現場で電圧降下を見積もった。電線の長さと抵抗から、二種で習った式で計算すると2Vのはずだった。ところが実際にテスターで測ると、4V近く下がっている。電線は新品、接続部の緩みもない。テスターも別の機器で校正済みだ。
計算のどこが、現実とずれていたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この消えた2Vがどこに隠れていたのかを、自分で計算して説明できるようになっている。
二種電気工事士で覚えた電圧降下の式は、単相2線式e=2IR、三相3線式e=√3IRだった。ここで正直に言っておかなければならないことがある。この式は、負荷の力率が1(純抵抗負荷)のときにしか成立しない略式だ。
本当の式にはリアクタンスと力率が入る
実際の負荷の多くは、モーターのようにコイルを含み、力率が1より低い(遅れ力率)。この場合、電線には抵抗Rだけでなくリアクタンスxも影響し、電圧降下の近似式は次の形になる。
- 単相2線式: e = 2I(Rcosθ + Xsinθ)
- 三相3線式: e = √3I(Rcosθ + Xsinθ)(R・Xは電線1条あたり)
二種の式e=2IRは、この式でcosθ=1・sinθ=0を代入した特別な場合にすぎない。
なぜRcosθ+Xsinθという足し算の形になるのか、ベクトル図から考えてみる。受電端電圧を基準にとり、電流を力率角θだけ傾けて描くと、送電端電圧はそこから抵抗による電圧降下(電流と同じ向き、大きさIR)と、リアクタンスによる電圧降下(電流に対して90度進んだ向き、大きさIX)を足し合わせた先にある。この2つの降下を、受電端電圧の向きに投影した成分だけを取り出すと、抵抗側の投影がRcosθ、リアクタンス側の投影がXsinθになる――位相が90度離れた2つの降下を、同じ向きの成分だけ足し合わせているのがこの式の正体だ。送受電端の位相差そのものは無視できるとみなしているため、これは近似式ということになる。
たとえば単相2線式で電流20A、電線1条あたりR=0.05Ω・X=0.1Ω、力率0.8(遅れ、sinθ=0.6)の場合。二種の略式ならe=2×20×0.05=2V。だが本当の式では、e=2×20×(0.05×0.8+0.1×0.6)=40×(0.04+0.06)=4V。同じ電流・同じ抵抗値なのに、力率とリアクタンスを考慮しただけで電圧降下は2倍になった。冒頭で「消えた2V」と感じたものの正体は、まさにこのXsinθの項だった。
同じ考え方を高圧配電線路(三相3線式)に広げてみる。電流50A、電線1条あたりR=0.2Ω・X=0.3Ω、力率0.9(遅れ、sinθ≒0.436)なら、e=√3×50×(0.2×0.9+0.3×0.436)=86.6×(0.18+0.131)=86.6×0.311≒26.9V。もしここでリアクタンスを無視し、二種の略式e=√3IRだけで計算してしまうと、e=√3×50×0.2=86.6×0.2≒17.3Vという、実際より1割以上小さい値が出てしまう。高圧配電線路のように電線が長くリアクタンスの割合が大きい区間ほど、この見落としの影響は大きくなる。現場で電圧降下を計算した数値と実測値がずれるとき、原因を「電線の劣化」や「測定誤差」に求める前に、この計算そのものにXsinθの項が入っているかどうかを確認する価値がある。
電力損失には力率もリアクタンスも出てこない
もう1つ、電圧降下と混同しやすいのが電力損失の式だ。
- 単相2線式: PL = 2I²R
- 三相3線式: PL = 3I²R
電線1条あたりI²Rの損失が、条数分(2条または3条)だけ生じるという単純な式で、電力損失の式にsinθの項は一切現れない。 電圧降下は電圧の「位相のずれ」を含む現象だが、電力損失は電線の抵抗で単純に熱として失われる分だけを表しているためだ。「電圧降下にXsinθが入るなら、電力損失にも似た項があるはず」という連想は、この2つの式の性質の違いを見落としている。
先ほどの単相2線式の例(I=20A、R=0.05Ω)で電力損失を求めると、PL=2×20²×0.05=2×400×0.05=40W。ここでもしXの項を電力損失にも足してしまい、PL=2I²(Rcosθ+Xsinθ)のような式を作ってしまうと、単位からしておかしなことになる。電圧降下e=I×(Rcosθ+Xsinθ)は「電圧」の単位だが、電力損失はI²×抵抗という「電力」の単位で、そもそも足す対象がリアクタンスではなく抵抗Rだけで完結している。式を作るときは、求めたいものが電圧なのか電力なのかを最初に確認し、電力損失の式にXやθが顔を出したら、それは式の作り方を間違えているサインだと考えるとよい。
高圧配電線路(6.6kVで数kmのこう長)でも、電圧降下の近似式・電力損失の式ともにそのまま適用でき、電圧降下は「降下率(%)」として扱われることが多い。
三相4線式でも、同じ式が使えるか
ここまで単相2線式・三相3線式を見てきたが、動力と電灯を1つの線路でまとめて供給する三相4線式(電圧線3本+中性線1本)では、この式はどう変わるのか。
答えは「土台は同じで、係数だけが変わる」だ。この近似式の共通の土台は、1線あたりの電圧降下=I(Rcosθ+Xsinθ) という1つの式にすぎない。電気方式が変われば、この土台に掛ける係数が変わるだけだ。
- 単相2線式(往復2線分): 係数2 → e=2I(Rcosθ+Xsinθ)
- 単相3線式・三相4線式(電圧線と中性線の間=対中性線、平衡時): 係数1 → e=I(Rcosθ+Xsinθ)(平衡なら中性線に電流が流れず1線分の降下だけで済む)
- 三相3線式(線間): 係数√3 → e=√3I(Rcosθ+Xsinθ)
三相4線式で「線間電圧の降下」を問われた場合は、三相3線式と同じ√3I(Rcosθ+Xsinθ)で計算する。1線分の降下×√3という関係は、電気方式が3線か4線かではなく、対中性線を基準にするか、線間を基準にするかという基準の取り方だけで決まる。
進み力率では、符号がひっくり返る
ここまでの式 e = √3 I(R cosθ + X sinθ) は、遅れ力率を前提にしている。 配電線路につながる負荷の大半は電動機のような誘導性負荷なので、ふだんはこれで足りる。
ところが進み力率になる場面がある。深夜、工場の電動機が止まって軽負荷になったのに、 進相コンデンサだけが入ったままのときだ。コンデンサは進みの無効電力を出すので、 負荷全体が進み力率に転じる。
このとき、X sinθ の符号が逆になる。
| 力率の向き | 電圧降下の近似式(三相3線式) |
|---|---|
| 遅れ(誘導性・通常) | e = √3 I(R cosθ + X sinθ) |
| 進み(容量性・軽負荷時) | e = √3 I(R cosθ − X sinθ) |
引き算になるので、電圧降下は小さくなる。そして X sinθ が R cosθ を上回ると e が負になり、受電端のほうが送電端より電圧が高くなる。これがフェランチ効果だ。
実務でもこれは実害になる。夜間に受電端電圧が上がりすぎると機器の絶縁に負担がかかるため、 進相コンデンサを負荷に応じて開放する制御(自動力率調整)が入っている設備が多い。
負荷が途中にもあるとき — 電線に流れる電流は区間ごとに違う
これまでの は、末端に負荷が1つだけある線路の式だった。ところが実際の配線では、途中にも負荷がぶら下がっていることのほうが多い。この形が出題されると、どの電流をに入れればいいのか分からなくなる。
考え方は1つだけだ。ある区間の電線に流れる電流は、その区間より先にある負荷の電流の合計になる。
電源A → B点(10Aの負荷) → C点(10Aの負荷、末端)という単相2線式を考える。
- A-B間は、B点の負荷とC点の負荷の両方に電気を送っている → 流れるのは 〔A〕
- B-C間は、C点の負荷だけに送っている → 流れるのは 〔A〕
同じ1本の線路でも、B点を境に電流が変わる。だから電圧降下も、区間ごとに計算して足し合わせる。1線あたりの抵抗をA-B間0.1Ω、B-C間0.1Ωとすると、
手順にすると3つだ。①分岐点で線路を区間に切る ②各区間の電流を「その先の負荷の合計」として求める ③区間ごとの電圧降下を計算して足す。 A点からC点までの電圧降下を聞かれれば全区間の和、A点からB点までなら最初の区間だけ、と問われた範囲の区間だけを足せばよい。
この見方が身につくと、幹線の太さを途中で変える設計の意図も読める。電流が大きいのは電源に近い区間なので、そこだけ太い電線を使い、末端に向かって細くしていく。電線を全部同じ太さにするより材料費が下がり、それでいて電圧降下は基準内に収まる——区間ごとに電流が違うという事実が、そのまま設計の余地になっている。
実測とのズレは、故障ではなく計算の前提の問題であることが多い
今日試せることとして、電圧降下を見積もる機会があれば、負荷が純抵抗(力率1)なのか、モーターなど力率が1未満の負荷を含むのかを、計算の前に必ず確認する癖をつけてみるといい。それだけで、二種の略式で計算すべきか、一種のRcosθ+Xsinθの式を使うべきかが最初に決まる。
高圧配電線路の設計では、こう長が長くなるほどリアクタンスの影響が無視できなくなる。抵抗だけを見て「電線を太くすれば解決する」と判断すると、リアクタンス由来の電圧降下は改善されないままになることもある。この式を知っていることが、原因を正しく切り分ける力になる。
冒頭の消えた2V、その正体は答え合わせとして理解度チェックの最後の問題でも触れる。