本記事の事例は、安全啓発を目的として典型的な事象を再構成したものです。特定の現場・企業を指すものではありません。
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1. 【現場のやらかし事例】「同じルートだから」と動力線用の金属ダクトにLANケーブルを這わせたら、サーボモーター起動時に制御がフリーズした話
ある食品加工工場のライン自動化(FA化)工事において、新設したコンベアシステムとメインの制御盤(PLC)を接続するため、イーサネット用LANケーブルを新たに敷設する配線工事を行いました。
配線ルートには、三相200Vの動力用電力ケーブル(CVTケーブル)やインバータ制御のサーボモーター用ケーブルが通る、幅300mmの天井金属ダクトがすでに設置されていました。 電気工事の担当者は、「新しく弱電用の配管ルートを作るのはコストも時間もかかる。ダクトの中にまだ十分なスペースがあるから、この中にLANケーブルを一緒に転がしてしまおう」と判断。一般的なオフィス用LANケーブル(UTP Cat6)を動力用ケーブルと束ねる形で、約30メートルにわたって並行して密着配線してしまいました。
工事完了後の試運転では、最初は正常に通信できていました。しかし、製造ラインを本格稼働させ、インバータを介した大型モーターが頻繁に加減速を繰り返すようになると、突如コンベアの通信システムがエラーを起こし、緊急停止するトラブルが発生したのです。 制御盤の通信ログを見ると、モーターの起動タイミングと完全に同期して、通信パケットの損失(パケットロス)が急増し、ネットワークが一時切断されていました。
原因は「動力ケーブルからの電磁誘導による、弱電LANケーブルへのノイズ侵入」でした。 インバータからモーターへ送られる電流には、高速なスイッチングに伴う高周波ノイズが大量に含まれています。これが強電線と密着・並行配線されたLANケーブルに電磁誘導として飛び火し、通信データ(デジタル信号の波形)を壊してしまっていたのです。 結局、LANケーブルをすべてシールド付き(STP)に引き直し、ダクト内で動力線から30cm以上の離隔距離を確保して仕切板を設置する改修工事を行う羽目になりました。
2. なぜ強電線と弱電線を近づけると通信障害が起きるのか?「電磁誘導ノイズ」のメカニズム
電気工事の実務において、電気を送る「強電(パワー回路)」と、信号を送る「弱電(信号・通信回路)」は、物理的に交わらないように設計するのが鉄則です。これらが接近すると、以下の電磁気的作用によって通信データが破壊されます。
- 電磁誘導(トランス作用): 強電線に大電流や急激に変化する電流(インバータ制御やモーター始動電流など)が流れると、その周囲に強力な磁界が発生します。隣接する弱電線(LAN等)がその磁界を横切ることで、弱電線側にもノイズ電圧(誘導起電力)が発生してしまいます。
- 静電誘導(キャパシタ作用): 強電線の電圧変化によって発生する電界が、周囲の弱電線との間の静電容量を介してノイズ電流を流し込みます。特にインバータのような高周波の電圧変動は、わずかな隙間をも通り抜けて信号線を汚染します。
3. ノイズ干渉をシャットアウトする正しい配線設計ルール
現場での通信フリーズや信号誤作動を未然に防ぐための、配線上の3大ルールです。
① 離隔距離(ソーシャルディスタンス)の確保
強電線(AC100V/200V/400V)と弱電線(LAN、同軸、計装用ツイストペア線、信号線)を並行して配線する場合、電磁誘導ノイズを防ぐための実務上の目安として、以下の離隔距離を確保するのが望ましいとされています。
- 一般配線(管なし・シールドなし): 最小 30cm以上 の距離を離す(配線設計・EMC対策上の一般的な推奨値)。
- 金属板(仕切板)や接地された金属管で隔てる場合: シールド効果により、より近接した配線が可能になります。
- 交差する場合: 並行部を避けるため、可能な限り「直角(90度)」に交差させます。並行する部分が短ければ短いほど、ノイズの発生を抑えられます。
※なお、低圧屋内配線と弱電流電線との離隔については、電気設備技術基準・内線規程でも工事方法(がいし引き工事は原則10cm以上等)ごとに規定がありますが、これは感電・絶縁劣化防止が目的の規定であり、上記のノイズ対策としての離隔距離とは別の観点の基準です。
② シールド付きケーブル(STP)と適正接地の使用
電磁ノイズが飛び交う工場現場などでは、必ずアルミ箔等の遮蔽層を持つ「STPケーブル(シールドLANケーブル)」を使用します。 ただし、STPケーブルのシールド層にたまったノイズ電流をアースに逃がすため、両端(または片端)のコネクタに金属製シールドプラグを使用し、接地されたスイッチングハブや盤の金属フレームへ落とす処理(グラウンディング)が不可欠です。
③ 後付けノイズシールドチューブの活用
既設の配線ルートを大きく変えられない場合は、LANケーブル側、またはノイズ源となる強電線側に「ノイズシールドチューブ(アルミ箔や導電性メッシュが内蔵されたジッパー式チューブ)」を被せて接地させる方法が非常に有効です。
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