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理論 ・ 7 / 16

電磁誘導とインダクタンス

読み終えると、こうなる

リレーや電磁接触器のコイルを切ったときになぜ火花や高電圧が発生するのかを、電磁誘導の式から説明できるようになる

  • 磁束の変化量と巻数から、コイルに生じる誘導起電力の大きさをファラデーの法則で計算できる
  • レンツの法則を使って、誘導起電力がエネルギー保存則とどう結びついているかを説明でき、リレーコイルを開放したときに誘導サージ(L×di/dt)が発生する仕組みも同じ法則の帰結として説明できる
  • 自己インダクタンスLと電流の変化率から、コイルに生じる誘導起電力を求められ、磁界中を斜めに移動する導体に生じる運動起電力を e=Blv×sinθ(θは速度ベクトルと磁界のなす角)から計算できる
  • 2つのコイルを直列に接続したときの合成インダクタンスの測定値と、それぞれの自己インダクタンスから相互インダクタンスMを逆算し、結合係数k=M/√(L1×L2)を計算できる
考えてみよう

制御盤のリレーや電磁接触器のコイルの回路を開いたとき、接点の間にパチッと小さな火花が飛ぶのを 見たことがあるかもしれない。コイルの定格電圧はせいぜい24Vや100V程度なのに、その何倍、 何十倍もの電圧がその一瞬だけ発生しているとしたら——電流を切っただけの、あの一瞬に何が起きているのか。

このトピックを読み終えるころには、コイルを含む回路を開いたときになぜ高電圧が発生するのか、 その仕組みを式で説明できるようになっている。

種明かしは、前のトピックで見た「磁界が電流を生む」の逆方向の関係にある。 コイルを貫く磁束が変化すると、その変化を打ち消そうとして電圧(起電力)が生まれる。 これが電磁誘導であり、変圧器も発電機も、そしてリレーコイルの誘導サージも、すべて同じ1つの 法則から生まれている。

ファラデーの法則 — 磁束の「変化率」が電圧になる

コイルを貫く磁束 Φ\Phi[Wb]が時間とともに変化すると、コイルには誘導起電力 ee[V]が生じる。

e=NΔΦΔte = -N\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}

NNは巻数。マイナス符号は、あとで見るレンツの法則(変化を妨げる向きに生じる)を表している。 大きさだけを考える場合は、次の式で計算すればよい。

e=NΔΦΔt|e| = N\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}

重要なのは、磁束の大きさではなく「変化率」に比例するという点だ。どんなに大きな磁束でも、 時間的に変化していなければ誘導起電力は生まれない。

例題

巻数100回のコイルを貫く磁束が、0.02秒間に0.5Wbから0.3Wbまで変化した。コイルに生じる誘導起電力の大きさは何Vか。

e=100×0.50.30.02=100×10=1000V|e| = 100 \times \frac{0.5-0.3}{0.02} = 100 \times 10 = 1000\text{V}
磁束の変化が「一定の速さ」ではなく正弦波状(交流)に起きる場合、起電力は磁束の傾き(変化率)が 最も急なところ——つまり磁束の値がちょうどゼロを横切る瞬間——で最大になる。磁束が最大値を とっている瞬間は、逆に変化が一瞬止まっている(傾きがゼロに近い)ため、起電力はむしろ小さい。

レンツの法則 — 変化を「妨げる」向きに生じる理由

誘導起電力の向きは、磁束の変化を妨げる向きに生じる。これをレンツの法則と呼ぶ。 なぜわざわざ「妨げる」向きでなければならないのか。もし逆に「変化を助ける」向きに起電力が生じたら、 磁束の変化はどんどん加速し、外部からエネルギーを与えなくても電流が増え続けることになってしまう。 それはエネルギー保存則に反する。レンツの法則は、電磁誘導がエネルギー保存則と矛盾しないための 必然的な帰結でもある。

発電機のように、コイルを磁界の中で動かして起電力を作る場合は、フレミングの右手の法則 (親指=運動の向き、人差し指=磁界、中指=誘導起電力の向き)で向きを求められる。前のトピックで 扱ったフレミングの左手の法則(モーターの力の向き)とは指の役割が入れ替わっている点に注意したい。 「左手はモーター、右手は発電機」という対応を先に固定しておくと取り違えを防げる。

運動起電力 — 磁界の中を「動く」ことで生まれる電圧

ファラデーの法則 e=NΔΦ/Δte=N\Delta\Phi/\Delta t は「磁束の変化」という抽象的な量から出発したが、 発電機のように導体そのものが磁界の中を動く場合は、もっと具体的な形の式で書き直せる。

磁束密度 BB[T]の一様な磁界の中に、長さ ll[m]の直線導体を置き、速さ vv[m/s]で動かすと、 導体に生じる誘導起電力(運動起電力)は次の式で求まる。

e=Blvsinθe = Blv\sin\theta

θ\theta速度ベクトルと磁界の向きがなす角だ。多くの出題では、導体自身は常に磁界と 直角(90°)の関係を保ったまま、その移動方向(速度)だけが磁界に対して斜めになる—— つまり「導体の向き」と「速度の向き」は別物であり、θ\thetaは後者にだけ関わる角度だという 点に注意したい。速度が磁界と直角(θ=90°\theta=90°)のときは e=Blve=Blv とシンプルになり、 これは面積の変化率からファラデーの法則を導いた形と一致する。

例題

磁束密度0.5Tの一様な磁界中に、長さ0.4mの直線導体を磁界と直角に置いた。この導体が 磁界との直角の関係を保ったまま、磁界に対して30°の角度をなす方向に2m/sの速さで 移動しているとき、導体に生じる運動起電力の大きさは何Vか。

e=Blvsinθ=0.5×0.4×2×sin30°=0.4×0.5=0.2Ve = Blv\sin\theta = 0.5\times0.4\times2\times\sin30° = 0.4\times0.5 = 0.2\text{V}
$\theta$を取り違えやすいのは、磁界中の電流に働く力の式 $F=BIL\sin\theta$(前のトピックで 扱った)と見た目がそっくりだからだ。あちらのθは「導体の向きと磁界の向き」がなす角だったが、 運動起電力のθは「速度の向きと磁界の向き」がなす角であり、対象が違う。導体の向き・速度の 向き・磁界の向きの3本を図に描き分けてから、どの2本のなす角を聞かれているかを確認する 習慣をつけたい。

自己インダクタンス — コイル自身が「電流の変化を嫌う」性質

コイルに流れる電流そのものが変化すると、その電流が作る磁束も変化するため、コイル自身にも 誘導起電力が生じる。これを自己誘導といい、その大きさを表す定数が自己インダクタンス LL[H](ヘンリー)だ。

e=LΔiΔte = -L\frac{\Delta i}{\Delta t}

電流が急に変化しようとするほど、それを妨げる向きに大きな起電力が生じる。コイルには 「電流の変化を嫌う」性質がある、と言い換えてもいい。

例題

自己インダクタンス0.2Hのコイルに流れる電流が、0.1秒間に5Aから3Aまで減少した。コイルに生じる誘導起電力の大きさは何Vか。

e=0.2×530.1=0.2×20=4V|e| = 0.2 \times \frac{5-3}{0.1} = 0.2 \times 20 = 4\text{V}

コイルにはさらに、電流に応じたエネルギーが蓄えられている。

W=12LI2W = \frac{1}{2}LI^2

なぜリレーコイルを切ると高電圧が出るのか

自己誘導の式 e=LΔi/Δte=-L\Delta i/\Delta t をよく見てほしい。分母の Δt\Delta t(電流が変化するのにかかった時間)が 小さいほど、eeは大きくなる。リレーや電磁接触器の接点を開くという操作は、それまで流れていた 電流の経路を物理的に断ち切る行為であり、電流はごく短い時間でほぼ0まで落ちようとする。 つまり Δt\Delta tが極端に小さくなる。

自己インダクタンス0.4Hのリレーコイルに定常的に2Aの電流が流れている状態で接点を開き、 電流が0.5ミリ秒(0.0005秒)でほぼ0Aまで急減したとすると、

e=0.4×20.0005=0.4×4000=1600V|e| = 0.4 \times \frac{2}{0.0005} = 0.4 \times 4000 = 1600\text{V}

定格電圧が数十Vのコイルでも、開放の瞬間には1000Vを超える誘導サージが発生しうる。 これが、リレーや電磁接触器のコイルにサージ吸収用のダイオード(フリーホイールダイオード)や CR素子を並列に入れる実務上の理由だ。コイルを保護するだけでなく、隣接する半導体素子や 制御回路をこの高電圧から守るために必須の部品になっている。

なお、一次側のコイルの電流変化が離れた二次側のコイルに起電力を誘導する現象は相互誘導と呼ばれ、 e2=MΔi1/Δte_2 = -M\Delta i_1/\Delta tMMは相互インダクタンス)で表される。変圧器はこの相互誘導を利用して、 電圧を変換している。

結合係数k — 2つのコイルが「どれだけ結びついているか」を測る

相互インダクタンスMMは、2つのコイルがどれだけ強く磁気的に結びついているかを表す量だが、 MMの値そのものを直接測定するのは難しい。実務では、自己インダクタンスが既知の2つの コイルを直列に接続したときの合成インダクタンスから、MMを逆算する方法がよく使われる。

2つのコイル(自己インダクタンスL1L_1L2L_2)を、それぞれが作る磁束が強め合う向き (和動接続)でつなぐと、合成インダクタンスは次のようになる。

L=L1+L2+2ML = L_1 + L_2 + 2M

もし磁気的な結合が一切なければM=0M=0で単純な足し算L=L1+L2L=L_1+L_2になるはずだが、実際の 測定値がそれより大きければ、その超過分(2M2M)が2つのコイルの結合の強さを表している。 逆に磁束が弱め合う向き(差動接続)でつなげば、L=L1+L22ML=L_1+L_2-2Mになる。

MMが求まったら、結合係数 kk を計算できる。

k=ML1L2(0k1)k = \frac{M}{\sqrt{L_1 L_2}} \qquad (0 \le k \le 1)

k=1k=1は2つのコイルの磁束が漏れなく完全に結びついている理想的な状態(理想変圧器に近い)、 k=0k=0は磁気的に無関係な状態を意味する。

例題

自己インダクタンス50mHのコイルAと20mHのコイルBを、磁束が強め合う向き(和動接続)で 直列に接続して測定したところ、合成インダクタンスは100mHであった。相互インダクタンスMMと 結合係数kkを求めよ。

M=LL1L22=10050202=15mHM = \frac{L-L_1-L_2}{2} = \frac{100-50-20}{2} = 15\text{mH} k=ML1L2=1550×20=1510001531.60.47k = \frac{M}{\sqrt{L_1 L_2}} = \frac{15}{\sqrt{50\times20}} = \frac{15}{\sqrt{1000}} \fallingdotseq \frac{15}{31.6} \fallingdotseq 0.47
和動接続・差動接続のどちらで測定したかによって、$L_1+L_2$からのずれの符号が変わる点に 注意する。和動接続なら合成インダクタンスは$L_1+L_2$より大きく($+2M$)、差動接続なら 小さくなる($-2M$)。どちらの接続かが問題文に明記されていない場合は、まず$L$と $L_1+L_2$の大小を比較し、大きければ和動・小さければ差動と判断してから$M$を逆算する。 また$k$は必ず0〜1の範囲に収まるはずなので、計算結果がこの範囲を外れたら式のどこかで 符号や分母・分子を取り違えている、という検算にも使える。

冒頭のリレー接点で飛んだ火花の正体——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 磁束Φの「変化率」と磁束そのものの「大きさ」を混同する

    なぜ引っかかるe=-NdΦ/dtは磁束の変化率に比例するのであって、磁束の大きさそのものには比例しない。一定の磁束(変化しない磁束)ではどれだけ大きくても誘導起電力は0になる

    見破り方式にdΦ/dt(時間あたりの変化量)と明記されていることを確認する。「磁束が一定=変化なし=起電力0」というケースを頭の中で作れるかどうかを検算に使う

  2. レンツの法則の向きを、フレミングの右手の法則の指の割り当てと混同する

    なぜ引っかかる右手の法則(親指=運動の向き、人差し指=磁界、中指=誘導起電力の向き)は発電機の起電力の向きを求める手段だが、左手の法則(モーターの力、磁界と電力)と指の役割が入れ替わっており混同しやすい

    見破り方「右手は発電機(運動から電気を作る)、左手はモーター(電気から力を作る)」という対応を先に固定してから、指の役割(親指・人差し指・中指)を思い出す

  3. コイルの回路を開いた瞬間、電流はすぐに0になるので危険はないと考える

    なぜ引っかかる自己インダクタンスは電流の変化を妨げる性質を持つため、回路を急に開くと電流の変化率di/dtが一瞬で非常に大きくなり、e=-Ldi/dtで極めて大きな誘導起電力(サージ電圧)が発生する。電流がすぐ0になることと、その過程で高電圧が生じることは別の現象

    見破り方「回路を開く=電流の変化率di/dtが一瞬で非常に大きくなる」という視点に切り替える。di/dtが大きいほどLdi/dtは大きくなり、遮断の瞬間ほど高電圧が発生しやすいと理解する

  4. 運動起電力e=Blvsinθのθを、導体の向きと磁界の向きがなす角だと勘違いする

    なぜ引っかかるF=BILsinθ(磁界中の電流に働く力)のθが『導体と磁界のなす角』だったことに引きずられ、運動起電力の式でも同じ対象を角度に当てはめてしまう。しかし典型的な出題では導体自身は常に磁界と直角を保ったまま、移動方向(速度ベクトル)だけが磁界に対して斜めになる。

    見破り方『導体の向き』『速度の向き』『磁界の向き』の3つを別々に図に描き分ける。多くの問題では導体⊥磁界が固定条件として先に示されており、θはその固定条件とは別に『速度ベクトルと磁界の向き』の間だけで測る角度だと確認してから式を立てる。

  5. 2つのコイルを直列接続したときの合成インダクタンスから、単純にL=L1+L2として相互インダクタンスMの存在を見落とす

    なぜ引っかかる抵抗の直列接続(単純な足し算)の感覚のまま、インダクタンスの直列接続にも同じ式を当てはめてしまうと、2つのコイルが磁気的に結合している場合に生じる±2Mの項を忘れてしまう。

    見破り方2つのコイルが同じ鉄心やその近くに巻かれている(磁気的に結合している)かどうかをまず確認する。結合していれば、和動接続でL=L1+L2+2M、差動接続でL=L1+L2-2Mとなり、単純な足し算L1+L2からのずれ(±2M)そのものが相互インダクタンスMの測定値になる、と捉え直す。

参考文献・出典

理解度チェック(9問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、9問で確認しよう。 内訳は基本5問・応用2問・ひっかけ2問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 9 問正解

覚えておきたいポイント

  1. ファラデーの法則:コイルを貫く磁束Φが変化すると、誘導起電力 e = -N dΦ/dt が生じる(Nは巻数)
  2. レンツの法則:誘導起電力は磁束の変化を妨げる向きに生じる。これはエネルギー保存則の帰結でもある
  3. 自己インダクタンスL:e = -L di/dt。電流の変化を妨げる向きに起電力が生じ、単位はヘンリー[H]
  4. コイルに蓄えられるエネルギー W = (1/2)LI^2
  5. 相互インダクタンスM:一次側の電流変化が二次側に e2 = -M di1/dt の起電力を誘導する(変圧器の原理)
  6. 磁界中を移動する導体に生じる運動起電力は e = Blv sinθ(Bは磁束密度、lは磁界中にある導体の長さ、vは速度、θは速度ベクトルと磁界の向きのなす角)。導体自身は常に磁界と直角を保ったまま、移動方向(速度)だけが磁界に対して斜めになる問題が多い。θ=90°(速度が磁界と直角)ならe=Blvとなり、ファラデーの法則を面積の変化率から導いた形と一致する
  7. 自己インダクタンスL1・L2を持つ2つのコイルを、磁束が強め合う向き(和動接続)で直列につなぐと合成インダクタンスはL=L1+L2+2M。逆に弱め合う向き(差動接続)ならL=L1+L2-2Mになる。ここから相互インダクタンスMを逆算し、結合係数k=M/√(L1×L2)(0≤k≤1)を求められる。kは2つのコイルの磁束がどれだけ結びついているかを表す指標で、k=1は漏れ磁束がない理想的な結合、k=0は磁気的に無関係な状態を意味する
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