考えてみよう
受変電設備の絶縁設計では、電極(導体)どうしの距離をわずかに詰めただけで、
絶縁破壊のリスクが急激に跳ね上がることがある。距離を半分にしただけなのに、
危険性は単純な2倍ではなく、もっと急激に高まる——なぜそんなことが起きるのか。
このトピックを読み終えるころには、「距離を半分にすると、電気の世界では何倍危険になるか」
という問いに、比例・反比例とは違うスケール感で即座に答えられるようになっている。
種明かしは、電荷どうしに働く力が距離の2乗に反比例するというクーロンの法則にある。
クーロンの法則 — 力は電荷の積に比例し、距離の2乗に反比例する
2つの点電荷 Q1、Q2 が距離 r だけ離れて存在するとき、両者の間に働く力 F は
次の式で表される。
F=kr2Q1Q2
(k はクーロンの定数と呼ばれる比例定数)
ここで重要なのは、分母が「距離」ではなく「距離の2乗」になっている点だ。オームの法則の
ような単純な比例・反比例の感覚のまま扱うと、この2乗を見落としやすい。
例題
2つの点電荷の距離を3倍にすると、働く力は元の何倍になるか。
F′=k(3r)2Q1Q2=91×kr2Q1Q2=91F
距離を3倍にしただけで、力は1/9まで急激に弱まる。
「距離が2倍→力は1/4」「距離が3倍→力は1/9」「距離が半分→力は4倍」という2乗のペアを
先に押さえておくと、本番で分数の計算に迷わずに済む。距離の逆数を先に2乗してから掛ける、
という手順を固定しておくとよい。
力の向き — 同符号は反発、異符号は吸引
クーロンの法則の式は力の大きさを表すもので、力の向きは別途、電荷の符号で判断する。
- 同符号(+と+、-と-):互いに反発する力(斥力)
- 異符号(+と-):互いに引き合う力(吸引力)
大きさの計算と向きの判断は分けて考えると混乱しにくい。
電界 — 「その場所に単位電荷を置いたら、どれだけの力を受けるか」
もう1つ重要な概念が、電界(電界の強さ)だ。ある点における電界の強さ E は、
その場所に+1Cの電荷(単位電荷)を置いたときに働く力として定義される。
E=QF
逆にいえば、電界の強さが分かっている場所に、大きさ Q の電荷を置いたときに働く力は、
次の式で求まる。
F=QE
例題
ある点における電界の強さが E=500V/m だった。この点に電荷 Q=2×10−6C
(2μC)を置いたとき、働く力の大きさはいくらか。
F=QE=2×10−6C×500V/m=1×10−3N
電界の強さEと、実際に働く力Fは別の量だ。Eは「単位電荷あたり」の力であり、実際の電荷Qに
働く力を求めるにはF=QEの掛け算が必要になる。単位を見て区別する習慣をつけるとよい——
Eの単位はN/C(またはV/m)、Fの単位はN。設問が「電界の強さ」を聞いているのか「力」を
聞いているのかを、まず単位から確認する。
電気力線 — 目に見えない電界を、線で描いて可視化する
電界そのものは目に見えないが、その様子を線で描いて可視化したものが電気力線だ。
電気力線には、いくつかの決まった性質がある。
- 正電荷から出て、負電荷に入る(あるいは無限遠まで伸びる)
- 電気力線どうしは、途中で交差しない(もし交差したら、その交点で電界の向きが2つ
存在することになり矛盾する)
- 電気力線は、等電位面と直交する
- ある点における電気力線の密度(単位面積を貫く本数)が、その点の電界の強さを表す
さらに、誘電率 ε の媒質中に置かれた電荷 Q から出る電気力線の総本数 N は、
次の式で求まる。
N=εQ
電荷が大きいほど本数は増え(比例)、媒質の誘電率が大きいほど本数は減る(反比例)。
これは、静電容量の式 C=Q/V と同じく、電荷を分母・分子のどちらに置くかを図の意味から
導けるようにしておきたい関係だ。
例題
真空中(誘電率 ε0=8.85×10−12F/m)に、+4×10−6C
の点電荷がある。この電荷から出る電気力線の総本数はいくらか。
N=ε0Q=8.85×10−124×10−6≒4.5×105本
電気力線の性質の中で、特に引っかかりやすいのが「導体内部の電界」だ。導体に電荷を与えて
放置すると、自由電子が移動して表面に電荷が並び(静電誘導)、**導体内部の電界は常に0になる。**
導体表面には0でない電界が生じうるから、「導体内部の電界=導体表面の電界」という主張は誤り。
電気力線で考えれば、導体内部には電気力線が1本も入り込まない(本数=電界の強さが0)、と
イメージすると覚えやすい。
孤立した帯電導体の性質 — 電荷が一定でも、電位・電界・容量は連動して動く
ここまでは「2つの点電荷の間」に働く力や電界を見てきた。ここで少し視点を変えて、
1つの帯電した導体そのものが持つ性質を見ておく。
導体に電荷 Q を与えて絶縁したまま置いておく(電荷の出入りがない)とき、導体表面の
電位 V と電界の強さ E は、静電容量とコンデンサのトピックで見た球の静電容量の式
C=4πεr とあわせて、次のように整理できる。
V=4πεrQ,E=4πεr2Q,C=VQ=4πεr
この導体の周囲を、比誘電率 εr の絶縁体(油など)で満たすとどうなるか。
導体は絶縁されているので、電荷 Q 自体はいっさい変化しない。しかし式の中の
ε(=ε0εr)が大きくなるため、電位・電界の強さ・
静電容量は連動してそれぞれ違う向きに変化する。
- V、E はどちらも式の分母に ε があるので、εr 倍だけ弱まる
- C は式の分子に ε があるので、εr 倍増える
例題
真空中に電荷Q[C]をもつ、孤立した帯電球状導体(半径r[m])がある。この導体の周囲を
比誘電率4の絶縁油で満たした。電位・電界の強さ・静電容量はそれぞれ何倍になるか。
電荷Qは変化しない。VとEは分母のεが4倍になるため1/4倍、Cは分子の
εが4倍になるため4倍になる。
「誘電率が大きくなれば、電気に関する量はすべて増えるはずだ」という思い込みが、この手の
問題での落とし穴になる。式のどこに$\varepsilon$があるか(分子か分母か)で、増えるか
弱まるかは量ごとに逆転する。電荷Qが変化しないことをまず確定させ、$V=Q/(4\pi\varepsilon r)$・
$E=Q/(4\pi\varepsilon r^2)$(分母=弱まる)と$C=4\pi\varepsilon r$(分子=増える)を
区別して覚えるとよい。
もう1つ、孤立した導体の性質として押さえておきたいのが、大きさの等しい導体どうしを
接触させたときの電荷の分配だ。大きさが等しい導体は静電容量 C も等しいため、接触して
同じ電位で落ち着いた状態では、接触前の総電荷を頭数で均等に分け合う。
例題
大きさが等しい、絶縁された2つの導体球A・Bがある。導体球Aは+12μC、導体球Bは-4μCに
帯電している。この2つを導線で短時間接触させてから離した。接触後のそれぞれの電荷はいくらか。
接触前の総電荷は +12+(−4)=+8μC。大きさが等しく静電容量も等しいので、
接触後はこの総電荷を均等に分ける。
2+8μC=+4μC(A・Bとも)
接触による電荷の均等配分は、符号(プラス・マイナス)を含めた**総和**をまず計算してから
頭数で割る、という手順を徹底したい。プラスの電荷とマイナスの電荷は接触した瞬間に
打ち消し合いながら移動するため、大きさだけを見て単純平均すると符号を取り違える。
絶縁耐力が決める、孤立導体に帯電できる電荷の上限
孤立した導体球(半径a)に電荷Qを与えていくと、球の表面の電界の強さEは
E=Q/(4πε0a2)(真空・空気中の場合)の式に従って大きくなっていく。
球を取り巻く空気(絶縁物)には、それ以上の電界を加えると絶縁破壊を起こしてしまう限界値——
絶縁耐力Em[V/m]——がある。表面の電界がこのEmに達した瞬間、それ以上電荷を
増やすことはできない(放電が始まる)。
したがって、帯電できる電荷の最大値Qmaxは、E=Emとなる条件から逆算できる。
Em=4πε0a2Qmax⟹Qmax=4πε0a2Em
球が大きいほど(表面積が大きいほど)、より多くの電荷を安全に蓄えられる——という直感とも一致する。
例題
半径0.1mの孤立した導体球が空気中に置かれている。空気の絶縁耐力を3×106V/m、
真空の誘電率をε0=8.85×10−12F/mとするとき、帯電できる最大電荷を求める。
Qmax=4πε0a2Em≒1.11×10−10×0.01×3×106≒3.3×10−6C=3.3μC
この式は、これまで見てきた$E=Q/(4\pi\varepsilon_0 a^2)$を「$Q$について解いた」だけのものにすぎない。
新しい公式として丸暗記するのではなく、「表面電界が絶縁耐力に達した瞬間が限界」という条件を、
これまでの式にそのまま当てはめればよい、と理解しておくと本番でも導出し直せる。
誘電体で満たした空間では、2つの点電荷に働く力はどう変わるか
先ほど見た「孤立した帯電導体を誘電体で満たす」話は、導体1個の電位・電界・静電容量がどう変わるかという話だった。ここで少し場面を変え、2つの点電荷の間に働くクーロン力そのものが、誘電体で満たすとどう変わるかを見ておく。
クーロンの法則の式F=kr2Q1Q2の比例定数kには、真空の誘電率ε0がk=1/(4πε0)という形で入っている。真空中ではなく、比誘電率εrの誘電体(絶縁油など)で満たされた空間に2つの点電荷を置くと、この式のε0がε=ε0εrに置き換わる。
F=4πε0εrr2Q1Q2=εr1×4πε0r2Q1Q2
真空中に比べて、力の大きさは比誘電率εr分の1に弱まる。力の向き(引力・斥力)や、距離の2乗に反比例するという関係はそのまま変わらない。
例題
真空中で距離r離れた2つの点電荷に働くクーロン力がF0だった。この空間を比誘電率3の絶縁体の液体で満たすと、働く力の大きさはF0の何倍になるか。
真空の誘電率が3倍の誘電率に置き換わるだけなので、力は31倍になる。
「誘電体で満たすと静電容量が増える」という感覚から、力も増えると早合点しやすいが、2つの点電荷に働く力そのものは弱まる(1/εr倍)。孤立導体の静電容量が増えるのと、点電荷間の力が弱まるのは矛盾しない——どちらも同じ式の中の誘電率εが分母に来るか分子に来るかの違いにすぎない、と式の形から確認するとよい。
帯電した物体の力のつり合い — クーロン力・重力・張力の三角形
ここまではクーロン力や電界の「大きさ」を単体で計算してきた。実際の試験では、帯電した
小球を絶縁糸でつるし、重力・糸の張力とのつり合いの中でクーロン力の大きさを問う問題も
出題される。ここで効いてくるのは、クーロンの法則そのものというより、力のつり合いを
幾何学的な形から読み解くという発想だ。
絶縁糸でつるされた帯電小球には、次の3つの力が働く。
- 静電気力 F(水平方向、他の帯電体との間に働く)
- 重力 mg(鉛直方向)
- 糸の張力 T(糸の傾きに沿った方向)
小球が静止している以上、この3力はベクトルとしてつり合っている。しかも、この力の三角形は
「糸の長さ・小球間の分離距離・鉛直方向」がつくる幾何学的な三角形と相似になる。
つまり、角度 θ(糸が鉛直となす角)を挟んで、
mgF=tanθ
という関係が成り立つ。分離距離 d が糸の長さ l に比べて十分小さければ、
tanθ≈sinθ≈ld/2 と近似できる。
例題
質量2.0gの帯電した小球を、絶縁性の糸(長さ25cm)で1点からつるした。もう1つの、
同じ質量・同じ大きさの電荷を持つ小球も同じ点から同じ長さの糸でつるし、互いの静電気力で
反発させたところ、2つの小球は5.0cm離れて静止した(dはlに比べて十分小さいとする)。
重力加速度を9.8m/s²とするとき、働いている静電気力 F の大きさを求める。
mg=2.0×10−3×9.8=1.96×10−2N,ld/2=0.250.05/2=0.1
F=mg×ld/2=1.96×10−2×0.1≒2.0×10−3N
この手の問題の核心は「クーロンの法則をどう計算するか」ではなく、「力のつり合いを幾何学の
相似な三角形として捉えられるか」にある。静電気力の大きさそのものを求めたいだけなら、
糸の長さ・分離距離・重力さえ分かれば、クーロンの法則の距離rや電荷Qを経由せずに、
$F=mg\tan\theta$ の形で直接求められる。電荷の値を先に求めようとして計算量を増やす前に、
まず「何が問われているか」を確認する習慣をつけたい。
電界中の電子の運動 — 一定の力は、等加速度運動を生む
電界の強さ E と電荷 Q から力 F=QE を求める式は既に見た。この力が時間的に一定で
あれば、力学の基本に立ち返り、電荷を持った粒子(電子など)の運動そのものを扱える。
一様な電界 E[V/m]の中に、電荷の大きさ e[C]、質量 m0[kg]の電子を静かに置くと、
電子には常に大きさ eE の力が働く。ニュートンの運動方程式は
m0a=eE
力・質量がどちらも一定であれば、加速度 a も時間によらず一定になる——つまり電子は
等加速度運動をする。初速度を0とすると、
v=at,x=21at2
速さ v は時間 t の1次関数(直線)、走行距離 x は t の2次関数(放物線)になる。
ここまでは力学の等加速度運動の公式そのものだ。
運動エネルギーはどうか。KE=21m0v2 に v=at を代入すると、
KE=21m0(at)2=21m0a2t2
速さがtの1次関数であっても、運動エネルギーはvの2乗で効いてくるため、t の2乗
(2次関数)で増加する。
「速さがtの1次関数だから、運動エネルギーもtの1次関数のはず」という連想は誤り。運動エネルギーの
式KE=(1/2)mv²にv=atを代入してみるという1手間を惜しまなければ、tの2乗で増えることは
式の上からすぐに確認できる。速さと運動エネルギーで増え方の次数がずれる、という感覚を
持っておくと、この手の空欄補充問題で迷わない。
電界と磁界を同時に受ける荷電粒子 — 力がつり合えば、まっすぐ進む
電界中の電子の運動の節では、電界だけが働く場合の等加速度運動を見た。ここに磁界を組み合わせると、また違う振る舞いが生まれる。
x方向の一様な電界E、y方向の一様な磁界(磁束密度B)が存在する空間に、電荷−e、質量mの電子がz方向の初速度vで放出されたとする。電子には、電界による力(大きさeE)と、磁界中を運動することで生じるローレンツ力(大きさevB)の、2つの力が働く。
この2つの力が逆向きで大きさが等しいとき、電子に働く力は差し引きゼロになり、電子は初速度vのまま等速直線運動を続ける。
eE=evB⟹v=BE
この原理は速度選別器と呼ばれ、決まった速さvの粒子だけをまっすぐ通過させるフィルタとして、質量分析計などに応用されている。
例題
速度選別器で、磁束密度B=2×10−3T、通過させたい荷電粒子の速さv=1×105m/sとするとき、必要な電界の強さEを求める。
E=vB=1×105×2×10−3=2×102V/m=200V/m
等速直線運動という結果だけを見ると特殊な現象に思えるが、正体は「2つの力がつり合っている」という、力のつり合いの一種にすぎない。帯電小球を糸でつるした力のつり合いの節と同じ発想で、電界による力eEと磁界による力evBを別々に書き出し、それらが等しいと置くだけで速度の式が導ける。EとBは単位が異なる(V/mとT)ため、数値そのものを比較することに意味はない、という点も確認しておきたい。
一様な電界中で電荷を動かす仕事 — 効くのは「電界方向の変位」だけ
ここまでは、ある1点における電界の強さや、そこに置いた電荷に働く力を見てきた。ここで視点を変え、
その電荷を電界の中で動かすときに必要な仕事を考える。
一様な電界 E 中で、電荷 q をゆっくりと(準静的に、加速させずに)移動させるとき、外力がする
仕事 W は、力学の基本公式 W=F×d×cosθ(θは力と変位のなす角)から導ける。
電界中の力は F=qE なので、
W=qE×d∥
d∥は、移動した変位のうち電界と平行な方向の成分だけを指す。電界と垂直な方向に
どれだけ動いても、力と変位が直角(cos90°=0)になるため、仕事はいっさい発生しない。
例題
一様な電界E=40V/mがx軸の正の向きに存在する平面内で、電荷q=5Cの点電荷を、電界と逆向き
(x軸の負の向き)に0.3m、電界と垂直な向き(y軸の向き)に0.4mだけ、ゆっくりと移動させた。
外力がした仕事Wを求める。
W=qE×d∥=5×40×0.3=60J
垂直方向に動いた0.4mは、仕事にはいっさい寄与しない。
移動経路が斜めだったり、複数の区間に分かれていたりすると、つい移動距離の合計をそのまま使いたく
なるが、効くのは常に「電界方向の成分」だけだ。変位ベクトルを電界と平行な成分・垂直な成分に
分解してから式に入れる、という一手間を先に済ませておくと取り違えない。
この仕事Wには、もう1つ重要な意味がある。電荷を準静的に動かす間、運動エネルギーは変化しない
ため、外力がした仕事は、そのまま電荷の位置エネルギーの増加分になる。これは電位差の定義そのもので、
移動の始点・終点間の電位差 ΔV と、次の関係で結びつく。
ΔV=qW
先ほどの例題では、ΔV=60/5=12Vとなる。この式には電荷qが分母・分子の両方に
現れる。もし電荷を10Cに変えて同じ経路を移動させれば、仕事Wも2倍(120J)になるが、
ΔV=W/qを計算すると比の値は変わらず12Vのままになる。電位差は「その場所固有の量」であり、
そこに置く電荷の大小によって値が変わってしまっては定義として成り立たない、という点からも
この結果は裏付けられる。
「仕事Wを求めてから、電荷qで割って電位差ΔVを出す」という2段階の手順を踏めば、途中の計算で
qが約分されて消えることも自然に確認できる。逆に、電位差ΔVを先に求める設問(あるいは電位差から
仕事を逆算する設問)でも、$W=q\Delta V$という同じ関係を、掛け算・割り算のどちらの向きで
使うべきかを式の形から毎回確認するとよい。
接地導体面に近づけた点電荷 — 影像電荷という「置き換え」で解く
ここまでは、電荷どうしの間に働く力を直接計算してきた。ここで少し毛色の違う場面を見ておく。
接地された広く平らな導体の床の近くに正の点電荷 Q を置くと、床の表面には静電誘導
によって負の電荷(面電荷)が現れ、Q は床に引き寄せられる力を受ける。
この面電荷の分布を直接計算するのは面倒だが、実は驚くほど単純な方法で同じ結果が得られる。
床を鏡だと思って、床を挟んで Q と対称な位置に、大きさが同じで符号が逆の仮想の点電荷
(影像電荷、−Q)を置いたとみなす。 この Q と影像電荷 −Q の間に働くクーロン力・
電界は、実際の面電荷が作る力・電界とぴったり一致する。これを影像法(鏡像法)と呼ぶ。
床からの高さが x[m]のとき、Q と影像電荷の距離は、床を挟んで反対側にあるぶん
高さの2倍(2x) になる。
F(x)=(2x)2kQ2=4x2kQ2(k=4πε01)
影像電荷は実在の電荷ではなく、あくまで「床がある場合と同じ電界を再現するための、計算上の
仮想の電荷」だという点を忘れないようにしたい。床の下側に本当に電荷があるわけではなく、
床より上側の電界・力を求めるための便宜的な置き換えにすぎない。
点電荷を床から引き離す仕事 — 力が距離とともに変わるので、積分が必要になる
一様な電界中の仕事はW=qEdという単純な掛け算で済んだが、この吸引力F(x)は高さxが
変わるたびに大きさも変わる。距離とともに変化する力に逆らって電荷を動かす仕事は、
力を距離で積分して求める。
点電荷を、床からの高さh1からh2(h2>h1)まで、ゆっくりと引き上げるのに必要な
仕事Wは、
W=∫h1h2F(x)dx=∫h1h24x2kQ2dx=4kQ2(h11−h21)
ここで注意したいのは、影像電荷が実電荷の動きに合わせて位置も一緒に動く「仮想の」電荷だと
いう点だ。もし「2つの固定された点電荷の間の仕事」の式 W=kQq(1/r1−1/r2) に、影像電荷
までの距離をそのまま r1=2h1、r2=2h2 として代入してしまうと、係数が本来の2倍
(kQ2/2×(1/h1−1/h2))になってしまい、誤った答えが出る。影像電荷は「もう片方の
電荷が静止している」という前提を満たさないため、必ず実際に電荷が動く高さxについて
積分し直す必要がある。
例題
真空中、接地された広い導体の床から高さh1=0.2mの位置に電荷Q=3×10−6Cの
点電荷がある。この電荷を、床に垂直な方向に高さh2=0.6mまでゆっくりと引き上げるのに
必要な仕事Wを求める(k=1/4πε0≒9×109N・m2/C2)。
W=4kQ2(h11−h21)=49×109×(3×10−6)2×(0.21−0.61)≒0.02025×3.333≒0.068J
影像法の問題は「力の式を作るところ」までは他のクーロン力の問題と同じだが、「その力に
逆らう仕事を求めるところ」で、距離2倍の罠にはまりやすい。$F(x)=kQ^2/(2x)^2$という
式をまず高さ$x$の関数として書き下し、それを実際の高さの変化分($h_1$から$h_2$)で
積分するという手順を、途中で近道せずに毎回踏むことが確実な対策になる。
なぜ受変電設備の絶縁設計に、この2乗の関係が効いてくるのか
電極(導体)間の距離が近いほど、その間に生じる電界の強さは強くなる。しかもその関係は
クーロンの法則と同じく、距離の2乗に反比例する形になる。つまり距離を半分にすると、
電界の強さは単純な2倍ではなく4倍になる。
電界の強さが一定の限度を超えると、空気などの絶縁物が絶縁破壊を起こし、放電(アーク)が
発生する。受変電設備で導体間の絶縁距離(離隔距離)が厳密に規定されているのは、
「距離を少し詰めただけで危険性が急激に高まる」というこの2乗の関係が背景にあるためだ。
静電容量とコンデンサのトピックで扱った電極板の面積・間隔の話も、根っこにはこの
クーロンの法則と電界の考え方がある。
冒頭の「距離を半分にすると電界はどう変化するか」の答え合わせは、理解度チェックの
最後の問題でしてみよう。