制御盤のタイマーリレーは、スイッチを入れてから一定時間が経つと接点が切り替わる。 また、大きなモーターに電源を入れた瞬間、電流計の針は一気に振り切れるのではなく、 ある大きさまで跳ね上がった後、じわじわと落ち着いていくように動く。
なぜ電気は「一瞬でパッと切り替わる」のではなく、「なめらかに変化する時間」を持つのか。 そしてその「間」の長さは、何によって決まっているのか。
このトピックを読み終えるころには、スイッチを入れた瞬間の電圧・電流の変化のようすを見て、 その「間」がどれくらいの長さになるかを、回路の定数から言い当てられるようになっている。
種明かしは、コンデンサやコイルが持つ「エネルギーを蓄える」という性質にある。 これらの部品は、電圧や電流を一瞬で変化させることができず、必ず時間をかけて 新しい状態に落ち着いていく。この落ち着くまでの過程を過渡現象、その速さの目安を 時定数と呼ぶ。
RC回路 — コンデンサの充電・放電と時定数
抵抗 とコンデンサ を直列につないだ回路にスイッチを入れると、コンデンサの電圧は 0Vから電源電圧 に向かって、次の式にしたがって変化する。
(タウ)が時定数で、単位は秒になる。 は という次元になっており、この単位の一致は式を思い出す際の検算にも使える。
指数関数 は、 が時定数の何倍かによって、次のように変化していく。
| 経過時間 | 最終値に対する到達率 |
|---|---|
| 約63.2% | |
| 約86.5% | |
| 約95.0% | |
| 約99.3%(実務上ほぼ完了とみなせる) |
例題
抵抗5kΩ、静電容量200µFのRC回路の時定数はいくらか。
放電のときは逆に、コンデンサに蓄えられていた電圧 が、時間とともに0Vへ向かって 減っていく。
を代入すると となり、元の電圧の約36.8%まで下がる (裏を返せば、63.2%減ったということ)。充電の63.2%(到達率)と、放電の36.8%(残存率)を 取り違えないよう、「充電は増えて近づく、放電は減って残る」と動きの向きで覚えておきたい。
RL回路 — コイルに流れる電流の増加・減少と時定数
抵抗 とコイル(インダクタンス )を直列につないだ回路でも、同じ形の現象が起きる。 ただし、コンデンサが電圧の変化を妨げるのに対して、コイルは電流の変化を妨げるという 違いがある。
RL回路の時定数は で、RC回路の とは掛け算・割り算の形が逆になる。 これも単位で検算できる。 は という次元になっており、 RCが「掛け算で秒になる」のに対し、RLは「割り算で秒になる」形だと対で覚えておくと 取り違えにくい。
例題
インダクタンス0.6H、抵抗3ΩのRL回路の時定数はいくらか。
LとCが両方そろうと何が起きるか — RLC回路の過渡現象とエネルギー保存
ここまで見てきたRC回路・RL回路は、変化を妨げる「エネルギーを蓄える要素」がコンデンサか コイルのどちらか一方だけだった。この場合、電圧・電流は必ず指数関数的に単調に (振動せず)最終値へ近づいていく。
だが、コイルとコンデンサが両方そろった回路(RLC回路)では話が変わる。コイルと コンデンサは、それぞれ違う形でエネルギーを蓄える(コイルは電流=磁気エネルギー、 コンデンサは電圧=静電エネルギー)ため、この2つの間でエネルギーが行ったり来たり やり取りされる場面が生まれる。その結果、抵抗Rが十分に大きい(制動が強い)場合は RC・RL回路と同じように単調に最終値へ近づくが、Rが小さい(制動が弱い)場合は、 電流や電圧が最終値を一旦追い越してから、振動しながら収束する(オーバーシュート) ことがある。
波形そのものを式で追いかけるのは複雑だが、外部電源がない回路であれば、指数計算を 一切せずに「抵抗で最終的にどれだけの熱が発生するか」を求める近道がある。それが エネルギー保存則だ。コイルもコンデンサも、十分に時間が経てば最終的には エネルギーを蓄えていない状態(コンデンサの電圧0、コイルの電流0)に落ち着く。 途中でどれだけ振動しようと、外から補充されるエネルギーがない以上、最初に蓄えられて いたエネルギーは、行き先を変えながらも最終的にはすべて抵抗の熱として消費される。
例題
静電容量4μFのコンデンサが電圧100Vに充電されている。このコンデンサに抵抗50Ωと インダクタンス2Hを直列に接続した回路がある。スイッチを閉じてから十分に時間が経過し、 コンデンサの電圧が最終的に0Vになった。この間に抵抗で消費された電気エネルギーはいくらか。
コンデンサに最初に蓄えられていた静電エネルギー20mJが、途中でコイルとの間を 行き来しながらも、最終的にはすべて抵抗で消費される。抵抗の値やインダクタンスの値 (この例では50Ω、2H)は、実は答えの数値そのものには関係しない——波形の形 (振動するかどうか)を左右するだけで、最終的に消費される総エネルギーは 「最初に蓄えられていたエネルギーがすべて」という保存則だけで決まる。
なぜ実務でこの「間」が使われるのか
タイマーリレーや遅延回路の中には、RC回路の時定数を利用して「一定時間後に動作させる」 仕組みを作っているものがある。抵抗値や静電容量を変えれば時定数を調整できるため、 遅延させたい時間に応じて部品の定数を選ぶ、という設計の考え方が成り立つ。
また、モーターに電源を入れた瞬間に流れる大きな電流(突入電流)が、時間とともに 定格電流まで落ち着いていくのも、モーターの巻線が持つインダクタンス成分によるRL的な 過渡現象の一種として理解できる。制御盤の設計や保護装置の整定(動作条件の設定)を考えるうえで、 「変化には必ずこれだけの時間がかかる」という感覚を持っていることは、実務でも役に立つ。
スイッチを入れた瞬間・十分後の回路 — 短絡・開放の「早見表」
ここまでは、時間の経過とともに電圧・電流がどう変化していく途中を追いかけてきた。 だが試験でよく問われるのは、指数関数の計算そのものよりも、始点(t=0)と終点(t→∞) だけを素早く求める場面だ。実はこの2点は、コンデンサとコイルをそれぞれ「短絡」か「開放」に 置き換えるだけで、指数計算なしに求められる。
- t=0(スイッチを入れた直後):それまで電荷が0だったコンデンサは、V。 両端の電圧が0Vということは、そこには抵抗0の導線(短絡)があるのと同じ状態だ。 一方、それまで電流が0だったコイルは、電流の急な変化を嫌う性質(自己誘導)により、 スイッチを入れた直後もまだ電流が0のまま——電流が流れない状態は、開放とみなせる。
- t→∞(十分に時間が経過した定常状態):コンデンサは電圧が一定値まで充電しきると、 それ以上電流が流れ込まなくなる()ため、開放とみなせる。コイルは 電流が一定値に落ち着くと、誘導起電力が消える()ため、ただの導線 (短絡)とみなせる。
例題
電源電圧E=12V、R1=3Ω(電源・スイッチと直列)に続く節点から、R2=6Ωの抵抗が直接、 もう一方でR3=3Ωと初期電荷0のコンデンサが直列になった枝が、それぞれ並列に接続されている 回路がある。スイッチを閉じた瞬間(t=0)の電流と、十分時間が経過した定常状態の 電流を求めよ。
t=0では、コンデンサは短絡とみなせる。すると節点から先はR2とR3の並列になる。
t→∞では、コンデンサは開放とみなせる。すると電流はR3側の枝には流れず、R1とR2の直列だけを通る。
冒頭のタイマーリレーやモーター起動時の電流変化——その「間」の長さがどう決まっているか、 答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。