増設工事で制御盤の側面に穴を一つ足しただけだった。配線ルートを新しく引き込むための、ごくありふれた作業のはずだった。ところが工事から数ヶ月後、それまで一度も水が入ったことのなかった盤の中に、雨の日だけ水滴が溜まるようになったという相談が担当者のもとに届く。竣工検査のときから配線も定数も変えていない。変わったのは、あの一つの穴だけだ。
盤メーカーのカタログを見返しても、防水等級の表示はそのままだった。IP54なら防水等級は変わっていないはずだ、と担当者は思う。だが、それは新品出荷時の盤——穴を一つも足していない状態の盤についての数字であって、後から穴を追加したその盤について、メーカーは何も保証していない。カタログの数字はそのままなのに、目の前の盤はもう「その数字が指す物」ではなくなっていた。
ノックアウトとは何か——あらかじめ用意された「打ち抜きやすい穴」
制御盤や分電盤、プルボックスの側面や底面をよく見ると、板金やプラスチックの一部がわずかに薄く成形され、円や角の輪郭だけが浮き上がって見える箇所がある。これがノックアウトだ。板そのものを貫通させず、あえて薄い膜として残しておくことで、必要になったときにだけ叩き取れるようにした、あらかじめ用意された穴の予定地である。
日東工業のプラボックス向け技術資料では、この薄膜部の縁に沿って「ノックアウトリブ」と呼ばれる凸形状が設けられており、マイナスドライバーの先をそのリブに当ててハンマーで叩くことで、外周に沿って割れが走り、円形の板が取れる仕組みだと説明されている。位置は製品ごとに決まっていて、背面パネルに最も近いリブから叩くよう指定されているものもある。行き当たりばったりに板を打ち抜いているわけではなく、盤メーカーが「ここなら開けてよい」と設計段階で決めた場所に、あらかじめ加工の下ごしらえをしてある——それがノックアウトの正体だ。
だからこそ、ノックアウトの位置と数は、盤の型番ごとに最初から決まっている。標準的な配線ルートを想定して、必要になりそうな箇所にあらかじめ用意されているにすぎない。増設や仕様変更で、その想定の外にあるルートから電線管やケーブルを引き込みたくなったとき、標準ノックアウトはもう役に立たない。
標準ノックアウトで足りないとき、現場は何をしているのか
この時点で現場が選べる手はそう多くない。盤自体を発注し直して新しい位置にノックアウトを追加してもらうか、既存の盤に対して現場で穴を後加工するかだ。工期やコストを考えれば、後者——ノックアウトパンチによる穴あけ加工が選ばれる場面は少なくない。
ノックアウトパンチは、油圧式や手動式の工具で、あらかじめ開けた小さな下穴に軸を通し、ドーナツ状の刃で板金を挟み込むようにして丸い穴を打ち抜く。薄板であれば手動式でも足りるが、盤に使われる鋼板・ステンレス板の厚みになると、油圧式でなければ実用的な力では抜けない場合が多い。
ここで見落とされやすいのは、パンチが「どこにでも自由な大きさの穴を開けられる万能工具」ではないという点だ。パンチの刃径は交換式の型番ごとに決まっており、通したい電線管やケーブルグランドの寸法に合わせて、対応する刃を選ぶ必要がある。刃径が合っていなければ、穴は開いても、そこに通す部材がガタついたり、逆にきつすぎて入らなかったりする。
パンチの選び方——電線管の外径か、グランドの指定穴径か
パンチのサイズ選定は、大きく二通りの考え方に分かれる。
一つは、電線管を通す場合だ。マクセルイズミ株式会社(旧・泉精器製作所)が公開する「電線管・パンチセット・セットボルト及び下穴の組合せ選択表」では、薄鋼電線管用(A19〜A75)と厚鋼電線管用(B16〜B104)のそれぞれについて、パンチの穴径と電線管の外径が一対一で対応づけられている。たとえば厚鋼電線管22(呼び径3/4)であれば、電線管の外径26.5mmに対してパンチ穴径27.3mm、下穴径11φという具合に、数値まで指定されている。電線管の呼び径さえわかれば、開けるべき穴の大きさは表を引くだけで決まる。
もう一つは、ケーブルグランドや防水コネクタを通す場合だ。こちらは電線管の外径ではなく、グランド・コネクタ側のメーカーが「この取付穴径で使ってください」と指定する寸法が基準になる。同じ「太さ20mm前後のケーブルを通す」という目的でも、採用するグランドの型式・ねじ規格によって指定穴径は変わりうるため、パンチの型番を電線管サイズの感覚だけで選ぶと、グランド側の指定と食い違うことがある。
さらに、パンチ本体を通すための下穴も無視できない要素だ。マクセルイズミの選択表でも「抜きカスを円滑に取り除くために、必ず指定の標準下穴寸法の穴をあけてください」と明記されている通り、下穴が小さすぎればパンチの軸が通らず、大きすぎれば板を挟み込む力がかからず、きれいに抜けない。パンチの刃径・下穴径・通す部材の指定寸法——この三つが噛み合って初めて、狙い通りの穴が開く。
穴あけ加工が盤の保護性能に与える影響——「部分」の加工が「全体」の等級を無効化する
ここまでは、穴を開けるという作業そのものの手順だった。だが、冒頭の水漏れ相談が示していたのは、その先にある問題だ。
盤のIP保護等級(防塵・防水性能を表すIP54・IP65等の表示)は、JIS C 0920が定める試験に基づき、盤メーカーが工場出荷時の完成品として評価した数値である。扉のパッキン、ケーブル引込口、通気口の処理まで含めた「まるごと一つの箱」としての試験結果であり、その箱のどこか一箇所に手を加えれば、評価の前提そのものが崩れる。
ノックアウトパンチで新しく開けた穴は、この「まるごと一つの箱」に施工者自身があけた、盤メーカーが関知しない開口部だ。そこに何も塞ぐ処理をしなければ、粉じんも水も素通しで盤内に届く通り道になる。盤本体のカタログにIP54と書かれていても、その数字が保証しているのは「新しく穴を追加していない盤」についてであって、あとから穴を追加した盤については、施工者が塞ぎ方まで含めて等級を成立させ直す責任を負う。IP等級とは何かという定義そのものは既存記事「IP保護等級(IP54・IP65等)とは」で整理した通りだが、ここで問題になっているのはその等級の読み方ではなく、等級を無効化しかねない一つの加工行為の方だ。
つまり、盤全体としてのIP等級は、盤の中で最も弱い一箇所によって決まる。扉のパッキンがどれだけ立派でも、新設したケーブル引込口が素通しであれば、盤全体の防水性能はその素通しの穴に引きずられて成立しなくなる。冒頭の担当者が見落としていたのは、まさにこの「部分」と「全体」の関係だった。
防水コネクタ・パッキンによる性能回復
では、新しく開けた穴は防水・防塵性能をあきらめるしかないのかというと、そうではない。開けた穴に、その用途向けに設計された部材を正しく取り付ければ、その一箇所については元の等級に近い性能を作り直せる。
未来工業のPF管用防水型コネクタの構造を見ると、PF管側とコネクタ側の両方に防水パッキンが組み込まれており、袋ナットを締め込むことでその二重のパッキンが圧着され、防水性が確保される仕組みになっている。ケーブルグランドも考え方は同じで、穴とケーブル・電線管との隙間を、弾性のあるパッキン材で物理的に埋めることで、穴そのものが持っていた防水・防塵機能を、別の部材によって再現している。
ここで実務上気をつけたいのは、この性能回復が「グランド・コネクタを取り付けさえすれば自動的に成立する」ものではない点だ。穴径が指定寸法からずれていればパッキンは均一に圧着されず、締め付けが規定に届いていなければパッキンは本来の弾性変形を起こさない。未来工業の防水型コネクタが特定の管種(複層構造の管)専用に設計され、単層構造の管には対応しないとされているように、防水部材にはそれぞれ適用範囲があり、穴の仕様と部材の仕様、双方が噛み合って初めて、うたわれている防水性能が発揮される。
加工時の注意点——バリ取りと防錆処理
穴を開けたあと、そのまま部材を通してよいかというと、まだ二つの下ごしらえが残っている。
一つはバリ取りだ。日東工業の技術資料でも、ノックアウトを打ち抜いた直後は「バリが出ますのでやすりやナイフなどで除去してください」と明記されている。パンチで抜いた穴の縁も同様に、鋭利な金属のめくれが残ったままになりやすい。このバリを放置してケーブルを通せば、被覆に傷が入って絶縁性能を落としかねないし、パッキンを当てても縁の凹凸のせいで均一に密着せず、性能回復の前提そのものが崩れてしまう。
もう一つは、切断面・打ち抜き面の防錆処理だ。制御盤の塗装は見た目のためだけではなく、防錆・塩害対策・紫外線対策という役割を担っており、エポキシ樹脂のような耐薬品性の高い塗料が塩害対策の下塗りとして使われることもある。ところが、パンチによる打ち抜きは、この塗装ごと鋼板を切断する行為だ。切り口には未塗装の鋼板がそのまま露出し、屋外や多湿環境ではそこから錆が進行していく。盤の傷・打痕への補修という文脈では、リタール社がIEC 61439の要求に適合した製品として位置づけるタッチアップペン(型式2436.800)のような防錆塗料が実際に流通しており、打ち抜き部の露出面についても、同様の考え方で未塗装のまま放置しない処置が実務上の基本になる。
バリ取りと防錆処理、どちらも「穴を開けたその日のうちに終わらせておく」以外に、あとから安く済ませる方法はない。塗装がすでに乾いた盤の切り口をあとから手当てするより、加工直後にやすりとタッチアップ塗料を用意しておく方が、結局は早い。
まとめ——穴は「開けて終わり」ではなく「塞ぎ方まで込みで一つの工事」
ノックアウトは盤メーカーがあらかじめ用意した打ち抜きやすい穴で、標準の位置・数で足りない場合に、現場ではノックアウトパンチによる後加工が行われる。パンチのサイズは、通す電線管の外径かグランド・コネクタの指定穴径のどちらかを基準に、下穴径まで含めて選ぶ必要がある。そして、開けたその穴は、盤全体のIP保護等級という「まるごと一つの箱」としての性能を、施工者自身の手で崩す一箇所にもなりうる。防水コネクタやパッキンで塞ぎ、バリを取り、露出した金属面に防錆処理を施す——この一連の作業まで済ませて初めて、その穴は「開ける前の盤」に近い性能を取り戻す。
冒頭の担当者が向き合っていたのは、故障でも部材の不良でもなく、この「塞ぎ方まで込みで一つの工事」だという理解が抜け落ちていたことそのものだった。穴を開ける工具の選び方以上に、開けたあとに何を詰めるかが、盤の寿命を左右する。
制御盤・分電盤の穴あけ加工・防水部材の選定について
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)でお見積り・ご相談いただけます。設置環境(屋内外・防水等級・粉じんの有無)と、通したい電線管・ケーブルの仕様をお伝えいただければ、ノックアウトパンチ・ケーブルグランド・防水コネクタの候補選定からご提案します。
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