オフィスビル、商業施設、工場の防犯セキュリティカメラや天井部のアクティブWi-Fiアクセスポイント(AP)の設置において、電源工事が不要なPoE(Power over Ethernet)給電は標準的な施工方法となっています。
しかし、近年はドーム型旋回カメラ(PTZ)や高出力アクセスポイントの登場に伴い、PoEの給電規格は最大90W(PoE++)へと高出力化しています。これにより、弱電線であるはずのLANケーブルに比較的大きな電流が流れるようになり、「電圧降下による起動エラー」や「束ねたケーブルの発熱による通信ロス」といった新たなトラブルが現場で多発しています。
本ガイドでは、PoE給電における配線設計の注意点と、安定動作に必要なカテゴリー6A(Cat6A)ケーブル等の選定基準を技術解説します。
1. PoE規格の進化と流れる「電流値」
PoEは、LANケーブル内の空き芯線、またはデータ通信線に直流(DC)電圧を重畳して送電します。規格の進化に伴い、電圧と電流値は以下のように上昇しています。
| 規格名(通称) | 標準規格 | 給電側最大電力 | 受電側(端末)電力 | 主な用途 | 推定最大電流値(1対あたり) |
|---|---|---|---|---|---|
| PoE | IEEE 802.3af | 15.4W | 12.95W | 固定型防犯カメラ、IP電話 | 約350mA |
| PoE+ | IEEE 802.3at | 30.0W | 25.5W | PTZカメラ、通常Wi-Fi AP | 約600mA |
| PoE++(Type3) | IEEE 802.3bt | 60.0W | 51.0W | 高性能Wi-Fi AP、屋外カメラ | 約600mA(4対使用) |
| PoE++(Type4) | IEEE 802.3bt | 90.0W | 71.3W | サイネージ、薄型照明器具 | 約960mA(4対使用) |
Type 4(最大90W)は4対すべてで給電するため、1対あたり最大約960mA、ケーブル全体では約1.9Aに達します。これは弱電線にとっては決して無視できない電流量であり、電線自体の発熱と電気抵抗による損失を引き起こします。
2. LANケーブルの電気抵抗と「電圧降下」トラブル
電圧降下は、電線の電気抵抗 と電流 によって発生します()。 LANケーブルは電力線に比べて導体が非常に細いため、導体抵抗が大きく、配線距離が長くなるほど(規格上の限界である100mに近づくほど)顕著に電圧が降下します。
AWGサイズ(導体の太さ)の選定が分かれ道
LANケーブルの仕様書に記載されている「AWG(American Wire Gauge)」という数値は、導体の太さを示しており、数値が小さいほど導体が太く、抵抗値が低くなります(※AWGと日本のスケア(sq)の正確なサイズ対応については、こちらのAWG-SQサイズ相互換算対応表ガイドを参照してください)。
- AWG26(極細・ヨリ線パッチケーブル等): 抵抗が非常に高く、PoE給電には不適(電圧降下が大きく、発熱しやすい)。
- AWG24(一般的なCat5e/Cat6単線): 通常のPoE/PoE+(30W以下)であれば100mの給電が可能。
- AWG23(一般的なCat6A単線): 導体径が約0.57mmと太く、高出力のPoE++(90W)環境でも電圧降下を最小限に抑え、安定した受電電圧を確保可能。
受電機器(防犯カメラなど)は、入力電圧が動作下限値(PoE+なら約42.5V、PoE++なら約41V)を下回ると、システムが立ち上がらず、無限再起動(リブート)を繰り返す現象が発生します。これを防ぐためには、長距離配線かつ高出力給電の環境では、AWG23等の太い単線導体を採用したケーブルを選定することが不可欠です。
3. 配線ダクト内の「熱こもり」と電流減少係数
PoE給電を行うLANケーブルを金属電線管やプラスチック製配線ダクト内に密着させて多数配線(多条敷設)すると、各電線が発生する熱が周囲に蓄積し、温度が上昇します。
温度上昇がもたらす悪循環
- 温度上昇: 束ねられたLANケーブルの内部温度が上昇。
- 抵抗増大: 金属(銅)は温度が上がると電気抵抗が高くなる(10℃上昇で抵抗は約4%増加)。
- さらなる電圧降下: 抵抗が増大することで、より大きな電圧降下が発生し、給電エラーが誘発される。
- 通信エラー: LANケーブルは温度が高くなると高周波信号の減衰量(アッテネーション)が増加するため、データ伝送エラー(リンクダウンや通信速度の低下)が発生しやすくなります。
施工・設計時の熱こもり防止策
- カテゴリー6A(Cat6A)の採用: Cat6Aケーブルはノイズに強いシールド(遮蔽)付きの製品が多く、放熱効率も高いため、束ねた際の上限本数の制限(バンドル制限)が大幅に緩和されます。
- 束ねる本数の制限: 高出力PoE配線を行う場合は、1つの束(バンドル)を最大24本以下に抑えて敷設し、束と束の間に隙間を空けて空気を通す設計を行います。
- 単線仕様の徹底: 幹線には可とう性(しなやかさ)を重視した「ヨリ線」ではなく、放熱性と低抵抗に優れた「単線」仕様のLANケーブルを必ず使用してください。
まとめ
防犯カメラや通信機器のPoE++対応が進む中、LANケーブルは「通信線」としてだけでなく「給電線(電力線)」としての側面を併せ持つようになりました。
- 長距離配線や高出力PoE環境では、動作エラーを防ぐために導体抵抗の低いAWG23クラスのケーブルを使用する。
- シールド性能・放熱性に優れ、太い導体を持つカテゴリー6A(Cat6A)を標準設計とする。
- 配線ダクト内で大量に束ねることは避け、最大24本以下に小分けにして放熱対策を施す。
適切な選定と施工管理により、電圧降下と熱トラブルを排除し、信頼性の高い強固なIPカメラ・Wi-Fiネットワーク環境を実現しましょう。
関連するPoE・電圧降下の品種・型番をお探しですか?
電材サーチでは、メーカー横断で目的の型番を素早く見つけ、そのまま見積もりを依頼できます。