倉庫から届いた段ボールを開けたのは、現場の配線器具が足りなくなった当日だった。海外通販サイトで見つけたコンセントとACアダプターは、国内代理店経由の半値近い。急場をしのぐつもりで発注し、そのまま制御盤に組み込んで施工した。数週間後、竣工検査に入った第三者の検査員が製品を裏返し、探していたものが見つからないと言う。ひし形の刻印——PSEマークがどこにもなかった。結果として、その配線器具一式は現場から撤去され、代替品への交換と再施工の費用は、施工業者側の持ち出しになった。
「安いから」で仕入れた電材が、あとになって現場から抜き取られる。この種の事故は珍しくない。そして厄介なのは、多くの実務者が「PSEマークは家電製品の話であって、業務用の配線器具や電源装置には縁が薄い」と思い込んでいることだ。実際には、電設資材の中核をなすコンセント・スイッチ・遮断器の多くがこの法律の直接の対象であり、しかもその規制は製品の種類によって重さが違う。この記事では、電気用品安全法とPSEマークの制度を、電材を選定・発注する立場から整理する。
PSEマークとは何か——丸型と菱形の違い
電気用品安全法は、電気用品の製造・輸入・販売を規制するとともに、事業者による自主的な安全確保の取り組みを促進し、電気用品による危険や障害の発生を防ぐことを目的とした法律である(経済産業省「電気用品安全法の概要」による)。この法律が定める電気用品は、大きく二つに分かれる。
- 特定電気用品:構造や使用方法などから見て、特に危険または障害の発生のおそれが多い電気用品。ひし形(菱形)のPSEマークを表示する。
- 特定電気用品以外の電気用品:上記に該当しない、その他の電気用品。丸型のPSEマークを表示する。
区分は形の見た目の問題ではない。特定電気用品(菱形)を製造・輸入する届出事業者は、自社の自主検査に加えて、経済産業大臣の登録を受けた第三者機関——登録検査機関——による技術基準適合性検査を受け、その証明書を保存しなければならない(電気用品安全法第9条)。特定電気用品以外(丸型)にはこの第三者検査の義務はなく、自主検査だけで足りる。つまり菱形は、審査の目が事業者の外にもう一段入る分だけ、規制として重い。
表示そのものにも意味がある。届出・基準適合・(特定電気用品なら)適合性検査という一連の義務を履行した事業者だけが表示を付けることができ、それ以外の者がこの表示やこれと紛らわしい表示を行うことは禁じられている(同法第10条・第12条)。マークは「検査に通った」という一枚のシールではなく、その手前にある義務の連鎖全体を指し示すサインだ。
対象品目——電設資材のどこが対象になるのか
「特定電気用品(116品目)」「特定電気用品以外の電気用品(341品目)」という二つの品目リストが、経済産業省によって定められている(経済産業省「特定電気用品一覧」「特定電気用品以外の電気用品一覧」による)。電設資材の実務で関わりが深いのは次のあたりだ。
| 区分 | マーク | 電設資材での主な該当例 |
|---|---|---|
| 特定電気用品 | 菱形 | タンブラスイッチ・コードコネクタボディ・差込みプラグ・コンセント・マルチタップ・配線用遮断器・漏電遮断器、および一定の断面積・電圧範囲の電線・ケーブル類 |
| 特定電気用品以外 | 丸型 | 上記以外の一般的な電気機械器具・照明器具関連部材など |
見てのとおり、日常的に発注する配線器具のかなりの部分が特定電気用品——つまり規制の厳しい菱形側——に区分されている。「うちが扱っているのは家電ではなく業務用の電材だから対象外だろう」という思い込みは、この一覧を見た瞬間に崩れる。
なぜ電設資材の調達で重要なのか
ここで確認しておきたいのは、PSEの義務を負うのが誰かという点だ。電気用品の製造、輸入又は販売の事業を行う者は、表示が付されているものでなければ電気用品を販売し、又は販売の目的で陳列してはならない、と法は定めている(電気用品安全法第27条)。製造事業者や輸入事業者だけの話に見えて、条文は「販売の事業を行う者」も名宛人に含めている。電設資材を仕入れる先——商社や卸——がすでにこの規制の直接の対象であり、無表示品を並べること自体がそこで違反になる、という構図だ。
だとすれば、施工業者や電気工事士の側は安心していいのか。そう単純でもない。発注した資材にPSE表示の欠落が見つかれば、法律上の名宛人が誰であるかにかかわらず、現場では「この製品を外してくれ」という話になる。竣工検査や元請の品質管理をすり抜けられるとは限らず、すり抜けたとしても、それは安心材料にはならない。むしろ発覚が遅れるほど、撤去・交換の手間と工程の遅延は大きくなる。PSEの確認は、法令遵守という建前以前に、手戻りコストを避けるための実務判断そのものだ。
注意点——並行輸入品と海外認証品のリスク
冒頭の例のように、海外製の配線器具や電源装置が国内正規品より安く出回っていることがある。ここに落とし穴がある。
電気用品の製造または輸入の事業を行う者は、事業開始の日から30日以内に経済産業大臣へ届け出る義務を負う(電気用品安全法第3条)。この届出は製品の型式に対してではなく、事業者ごとに課される制度である。つまり、同じ型番の製品であっても、国内の正規代理店がすでに届出・検査・表示を済ませているからといって、それとは別のルートで直接仕入れた並行輸入業者が同じ義務を免れるわけではない。並行輸入した本人が輸入事業者として、改めて自らの名で届出・技術基準適合確認・自主検査を行わなければならない立場に立つ。「正規品として国内に流通している実績がある製品だから大丈夫」という判断は、その並行輸入した個体の適法性までは保証しない。
海外の認証も同様の誤解を招きやすい。ULの認証を受けた電気用品やCEマークが付された電気用品を海外から輸入する場合であっても、電気用品安全法に基づく義務の履行——技術基準適合確認など——は別途必要になる(経済産業省関東経済産業局「電気用品輸入事業者の皆様へ」による)。UL・CEは、それぞれ米国・欧州の安全基準に基づく別の制度であり、PSEの代わりにはならない。
安い理由が、単に流通コストの差であればいい。しかし価格差の背後に「届出・検査・表示という義務の一部が履行されていない」という事情が隠れている場合、それは製品そのものの欠陥ではなく、その個体が国内で合法に流通する資格を欠いている、というもっと根の深い問題になる。
まとめ
PSEマークは、電気用品安全法という法律に基づく表示であり、JIS規格とは目的の異なる別の枠組みだ。丸型(特定電気用品以外)は自主検査で足りるのに対し、菱形(特定電気用品)は第三者機関の検査まで義務付けられており、コンセント・スイッチ・遮断器といった日常的な配線器具の多くがこの菱形側に区分されている。無表示品は法律上「販売」自体が禁じられており、届出義務は製品ではなく事業者ごとに課される——だからこそ、正規代理店の実績は並行輸入品の適法性を自動的には保証しない。海外製品や個人輸入・並行輸入のルートを検討する際は、価格差の理由を確認してから発注するかどうかを決めたい。
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