考えてみよう
制御盤の中の電磁接触器(マグネットスイッチ)は、コイルに電流を流すとカチッと音がして、
大きな主接点が引き寄せられて閉じる。手で押しているわけでも、モーターで引っ張っているわけでもない。
コイルに電流を流しただけで、なぜあれだけの力で接点を動かせるのか。
種明かしは単純だ。電流が流れれば、その周りに必ず磁界ができる。そして磁界の中を電流が流れれば、
必ず力が生まれる。 この2段構えの関係を、19世紀の物理学者フレミングが左手・右手の指で
覚えやすくまとめた。このトピックを読み終えるころには、制御盤の中の電磁接触器や、
遮断器の母線がなぜあの形・あの間隔で設計されているかを、力の発生原理から説明できるようになっている。
電流が作る磁界 — 右ねじの法則
直線状の導体に電流を流すと、その周りには導体を中心とした同心円状の磁界ができる。
向きは右ねじの法則(別名:アンペアの右手の法則)で決まる。親指を電流の向きに向けて
導体を握ると、残りの指が巻きつく向きが磁界の向きになる。
導体から距離 r[m] 離れた点での磁界の強さ H[A/m] は、次の式で求まる。
H=2πrI
例題
直線状の導体に8Aの電流が流れている。導体から4cm(0.04m)離れた点における磁界の強さ H は何A/mか。
H=2π×0.048≒31.8A/m
円形に1巻きしたコイルの中心の磁界は $H = I/(2r)$(rはコイルの半径)、コイルをN回巻いた
ソレノイドの内部の磁界は $H = NI/l$(lはコイルの長さ)という、似た形の別の公式になる。
どれも「rやlに何を代入すべきか」を問題文からまず正しく読み取ることが出発点だ。
円弧状(扇形)導体が中心に作る磁界
円形コイルの中心磁界 H=I/(2r) は、実は「導体が中心の周りを1周(角度2π)ぐるりと
回っている」特別な場合にすぎない。導体が中心角 θ[rad]の円弧しか描いていなければ、
磁界への寄与もその角度の割合だけになる。
H=2πθ×2rI
θ=2π(1周=円形コイル)を代入すると H=I/(2r) に戻り、円形コイルの公式と
矛盾なくつながることが確認できる。円弧の公式は、円形コイルの公式を角度で割り引いた
自然な拡張にすぎない。
例題
半径0.3mの円弧状導体(中心角60°、弧度法で π/3 rad)に6Aの電流が流れている。
中心に生じる磁界Hは何A/mか。
H=2ππ/3×2×0.36=61×10≒1.67A/m
半径の異なる2つの円弧がつながった扇形導体
電験三種で頻出するのが、半径の異なる2つの円弧を、中心を通る直線(半径方向の導体)で
つないだ扇形の閉回路だ。この形を見たら、次の2点を押さえる。
- 半径方向の直線部分は、中心には磁界を作らない。 直線を中心まで延長した線がその
直線自身と重なるため(電流の向きと、中心から見た方向が一致してしまうため)、
右ねじの法則を適用しても中心での寄与はゼロになる。
- 外側の円弧と内側の円弧、それぞれが中心に作る磁界の向きを別々に確認する。
扇形の輪郭をぐるっと1周する閉回路では、外側の円弧を回る向きと内側の円弧を回る向きが
中心から見て逆回りになるため、2つの円弧が作る磁界は互いに逆向きになり、
足し算ではなく引き算になることが多い。
例題
半径0.4mの外側円弧と半径0.1mの内側円弧が、同じ中心角90°(π/2 rad)の扇形の
輪郭をなす閉回路に4Aの電流が流れている。中心に生じる磁界の大きさは何A/mか。
外側円弧の寄与:
H外=2ππ/2×2×0.44=0.25×5=1.25A/m
内側円弧の寄与:
H内=2ππ/2×2×0.14=0.25×20=5A/m
2つの円弧の磁界は向きが逆なので、差し引きして
H=H内−H外=5−1.25=3.75A/m
半径が小さい内側の円弧ほど 1/r が大きく寄与も大きいため、最終的な磁界の向きは
内側円弧が作る向きに一致する。
円弧の公式は直線電流・円形コイルの公式の仲間だが、「向きを持つ量を足し合わせている」
という点を忘れやすい。数値だけを機械的に足すのではなく、右ねじの法則で各円弧が
中心に作る磁界の向きを個別に描いてから、同じ向きなら足し算、逆向きなら引き算と
判断する癖をつけておきたい。
磁気回路 — 起磁力・磁束・磁気抵抗は、電気回路のオームの法則とそっくり
コイルを鉄心に巻いて磁束を作る「磁気回路」には、電気回路のオームの法則 I=E/R と
そっくり同じ構造のアナロジーが成り立つ。
| 電気回路 | 磁気回路 |
|---|
| 起電力 E[V] | 起磁力 Fm=NI[A](コイルの巻数×電流) |
| 電流 I[A] | 磁束 Φ[Wb] |
| 抵抗 R[Ω] | 磁気抵抗 Rm[H⁻¹] |
このアナロジーの上で、磁気回路にも「オームの法則」にあたる関係が成り立つ。
Φ=RmFm,Rm=ΦFm
磁気抵抗 Rm は、磁路の長さ l[m]・断面積 S[m²]・透磁率 μ[H/m]を使って、
次の式で表される。
Rm=μSl
電気抵抗の式 R=ρl/S(抵抗率×長さ÷断面積)と見比べると、磁気抵抗は磁路が長いほど大きく
(比例)、断面積が広いほど小さく(反比例)、透磁率が大きいほど小さくなる(反比例)—
—電気抵抗の抵抗率 ρ の代わりに、透磁率 μ が逆の役割(大きいほど通しやすい)で
入っている点が対応している。磁気抵抗の単位はヘンリーの逆数 [H−1] になる。
例題
磁路の長さ l=0.4m、断面積 S=1×10−3m2、比透磁率 μr=1000
の鉄心に、巻数 N=200 回のコイルを巻き、電流 I=0.5A を流した。この磁気回路に
生じる磁束 Φ を求めよ(真空の透磁率 μ0=4π×10−7H/m)。
まず磁気抵抗を求める。
Rm=μ0μrSl=4π×10−7×1000×1×10−30.4≒3.18×105H−1
次に起磁力を求める。
Fm=NI=200×0.5=100A
磁束は、起磁力を磁気抵抗で割ればよい。
Φ=RmFm=3.18×105100≒3.14×10−4Wb
磁気回路の問題で迷ったら、電気回路の対応表(起電力↔起磁力、電流↔磁束、抵抗↔磁気抵抗)に
一度立ち返る。「オームの法則の磁気版」だと捉え直せば、$\Phi=F_m/R_m$ という式も、
電気回路の $I=E/R$ の丸暗記のまま応用できる。磁気抵抗の比例・反比例の向き(長さに比例、
断面積と透磁率に反比例)も、電気抵抗 $R=\rho l/S$ の形とセットで思い出すと取り違えにくい。
なお、この章の冒頭で見たソレノイドの内部磁界 $H=NI/l$ も、この磁気回路の考え方の
土台になっている——ソレノイドの寸法や巻数が変わっても、単位長さあたりの起磁力 $NI/l$
という量そのものは変わらない。
ヒステリシス特性 — 鉄心を交流で磁化すると、B-Hのグラフは行きと帰りで別の道を通る
磁気回路の節では、磁束密度Bと磁界の強さHの関係をB=μHという比例式で扱ってきた。
だが実際の鉄心(強磁性体)ではμは一定の値ではなく、BとHの関係は単純な比例直線には
ならない。積層鉄心に交流電流を流してコイルを磁化すると、B-H平面上にヒステリシスループ
と呼ばれる、磁界が増えていくときと減っていくときとで別の道筋をたどる、閉じた曲線が現れる。
このループの面積は、鉄心が1周期の磁化・脱磁を繰り返すたびに失われるエネルギー——
ヒステリシス損(鉄損の一部)に相当する。ループが大きいほど、1周期あたりに鉄心内で
失われる熱エネルギーも大きい。
鉄心コイルに電圧V(実効値)を加えたとき、最大磁束密度Bmaxとの間にはおおむね
次の関係が成り立つ(fは周波数、Nは巻数、Aは鉄心の断面積)。
V≒4.44fNABmax⟹Bmax≒4.44fNAV
この式から、電圧Vと周波数fのどちらを固定するかによって、ループの大きさ(=損失)の
変化の向きが変わることが分かる。
- 電圧Vが一定のまま周波数fが下がる:Bmaxはfに反比例して大きくなる
→ループは大きくなり、ヒステリシス損も増える
- 周波数fが一定のまま電圧Vが下がる:BmaxはVに比例して小さくなる
→ループは小さくなり、ヒステリシス損も減る
- コイル電流の実効値(≒磁界Hの振幅)が一定のまま周波数だけが変わる:ヒステリシス
ループの形そのものは主に材料とHの振幅で決まる固有の性質であるため、ほとんど変わらない
『周波数を下げる』という操作は1つでも、何を一定に保っているか(電圧か、電流か)によって、
ループ面積の変化の向きがまったく違ってくる。式$B_{max}\fallingdotseq V/(4.44fNA)$に
立ち返り、$V$・$f$・$B_{max}$のうちどれが固定されどれが動いているかを整理してから、
ループの大小を判断する。
測定値から透磁率μを逆算する
環状鉄心にコイルを巻いて直流電流を流した場合も、磁界の強さH=NI/l(磁気回路の節で見た
ソレノイドの式)と、実際に測定された磁束密度Bが分かれば、その鉄心の透磁率μを
逆算できる。
μ=HB
例題
磁路の長さl=0.25m、巻数N=5000の環状鉄心コイルに、直流電流I=0.2Aを
流したところ、鉄心中の磁束密度はB=1.0Tであった。この鉄心の透磁率μを求める。
まず磁界の強さを求める。
H=lNI=0.255000×0.2=4000A/m
μ=HB=40001.0=2.5×10−4H/m
$\mu=B/H$は、磁気回路の節で見た$R_m=l/(\mu S)$と$\Phi=F_m/R_m$を組み合わせても導ける
関係だが、測定値からその場で$\mu$を求めたいときは遠回りせずこの比の形をそのまま使えばよい。
$H$を求める式が直流のソレノイドか、円弧か、扇形かで変わる点だけ、それぞれの節の公式を
再確認してから代入する。
磁界中の電流に働く力 — フレミングの左手の法則
磁界の中に電流が流れる導体を置くと、導体には力が働く。これがモーターの動作原理そのものだ。
力の大きさは次の式で求まる。
F=BILsinθ
Bは磁束密度[T]、Iは電流[A]、Lは磁界中にある導体の長さ[m]、θは磁界と導体のなす角度。
磁界と導体が直角(θ=90°)なら sinθ=1 となり、F=BIL とシンプルになる。
力の向きは、フレミングの左手の法則で決まる。親指=力(F)、人差し指=磁界(B)、
中指=電流(I)の順に3本の指を直角に開くと、その指の向きが実際の関係に一致する。
例題
磁束密度0.4Tの磁界中に、長さ0.5mの導体を磁界と直角に置き、3Aの電流を流した。導体に働く力Fは何Nか。
F=0.4×3×0.5=0.6N
フレミングの左手の法則と右手の法則(発電機の誘導起電力の向きを求める、電磁誘導のトピックで扱う)は
指の役割が入れ替わっており混同しやすい。「左手はモーター、右手は発電機」という対応を先に
固定してから、指の役割を思い出すと取り違えを防げる。
平行電線に働く力 — 短絡電流が母線を壊す理由
2本の平行な直線導体にそれぞれ電流を流すと、互いの導体が作る磁界の中を相手の電流が流れる形になり、
導体どうしの間に力が働く。単位長さあたりの力は次の式で求まる。
LF=2πdμ0I1I2
μ0は真空の透磁率(4π×10−7H/m)、dは2本の導体間の距離[m]。
電流が同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する。
例題
1m離して平行に張られた2本の導体に、同じ向きにそれぞれ20Aの電流を流した。長さ1mあたりに働く力は何Nか。
LF=2π×14π×10−7×20×20=8×10−5N=0.08mN
普段の運転電流ではこの程度の小さな力しか働かない。だが、この式の I1I2 という形に注目してほしい。
同じ大きさの電流なら、力は電流の2乗に比例する。定格電流の数倍〜数十倍に達する短絡電流が
流れた瞬間、電磁力は数百倍〜数千倍にまで跳ね上がる。受変電設備や配電盤の母線(バスバー)が
一定の間隔・支持間隔で設計されているのは、通常運転時の力ではなく、この短絡時の電磁反発力に
耐えられるかどうかを基準にしているからだ。
冒頭の電磁接触器の吸引力も、この節で見た「磁界中の電流に働く力」がコイルの周りに集中して
現れたものにほかならない。
電流ループにはたらく偶力のモーメント — 可動コイル形計器・モータが回る理由
ここまでは「1本の直線導体」にはたらく力を見てきた。導体を四角く曲げてループ(コイル)に
すると、磁界中でまったく新しい振る舞いが生まれる。
一辺 h[m]の正方形コイルABCDに電流 I[A]が流れており、一様な磁束密度 B0[T]の向きが
辺ABと平行だとする。4つの辺それぞれについて、電流の向きと B0 の向きのなす角
θ を確認すると、次のように分かれる。
- 辺AB・DC(B0と平行、θ=0°):F=B0ILsinθのsinθ=0となり、
力はゼロ
- 辺AD・BC(B0と垂直、θ=90°):それぞれ大きさ F=B0Ih の力が生じる。ただし
AD・BCでは電流の向きが互いに逆(ループを1周する向きなので)なので、生じる力の向きも
互いに逆向きになる
AD・BCにはたらく2つの力は、大きさが等しく向きが逆で、しかも h だけ離れた別々の辺に
はたらいている。これは力学でいう偶力そのものだ。合力(力の総和)はゼロでも、偶力は
物体を回転させようとするモーメント(トルク)を生む。
M=F×h=(B0Ih)×h=B0Ih2
例題
一様な磁束密度B=0.5Tのもとで、一辺h=0.2mの正方形コイルABCDに直流電流I=3Aが流れている。
Bの向きは辺ABと平行である。このコイルにはたらく偶力のモーメントを求める。
F=BIh=0.5×3×0.2=0.3N,M=F×h=0.3×0.2=0.06N・m
「合力がゼロ=コイルには何も起きない」という直感は誤りだ。力の大きさ・向きだけでなく、
その力が『どこに(どの辺に)』働いているかまで見ないと、回転させようとするモーメントを
見落とす。大きさが等しく逆向きの2つの力が、離れた場所に働いていれば、合力ゼロでも
モーメントは必ず残る——この偶力の発想は、可動コイル形計器の指針を振らせる力や、
直流モータのロータを回転させる力の発生原理そのものになっている。
なお、コイルが回転して面の向きが変わっていくと、B0とコイル各辺のなす角も変化するため、
モーメントの大きさも回転角に応じて変わっていく(実際のモータでは、整流子やブラシの仕組みで
一定方向のトルクを保ち続けている)。ここでは「磁界がコイル面と平行な、モーメントが最大になる
瞬間」の力の分析だけを押さえておけば、試験対策としては十分だ。
磁気遮へい — 強磁性体で、磁束の通り道そのものを変える
ここまでは「磁界が力を生む」側の話だった。最後に、磁界そのものを弱める・締め出す側の
話として、磁気遮へいを見ておく。
磁界の中に強磁性体(鉄など、磁束が非常に通りやすい材料)を置くと、周囲の磁束は空気中を
まっすぐ進むよりも、磁気抵抗の小さい強磁性体の中を選んで通るようになる。ここで、強磁性体を
中空にしておくとどうなるか。磁束は中空の空間を避け、強磁性体の壁の中を迂回するように
流れ込む。その結果、中空の内部には外部磁界の影響がほとんど届かなくなる。
このように、強磁性体でまわりを囲んで内部を外部磁界の影響から守ることを磁気遮へいと呼ぶ。
精密な計測器やブラウン管、磁気の影響を嫌うセンサーなどを、鉄でできたケースで覆うのはこの
原理を利用したものだ。
磁気遮へいは、名前も見た目も似ている静電遮へい(導体で囲み、外部電界の影響を防ぐ仕組み)と
混同しやすいが、原理はまったく違う。静電遮へいは囲む材料が導体でありさえすればよく(自由電子が
移動して外部電界を打ち消す)、磁気遮へいは磁束が『通りやすい経路』を選ぶ性質を利用するため、
鉄などの強磁性体でなければ効果がない——銅やアルミのような非磁性の導体で箱を作っても、
磁気遮へいの効果はほとんど得られない。
冒頭の電磁接触器の吸引力、そして磁気遮へいという「磁束の通り道をコントロールする」発想——
答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。