本記事の場面・会話・数値は、理解を助ける仮想事例です。実際の事故・取引実績を示すものではありません。製品の適合性は個別の仕様で確認してください。
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1. 【現場のやらかし事例】「ボックスの蓋を閉めたから大丈夫」とパッキンの噛み込みを放置し、台風の日にキュービクルが水没した話
ある郊外の製造工場で、屋外に設置されている受電設備(キュービクル)から、新設したコンプレッサー小屋へ電源を引き込むための屋外配管工事を行った際のことです。
配管には高耐候性のPF管(ミラフレキなど)を使用し、途中の中継用に樹脂製の防水プルボックス(防雨型)を壁面に取り付けました。 施工当日、天候は小雨。作業員は「濡れる前に早く終わらせよう」と焦って作業を進めていました。プルボックス内に電線を通し、蓋を閉める際、蓋の周囲に付いている防水ゴムパッキンの一部がズレて「噛み込んだ(挟まった)」状態になっていたのですが、それに気づかないままインパクトドライバーで力任せにビスを締め付けてしまいました。また、PF管をボックスに繋ぐ防水コネクタのロックナットも手締めしただけで、プライヤーによる増し締めを忘れていました。
それから3ヶ月後、大型の台風が直撃し、横殴りの豪雨が工場を襲いました。 深夜、突然「ドーン」という鈍い破裂音とともに工場全体の電気が遮断され、すべての製造ラインが停止しました。駆けつけた保安担当者がキュービクルを開けると、盤内の主幹漏電遮断器が真っ黒に焦げて火花を散らしていました。
原因を調査したところ、屋外の防水プルボックスのパッキン噛み込み隙間と、コネクタの締め忘れ部分から雨水が大量に浸入。その水が電線被覆を伝う「伝い水」となって、電線管の内部を通ってキュービクル内へ流れ込み、低圧主幹の漏電遮断器の端子部に直接かかって激しい短絡(ショート)を起こしていたのです。 復旧までに丸1日かかり、工場は数百万円の操業損失を出す大やらかしとなりました。
2. なぜ屋外の配管から室内の盤内へ水が侵入するのか?「伝い水」と「内圧差」の恐怖
「水は高いところから低いところへ流れる」という常識だけでは、電気配管の浸水トラブルは防げません。現場では以下の現象によって、下から上へ、あるいは強固に見える隙間から水が吸い込まれます。
- 伝い水と毛細管現象: 電線被覆の表面に付着した水滴は、重力だけでなく、電線同士や管との狭い隙間を通る「毛細管現象」によって、驚くほど奥深くまで浸透します。配管接続部に針の穴ほどの隙間があるだけで、そこから侵入した雨水が電線をガイドにして盤内まで運ばれます。
- 温度変化による「呼吸作用(内圧差)」: 昼間に太陽光で暖められた電線管やプルボックスは、内部の空気が膨張して外へ逃げます。その後、夕立などの冷たい雨が降ると、急激に冷やされて内部が「陰圧(真空に近い状態)」になります。このとき、接続部にわずかでも隙間があると、外にある雨水をストローで吸い上げるように内部へ強力に吸い込んでしまうのです。これが「呼吸作用」による浸水です。
3. 雨水侵入をシャットアウトする防水配管の施工ルール
電気配線・配管における「水害」を防ぐための、施工上の3大鉄則です。
① 防水電材(IP規格)の適切な選定
屋外や水気のある場所には、必ず適切な防雨・防塵性能を持つ資材を指定します。
- プルボックス: 蓋にゴムパッキンが標準装備された「防水・防雨型(IPX5以上推奨)」を使用する。ステンレス製または高耐候性樹脂(PVKボックス等)を選ぶ。
- 電線管コネクタ: PF管や金属管をボックスに繋ぐ際は、パッキン付きの「防水型コネクタ」を使用する。
一段深い理解:「防水」という表示だけで選ぶと失敗する理由
カタログの「防水型」という文字だけを見て発注すると、現場で痛い目を見ることがあります。IP(International Protection)コードはJIS C 0920で定義されており、「IP」の後ろの2桁の数字にはそれぞれ別の意味があります。
- 1桁目=防塵等級(第一特性数字):数字が大きいほど細かい異物を防ぎます。ここで注意したいのは、3等級までと5・6等級とでは基準の性質が変わることです。3等級は「直径2.5mmの固形物プローブが侵入しない」、4等級は「直径1.0mmの固形物プローブが侵入しない」と、プローブの直径で定義されています。これに対して5等級は「粉塵の侵入を完全には防げないが、有害な影響を受ける量は侵入しない(防塵形)」、6等級は「粉塵が侵入しない(耐塵形)」と、粉塵を基準にした別の物差しになります。「5等級=直径2.5mm」といった読み替えは成立しません(出典: 日東工業「IPコード(IP保護等級)とは」)。
- 2桁目=防水等級(第二特性数字):4等級は「全方向からの噴霧水(飛まつ)に対する保護」、5等級は「噴流水に対する保護」、6等級は「強い噴流水に対する保護」、7等級は「一時的な水中浸漬に対する保護」と、想定する水のかかり方がまったく違います(出典: 日東工業「IPコード(IP保護等級)とは」)。
つまり「IP44」と「IP55」は一見似ていますが、台風の横殴りの雨のような噴流状の水を防げるかどうかで別物です。今回の事例のプルボックスのように屋外で風雨に直接さらされる部位には、最低でもIPX5(噴流水に耐える等級)以上を指定するのが実務上の目安になります。プロの資材選定では、カタログの「防水」の一言を鵜呑みにせず、必ずIPコードの2桁目の数字まで確認する癖をつけてください。同じ「防水型」でもメーカー・シリーズによってIPX4相当のものとIPX5/IPX7相当のものが混在しているためです。
② パッキンのヨレ・噛み込みを残さない
屋外形のプルボックスの防水は、パッキンが正しく機能していることを前提に成立しています。公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)も、屋外形プルボックスには「本体とふたの間に吸湿性が少なく、かつ、劣化しにくいパッキンを設ける」ことを求めており、ふたの止めねじはステンレス鋼製と指定しています。
蓋を閉める際は、パッキンが溝に正しく収まっているかを指で確認してください。締め付けは1箇所ずつ一気に締めるのではなく、対角線上に少しずつ均等に締めていくと、パッキンが片寄って潰れるのを防ぎやすくなります(工具の締付トルク管理と同じ考え方で、規格に定めがあるわけではなく作業上の要領です)。
なお、パッキンは消耗部品です。キャビネット工業会の技術資料も、屋外に長期間設置したキャビネットのパッキンが劣化して亀裂が入り、内部に水が入り込んだ事例を挙げ、補修部品としてパッキンが用意されている製品では交換すること、定期点検で早めに対応することを求めています。施工時に完璧でも、数年後に同じ状態が保たれているとは限りません。
③ 「水抜き孔」と「止水パテ」の二重防壁
万が一、管内に水が入ってしまった場合の最終防壁を作ります。
- 水抜き孔(ドレン孔): 国土交通省の公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)は、屋外形のプルボックスについて「防雨性を有し、内部に雨雪が浸入しにくく、これを蓄積しない構造とする」ことを求めています。キャビネット工業会の技術資料も、屋外用キャビネットについて「万が一浸水した場合に備え、水抜き孔を設ける。また、水抜き孔がある場合は塞がない」と明記しています。ここで大事なのは、水抜き孔を後から自分で開けるかどうかより、製品として水抜き孔を備えたものを選び、それを塞がないことです。防水を謳う成形品の底面に現場で穴を開ければ、カタログのIP等級はその時点で担保されなくなります。既存の水抜き孔がシール材や埃で塞がっていないかは、点検のたびに確認してください。
- 止水パテ(シール材)と引込みの向き: 同技術資料は、屋外(屋側)のキャビネット上部に電線管を設けたためケーブルを伝って雨水が内部へ浸入した事例を挙げ、対策として①電線管への引込み前にケーブルを持ち上げる、②キャビネット下部からケーブルを引込む、③引込み箇所はコーキング処理を行う、④電線管に水抜き孔加工などの水溜り防止対策を行う、の4点を示しています。屋外配管が室内の盤に入る手前の管端部には、電気配線用の不乾性パテを充填し、電線同士の隙間まで塞ぎます。ただし同資料は「引込口や通線孔のコーキング処理が不十分だったり、水抜き孔が塞がってしまったなど、悪条件が重なった場合、内部への浸水が発生することがある」とも注意しており、パテを詰めれば伝い水が完全に止まると考えるべきではありません。実際、電線管に水抜き孔を加工していても電線がその孔を塞いでしまい、水が抜けずに浸水した事例が同資料に記録されています。
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