考えてみよう
電気料金の明細をよく見ると、「力率」という欄がある。工場やビルの受電設備には、
コンデンサだけが何個も並んだ大きな盤が置かれていることも多い。
なぜ電力会社は、契約の力率が悪いと割増料金を取るのか。そして、コンデンサを1つ足しただけで、
なぜ電気料金が下がるのか——コンデンサは電気を消費するどころか、むしろ蓄える部品のはずなのに。
このトピックを読み終えるころには、受電設備にあるコンデンサ盤を見て、
それが何をしているかをその場で説明できるようになっている。
種明かしは、交流回路には「実際に仕事をする電力」と「電源との間を行ったり来たりするだけで
仕事をしない電力」の2種類があり、その配分比率を表すのが力率だという事実にある。
3つの電力 — 有効電力・無効電力・皮相電力
直流回路では、電力は P=VI の1つの式だけで決まった。ところが交流回路にコイルや
コンデンサが混ざると、電圧と電流の位相(タイミング)がずれる。このずれの角度を φ とすると、
交流回路の電力は3種類に分かれる。
P=VIcosφ [W](有効電力),Q=VIsinφ [var](無効電力),S=VI [VA](皮相電力)
- 有効電力 P:モーターを回す、ヒーターを発熱させるといった、実際に仕事に使われる電力。単位は普段見慣れたW(ワット)。
- 無効電力 Q:コイルやコンデンサが電源との間でエネルギーをやり取りするだけで、仕事はしない電力。単位はvar(バール)。
- 皮相電力 S:電源設備(発電機・変圧器・配線)が実際に供給しなければならない電力の見かけ上の大きさ。単位はVA(ボルトアンペア)。
この3つは、直角三角形の関係(電力の三角形)にある。
S2=P2+Q2
そして力率とは、皮相電力のうちどれだけが有効電力として実際に仕事に使われているかを表す比率だ。
cosφ=SP
力率は必ず0以上1以下の値になる。力率1(100%)は、無効電力がゼロで、電源が供給する電力が
すべて仕事に使われている理想的な状態を意味する。
例題
電圧200V、電流5A、力率0.7の負荷が消費する有効電力はいくらか。
P=VIcosφ=200×5×0.7=700W
力率の式で分子・分母を迷ったら、「力率は必ず1以下」という性質で検算できる。P/Sのつもりが
逆になっていれば、計算結果が1を超えてしまい、その場でミスに気づける。
RL回路の力率 — インピーダンス三角形から求める
コイル(インダクタンス)を含むRL直列回路では、抵抗 R とリアクタンス X から、
インピーダンス Z と力率を次のように求められる。
Z=R2+X2,cosφ=ZR
R・X・Zも直角三角形(インピーダンス三角形)の関係にあり、電力の三角形と相似の形になっている。
「実際に仕事をする」という意味で、Rが有効電力側、Xが無効電力側に対応していると考えれば、
力率の分子に必ずRが来ることも自然に理解できる。
例題
抵抗8Ω、リアクタンス6ΩのRL直列回路に電圧100Vを加えた。この回路が消費する有効電力はいくらか。
Z=82+62=10Ω,I=10100=10A,cosφ=108=0.8
P=I2R=102×8=800W
同じ問題を P = VIcosφ = 100 × 10 × 0.8 = 800W で計算しても、当然同じ答えになる。
どちらの式で解けるか(そして両方が一致すること)を確認しておくと、本番での検算に使える。
なぜ受変電設備にコンデンサが並んでいるのか
モーターなど誘導性(コイル的な性質を持つ)負荷が多い工場では、力率が0.6〜0.8程度まで
下がることがある。力率が低いということは、同じ有効電力を得るために、より多くの電流を
電源から引き込まなければならないということだ。電流が増えれば、配線での電圧降下や
発熱による損失も大きくなり、電力会社の設備にも余分な負担がかかる。そのため電力会社は、
契約力率が一定水準を下回ると割増の料金を課す仕組みを設けていることが多い。
ここで使われるのが、力率改善用の進相コンデンサだ。コンデンサはコイルとは逆の性質
(電流の位相を進める性質)を持つため、負荷側の誘導性の無効電力の一部を、コンデンサ側で
打ち消し合うようにまかなえる。その結果、電源から見た無効電力・皮相電力・電流が減り、
力率が1に近づく。
ただし注意したいのは、コンデンサが増やすのは電源側から見た「効率の良さ」であって、
モーターが行う仕事の量(有効電力)そのものではないという点だ。モーターは力率改善の前後で
同じ仕事をしているにすぎない。受変電設備のコンデンサ盤は、電力を作り出しているのではなく、
無駄な電流のやり取りを減らして電源設備の負担を軽くしている——この違いを押さえておくと、
力率にまつわる問題で惑わされにくくなる。
力率を1にするために必要なコンデンサ容量を計算する
「コンデンサを入れると力率が良くなる」ことは分かっても、実務では「では何μFのコンデンサを
選定すればよいか」という具体的な数値が必要になる。ここまでの電力の三角形の考え方を使えば、
必要な静電容量Cを式で求められる。
コンデンサが電源から吸収する無効電力(進み無効電力)は、次の式で表される。
Qc=ωCV2
Vは電源電圧(実効値)、ω=2πfは角周波数だ。コンデンサは負荷とは逆方向(進み)の
無効電力を生み出すため、負荷の遅れ無効電力QLとちょうど同じ大きさのQcを用意できれば、
電源から見た無効電力はゼロ(力率1)になる。
Qc=QL⟹ωCV2=QL⟹C=ωV2QL
例題
電圧200V・周波数50Hzの電源に、有効電力6kW、力率0.6(遅れ)の誘導性負荷が接続されている。
力率をほぼ1まで改善するために必要なコンデンサの静電容量Cを求める。
まず負荷の無効電力QLを、電力の三角形から求める。
S=cosφP=0.66000=10000VA,QL=S2−P2=100002−60002=8000var
角周波数ω=2π×50≒314.2rad/sを使って、
C=ωV2QL=314.2×20028000≒6.37×10−4F=637μF
コンデンサ容量の計算は「①負荷の無効電力Q_Lを求める→②コンデンサの無効電力Q_cをQ_Lに
一致させる→③Q_c=ω CV^2からCを逆算する」という3段階に分けて考えると迷わない。
途中で皮相電力Sや有効電力PをそのままQ_Lの代わりに使ってしまうミスが多いが、
Cの式に入るのは必ず無効電力Q_L(var単位の量)であることを確認してから計算する。
なお、目標を力率1ではなく途中の値(例えば0.95)に留める場合は、Q_c=P(tanφ_1-tanφ_2)
のように、改善前後の力率角の差分だけコンデンサに負担させればよい。
過去問の型で解く——力率が分かっている負荷に、コンデンサをつなぐ
力率の計算問題は、「力率が与えられた誘導性負荷に、素子を並列につなぐと電源電流がどう変わるか」という型の問題がある。電力の三角形で解くこともできるが、電流を有効分と無効分に分けて考えると暗算に近い速さで解ける。
例題
単相200V、50Hzの電源に、有効電力3.2kW、力率0.8(遅れ)の負荷をつなぐ。
(a) 電源電流を求めよ。(b) コンデンサを並列につないで力率を1にしたときの電源電流と、必要な静電容量を求めよ。(c) 力率を0.95(遅れ)までに留める場合の、コンデンサの無効電力を求めよ。
(a) 電流は I=P/(Vcosφ) で求める。
I=200×0.83200=20A
この20Aを、電圧と同位相の有効電流 Icosφ=16A と、電圧より90°遅れた無効電流 Isinφ=12A に分ける。
(b) 力率を1にするには、コンデンサに、負荷の無効電流12Aとちょうど逆向き・同じ大きさの電流(進み電流)を流させればよい。すると無効電流が打ち消され、電源電流は有効電流の16Aだけになる。20Aから16Aへ、20%減った。
コンデンサ電流は Ic=ωCV なので、
C=ωVIc=314.2×20012≈1.91×10−4F=191μF
電力で解いても同じだ。QL=3200×tanφ1=3200×0.75=2400var、C=QL/(ωV2)=2400/(314.2×2002)≈191μF。
(c) 目標を力率0.95にするなら、tanφ2=1−0.952/0.95≈0.329。
Qc=P(tanφ1−tanφ2)=3200×(0.75−0.329)≈1348var
力率1のときの2400varより小さい。0.95で止めると、コンデンサの容量も力率1の約56%で済む。
型を解く順序は、「①電流を有効分と無効分に分ける → ②コンデンサ(または並列素子)が打ち消す・足す電流を決める → ③電源電流を (有効分)2+(無効分)2 で出す」。力率の差を、cosの差で扱ってはいけない。目標が力率1以外のときは、tanφ の差(tanφ1−tanφ2)を使う。
冒頭の「力率が悪いと料金が上がり、コンデンサを足すと下がる」理由の答え合わせは、
理解度チェックの最後の問題でしてみよう。