結論から言うと、雷保護のJIS Z 9290シリーズは、国際規格IEC 62305(本来は「第1部:一般原則」「第2部:リスクマネジメント」「第3部:建築物等の物的損傷及び人命の危険」「第4部:建築物等内の電気及び電子システム」の4部構成)に整合する規格群だが、日本では現時点でJIS Z 9290-1:2014、JIS Z 9290-3:2019、JIS Z 9290-4:2016の3部のみが確認でき、リスクマネジメント(保護レベルをどう決めるか)に相当するJIS Z 9290-2は見当たらない(日本規格協会 JSA Group Webdesk、一般社団法人日本雷保護システム工業会(JLPA)掲載情報による)。このうちJIS Z 9290-3(避雷針=受雷部システムの設計基準)は、JIS A 4201とは|避雷針(受雷部)の設計基準を回転球体法・保護角法・メッシュ法から解説で詳しく解説済みのため、本記事ではその前提となるシリーズ全体の構成と、避雷針だけではカバーできない「建物内の電気・電子機器を雷サージから守る」JIS Z 9290-4の考え方に絞って整理する。
この記事でわかること
- JIS Z 9290シリーズの全体構成(IEC 62305との対応関係、-1・-3・-4の3部構成)
- JIS Z 9290-1(一般原則)が定める雷保護レベル(LPL)と雷保護ゾーン(LPZ)の考え方
- リスクマネジメント(保護レベルの決め方)に相当するJIS Z 9290-2が見当たらないという実務上の留意点
- JIS Z 9290-4(建築物等内の電気及び電子システム)が定めるLPZ・SPD協調・等電位ボンディングの設計思想
- JIS A 4201解説記事、SPD故障事例記事との読み分け方
JIS Z 9290シリーズの全体構成
JIS Z 9290は、国際規格IEC 62305(Protection against lightning)シリーズに整合する形で整備されている日本産業規格である。IEC 62305は本来、次の4部構成になっている。
| 部 | 内容(IEC 62305の構成) |
|---|---|
| 第1部 | 一般原則 |
| 第2部 | リスクマネジメント |
| 第3部 | 建築物等への物的損傷及び人命の危険 |
| 第4部 | 建築物等内の電気及び電子システム |
これに対し、一般社団法人日本雷保護システム工業会(JLPA)が公開する規格一覧、および日本規格協会 JSA Group Webdeskで確認できるJIS Z 9290シリーズは、次の3件である(JLPA、日本規格協会 JSA Group Webdesk掲載情報による)。
| JIS番号 | 名称 | 対応するIEC 62305 |
|---|---|---|
| JIS Z 9290-1:2014 | 雷保護-第1部:一般原則 | IEC 62305-1:2010 |
| JIS Z 9290-3:2019 | 雷保護-第3部:建築物等への物的損傷及び人命の危険 | IEC 62305-3 |
| JIS Z 9290-4:2016 | 雷保護-第4部:建築物等内の電気及び電子システム | IEC 62305-4:2010 |
見ての通り、IEC 62305の「第2部:リスクマネジメント」に相当するJISは、少なくとも本記事執筆時点で確認できていない。この点は次章で詳しく扱う。
JIS Z 9290-1(一般原則)が定めること
JIS Z 9290-1:2014は、正式名称を「雷保護-第1部:一般原則」といい、設備・内容物・人間を含む建築物等が従うべき雷保護の一般原則を規定している(適用対象は建築物・工作物で、鉄道システム・車両・船舶・航空機・地下埋設配管などは除外される)。この規格が導入する2つの基本概念が、シリーズ全体の土台になっている(kikakurui.com掲載のJIS Z 9290-1:2014規格概要による)。
雷保護レベル(LPL)
雷保護レベル(LPL)は、I〜IVの4段階で規定される。レベルIが最も厳格(より軽微な雷撃電流まで捉える設計)で、レベルIVに向かうほど基準が緩やかになる、という考え方自体は、JIS A 4201とはで解説した「保護レベルI〜IV=保護確率98%〜80%」という考え方と同じ系譜にある。具体的な電流波高値などの数値基準は、規格ごとに定義が異なる場合があるため、実際の設計では規格原文(日本規格協会 JSA Group Webdesk、JISC)を確認する必要がある。
雷保護ゾーン(LPZ)
建築物の内外を、雷による電磁環境の異なる複数のゾーンに区分して考える概念である。直撃雷の脅威がある屋外側のゾーン(LPZ 0A)から、電磁環境が段階的に改善していく建物内部のゾーン(LPZ 1、LPZ 2以上)へと、階層的に防御レベルを高めていく設計アプローチを取る。このLPZという考え方が、後述するJIS Z 9290-4の設計思想の中心になる(kikakurui.com掲載のJIS Z 9290-1:2014規格概要による)。
リスクマネジメント(保護レベルの決め方)に相当するJISが見当たらない
IEC 62305シリーズには、建物の用途・雷撃頻度・人命や設備への影響度を踏まえて、経済的合理性のある保護レベルを算定するための「第2部:リスクマネジメント」がある。しかし、これに対応するJIS Z 9290-2は、日本規格協会 JSA Group WebdeskおよびJLPAの規格一覧のいずれにも見当たらない。
これは実務上、次のような意味を持つ。
- 「どの保護レベル(LPL)を選ぶべきか」を定量的なリスク計算式に基づいて算定するための、日本語の公式規格が存在しない
- 実務では、JIS A 4201とはで紹介したような、建物用途別(一般建築物・美術館・危険物施設など)の推奨保護レベルの目安表を参考にするか、国際規格であるIEC 62305-2そのものを直接参照する、あるいは避雷設備の設計・施工を専門とする事業者に個別相談するのが現実的な対応になる
- 保護レベルの選定は、雷密度(地域ごとの落雷頻度)・建物の重要度・危険物の有無など個別事情に左右されるため、目安表だけで機械的に判断せず、専門業者との協議を前提とすべき点は変わらない
なお、この点は規格の制定状況の確認であり、将来的にJIS Z 9290-2に相当する規格が制定される可能性を否定するものではない。設計時には、日本規格協会 JSA Group WebdeskまたはJISC(日本産業標準調査会)で最新の制定状況を確認してほしい。
JIS Z 9290-4(建築物等内の電気及び電子システム)が定めること
JIS Z 9290-4:2016は、正式名称を「雷保護-第4部:建築物等内の電気及び電子システム」といい、落雷によって生じる雷電磁インパルス(LEMP:Lightning ElectroMagnetic Pulse)による恒久的故障の発生を低減するため、建築物等内の電気及び電子システムの保護対策の設計・施工・検査・保守・試験について規定している(kikakurui.com掲載のJIS Z 9290-4:2016規格概要による)。
避雷針(受雷部システム)が建物そのものへの直撃雷の物的損傷を防ぐのに対し、JIS Z 9290-4は、直撃雷や近傍雷によって発生する雷サージや放射電磁界から、盤内の制御機器・電子機器を守ることに主眼を置いている。設計は次の2つの柱で構成される(音羽電機工業株式会社掲載情報による)。
- 雷サージを侵入させないための低減設計:LPZ(雷保護ゾーン)に基づくゾーニング、磁気シールド、配線ルートの工夫など
- 侵入した雷サージをSPDにより低減する設計:ゾーン境界にSPD(サージ防護デバイス)を段階的に配置し、雷サージのエネルギーを段階的に減衰させる
SPD協調(カスケード接続)
複数のSPDをLPZの境界ごとにカスケード接続する場合、上流側と下流側のSPDでエネルギー協調(SPD協調)を取る必要がある。各SPDの電圧防護レベル(Up)は、保護対象機器のインパルス耐電圧(Uw)以下になるよう段階的に設定し、脅威レベルを一段ずつ低減させていく、という考え方である(kikakurui.com掲載のJIS Z 9290-4:2016規格概要による)。個々のSPD製品のクラス分類(Type1〜3、旧クラスI〜III)や選定基準の詳細は、SPD規格であるJIS C 5381(IEC 61643整合)の領域になる。
等電位ボンディング
建築物全体を、目安として標準メッシュ幅5m以下の三次元メッシュ状のボンディング回路網で構成し、低インピーダンスな経路を確保する考え方である。すべての導電性部材(鉄骨・配管など)と引込線を、ボンディング用バーで相互接続することで電位差を最小化し、機器への逆流雷やサージ電流の悪影響を抑える(kikakurui.com掲載のJIS Z 9290-4:2016規格概要による)。等電位ボンディング用の導体・クランプ製品については、鉄骨・鉄筋を接地極として利用する際の対地抵抗の考え方とあわせて鉄骨アースの罠でも扱っているので参照してほしい。なお、SPDが正常に設置されていても、接地抵抗が高すぎたり、SPD自体が寿命劣化していたりすると雷サージが機器側へ逆流する実際の被害事例を【現場のやらかし】避雷器(SPD)を付けていたのに制御盤が全損!で紹介している。JIS Z 9290-4の設計思想を理解したうえでこの事例を読むと、「なぜ接地抵抗とSPDの劣化管理が致命的なのか」がより立体的に理解できるはずだ。
実務者が押さえておくべきポイント
- JIS Z 9290シリーズは、避雷針の配置基準(-3、旧JIS A 4201の後継)だけでなく、建物内の電気・電子機器をサージから守る-4も含む、より広い規格群である
- 保護レベル(LPL)を定量的に算定するためのJIS Z 9290-2は現時点で見当たらないため、目安表や国際規格IEC 62305-2、専門業者への相談で補う必要がある
- SPDは単体で設置すれば済むものではなく、LPZの考え方に基づくゾーニング・SPD協調・等電位ボンディングという設計思想の中に位置づけて初めて機能する
- 制御盤・分電盤へのSPD導入を検討する際は、避雷針(外部雷保護)とSPD・等電位ボンディング(内部雷保護)の両方が揃って初めて、建物と機器の両方を守れるという全体像を関係者間で共有しておくことが重要
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