結論から言うと、「JIS A 4201」は建築物の避雷針(受雷部)をどこにどう配置すれば雷撃から建物を守れるかを定めた日本産業規格で、回転球体法・保護角法・メッシュ法という3つの設計手法と、保護レベルI〜IVという4段階の要求水準を規定している(日本規格協会 JSA Group Webdeskによる)。ただし2025年4月1日の建築基準法関係告示改正により、建築基準法上の技術基準はJIS Z 9290-3:2019へ置き換わっており、JIS A 4201-2003に基づく設計を使える経過措置は2026年3月31日までに着工した建築物に限られる。つまり現時点で新たに着工する建築物では、JIS A 4201そのものではなく、その設計思想を引き継いで強化されたJIS Z 9290-3への適合が必要になる(国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号による)。
この記事では、まずJIS A 4201-2003が定めていた受雷部設計の基本ロジック(回転球体法・保護角法・メッシュ法、保護レベル)を理解したうえで、現行のJIS Z 9290-3で何が変わったのかを整理する。なお、この記事は「雷をどう受け止めて大地へ逃がすかの設計基準(受雷部・引下げ導線の配置ルール)」に焦点を当てており、接地工事の種別や落雷時の等電位ボンディングといった接地側の実務については、鉄骨アースの罠|「鉄骨に繋げば安全」という誤解と等電位ボンディングの本当の意味で扱っている。あわせて読むと、避雷設備の「受け止める側」と「逃がす側」の両方が理解できる。
この記事でわかること
- JIS A 4201が定める外部雷保護システムの構成(受雷部・引下げ導線・接地システム)
- 保護レベルI〜IVの考え方と、建物用途別の推奨レベル
- 受雷部の3つの設計方法(回転球体法・保護角法・メッシュ法)の違いと使い分け
- 2025年4月からJIS Z 9290-3:2019へ置き換わった経緯と、実務で押さえるべき変更点
- 経過措置(2026年3月31日まで)と、既存建築物の増改築時の扱い
JIS A 4201とは何か
JIS A 4201は、正式名称を「建築物等の雷保護」といい、建築物や煙突・塔・油槽などの工作物を対象に、落雷によって生じる電流を建物に被害を及ぼすことなく安全に大地へ流すための避雷設備の設計基準を定めた日本産業規格である(日本規格協会 JSA Group Webdesk、kikakurui.com掲載情報による)。鉄道の屋外設備、電力・通信の屋外線、車両・船舶・航空機などは適用対象に含まれない。
1992年に制定された当初のJIS A 4201は「避雷針」を主眼にした比較的単純な基準で、保護角法を中心に、受雷部高さ60m以下なら一律60度という設定だった。2003年の全面改正では、国際規格IEC 61024-1:1990を基に技術的内容を一部修正(MOD)する形で取り込み、保護レベルという概念や回転球体法・メッシュ法を新たに導入し、保護角も建物の高さや保護レベルに応じて段階的に変化する、より精緻な基準へと生まれ変わった(日本規格協会 JSA Group Webdesk、electric-facilities.jp掲載情報による)。この記事で扱う数値・表は、原則としてこの2003年改正版(JIS A 4201-2003)に基づく。
外部雷保護システムの3要素
JIS A 4201-2003が定める避雷設備(外部雷保護システム)は、次の3つの要素で構成される(kikakurui.com掲載情報による)。
- 受雷部システム:雷撃を受けるための部分。避雷針(突針)・水平導体・メッシュ導体などで構成する
- 引下げ導線システム:受雷部で受けた雷電流を接地システムへ流すための導線
- 接地システム:雷電流を大地へ分散させる接地極
このうち受雷部システムの配置方法(回転球体法・保護角法・メッシュ法)が、この記事の主題である。引下げ導線・接地システムについては後述するが、接地工事の種別や落雷時の等電位ボンディングの詳細は鉄骨アースの罠で扱っているので、そちらもあわせて参照してほしい。また、JIS A 4201は避雷針という「外部雷保護」だけでなく、雷サージによる機器破損を防ぐSPD(サージ防護デバイス)の設置などの「内部雷保護」も対象に含むが、SPDの選定・故障事例は【現場のやらかし】避雷器(SPD)を付けていたのに制御盤が全損!で扱っている。
保護レベル(I〜IV)とは何か
JIS A 4201-2003では、保護レベルを「雷保護システムが雷の影響から被保護物を保護する確率」として定義しており、I〜IVの4段階に分かれる。レベルIが最も厳格(保護効率が高い=より小さい雷撃電流まで捉える設計)で、レベルIVが最も緩やかになる(NIPエンジニアリング掲載情報による)。
一般的な整理としては、次のような目安が示されている。
- 一般建築物(住宅・学校・百貨店・銀行・病院など):保護レベルIII〜IVが目安
- 美術館・文化財:保護レベルI〜II
- 危険物の貯蔵・取扱施設(発電所・通信基地など):保護レベルI〜II
- 周囲への影響が大きい施設(製油所・火薬工場など):保護レベルI〜II
消防法上の危険物施設については、原則として保護レベルIとされ、合理的な検討に基づく場合に限りレベルIIも認められる、という整理がなされている(NIPエンジニアリング掲載情報による)。ただし実際の保護レベルの選定は、雷密度(地域ごとの落雷頻度)・地形・建物の重要度・使用目的なども踏まえた個別判断が求められるため、上記はあくまで目安として理解してほしい。
受雷部(避雷針)の3つの設計方法
受雷部システムの配置は、次の3つの方法を単独または組み合わせて設計する。
回転球体法
保護レベルごとに定められた半径R(メートル)の仮想球体を、地面と受雷部(避雷針や導体)の外側に接するように転がしたとき、球体が建物に接触しない領域が保護される、という考え方である。落雷の先駆放電(リーダ)が地上の突起物に飛びつく物理現象をモデル化したもので、凹凸のある屋根形状や高層建築物の側面など、単純な角度計算では評価しづらい形状の検証に向いている(kikakurui.com、NIPエンジニアリング掲載情報による)。
保護レベルごとの回転球体半径Rの目安は、各種解説記事で次のように整理されている。
| 保護レベル | 回転球体半径R |
|---|---|
| I | 20m |
| II | 30m |
| III | 45m |
| IV | 60m |
半径が小さいレベルIほど、球体が入り込める隙間が小さくなり、より密に受雷部を配置する必要がある(=より厳格な保護)ことを意味する。
保護角法
受雷部(避雷針の先端)から鉛直線に対して一定の角度αを取り、その円錐の内側を保護範囲とみなす、最も古くから使われてきた方法である。ただし2003年改正以降は、この角度αが保護レベルだけでなく受雷部の高さによっても変化するしくみになっている。受雷部が高くなるほど、球体(雷の進入経路のモデル)が回り込みやすくなるため、保護角は小さく(保護範囲は狭く)設定される。適用できるのは受雷部高さ60m以下の場合に限られる。
国土交通省の技術的助言に示された比較表では、受雷部高さ20mの一般建築物(保護レベルIV)の場合、JIS A 4201-2003の保護角は最大55度とされている(国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号による)。保護レベルが上がるほど、同じ高さでも要求される角度は小さくなる。正確な角度は保護レベルと高さの組み合わせで細かく定められているため、実際の設計では規格の原文(日本規格協会 JSA Group Webdesk)またはJISC(日本産業標準調査会)の閲覧サービスで該当箇所を確認する必要がある。
メッシュ法
受雷部を格子状(メッシュ状)の導体で構成し、そのメッシュの内側を保護範囲とみなす方法である。陸屋根や幅の広い平面屋根など、突針や水平導体だけではカバーしにくい広い面の保護に向いている。保護レベルごとのメッシュ幅の目安は次のとおりとされる(各種解説記事による)。
| 保護レベル | メッシュ幅 |
|---|---|
| I | 5m |
| II | 10m |
| III | 15m |
| IV | 20m |
3つの方法はどれか1つを選ばなければならないものではなく、建物の形状や部位に応じて組み合わせて設計するのが実務上の一般的なアプローチである。
引下げ導線・接地システムの概要
受雷部で受けた雷電流は、引下げ導線を通って接地システムへ流れる。JIS A 4201-2003では、受雷部・引下げ導線・接地極それぞれについて、使用する導体の最小断面積が定められている(各種解説記事による目安)。
- 受雷部:銅35mm²以上、アルミニウム70mm²以上
- 引下げ導線:銅16mm²以上、アルミニウム25mm²以上
- 接地極:銅50mm²以上
引下げ導線は複数系統に分けて配置し、雷電流を分散させるのが基本になる。導線の平均間隔(配置ピッチ)は保護レベルが上がるほど狭くなり、一般的な整理ではレベルIで10m前後、レベルIVで25m前後とされる。接地極については、独立した接地極を新設する「A型接地極」と、建物の基礎・鉄骨など構造体を利用する「B型接地極」のいずれかを選ぶ方式が基本になるが、鉄骨を接地極として利用する際の対地抵抗の実測義務や等電位ボンディングの考え方は鉄骨アースの罠で詳しく解説しているので、そちらを参照してほしい。
2025年4月からJIS Z 9290-3:2019へ — 何が変わったのか
ここまで解説してきたJIS A 4201-2003だが、建築基準法上の位置づけが2025年に大きく変わっている点は、実務者として必ず押さえておきたい。
避雷設備の構造方法を定める告示(平成12年建設省告示第1425号)は、これまで「JIS A 4201-2003に規定する外部雷保護システムに適合する構造」を要件としてきた。ところが令和6年国土交通省告示第151号により、この告示が改正され、2025年4月1日から要件がJIS Z 9290-3:2019(雷保護-第3部:建築物等への物的損傷及び人命の危険)に適合する構造へ置き換わった(国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号による)。
改正の背景として、国土交通省の技術的助言は「近年、建築物の落雷被害は建物屋上の突角部分のものが大半を占めている」ことを挙げている。JIS A 4201-2003には屋上の突角部・縁部を保護する規定が明示的には存在しなかったのに対し、JIS Z 9290-3:2019では、外周部を覆う金属製の笠木を利用するか、外壁の縁部に沿って受雷導体を配置し突角部に受雷部を設置するなど、突角部・縁部を個別に保護する方法が新たに規定された(一般財団法人日本建築設備・昇降機センター BEEC MAGAZINE、国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号による)。
主な変更点は次のとおりだ(国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号に示された一般建築物・保護レベルIVの比較表による)。
| 項目 | JIS A 4201-2003 | JIS Z 9290-3:2019 |
|---|---|---|
| 保護角(受雷部高さ20mの場合) | 最大55度 | 最大53度 |
| 屋上突角部・縁部の保護 | 規定なし | 個別規定あり(笠木利用または縁部受雷導体+突角部受雷部) |
| 引下げ導線の平均間隔 | 原則25m以下 | 原則20m以下 |
| 高層建築物の側壁保護(60m超) | 規定あり | 規定あり(60m〜75m、75m超で保護範囲の考え方が細分化) |
| 接地極システムの分類 | A型接地極/B型接地極 | A型接地極/B型接地極(同様) |
経過措置と既存建築物への影響
この改正には経過措置が設けられており、改正告示の施行日から1年を経過する日(2026年3月31日)までに工事に着手する建築物については、従来どおりJIS A 4201-2003(またはこれに適合するとみなされるJIS A 4201-1992)に基づく外部雷保護システムで設計することが認められていた。ここでいう「工事の着手」は避雷設備工事そのものの着手ではなく、避雷設備を設置する建築物本体の工事着手を指す点に注意が必要だ(国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号による)。
この経過措置期間はすでに終了している。経過措置期間中に着工した建築物、または現に存する建築物の避雷設備がJIS A 4201-2003に規定する構造である場合でも、経過措置期間経過後にJIS Z 9290-3:2019への適合が求められるのは新規着工分に限られ、既存の避雷設備が直ちに違法になるわけではない。ただし、高さ20m超の既存建築物で増築・改築・大規模の修繕または模様替を行う場合は、避雷設備をJIS Z 9290-3:2019に適合する構造へ改修する必要がある点は実務上の重要な留意点だ(国土交通省住宅局建築指導課長 国住指第532号による)。改修が必要な工事内容は建物の既存の保護対象範囲(被保護物上部のみか、側部も含むか)によって異なるため、増改築計画の初期段階で避雷設備の現況調査を行っておくことが望ましい。
実務者が押さえておくべきポイント
- 現在新たに着工する建築物は、JIS A 4201-2003ではなくJIS Z 9290-3:2019への適合が必要。設計・見積段階で「旧JIS準拠」の避雷設備を提案してしまうと手戻りになるおそれがある
- 回転球体法・保護角法・メッシュ法という3つの考え方自体はJIS Z 9290-3にも引き継がれており、JIS A 4201-2003の基本ロジックを理解しておくことは現行規格の理解にも直結する
- 屋上突角部・縁部の保護、高層建築物の側壁保護は、JIS Z 9290-3で規定が強化された部分であり、既存建築物の増改築時には特に確認が必要
- 保護レベルの選定は建物用途・危険物の有無・地域の雷密度など個別事情に左右されるため、目安の数値だけで判断せず、避雷設備の設計・施工専門業者に相談することが実務上の基本になる
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