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理論 ・ 6 / 16

磁界と電磁力(フレミングの世界)

読み終えると、こうなる

制御盤の中で電磁接触器(マグネットスイッチ)がなぜコイルに電流を流しただけで接点を吸引できるのか、力の発生原理から説明できるようになる

  • 直線電流の周りにできる磁界の強さを電流と距離から計算でき、磁界中の電流に働く力の大きさ・向きをフレミングの左手の法則で求められる
  • 平行に置かれた2本の電線に働く力の向き・大きさを判断でき、短絡電流時に電磁力が急増する理由を電流の2乗の関係から説明でき、強磁性体でまわりを囲むと磁束がその中を通りやすくなり内部の空間が外部磁界の影響をほとんど受けなくなる『磁気遮へい』の原理も説明できる
  • 一様な磁界中に置かれた電流ループ(コイル)にはたらく力を辺ごとに求め、磁界がループの面に平行な場合は各辺の力の合計はゼロでも偶力のモーメント(トルク)が生じることを説明でき、これが可動コイル形計器や直流モータの回転力の発生原理になっていることを理解できる
  • 積層鉄心を交流で磁化したときのヒステリシスループの面積が鉄損(ヒステリシス損)に相当することを説明でき、電源電圧一定で周波数が下がる・周波数一定で電圧が下がる・電流一定で周波数が変わるという3パターンでループの大きさがどう変化するかを区別でき、環状鉄心の巻数・電流から求めた磁界の強さHと測定された磁束密度Bから透磁率μ=B/Hを逆算できる
考えてみよう

制御盤の中の電磁接触器(マグネットスイッチ)は、コイルに電流を流すとカチッと音がして、 大きな主接点が引き寄せられて閉じる。手で押しているわけでも、モーターで引っ張っているわけでもない。 コイルに電流を流しただけで、なぜあれだけの力で接点を動かせるのか。

種明かしは単純だ。電流が流れれば、その周りに必ず磁界ができる。そして磁界の中を電流が流れれば、 必ず力が生まれる。 この2段構えの関係を、19世紀の物理学者フレミングが左手・右手の指で 覚えやすくまとめた。このトピックを読み終えるころには、制御盤の中の電磁接触器や、 遮断器の母線がなぜあの形・あの間隔で設計されているかを、力の発生原理から説明できるようになっている。

電流が作る磁界 — 右ねじの法則

直線状の導体に電流を流すと、その周りには導体を中心とした同心円状の磁界ができる。 向きは右ねじの法則(別名:アンペアの右手の法則)で決まる。親指を電流の向きに向けて 導体を握ると、残りの指が巻きつく向きが磁界の向きになる。

導体から距離 rr[m] 離れた点での磁界の強さ HH[A/m] は、次の式で求まる。

H=I2πrH = \frac{I}{2\pi r}

例題

直線状の導体に8Aの電流が流れている。導体から4cm(0.04m)離れた点における磁界の強さ HH は何A/mか。

H=82π×0.0431.8A/mH = \frac{8}{2\pi \times 0.04} \fallingdotseq 31.8\text{A/m}
円形に1巻きしたコイルの中心の磁界は $H = I/(2r)$(rはコイルの半径)、コイルをN回巻いた ソレノイドの内部の磁界は $H = NI/l$(lはコイルの長さ)という、似た形の別の公式になる。 どれも「rやlに何を代入すべきか」を問題文からまず正しく読み取ることが出発点だ。

円弧状(扇形)導体が中心に作る磁界

円形コイルの中心磁界 H=I/(2r)H = I/(2r) は、実は「導体が中心の周りを1周(角度2π)ぐるりと 回っている」特別な場合にすぎない。導体が中心角 θ\theta[rad]の円弧しか描いていなければ、 磁界への寄与もその角度の割合だけになる。

H=θ2π×I2rH = \frac{\theta}{2\pi} \times \frac{I}{2r}

θ=2π\theta = 2\pi(1周=円形コイル)を代入すると H=I/(2r)H = I/(2r) に戻り、円形コイルの公式と 矛盾なくつながることが確認できる。円弧の公式は、円形コイルの公式を角度で割り引いた 自然な拡張にすぎない。

例題

半径0.3mの円弧状導体(中心角60°、弧度法で π/3\pi/3 rad)に6Aの電流が流れている。 中心に生じる磁界HHは何A/mか。

H=π/32π×62×0.3=16×101.67A/mH = \frac{\pi/3}{2\pi} \times \frac{6}{2\times 0.3} = \frac{1}{6}\times 10 \fallingdotseq 1.67\text{A/m}

半径の異なる2つの円弧がつながった扇形導体

電験三種で頻出するのが、半径の異なる2つの円弧を、中心を通る直線(半径方向の導体)で つないだ扇形の閉回路だ。この形を見たら、次の2点を押さえる。

  1. 半径方向の直線部分は、中心には磁界を作らない。 直線を中心まで延長した線がその 直線自身と重なるため(電流の向きと、中心から見た方向が一致してしまうため)、 右ねじの法則を適用しても中心での寄与はゼロになる。
  2. 外側の円弧と内側の円弧、それぞれが中心に作る磁界の向きを別々に確認する。 扇形の輪郭をぐるっと1周する閉回路では、外側の円弧を回る向きと内側の円弧を回る向きが 中心から見て逆回りになるため、2つの円弧が作る磁界は互いに逆向きになり、 足し算ではなく引き算になることが多い。

例題

半径0.4mの外側円弧と半径0.1mの内側円弧が、同じ中心角90°(π/2\pi/2 rad)の扇形の 輪郭をなす閉回路に4Aの電流が流れている。中心に生じる磁界の大きさは何A/mか。

外側円弧の寄与:

H=π/22π×42×0.4=0.25×5=1.25A/mH_{外} = \frac{\pi/2}{2\pi} \times \frac{4}{2\times 0.4} = 0.25\times 5 = 1.25\text{A/m}

内側円弧の寄与:

H=π/22π×42×0.1=0.25×20=5A/mH_{内} = \frac{\pi/2}{2\pi} \times \frac{4}{2\times 0.1} = 0.25\times 20 = 5\text{A/m}

2つの円弧の磁界は向きが逆なので、差し引きして

H=HH=51.25=3.75A/mH = H_{内} - H_{外} = 5 - 1.25 = 3.75\text{A/m}

半径が小さい内側の円弧ほど 1/r1/r が大きく寄与も大きいため、最終的な磁界の向きは 内側円弧が作る向きに一致する。

円弧の公式は直線電流・円形コイルの公式の仲間だが、「向きを持つ量を足し合わせている」 という点を忘れやすい。数値だけを機械的に足すのではなく、右ねじの法則で各円弧が 中心に作る磁界の向きを個別に描いてから、同じ向きなら足し算、逆向きなら引き算と 判断する癖をつけておきたい。

磁気回路 — 起磁力・磁束・磁気抵抗は、電気回路のオームの法則とそっくり

コイルを鉄心に巻いて磁束を作る「磁気回路」には、電気回路のオームの法則 I=E/RI=E/R と そっくり同じ構造のアナロジーが成り立つ。

電気回路磁気回路
起電力 EE[V]起磁力 Fm=NIF_m=NI[A](コイルの巻数×電流)
電流 II[A]磁束 Φ\Phi[Wb]
抵抗 RR[Ω]磁気抵抗 RmR_m[H⁻¹]

このアナロジーの上で、磁気回路にも「オームの法則」にあたる関係が成り立つ。

Φ=FmRm,Rm=FmΦ\Phi = \frac{F_m}{R_m}, \qquad R_m = \frac{F_m}{\Phi}

磁気抵抗 RmR_m は、磁路の長さ ll[m]・断面積 SS[m²]・透磁率 μ\mu[H/m]を使って、 次の式で表される。

Rm=lμSR_m = \frac{l}{\mu S}

電気抵抗の式 R=ρl/SR=\rho l/S(抵抗率×長さ÷断面積)と見比べると、磁気抵抗は磁路が長いほど大きく (比例)、断面積が広いほど小さく(反比例)、透磁率が大きいほど小さくなる(反比例)— —電気抵抗の抵抗率 ρ\rho の代わりに、透磁率 μ\mu が逆の役割(大きいほど通しやすい)で 入っている点が対応している。磁気抵抗の単位はヘンリーの逆数 [H1][\text{H}^{-1}] になる。

例題

磁路の長さ l=0.4ml=0.4\text{m}、断面積 S=1×103m2S=1\times10^{-3}\text{m}^2、比透磁率 μr=1000\mu_r=1000 の鉄心に、巻数 N=200N=200 回のコイルを巻き、電流 I=0.5AI=0.5\text{A} を流した。この磁気回路に 生じる磁束 Φ\Phi を求めよ(真空の透磁率 μ0=4π×107H/m\mu_0=4\pi\times10^{-7}\text{H/m})。

まず磁気抵抗を求める。

Rm=lμ0μrS=0.44π×107×1000×1×1033.18×105H1R_m = \frac{l}{\mu_0\mu_r S} = \frac{0.4}{4\pi\times10^{-7}\times1000\times1\times10^{-3}} \fallingdotseq 3.18\times10^{5}\text{H}^{-1}

次に起磁力を求める。

Fm=NI=200×0.5=100AF_m = NI = 200\times0.5 = 100\text{A}

磁束は、起磁力を磁気抵抗で割ればよい。

Φ=FmRm=1003.18×1053.14×104Wb\Phi = \frac{F_m}{R_m} = \frac{100}{3.18\times10^{5}} \fallingdotseq 3.14\times10^{-4}\text{Wb}
磁気回路の問題で迷ったら、電気回路の対応表(起電力↔起磁力、電流↔磁束、抵抗↔磁気抵抗)に 一度立ち返る。「オームの法則の磁気版」だと捉え直せば、$\Phi=F_m/R_m$ という式も、 電気回路の $I=E/R$ の丸暗記のまま応用できる。磁気抵抗の比例・反比例の向き(長さに比例、 断面積と透磁率に反比例)も、電気抵抗 $R=\rho l/S$ の形とセットで思い出すと取り違えにくい。 なお、この章の冒頭で見たソレノイドの内部磁界 $H=NI/l$ も、この磁気回路の考え方の 土台になっている——ソレノイドの寸法や巻数が変わっても、単位長さあたりの起磁力 $NI/l$ という量そのものは変わらない。

ヒステリシス特性 — 鉄心を交流で磁化すると、B-Hのグラフは行きと帰りで別の道を通る

磁気回路の節では、磁束密度BBと磁界の強さHHの関係をB=μHB=\mu Hという比例式で扱ってきた。 だが実際の鉄心(強磁性体)ではμ\muは一定の値ではなく、BBHHの関係は単純な比例直線には ならない。積層鉄心に交流電流を流してコイルを磁化すると、BB-HH平面上にヒステリシスループ と呼ばれる、磁界が増えていくときと減っていくときとで別の道筋をたどる、閉じた曲線が現れる。

このループの面積は、鉄心が1周期の磁化・脱磁を繰り返すたびに失われるエネルギー—— ヒステリシス損(鉄損の一部)に相当する。ループが大きいほど、1周期あたりに鉄心内で 失われる熱エネルギーも大きい。

鉄心コイルに電圧VV(実効値)を加えたとき、最大磁束密度BmaxB_{max}との間にはおおむね 次の関係が成り立つ(ffは周波数、NNは巻数、AAは鉄心の断面積)。

V4.44fNABmaxBmaxV4.44fNAV \fallingdotseq 4.44fNAB_{max} \quad \Longrightarrow \quad B_{max} \fallingdotseq \frac{V}{4.44fNA}

この式から、電圧VVと周波数ffのどちらを固定するかによって、ループの大きさ(=損失)の 変化の向きが変わることが分かる。

  • 電圧VVが一定のまま周波数ffが下がるBmaxB_{max}ffに反比例して大きくなる →ループは大きくなり、ヒステリシス損も増える
  • 周波数ffが一定のまま電圧VVが下がるBmaxB_{max}VVに比例して小さくなる →ループは小さくなり、ヒステリシス損も減る
  • コイル電流の実効値(≒磁界HHの振幅)が一定のまま周波数だけが変わる:ヒステリシス ループの形そのものは主に材料とHHの振幅で決まる固有の性質であるため、ほとんど変わらない
『周波数を下げる』という操作は1つでも、何を一定に保っているか(電圧か、電流か)によって、 ループ面積の変化の向きがまったく違ってくる。式$B_{max}\fallingdotseq V/(4.44fNA)$に 立ち返り、$V$・$f$・$B_{max}$のうちどれが固定されどれが動いているかを整理してから、 ループの大小を判断する。

測定値から透磁率μを逆算する

環状鉄心にコイルを巻いて直流電流を流した場合も、磁界の強さH=NI/lH=NI/l(磁気回路の節で見た ソレノイドの式)と、実際に測定された磁束密度BBが分かれば、その鉄心の透磁率μ\muを 逆算できる。

μ=BH\mu = \frac{B}{H}

例題

磁路の長さl=0.25ml=0.25\text{m}、巻数N=5000N=5000の環状鉄心コイルに、直流電流I=0.2AI=0.2\text{A}を 流したところ、鉄心中の磁束密度はB=1.0TB=1.0\text{T}であった。この鉄心の透磁率μ\muを求める。

まず磁界の強さを求める。

H=NIl=5000×0.20.25=4000A/mH = \frac{NI}{l} = \frac{5000\times0.2}{0.25} = 4000\text{A/m} μ=BH=1.04000=2.5×104H/m\mu = \frac{B}{H} = \frac{1.0}{4000} = 2.5\times10^{-4}\text{H/m}
$\mu=B/H$は、磁気回路の節で見た$R_m=l/(\mu S)$と$\Phi=F_m/R_m$を組み合わせても導ける 関係だが、測定値からその場で$\mu$を求めたいときは遠回りせずこの比の形をそのまま使えばよい。 $H$を求める式が直流のソレノイドか、円弧か、扇形かで変わる点だけ、それぞれの節の公式を 再確認してから代入する。

磁界中の電流に働く力 — フレミングの左手の法則

磁界の中に電流が流れる導体を置くと、導体には力が働く。これがモーターの動作原理そのものだ。 力の大きさは次の式で求まる。

F=BILsinθF = BIL\sin\theta

BBは磁束密度[T]、IIは電流[A]、LLは磁界中にある導体の長さ[m]、θ\thetaは磁界と導体のなす角度。 磁界と導体が直角(θ=90°\theta=90°)なら sinθ=1\sin\theta=1 となり、F=BILF=BIL とシンプルになる。

力の向きは、フレミングの左手の法則で決まる。親指=力(F)、人差し指=磁界(B)、 中指=電流(I)の順に3本の指を直角に開くと、その指の向きが実際の関係に一致する。

例題

磁束密度0.4Tの磁界中に、長さ0.5mの導体を磁界と直角に置き、3Aの電流を流した。導体に働く力FFは何Nか。

F=0.4×3×0.5=0.6NF = 0.4 \times 3 \times 0.5 = 0.6\text{N}
フレミングの左手の法則と右手の法則(発電機の誘導起電力の向きを求める、電磁誘導のトピックで扱う)は 指の役割が入れ替わっており混同しやすい。「左手はモーター、右手は発電機」という対応を先に 固定してから、指の役割を思い出すと取り違えを防げる。

平行電線に働く力 — 短絡電流が母線を壊す理由

2本の平行な直線導体にそれぞれ電流を流すと、互いの導体が作る磁界の中を相手の電流が流れる形になり、 導体どうしの間に力が働く。単位長さあたりの力は次の式で求まる。

FL=μ0I1I22πd\frac{F}{L} = \frac{\mu_0 I_1 I_2}{2\pi d}

μ0\mu_0は真空の透磁率(4π×1074\pi \times 10^{-7}H/m)、ddは2本の導体間の距離[m]。 電流が同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する。

例題

1m離して平行に張られた2本の導体に、同じ向きにそれぞれ20Aの電流を流した。長さ1mあたりに働く力は何Nか。

FL=4π×107×20×202π×1=8×105N=0.08mN\frac{F}{L} = \frac{4\pi \times 10^{-7} \times 20 \times 20}{2\pi \times 1} = 8 \times 10^{-5}\text{N} = 0.08\text{mN}

普段の運転電流ではこの程度の小さな力しか働かない。だが、この式の I1I2I_1 I_2 という形に注目してほしい。 同じ大きさの電流なら、力は電流の2乗に比例する。定格電流の数倍〜数十倍に達する短絡電流が 流れた瞬間、電磁力は数百倍〜数千倍にまで跳ね上がる。受変電設備や配電盤の母線(バスバー)が 一定の間隔・支持間隔で設計されているのは、通常運転時の力ではなく、この短絡時の電磁反発力に 耐えられるかどうかを基準にしているからだ。

冒頭の電磁接触器の吸引力も、この節で見た「磁界中の電流に働く力」がコイルの周りに集中して 現れたものにほかならない。

電流ループにはたらく偶力のモーメント — 可動コイル形計器・モータが回る理由

ここまでは「1本の直線導体」にはたらく力を見てきた。導体を四角く曲げてループ(コイル)に すると、磁界中でまったく新しい振る舞いが生まれる。

一辺 hh[m]の正方形コイルABCDに電流 II[A]が流れており、一様な磁束密度 B0B_0[T]の向きが 辺ABと平行だとする。4つの辺それぞれについて、電流の向きと B0B_0 の向きのなす角 θ\theta を確認すると、次のように分かれる。

  • 辺AB・DC(B0B_0と平行、θ=0°\theta=0°F=B0ILsinθF=B_0IL\sin\thetasinθ=0\sin\theta=0となり、 力はゼロ
  • 辺AD・BC(B0B_0と垂直、θ=90°\theta=90°:それぞれ大きさ F=B0IhF=B_0Ih の力が生じる。ただし AD・BCでは電流の向きが互いに逆(ループを1周する向きなので)なので、生じる力の向きも 互いに逆向きになる

AD・BCにはたらく2つの力は、大きさが等しく向きが逆で、しかも hh だけ離れた別々の辺に はたらいている。これは力学でいう偶力そのものだ。合力(力の総和)はゼロでも、偶力は 物体を回転させようとするモーメント(トルク)を生む。

M=F×h=(B0Ih)×h=B0Ih2M = F\times h = (B_0Ih)\times h = B_0Ih^2

例題

一様な磁束密度B=0.5B=0.5Tのもとで、一辺h=0.2h=0.2mの正方形コイルABCDに直流電流I=3I=3Aが流れている。 BBの向きは辺ABと平行である。このコイルにはたらく偶力のモーメントを求める。

F=BIh=0.5×3×0.2=0.3N,M=F×h=0.3×0.2=0.06N・mF = BIh = 0.5\times3\times0.2 = 0.3\text{N}, \qquad M = F\times h = 0.3\times0.2 = 0.06\text{N・m}
「合力がゼロ=コイルには何も起きない」という直感は誤りだ。力の大きさ・向きだけでなく、 その力が『どこに(どの辺に)』働いているかまで見ないと、回転させようとするモーメントを 見落とす。大きさが等しく逆向きの2つの力が、離れた場所に働いていれば、合力ゼロでも モーメントは必ず残る——この偶力の発想は、可動コイル形計器の指針を振らせる力や、 直流モータのロータを回転させる力の発生原理そのものになっている。

なお、コイルが回転して面の向きが変わっていくと、B0B_0とコイル各辺のなす角も変化するため、 モーメントの大きさも回転角に応じて変わっていく(実際のモータでは、整流子やブラシの仕組みで 一定方向のトルクを保ち続けている)。ここでは「磁界がコイル面と平行な、モーメントが最大になる 瞬間」の力の分析だけを押さえておけば、試験対策としては十分だ。

磁気遮へい — 強磁性体で、磁束の通り道そのものを変える

ここまでは「磁界が力を生む」側の話だった。最後に、磁界そのものを弱める・締め出す側の 話として、磁気遮へいを見ておく。

磁界の中に強磁性体(鉄など、磁束が非常に通りやすい材料)を置くと、周囲の磁束は空気中を まっすぐ進むよりも、磁気抵抗の小さい強磁性体の中を選んで通るようになる。ここで、強磁性体を 中空にしておくとどうなるか。磁束は中空の空間を避け、強磁性体の壁の中を迂回するように 流れ込む。その結果、中空の内部には外部磁界の影響がほとんど届かなくなる。

このように、強磁性体でまわりを囲んで内部を外部磁界の影響から守ることを磁気遮へいと呼ぶ。 精密な計測器やブラウン管、磁気の影響を嫌うセンサーなどを、鉄でできたケースで覆うのはこの 原理を利用したものだ。

磁気遮へいは、名前も見た目も似ている静電遮へい(導体で囲み、外部電界の影響を防ぐ仕組み)と 混同しやすいが、原理はまったく違う。静電遮へいは囲む材料が導体でありさえすればよく(自由電子が 移動して外部電界を打ち消す)、磁気遮へいは磁束が『通りやすい経路』を選ぶ性質を利用するため、 鉄などの強磁性体でなければ効果がない——銅やアルミのような非磁性の導体で箱を作っても、 磁気遮へいの効果はほとんど得られない。

冒頭の電磁接触器の吸引力、そして磁気遮へいという「磁束の通り道をコントロールする」発想—— 答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. フレミングの左手の法則の指の割り当てを、右手の法則(発電機の誘導起電力)と混同する

    なぜ引っかかる電磁力(モーターの原理、左手)と電磁誘導(発電機の原理、右手)は指を使う似た形のルールで、どちらがどちらか記憶があいまいになりやすい

    見破り方「左手はモーター(電気から力=運動を作る)、右手は発電機(運動から電気を作る)」という対応を先に固定する。左手は親指から順に力(F)・磁界(B)・電流(I)の頭文字と覚えておくと迷わない

  2. 平行に置かれた2本の電線に働く力の向き(引力か斥力か)を、磁石のイメージに引きずられて逆に覚える

    なぜ引っかかる「同じ極同士は反発する」という磁石の直感を、電流同士の関係にそのまま当てはめてしまい、同じ向きの電流も反発すると誤解しやすい

    見破り方毎回、右ねじの法則で片方の導体が作る磁界を描き、その磁界の中にもう一方の電流を置いてフレミングの左手の法則で力の向きを導く。結論だけを暗記せず、小さな図で検算する習慣をつける

  3. 円形コイル中心の磁界の公式で、問題文の「直径」をそのまま半径として代入してしまう

    なぜ引っかかる直線導体の公式 H = I/(2πr) のrは「導体からの距離」だが、円形コイル中心の磁界 H = I/(2r) のrは「コイルの半径」であり、どちらも同じ文字rを使うため、問題文の寸法が直径か半径かの確認を怠りやすい

    見破り方問題文に出てくる寸法が直径か半径かを最初に丸で囲み、直径であれば必ず2で割ってから公式に代入する、という手順を式を立てる前に済ませる

  4. 扇形導体の外側・内側の円弧による磁界を、向きを確認せずに単純に足し算してしまう

    なぜ引っかかる同じ形の円弧公式を2回使うため力ずくで足せば答えが出ると思い込みやすいが、閉回路の扇形では外側の円弧と内側の円弧で電流が中心に対して逆回りになっており、作る磁界の向きも逆になる。直線(半径方向)部分は中心を通る延長線上にあるため中心には磁界を作らない、という点も見落としやすい

    見破り方右ねじの法則で外側円弧・内側円弧それぞれが中心に作る磁界の向き(紙面の奥か手前か)を個別に矢印で描いてから、同じ向きなら足し算、逆向きなら引き算というように向きを確認してから計算する

  5. 磁気遮へいを、電気を通す導体(金属板)で囲む静電遮へいと同じ仕組みだと思い込む

    なぜ引っかかる『遮へい』という言葉と『金属で囲む』という見た目が共通しているため、静電遮へい(導体で囲み、内部の自由電子の移動で外部電界を打ち消す)と磁気遮へい(強磁性体で囲み、磁束の通り道そのものを迂回させる)を同じ原理だと混同しやすい。

    見破り方静電遮へいは『内部の自由電子が動いて外部電界を打ち消す』仕組みで、導体でありさえすればよい(強磁性体である必要はない)。磁気遮へいは『磁束が磁気抵抗の小さい経路(強磁性体)を選んで通る』仕組みで、単なる導体(銅やアルミ)では効果がなく、鉄などの強磁性体でなければ意味がない、と使う材料の条件で区別する。

  6. 磁気抵抗の比例・反比例の向きを、電気抵抗R=ρl/Sの形と混同して逆に覚えてしまう

    なぜ引っかかる磁気抵抗Rm=l/(μS)は電気抵抗R=ρl/Sとよく似た形だが、電気抵抗の抵抗率ρ(大きいほど電気を通しにくい)と、磁気回路の透磁率μ(大きいほど磁束を通しやすい)とでは、大きい方が『通しやすい』か『通しにくい』かの向きが逆になる。この違いを意識せずに式だけを丸暗記すると、透磁率が大きいときに磁気抵抗も大きくなると誤って覚えてしまう。

    見破り方透磁率μは分母にあるので、μが大きいほど磁気抵抗Rmは小さくなる(磁束が通りやすくなる)、と式の分母・分子の位置から毎回確認する。『強磁性体は磁束を通しやすい=磁気抵抗が小さい』という直感と、Rm=l/(μS)の式(μが分母)が一致することを確かめてから計算に入るとよい。

  7. ヒステリシスループの面積(鉄損)が、周波数や電圧の変化に対して常に同じ向きに増減すると思い込んでしまう

    なぜ引っかかる『周波数を下げる』『電圧を下げる』のどちらも似たような操作に見えるため、両方とも同じ向きにループ面積を変化させると短絡的に考えてしまいやすい。実際にはV≒4.44fNABmaxという関係の中で、電圧一定なら周波数とBmaxは反比例、周波数一定なら電圧とBmaxは比例と、固定している量によって結果の向きが逆になる。

    見破り方まず『何が一定に保たれているか』(電圧か、周波数か、電流か)を確認してから、残りの量がどう動くとBmaxがどう変化するかをV≒4.44fNABmaxの式で追う。電圧一定で周波数低下→Bmax増加→ループ拡大、周波数一定で電圧低下→Bmax減少→ループ縮小、電流一定(H振幅一定)で周波数だけ変化→ループはほぼ不変、と3パターンを式から毎回導き直す。

  8. 磁界がコイルの面に平行なとき、各辺の力の合計がゼロだから『コイルには何も起きない』と結論づけてしまう

    なぜ引っかかる『合力ゼロ=力が働いていない=何も動かない』という直感で考えると、力の大きさと向きだけに気を取られ、力の作用線の位置がずれている場合に生じる回転効果(偶力のモーメント)を見落としてしまう。

    見破り方各辺にはたらく力を個別に矢印で描き、大きさだけでなく『どこに(どの辺に)』働いているかまで確認する。大きさが等しく向きが逆の2つの力が、互いに離れた場所(この場合はh離れた2辺)に働いていれば、合力はゼロでも必ず回転させようとするモーメントが残る、と力の合計とモーメントを別々に検算する。

  9. 磁界と平行な辺(AB・DCなど)にも、垂直な辺と同じ大きさの力が働くと思い込む

    なぜ引っかかる『4辺すべてに電流が流れているのだから、4辺すべてに何らかの力が働くはず』という直感で考えると、F=BIL sinθのsinθ=0(電流とBが平行)という条件を見落としやすい。

    見破り方各辺について、電流の向きと磁界Bの向きのなす角θを個別に確認する。θ=0°(平行)ならF=BIL sinθ=0で力はゼロ、θ=90°(垂直)ならF=BILで最大——4辺すべてに同じ式を機械的に当てはめず、辺ごとに角度を確認してから計算する。

参考文献・出典

理解度チェック(16問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、16問で確認しよう。 内訳は基本7問・応用5問・ひっかけ4問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 16 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 直線電流の周りには同心円状の磁界ができる。向きは右ねじの法則(親指=電流の向き、他の指を握る向き=磁界の向き)で決まる
  2. 直線電流からr[m]離れた点の磁界の強さは H = I/(2πr) [A/m]
  3. 磁界中に置かれた電流に働く力は F = BIL sinθ [N]。向きはフレミングの左手の法則(親指=力、人差し指=磁界、中指=電流)で決まる
  4. 平行な2本の電線は、同じ向きの電流なら引き合い、逆向きの電流なら反発する。単位長さあたりの力は F = μ0 I1 I2/(2πd) [N/m]
  5. 電磁力は電流の積(同じ電流なら2乗)に比例するため、短絡電流のような大電流では力が急激に大きくなる
  6. 円弧状導体(中心角θ[rad]、半径r)が中心に作る磁界は H=(θ/2π)×I/(2r)。θ=2πを代入すると円形コイルの公式 H=I/(2r) に一致する、直線電流の公式の自然な拡張になっている
  7. 強磁性体を磁界中に置くと、磁束は空気中よりも通りやすい(磁気抵抗が小さい)強磁性体の中を選んで通るようになる。強磁性体で中空の空間をまわりから囲むと、磁束はその強磁性体の壁の中を迂回して通り、内部の空間には外部磁界の影響がほとんど及ばなくなる——これを磁気遮へいという
  8. 磁気回路は電気回路のオームの法則とアナロジーが成り立つ(起電力↔起磁力NI、電流↔磁束Φ、抵抗↔磁気抵抗Rm)。磁気抵抗Rm=l/(μS)は磁路長lに比例し、断面積Sと透磁率μに反比例する。単位はH⁻¹。磁束はΦ=Fm/Rm(起磁力÷磁気抵抗)で求まる
  9. 積層鉄心を交流で磁化すると、B-H平面上にヒステリシスループと呼ばれる往復軌跡が現れ、その面積が1周期あたりのヒステリシス損(鉄損の一部)に相当する。コイル電圧の実効値V・周波数f・最大磁束密度Bmaxの間にはおおむねV≒4.44fNABmaxの関係が成り立つため、V一定でfが下がるとBmaxが増えてループは大きくなり、f一定でVが下がるとBmaxが減ってループは小さくなる。一方、コイル電流の実効値(≒Hの振幅)を一定に保ったまま周波数だけが変わっても、ループの形はほとんど変わらない。また、環状鉄心のH=NI/lと測定されたBから、その鉄心の透磁率μ=B/Hを逆算できる
  10. 一様な磁束密度B0中に置かれた1辺h[m]の正方形コイルABCDに電流I[A]が流れているとき、B0がコイル面に平行(例えば辺ABと平行)な向きだと、Bと平行な辺(AB・DC)には力が働かない(電流とBのなす角θ=0でsinθ=0)が、Bと垂直な2辺(AD・BC)にはそれぞれ大きさIhB0[N]の力が互いに逆向きに生じる。合力はゼロでも、この一対の逆向きの力(偶力)はIh²B0[N・m]のモーメント(トルク)を生む——これが可動コイル形計器や直流モータの回転力の発生原理
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