8Ωの並列は4Ωなので、 回路全体の抵抗は4+4=8Ω、電源から出る電流は12/8=1.5A、端子a-b間の電圧は1.5×4=6V。 負荷の電流は6/8=0.75Aで、等価回路で求めた値と一致する。
負荷を10Ω、22Ω、47Ωと差し替えて比較したい場合も、この式の に代入するだけでよい。 回路網(・)を求め直す必要は一切ない。
負荷抵抗Rをどう選べば、負荷が受け取る電力は最大になるか
テブナン等価回路(、の直列)に負荷をつないだとき、負荷で消費される 電力は、の値によって変化する。
を0に近づけると電流は増えるが、のそのものが0に近づくため電力は小さくなる。 逆にを大きくすると、今度は電流が下がりすぎて電力は小さくなる。この間のどこかに、 が最大になるの値が存在する。実際に微分して求めると、のときにが 最大になることが分かる(結果だけ覚えておけば実務でも十分使える)。
このときの最大電力は、次の式で求まる。
例題
V、のテブナン等価回路がある。負荷を変化させたとき、負荷が 受け取る電力が最大になるの値と、そのときの電力を求める。
過去問の型で解く——「最大電力」とブリッジ回路の対角の枝
テブナンの定理は、最大電力の問題として出題されることがある。型の一つは「内部抵抗 のある電池に、抵抗 が並列に接続されており、そこに可変抵抗 をつなぐ。 の消費電力が最大になる の値を求める」。可変抵抗を負荷とみなして、それ以外を等価回路に直すのが唯一の手順だ。
例題
起電力 、内部抵抗 の電池に、抵抗 が並列に接続されている。この端子に可変抵抗 をつなぐ。 で消費される電力が最大になる の値と、そのときの電力を求めよ。
ステップ1: を外す(開放)。 端子の電圧が 。電池の内部抵抗 と の分圧になる。
ステップ2:電源を無力化して内側を見る。 起電力を短絡する(内部抵抗 は残る)と、 と が並列になる。
ステップ3:最大電力の条件。 のとき最大で、
検算: をつなぐと、、全抵抗 、電池電流 、端子電圧 。 の電力は で一致する。文字式で答える問題でも、( と の並列)と書けば同じことだ。
例題 2:ブリッジ回路の対角の枝に流れる電流
電圧24Vの電源の両端に、「6Ωと12Ωの直列(接続点をa、6Ω側が+側)」と「12Ωと12Ωの直列(接続点をb、一方の12Ω側が+側)」が並列につながっている。a-b間に6Ωの抵抗をつなぐとき、この抵抗に流れる電流を求めよ。
ブリッジ回路でも手順は同じで、対角の枝(a-b間の6Ω)を負荷とみなして外し、残りを等価回路にする。
ステップ1:a-b間を開放して を求める。 2つの分圧点の電位の差が になる。
ステップ2:電源を短絡して を求める。 電源の両端が同じ点になるので、aから見ると6Ωと12Ωが並列、bから見ると12Ωと12Ωが並列で、この2組がa-b間で直列につながる。
ステップ3:負荷をつなぐ。
検算:a、bの電位を未知数にして節点の式を立てると 、 となり、電流は で一致する。 は負荷の6Ωを足し忘れた値(a-b間を短絡したときの電流)で、答えではない。
型を見分けるポイントは、「消費電力が最大になる抵抗値」と聞かれていること。ここでは (電池の内部抵抗)や と答えたくなるが、 から内側を見た合成抵抗は と の並列なので、どちらでもない。 を外して、 と を作ってから、 と置く。
なぜ制御盤の設計・検討でテブナンの定理が使われるのか
制御盤や配電回路の設計・保守の現場では、「この信号源に、負荷側の抵抗値を変えたらどうなるか」 「終端抵抗の候補を何パターンか比較したい」という検討が頻繁に発生する。信号源側の回路が 複雑であるほど、毎回キルヒホッフの連立方程式を立て直すのは非効率だ。
テブナンの定理を使えば、信号源側を1回だけ等価回路(・)に変換してしまえば、 負荷側の条件をいくら変えても の一本道の式で済む。実務で「まず負荷側を 外して電圧を測る」「電源を無力化した状態の抵抗を測る」という発想が使われるのは、 この定理の考え方そのものだ。
冒頭の終端抵抗の比較検討、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。