改修工事の現場で、天井裏の電線管接続点にプルボックスを取り付けようとした矢先、届いた実物を見た職人が渋い顔をした。発注時に伝えていたのは「200×200のプルボックス」というサイズだけ。届いたのは鋼板製の標準品だったが、その現場は食品工場の洗浄区画——高圧洗浄水と油分が四六時中飛び交う環境だ。「これじゃ半年で赤錆が浮く。ステンレスじゃないと持たない」と現場から突き返され、結局ステンレス製へ発注し直すことになった。プルボックスは電線管をつなぐだけの単純な箱に見えるが、素材ひとつで寿命が数倍変わる部材であり、サイズと同じくらい設置環境の情報が発注時に欠かせないことを、この現場は教えてくれる。
日東工業とは——電気工事の「ハコ」を専業でつくるメーカー
日東工業は、プルボックス・分電盤・制御盤筐体・高圧受電設備といった、電気を通す「ハコ」を専業で手がけるメーカーです。なぜプルボックスのような小さな箱から高圧受電設備のような大きな設備まで一社で揃うのだろうか。答えは事業拡大の経緯にある。1948年に愛知県瀬戸市でカットアウトスイッチ等の電気器具製造から創業し、1963年に分電盤事業、1966年に高圧受電設備事業、1967年に分電盤・制御盤用キャビネットシリーズへと事業を順次広げてきた歴史があり、今の製品ラインナップはその積み重ねの結果だ(公式サイト沿革より)。国内8工場(瀬戸・菊川・磐田・掛川・中津川・唐津・花巻・栃木野木)で生産する資本金65億78百万円の東証上場企業で、2026年3月期の連結売上高は1,957億円、従業員数は連結5,358名(公式サイト会社概要より)。品番の安定供給・長期継続生産が期待しやすい規模と言える。
製品体系——初心者向けの見取り図
| カテゴリ | シリーズ | ざっくり言うと |
|---|---|---|
| プルボックス | PBシリーズ(鋼板・SUS304・樹脂) | 電線管・ケーブルの接続分岐点に設置する箱 |
| 分電盤 | アイセーバ(電灯用PEN形・動力用PEP形) | 電灯・動力回路を分岐・保護する盤 |
| 制御盤筐体 | EM-Aシリーズ(窓付自立形) | 制御盤・操作盤を組み立てる外箱 |
| 端子台 | TBFシリーズ(経済形) | ブレーカと外部配線をつなぐ部材 |
選び方——プルボックス・分電盤・制御盤筐体・端子台
プルボックス選定の入り口——「素材×サイズ×ノックアウト」
プルボックスの選定は、まず設置環境から素材を決めるところから始まる。屋内の一般的な接続点なら鋼板(SECC)製の標準品で足りるが、油・水・酸・アルカリ・塩分にさらされる食品工場や化学プラント、屋外設備ではSUS304ステンレス製、あるいはノンハロゲン樹脂製が候補になる。サイズは、引き込む電線管・ケーブルの本数と外径から決める。目安としては、全ケーブル外径の断面積合計の4〜6倍程度の内寸断面積を確保すると、ボックス内での曲げ半径にも無理が出にくい。
ここでもう一つ選ぶべきものがある。ノックアウト(KO)穴の有無だ。
現場でコンジットの引込口を都度穿孔する作業は、地味に時間を食う。ノックアウト付きタイプであれば、あらかじめ用意された打ち抜き穴を使うだけで済み、この工程を省力化できる。蓋も平蓋・ビス固定・ネジ固定から選べるため、配線完了後の点検口としての使い勝手も含めて決めておきたい。
分電盤選定の入り口——「回路数×主幹ブレーカ×予備」
日東工業の標準分電盤は、分岐ブレーカをねじ締めせずスライドインで着脱できる「プラグイン構造」のアイセーバシリーズが主力だ。電灯回路用のPEN形、動力回路用のPEP形に分かれ、回路数はおよそ4〜52回路の範囲で盤の幅・高さが変わる(公式サイト製品情報より)。主幹ブレーカには漏電ブレーカタイプの品番が広く流通している。
選定で見落とされがちなのが、回路数を「今ちょうど使う分」だけで決めてしまうことだ。将来の増設を見込んで2〜4回路ほど予備を確保しておくと、数年後に盤ごと交換する事態を避けやすい。
制御盤筐体・端子台選定の入り口——「内部レイアウトが先、箱は後」
制御盤筐体のEM-Aシリーズは、DINレール・ケーブルダクト・端子台を内部に実装して制御盤を構成する窓付自立形(床置き型)の筐体で、幅700〜900mm・高さ1,400〜1,900mmの組み合わせに、奥行350mmまたは500mmを掛け合わせてサイズ展開する。順番としては、先に機器・端子台の実装レイアウトを決め、そこに配線作業スペース(目安15〜20cm)とケーブルダクトの分を上乗せしてから外形サイズを選ぶ流れが安全だ。箱のサイズを先に決めてしまうと、あとから内部レイアウトが窮屈になる。
端子台(TBFシリーズ)は、基台にポリカーボネート樹脂を採用した経済形で、極数(2P/3P/4P)と定格通電電流(60A〜400A程度)の組み合わせで選ぶ。ジョイントバー付・ワイドバー付など配線形状の異なるバリエーションもあり、接続する電線サイズが対応範囲に収まっているかもあわせて確認する。
比較——素材・サイズ・設置環境で何が変わるか
素材はなぜ「鋼板が基本、SUSは特殊」なのか
鋼板製とSUS304ステンレス製は、単に見た目や重さが違うだけではない。鋼板製は溶融亜鉛めっき処理で防錆処理されているものの、屋内の一般環境を前提とした素材だ。一方SUS304は油・水・酸・アルカリ・塩分への耐食性そのものが高く、鋼板では錆が問題になる環境でも長期間形状を保つ。ただしその分、同サイズでの価格はおおむね2〜4倍になる。つまり素材選びは「安全側に振っておけば無難」という単純な話ではなく、耐食要件が実際にどこまで厳しい現場なのかを見極めた上でコストとのバランスを取る判断になる。
防水グレードの数字が持つ意味
プルボックスや制御盤筐体のカタログには「IP44」「IP66」といった防水等級の表記が並ぶ。この数字は前半が粉塵の侵入防止、後半が水の侵入防止の等級を表しており、数字が大きいほど厳しい条件に耐える。屋外・半屋外(庇なし)や粉塵・水しぶきがかかる環境ではIP54以上、高圧洗浄や浸水リスクがある環境ではIP65〜66を選ぶのが一般的な目安だ。IP44とIP66を同列に扱ってしまうと、設置後に「思ったより水に弱い」という食い違いが起きやすい。
プラグイン構造がもたらす違い
分電盤の話に戻ると、アイセーバのプラグイン構造は、ブレーカ交換のたびにねじを締め直す従来方式と比べて、交換・増設時の作業時間を大きく縮められる。日々の保守を担当する側からすれば、この差は地味だが積み重なる。
注意点——発注時にありがちなズレ
- 素材の指定漏れ: 「プルボックスをお願いします」だけでは鋼板製が標準扱いになりやすい。腐食環境なら必ずSUSと明記する
- 防水グレードの混同: IP44とIP65〜66は防水性能が大きく異なる。設置環境(屋外・洗浄水の有無)を伝えた上でグレードを確認する
- 制御盤筐体の内部レイアウト未確認: 端子台・機器の実装スペースを見込まずに外形サイズだけで発注すると、現地で配線スペースが足りなくなる
- 分電盤の予備回路不足: ちょうどの回路数で選定すると、増設のたびに盤交換が必要になる
まとめ
日東工業は、プルボックスという小さな箱から分電盤・制御盤筐体まで、電気工事の「ハコ」を一貫して手がけるメーカーだ。選定の勘所は、プルボックスなら素材と防水グレード、分電盤なら回路数と予備、制御盤筐体なら内部レイアウトが先、端子台なら極数と定格電流——いずれも「箱そのもの」より「箱をどう使うか」から逆算する点は共通している。
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