「IP65はIP54より上位の等級だから、迷ったらIP65にしておけば安心」。この考え方には、実は見落としがある。IPコードの後ろに並ぶ2桁の数字は、1桁目が固形物、2桁目が水という、まったく別の項目を独立に測った結果を並べているだけだからだ。1桁目だけを見ればIP65(6)はIP54(5)より厳しい。ところが2桁目まで見ると、IP65(5=噴流水)とIP54(4=飛まつ)では、想定している水のかかり方自体が違う。つまりこの2つは「どちらが上か」を一列に並べて比較できる数字ではなく、性格の異なる2つの物差しを2桁でひとまとめに表記しているだけなのだ。この誤解は、発注担当者だけでなく、現場で日常的に電気設備を扱う人の間でも珍しくない。
IPコードとは何か——JIS C 0920が定める「固形物」と「水」の2軸
IP(International Protection)コードは、電気機械器具の外郭(ケースや盤の筐体)が、固形物や水の侵入に対してどこまで保護されているかを表す国際的な等級表示で、日本ではJIS C 0920(電気機械器具の外郭による保護等級)として規定されている。国際規格IEC 60529を基に、日本国内向けに調整された規格だ。
表記は「IP」に続けて2桁の数字を並べる形をとる(例:IP54、IP65)。このとき、
- 1桁目(第一特性数字):固形物の侵入に対する保護等級(0〜6)
- 2桁目(第二特性数字):水の侵入に対する保護等級(0〜8)
という、それぞれ独立した試験区分になっている(JIS C 0920による)。1桁目の試験では規定サイズの球状プローブが外郭内部に侵入するかどうかを確認し、2桁目の試験では規定の条件で水を当てて内部への浸入がないかを確認する。試験方法自体が別物であるため、片方の数字が大きいからといって、もう片方の性能まで高いとは限らない。
1桁目:固形物に対する保護等級
| 数字 | 保護の内容 |
|---|---|
| 0 | 保護なし |
| 1 | 直径50mmの固形物が侵入しない |
| 2 | 直径12.5mmの固形物が侵入しない |
| 3 | 直径2.5mmの固形物が侵入しない |
| 4 | 直径1.0mmの固形物が侵入しない |
| 5 | 防じん形。動作・安全性を阻害する量のじんあい侵入がない |
| 6 | 耐じん形。じんあいの侵入が全くない(完全防塵) |
(JIS C 0920による)
2桁目:水の侵入に対する保護等級
| 数字 | 保護の内容 | 試験条件の目安 |
|---|---|---|
| 0 | 保護なし | ― |
| 1 | 鉛直に落下する水滴に耐える | ― |
| 2 | 15度以内の傾斜でも落下水滴に耐える | ― |
| 3 | 60度までの角度からの噴霧水に耐える | ― |
| 4 | あらゆる方向からの水の飛まつに耐える | ― |
| 5 | あらゆる方向からの噴流水に耐える | ノズル径6.3mm・毎分12.5L・距離2.5〜3m |
| 6 | あらゆる方向からの暴噴流水に耐える | ノズル径12.5mm・毎分100L・距離2.5〜3m |
| 7 | 一時的潜水に耐える | 深さ0.15〜1m・30分間 |
| 8 | 継続的潜水に耐える | 7より厳しい条件下(メーカーと使用者間で個別に取り決め) |
(JIS C 0920による)
数字を追っていくと気づくことがある。5番と6番は水量が8倍近く違う「噴流水」の強さの差でしかなく、7番と8番は「潜水」というまったく別の試験方式に切り替わっている。ここに、実務でつまずきやすい3つの発見が隠れている。
見落としやすい3つの発見
1. IPX5とIPX6の差は「噴流水の量」であって「防水性能の格」ではない
IPX5もIPX6も、想定しているのは「あらゆる方向からのノズル噴流水」という同じ種類の負荷だ。違うのはノズル径と流量で、IPX5が毎分12.5L、IPX6が毎分100Lと、実に8倍近い水量で試験する(JIS C 0920による)。屋外の暴風雨や高圧洗浄機による洗浄が想定される現場ではIPX6以上を、屋根のある半屋外程度であればIPX5でも実用上は十分、という判断がしやすくなる。
2. IP68は「水没に耐える」を無条件に保証する表示ではない
IPX7は「深さ0.15〜1m・30分間」という具体的な数値が規格側で決まっている。ところがIPX8は「7より厳しい条件」としか規定されておらず、実際の深さ・時間はメーカーと使用者の間で個別に取り決める条件だ(JIS C 0920による)。つまり同じ「IP68」表示でも、製品ごとに保証されている潜水条件(深さ・時間)は異なりうる。カタログの「IP68」の文字だけで水没設備への使用を判断せず、実際の使用環境(水深・浸水時間)に対して製品側がどの条件を保証しているかまで確認するのが実務的な安全策になる。
3. 潜水に強い等級が、噴流水に強いとは限らない
2桁目の0〜4番、5〜6番(噴流水)、7〜8番(潜水)は、それぞれ試験方法自体が異なる。IP68表示の製品が、必ずしもIPX5・IPX6の噴流水試験までクリアしているとは限らない。逆に、噴流水に強いIPX6の製品が潜水試験まで通っているとも限らない。屋外の水没リスクと高圧洗浄の両方が想定される設備では、「IPX6/IPX8」のように両方の等級が併記されているかを確認する必要がある。
設置環境から逆算する——実務での選び方
IP等級は「高いほど安心」ではなく、設置環境に見合った等級を選ぶのが費用対効果の面でも合理的だ。過剰な等級はパッキン構造の分だけ価格が上がり、内部の放熱性が落ちて余分な設計が必要になることもある。逆に不足した等級は、想定より早い劣化やトラブルにつながる。
| 設置環境の例 | 目安となる等級 | 補足 |
|---|---|---|
| 屋内・空調管理された室内(事務所・データセンター内) | IP20〜IP44程度 | 粉塵・水がかりが少なければ過剰スペックは避けたい |
| 屋内・粉塵の多い工場(切削・溶接・製粉等) | IP54〜IP5X | 完全防塵まで求めるかは粉塵の質・量で判断 |
| 半屋外(庇あり・直接の雨風は当たらない) | IP54程度 | 飛まつ程度の水がかりを想定 |
| 屋外・直接の雨風にさらされる設備 | IP65〜IP66 | 台風時の横殴りの雨は噴流水に近い負荷になる |
| 高圧洗浄・薬品洗浄を行う食品工場・厨房設備 | IP66〜IP69Kクラス | 高温高圧の洗浄水に耐える等級が必要 |
| 一時的な浸水・冠水リスクがある設備 | IP67以上(水深・時間を要確認) | IP68表示でも保証条件の確認が前提 |
(JIS C 0920・日東工業「IPコード(IP保護等級)とは」を参考に整理。実際の等級選定は個々の設置環境・製品仕様に基づいて判断してください)
制御盤・プルボックスでの実務上の注意点
制御盤筐体やプルボックスのカタログで「防水型」「防塵型」とだけ記載されている製品は、実際のIP等級が何番なのかを型番・仕様書まで遡って確認したい。同じ「防水型」という表記でも、メーカー・シリーズによってIPX4相当のものとIPX6相当のものが混在しているためだ。
またIP等級は工場出荷時・新品状態での試験結果であり、経年での性能維持を保証するものではない。扉パッキンのゴムは紫外線やオゾン、温度変化で年数を経るごとに硬化・ひび割れが進みやすく、屋外・過酷環境の盤ほど、当初のIP等級より防塵防水性能が落ちていくスピードは速い。選定時点で高い等級を選ぶことと同じくらい、設置後の定期点検・パッキン交換を見込んでおくことが、長期的な信頼性につながる。
まとめ——等級は「設置環境の申告」から逆算するのが最短ルート
IP等級の1桁目と2桁目は別々の基準であり、数字の大小だけで「上位互換」を語れない。IPX5とIPX6は噴流水の強さの違い、IPX7とIPX8は潜水条件の厳しさの違いであり、IP68という表示だけでは高圧洗浄への耐性までは保証されない。屋内か屋外か、粉塵が多いか、水がかりや洗浄作業があるか——この設置環境の情報さえ揃えば、過剰な等級でコストをかけすぎることも、不足した等級で早期劣化を招くことも避けられる。
IP等級指定の製品購入・見積りについて
電設資材専門商社・松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)でお見積り・ご購入いただけます。型番が決まっていない段階でも、設置環境(屋内外・粉塵・水がかり・洗浄有無)をお伝えいただければ、候補となるIP等級・品番からご提案します。
- Web: 見積フォーム(24時間受付)
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