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配電盤・制御盤の温度上昇試験とは|JEM規格・JIS C 8480に基づく許容温度上昇の考え方と、盤を密閉するほど有利とは限らない理由

読了目安: 10分 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー

沿岸部の工場で、老朽化した動力制御盤を更新する計画があった。潮風にさらされる立地のため、担当者は迷わず「密閉度の高い、防塵防水性能の高い盤」を選んだ。パッキンを厚くし、換気口はふさぎ、IP等級もひとつ上のものを指定する。潮風と粉塵から中の機器を守るという判断は、間違ってはいなかったはずだ。

ところが稼働から数か月後、盤内の温度がじわじわと上がっていることに現場が気づく。真夏の午後、扉を開けて温度計を当てると、外気温との差は想像していたよりずっと大きい。機器は保護等級の高い、頑丈な盤に守られているはずだった。なぜ、その「守り」が裏目に出たのか。

答えを急ぐ前に、そもそも盤メーカーが出荷前にどんな検証を行っているのかを見ておく必要がある。手がかりは、この検証――温度上昇試験――そのものの中にある。

温度上昇試験とは何か

温度上昇試験は、盤に定格電流を流し続けた状態で、内部各部の温度がどこまで上昇するかを実測する出荷前の検証だ。母線やブレーカーの端子部、外郭表面といった発熱しやすい箇所に熱電対を取り付け、通電しながら温度が安定するまで測定を続ける。屋外設置盤を想定した試験例では、恒温室内を40℃・50℃と段階的に加熱しながら各2時間通電し、内部の温度差を確認したうえで、常温に戻した状態で機器が正常動作することまで確かめる手順が実施されている(屋外盤 設計・製作.COMによる)。

盤という製品は、図面上の定格電流や仕様表の数字だけでは、実際に熱がどう振る舞うかまでは分からない。同じ定格電流の盤でも、内部のレイアウト、配線の密度、外郭の材質や密閉度によって、発生した熱がどれだけ滞留するかはまるで違う。だからこそ計算だけで済ませず、実機に電流を流して確かめる工程が挟まる。

なぜ試験が必要か——発熱と放熱のバランスを実機で確認する

盤の中では、電流が流れる限り必ず熱が生まれる。母線の抵抗損、ブレーカーやコンタクタの接点抵抗、ケーブルの導体抵抗——電流が定格まで流れれば、これらすべてが発熱源になる。一方で、発生した熱は盤の表面や換気口から外へ逃げていく。この発熱と放熱が釣り合ったところで、盤内の温度は一定の値に落ち着く。

設計段階でも、この釣り合い点を計算やシミュレーションで見積もることはできる。しかし配線の引き回し方、機器の配置間隔、密閉部材の実際の効き方まで含めて、計算通りに熱が逃げてくれる保証はどこにもない。温度上昇試験は、この「計算上のバランス」が「現物のバランス」として本当に成立しているかを、電流を流して直接確かめる工程だ。ここで想定より高い温度が出れば、出荷前に設計を見直す機会になる。逆に言えば、この試験を経ていない盤は、定格通りに使い続けられるかどうかの裏付けをまだ持っていないということでもある。

許容温度上昇の考え方——周囲温度40℃を基準にした部位ごとの上限

では、どこまでの温度上昇なら合格なのか。この判定基準は、盤メーカーが独自に決めているわけではない。

キャビネット形分電盤を対象とするJIS C 8480:2016は、7.4項「温度上昇」で基準周囲温度を40℃と定めたうえで、部位ごとに温度上昇の上限値(表3)を規定している。

部位温度上昇限度最高許容温度(周囲40℃時)
母線・母線分岐導体及び分岐導体65 K105 ℃
ねじ締め接続部(裸銅)70 K110 ℃
接触部(裸銅)80 K120 ℃
キャビネット外郭45 K85 ℃

出典:JIS C 8480:2016 7.4項・表3(住宅用分電盤は適用対象外。同規格は2023年に改正されており、規格票は日本規格協会が有償で頒布しているため本文のURLは無い。最新版の数値は規格詳細から規格票を入手して確認してほしい)

この表を眺めると、部位によって許容される上昇幅がまるで違うことに気づく。人が誤って触れる可能性のある外郭は45Kという低い上限に抑えられ、逆に露出した接触部は80Kまで許容される。同じ盤の中でも「どこがどれだけ熱くなってよいか」は一律ではなく、その部位が担うリスク(火傷、絶縁劣化、隣接部材への熱害)に応じて個別に線引きされているわけだ。

低圧の配電盤・制御盤については、盤の構造・寸法を定めるJEM 1459とは別に、使用状態・定格仕様に加え工場試験・現地試験といった試験方法を定めるJEM 1460という規格があり、温度上昇に関わる検証もこの試験体系の中に位置づけられる(日本電機工業会(JEMA)の規格情報による)。ただしJEM規格の本文は会員限定または有償頒布が基本で、部位ごとの数値まで一般に公開されているわけではない。実務では、JIS C 8480のようなJIS規格の数値や、各盤メーカーが社内基準として持つ許容値を組み合わせて判断しているのが実情だ。

温度上昇限度が「上昇分(K)」で決まっていて「絶対温度」で決まっていないのにも理由がある。絶縁材料や導体の劣化は周囲温度そのものではなく、材料が実際にさらされる温度――つまり周囲温度に上昇分を足した値――で進む。基準周囲温度40℃という前提を動かさずに上昇分だけを規定しておけば、設置場所の気候が違っても同じものさしで合否を判定できる。モーターやトランスの絶縁種別でも近い考え方が使われており、たとえばB種絶縁では温度上昇限度がおおむね80K、E種ではおよそ75K程度とされる(まことエレクトリックによる絶縁種別ごとの目安)。許容最高温度は、この上昇限度に基準周囲温度を足した値として決まる。

盤を密閉するほど有利とは限らない理由

冒頭の沿岸部の盤に話を戻そう。担当者が選んだ「密閉度の高い仕様」は、潮風や粉塵に対しては正しい判断だった。だが、その判断が温度上昇試験の合否にどう跳ね返るかまでは、見えていなかった。

盤の密閉度を上げるということは、換気口をふさぎ、パッキンで隙間を埋め、外気と盤内の空気が行き来する経路を断つということだ。粉塵や水分はそれで防げる。しかし、盤内で発生した熱が外へ逃げる経路も、まったく同じ場所をふさぐことで一緒に塞がれてしまう。IP54やIP65のように防塵防水性能(IP保護等級)を上げるほど盤内に熱がこもりやすくなるという関係は、放熱設計の分野では既知のトレードオフだ(密閉度と放熱の関係は、別記事「制御盤の放熱設計と盤用クーラーの選び方」でも詳しく扱っている)。

温度上昇試験は、まさにこの見えにくいトレードオフを可視化する工程だと言える。密閉度を上げた設計そのものは間違っていなくても、その盤に収める機器の発熱量と、密閉によって狭められた放熱経路とのバランスが崩れていれば、試験は許容値超過という形でそれを教えてくれる。「頑丈で密閉性の高い盤ほど高性能」という直感は、放熱という一点に限れば逆に働くことがある。密閉と放熱は、同じ筐体設計の中で綱引きをしている二つの要求であり、温度上昇試験はその綱引きの結果を、電流を流した実機の上で判定する場なのだ。

温度上昇試験の結果が示すもの

温度上昇試験に合格した盤が保証しているのは、「見た目が頑丈である」ことでも「高価な部材を使っている」ことでもない。定格電流を流し続けた状態で、各部の温度が規定の上昇限度に収まり続けることの裏付けだ。言い換えれば、その盤はカタログに記載された定格通りの連続使用に耐えられることが、実測で確認済みだということになる。

逆に、この試験の意味を正しく理解していないと、「定格電流までなら問題ないはずだ」という前提だけで盤を使い続け、実際には設置環境や密閉仕様の違いによって試験時とは異なる温度条件で運転していることに気づかないまま、絶縁劣化や接触不良を進行させてしまう。試験は、あくまで試験を行った条件(周囲温度、換気状態、電流値)の範囲内での裏付けであり、設置後に密閉仕様を変更したり、想定より高温な環境に移設したりすれば、その裏付けは前提から崩れる。

カスタム設計・特注盤での注意点

標準品として量産されるカタログ品の盤であれば、型式ごとに温度上昇試験が実施され、その結果がカタログの定格に反映されている。問題は、現場の要求に合わせて機器配置や密閉仕様を個別に組み替える特注盤・カスタム設計の盤だ。

標準品と同じ外形寸法・同じ定格電流であっても、収納する機器の種類や台数、配線の密度、追加した密閉パッキンの有無が変われば、盤内の発熱と放熱のバランスはそのつど変わる。標準品での温度上昇試験結果を、仕様の異なる特注盤にそのまま当てはめてよい保証はどこにもない。特に、次のような変更を伴う特注盤では、個別の温度上昇試験、あるいは少なくとも発熱量の再計算を発注段階で確認しておきたい。

  • 塩害・粉塵対策で密閉度を上げた(換気口を塞いだ、パッキンを追加した)
  • 標準品より多くの機器を詰め込んだ、あるいは大容量の機器に入れ替えた
  • 屋外設置に転用する、あるいは直射日光が当たる場所に設置する
  • 既設の標準盤に増設を重ね、当初の発熱量の想定を超えている可能性がある

盤メーカーに発注する段階で、収納機器の構成・設置環境・密閉仕様を具体的に伝え、温度上昇試験の実施有無や、試験を行わない場合の発熱量計算の根拠を確認しておくことが、竣工後のトラブルを避ける一番の近道になる。

よくある質問

温度上昇試験は、盤を購入するたびに毎回実施されているのですか?

標準品として量産されている型式であれば、型式ごとに温度上昇試験が行われ、その結果がカタログの定格仕様に反映されているのが一般的です。ただし、機器構成や密閉仕様を個別に変更した特注盤・カスタム盤では、標準品の試験結果がそのまま当てはまるとは限りません。仕様変更の内容によっては、個別の温度上昇試験や発熱量の再計算を行っているか、発注時にメーカーへ確認することをおすすめします。

IP等級を上げると温度上昇試験に通らなくなることはありますか?

可能性はあります。防塵防水性能(IP保護等級)を上げるために換気口を塞ぐ、パッキンを追加するといった仕様変更は、盤内の熱が外へ逃げる経路を狭めることにつながります。収納機器の発熱量が変わらない前提でも、放熱条件が悪化すれば盤内温度は上昇し、部位によっては許容温度上昇を超えるおそれがあります。密閉度を上げる仕様変更を行う際は、放熱方式(換気扇・熱交換器・盤用クーラー等)の見直しとあわせて検討する必要があります。

温度上昇の許容値は、どの規格に書かれていますか?

低圧の配電盤・制御盤については、構造・寸法を定めるJEM 1459とは別に、定格及び試験方法を定めるJEM 1460という規格が温度上昇に関わる検証を扱っています。ただしJEM規格の本文は会員限定または有償頒布が基本のため、部位ごとの詳細な数値は一般に公開されていません。部位別の数値が確認できる近い規格としては、キャビネット形分電盤を対象とするJIS C 8480:2016の7.4項があり、基準周囲温度40℃のもとで母線65K・ねじ締め接続部70K・接触部80K・外郭45Kといった上限値が示されています(同規格は2023年に改正済み。JIS規格票も日本規格協会が有償で頒布しています)。

竣工後に盤の設置環境を変えた場合、温度上昇試験の結果はそのまま有効ですか?

そのままでは有効とは言えません。温度上昇試験は、試験を行った条件(周囲温度・換気状態・電流値等)の範囲内での結果です。竣工後に屋外へ移設した、密閉パッキンを追加した、収納機器を増設したといった変更があれば、試験時とは発熱・放熱のバランスが変わっている可能性があります。設置環境や仕様を変更する際は、変更後の条件で改めて発熱量を見積もり直すか、メーカーへ相談することをおすすめします。

盤内が高温になっているかどうかは、どうやって確認すればよいですか?

通電中であれば、赤外線サーモグラフィで盤内の温度分布を確認するのが有効です。同一条件の他相・他箇所と比べて明らかに高温な箇所がないかを確認します。停電点検が可能な機会には、母線や接続部の変色・異臭がないかも合わせて確認してください。具体的な点検方法は別記事「バスバー(母線)の選定基準」でも解説しています。

温度上昇試験・盤仕様のご相談について

「塩害対策で密閉度を上げたいが、放熱面は大丈夫か」「特注盤の発熱量を見積もってから発注したい」——こうしたご相談を、設備更新をご検討の担当者様からよくいただきます。

電設資材専門商社の松本電業株式会社(東京都台東区台東2-4-11)では、盤メーカー各社の仕様・温度上昇試験の実施有無を確認したうえで、設置環境に見合った仕様選定とお見積りに対応しています。型番が決まっていない検討段階でも、収納機器の構成や設置環境をお聞かせください。

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よくある質問

温度上昇試験は、盤を購入するたびに毎回実施されているのですか?

標準品として量産されている型式であれば、型式ごとに温度上昇試験が行われ、その結果がカタログの定格仕様に反映されているのが一般的です。ただし、機器構成や密閉仕様を個別に変更した特注盤・カスタム盤では、標準品の試験結果がそのまま当てはまるとは限りません。仕様変更の内容によっては、個別の温度上昇試験や発熱量の再計算を行っているか、発注時にメーカーへ確認することをおすすめします。

IP等級を上げると温度上昇試験に通らなくなることはありますか?

可能性はあります。防塵防水性能(IP保護等級)を上げるために換気口を塞ぐ、パッキンを追加するといった仕様変更は、盤内の熱が外へ逃げる経路を狭めることにつながります。収納機器の発熱量が変わらない前提でも、放熱条件が悪化すれば盤内温度は上昇し、部位によっては許容温度上昇を超えるおそれがあります。密閉度を上げる仕様変更を行う際は、放熱方式(換気扇・熱交換器・盤用クーラー等)の見直しとあわせて検討する必要があります。

温度上昇の許容値は、どの規格に書かれていますか?

低圧の配電盤・制御盤については、盤の構造・寸法を定めるJEM 1459とは別に、定格及び試験方法を定めるJEM 1460という規格があり、温度上昇に関わる検証もこの試験体系の中に位置づけられます。ただしJEM規格の本文は会員限定または有償頒布が基本のため、部位ごとの詳細な数値は一般に公開されていません。部位別の数値が確認できる近い規格としては、キャビネット形分電盤を対象とするJIS C 8480:2016の7.4項があり、基準周囲温度40℃のもとで母線65K・ねじ締め接続部70K・接触部80K・外郭45Kといった上限値が示されています(同規格は2023年に改正済み。JIS規格票も日本規格協会が有償で頒布しています)。

竣工後に盤の設置環境を変えた場合、温度上昇試験の結果はそのまま有効ですか?

そのままでは有効とは言えません。温度上昇試験は、試験を行った条件(周囲温度・換気状態・電流値等)の範囲内での結果です。竣工後に屋外へ移設した、密閉パッキンを追加した、収納機器を増設したといった変更があれば、試験時とは発熱・放熱のバランスが変わっている可能性があります。設置環境や仕様を変更する際は、変更後の条件で改めて発熱量を見積もり直すか、メーカーへ相談することをおすすめします。

盤内が高温になっているかどうかは、どうやって確認すればよいですか?

通電中であれば、赤外線サーモグラフィで盤内の温度分布を確認するのが有効です。同一条件の他相・他箇所と比べて明らかに高温な箇所がないかを確認します。停電点検が可能な機会には、母線や接続部の変色・異臭がないかも合わせて確認してください。具体的な点検方法は別記事「バスバー(母線)の選定基準」でも解説しています。

参考文献・出典

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