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配電理論及び配線設計 ・ 1 / 8

高圧配電の電圧降下と電力損失 ― 力率とリアクタンスを含めて

読み終えると、こうなる

電線の抵抗から計算した電圧降下と、現場で実測した値がずれる理由を、電線の劣化ではなく力率とリアクタンスの問題として言い当てられるようになる

  • 二種で使ったe=2IRが、力率1(cosθ=1)だけに通用する略式だったと見抜ける
  • 電線1条あたりの抵抗Rとリアクタンスxから、力率込みの電圧降下e=2I(Rcosθ+Xsinθ)を計算できる
  • 電力損失の式にsinθの項が入らないことを利用して、電圧降下と電力損失を混同した選択肢を除外できる
考えてみよう

現場で電圧降下を見積もった。電線の長さと抵抗から、二種で習った式で計算すると2Vのはずだった。ところが実際にテスターで測ると、4V近く下がっている。電線は新品、接続部の緩みもない。テスターも別の機器で校正済みだ。

計算のどこが、現実とずれていたのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この消えた2Vがどこに隠れていたのかを、自分で計算して説明できるようになっている。

二種電気工事士で覚えた電圧降下の式は、単相2線式e=2IR、三相3線式e=√3IRだった。ここで正直に言っておかなければならないことがある。この式は、負荷の力率が1(純抵抗負荷)のときにしか成立しない略式だ。

本当の式にはリアクタンスと力率が入る

実際の負荷の多くは、モーターのようにコイルを含み、力率が1より低い(遅れ力率)。この場合、電線には抵抗Rだけでなくリアクタンスxも影響し、電圧降下の近似式は次の形になる。

  • 単相2線式: e = 2I(Rcosθ + Xsinθ)
  • 三相3線式: e = √3I(Rcosθ + Xsinθ)(R・Xは電線1条あたり)

二種の式e=2IRは、この式でcosθ=1・sinθ=0を代入した特別な場合にすぎない。

電圧降下のベクトル図(近似) 受電端電圧 Rcosθ の項 Xsinθ の項 e≒Rcosθ+Xsinθ の和として近似できる 送受電端の位相差が小さいとみなした近似式

なぜRcosθ+Xsinθという足し算の形になるのか、ベクトル図から考えてみる。受電端電圧を基準にとり、電流を力率角θだけ傾けて描くと、送電端電圧はそこから抵抗による電圧降下(電流と同じ向き、大きさIR)と、リアクタンスによる電圧降下(電流に対して90度進んだ向き、大きさIX)を足し合わせた先にある。この2つの降下を、受電端電圧の向きに投影した成分だけを取り出すと、抵抗側の投影がRcosθ、リアクタンス側の投影がXsinθになる――位相が90度離れた2つの降下を、同じ向きの成分だけ足し合わせているのがこの式の正体だ。送受電端の位相差そのものは無視できるとみなしているため、これは近似式ということになる。

たとえば単相2線式で電流20A、電線1条あたりR=0.05Ω・X=0.1Ω、力率0.8(遅れ、sinθ=0.6)の場合。二種の略式ならe=2×20×0.05=2V。だが本当の式では、e=2×20×(0.05×0.8+0.1×0.6)=40×(0.04+0.06)=4V。同じ電流・同じ抵抗値なのに、力率とリアクタンスを考慮しただけで電圧降下は2倍になった。冒頭で「消えた2V」と感じたものの正体は、まさにこのXsinθの項だった。

同じ考え方を高圧配電線路(三相3線式)に広げてみる。電流50A、電線1条あたりR=0.2Ω・X=0.3Ω、力率0.9(遅れ、sinθ≒0.436)なら、e=√3×50×(0.2×0.9+0.3×0.436)=86.6×(0.18+0.131)=86.6×0.311≒26.9V。もしここでリアクタンスを無視し、二種の略式e=√3IRだけで計算してしまうと、e=√3×50×0.2=86.6×0.2≒17.3Vという、実際より1割以上小さい値が出てしまう。高圧配電線路のように電線が長くリアクタンスの割合が大きい区間ほど、この見落としの影響は大きくなる。現場で電圧降下を計算した数値と実測値がずれるとき、原因を「電線の劣化」や「測定誤差」に求める前に、この計算そのものにXsinθの項が入っているかどうかを確認する価値がある。

この式は「送受電端の位相差が小さい」とみなしたときの**近似式**であって、厳密な解ではない。だが試験ではこの近似式が正解として扱われる。近似だからといって不正確というわけではなく、実用上十分な精度で電圧降下を見積もれる、実務でも使われている式だ。「近似である」という位置づけと、「試験の正解として使う」ことは矛盾しない。

電力損失には力率もリアクタンスも出てこない

もう1つ、電圧降下と混同しやすいのが電力損失の式だ。

  • 単相2線式: PL = 2I²R
  • 三相3線式: PL = 3I²R

電線1条あたりI²Rの損失が、条数分(2条または3条)だけ生じるという単純な式で、電力損失の式にsinθの項は一切現れない。 電圧降下は電圧の「位相のずれ」を含む現象だが、電力損失は電線の抵抗で単純に熱として失われる分だけを表しているためだ。「電圧降下にXsinθが入るなら、電力損失にも似た項があるはず」という連想は、この2つの式の性質の違いを見落としている。

先ほどの単相2線式の例(I=20A、R=0.05Ω)で電力損失を求めると、PL=2×20²×0.05=2×400×0.05=40W。ここでもしXの項を電力損失にも足してしまい、PL=2I²(Rcosθ+Xsinθ)のような式を作ってしまうと、単位からしておかしなことになる。電圧降下e=I×(Rcosθ+Xsinθ)は「電圧」の単位だが、電力損失はI²×抵抗という「電力」の単位で、そもそも足す対象がリアクタンスではなく抵抗Rだけで完結している。式を作るときは、求めたいものが電圧なのか電力なのかを最初に確認し、電力損失の式にXやθが顔を出したら、それは式の作り方を間違えているサインだと考えるとよい。

高圧配電線路(6.6kVで数kmのこう長)でも、電圧降下の近似式・電力損失の式ともにそのまま適用でき、電圧降下は「降下率(%)」として扱われることが多い。

三相4線式でも、同じ式が使えるか

ここまで単相2線式・三相3線式を見てきたが、動力と電灯を1つの線路でまとめて供給する三相4線式(電圧線3本+中性線1本)では、この式はどう変わるのか。

答えは「土台は同じで、係数だけが変わる」だ。この近似式の共通の土台は、1線あたりの電圧降下=I(Rcosθ+Xsinθ) という1つの式にすぎない。電気方式が変われば、この土台に掛ける係数が変わるだけだ。

  • 単相2線式(往復2線分): 係数2 → e=2I(Rcosθ+Xsinθ)
  • 単相3線式・三相4線式(電圧線と中性線の間=対中性線、平衡時): 係数1 → e=I(Rcosθ+Xsinθ)(平衡なら中性線に電流が流れず1線分の降下だけで済む)
  • 三相3線式(線間): 係数√3 → e=√3I(Rcosθ+Xsinθ)

三相4線式で「線間電圧の降下」を問われた場合は、三相3線式と同じ√3I(Rcosθ+Xsinθ)で計算する。1線分の降下×√3という関係は、電気方式が3線か4線かではなく、対中性線を基準にするか、線間を基準にするかという基準の取り方だけで決まる。

新しい式を覚える必要はない。**覚えるのは1線分I(Rcosθ+Xsinθ)という土台だけ。** あとは電気方式と、何と何の間の電圧降下を問われているかに応じて、係数(単相2線式=2、三相3線式の線間=√3、単相3線式・三相4線式の対中性線=1)を掛ければよい。三相4線式は、単相3線式と同じ「対中性線=1」の土台と、三相3線式と同じ「線間=√3」の土台の、両方を持つ方式だと理解しておく。

進み力率では、符号がひっくり返る

ここまでの式 e = √3 I(R cosθ + X sinθ) は、遅れ力率を前提にしている。 配電線路につながる負荷の大半は電動機のような誘導性負荷なので、ふだんはこれで足りる。

ところが進み力率になる場面がある。深夜、工場の電動機が止まって軽負荷になったのに、 進相コンデンサだけが入ったままのときだ。コンデンサは進みの無効電力を出すので、 負荷全体が進み力率に転じる。

このとき、X sinθ の符号が逆になる

力率の向き電圧降下の近似式(三相3線式)
遅れ(誘導性・通常)e = √3 I(R cosθ + X sinθ)
進み(容量性・軽負荷時)e = √3 I(R cosθ X sinθ)

引き算になるので、電圧降下は小さくなる。そして X sinθ が R cosθ を上回ると e が負になり、受電端のほうが送電端より電圧が高くなる。これがフェランチ効果だ。

問題文に「**深夜**」「**軽負荷**」「**進相コンデンサを接続したまま**」という言葉が出てきたら、 符号を引き算に切り替える合図だと思っていい。遅れの式を機械的に当てはめると、 電圧降下を過大に見積もった選択肢を選んでしまう。

実務でもこれは実害になる。夜間に受電端電圧が上がりすぎると機器の絶縁に負担がかかるため、 進相コンデンサを負荷に応じて開放する制御(自動力率調整)が入っている設備が多い。

負荷が途中にもあるとき — 電線に流れる電流は区間ごとに違う

これまでの e=2IRe = 2IR は、末端に負荷が1つだけある線路の式だった。ところが実際の配線では、途中にも負荷がぶら下がっていることのほうが多い。この形が出題されると、どの電流をIIに入れればいいのか分からなくなる。

考え方は1つだけだ。ある区間の電線に流れる電流は、その区間より先にある負荷の電流の合計になる。

電源A → B点(10Aの負荷) → C点(10Aの負荷、末端)という単相2線式を考える。

  • A-B間は、B点の負荷とC点の負荷の両方に電気を送っている → 流れるのは 10+10=2010+10=20〔A〕
  • B-C間は、C点の負荷だけに送っている → 流れるのは 1010〔A〕

同じ1本の線路でも、B点を境に電流が変わる。だから電圧降下も、区間ごとに計算して足し合わせる。1線あたりの抵抗をA-B間0.1Ω、B-C間0.1Ωとすると、

e=2×20×0.1+2×10×0.1=4+2=6 〔V〕e = 2 \times 20 \times 0.1 + 2 \times 10 \times 0.1 = 4 + 2 = 6\ \text{〔V〕}

やってはいけないのは、末端の10Aだけを見て $e = 2 \times 10 \times 0.2 = 4$〔V〕としてしまうことだ。これはA-B間にも10Aしか流れていないと仮定した計算で、実際より小さく出る。**電圧降下を小さく見積もる誤りは、実務では「引いてみたら電圧が足りない」という形で現れる**——机上で見落とすと、現場では引き直しになる。

手順にすると3つだ。①分岐点で線路を区間に切る ②各区間の電流を「その先の負荷の合計」として求める ③区間ごとの電圧降下を計算して足す。 A点からC点までの電圧降下を聞かれれば全区間の和、A点からB点までなら最初の区間だけ、と問われた範囲の区間だけを足せばよい。

この見方が身につくと、幹線の太さを途中で変える設計の意図も読める。電流が大きいのは電源に近い区間なので、そこだけ太い電線を使い、末端に向かって細くしていく。電線を全部同じ太さにするより材料費が下がり、それでいて電圧降下は基準内に収まる——区間ごとに電流が違うという事実が、そのまま設計の余地になっている。

実測とのズレは、故障ではなく計算の前提の問題であることが多い

今日試せることとして、電圧降下を見積もる機会があれば、負荷が純抵抗(力率1)なのか、モーターなど力率が1未満の負荷を含むのかを、計算の前に必ず確認する癖をつけてみるといい。それだけで、二種の略式で計算すべきか、一種のRcosθ+Xsinθの式を使うべきかが最初に決まる。

高圧配電線路の設計では、こう長が長くなるほどリアクタンスの影響が無視できなくなる。抵抗だけを見て「電線を太くすれば解決する」と判断すると、リアクタンス由来の電圧降下は改善されないままになることもある。この式を知っていることが、原因を正しく切り分ける力になる。

冒頭の消えた2V、その正体は答え合わせとして理解度チェックの最後の問題でも触れる。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 二種で使ったe=2IRを、力率が悪い回路にもそのまま使わせる

    なぜ引っかかる二種の電圧降下はcosθ=1(純抵抗負荷)を前提にしたe=2IRだけで済んでいたため、力率が1でない負荷(コイルを含むモーターなど)にもこの式をそのまま当てはめてしまいやすい

    見破り方問題文に力率cosθ(またはsinθ、リアクタンスX)の記載があるかどうかを最初に確認する。記載があれば、e=2I(Rcosθ+Xsinθ)の形を使う必要がある合図だと考える

  2. 電力損失の式にも、電圧降下と同じXsinθの項が入ると錯覚させる

    なぜ引っかかる電圧降下の式にXsinθの項が入ることを学ぶと、電力損失にも同じような項が入りそうに感じられるが、電力損失PL=2I²R(単相2線式)にはリアクタンスも力率も一切登場しない

    見破り方電力損失は『電線の抵抗で熱として失われる分』だけを表しており、電圧の位相(進み・遅れ)とは無関係だと理解する。式にRしか出てこないことを確認する

  3. 力率込みの電圧降下式を『近似ではなく厳密な正解』だと思い込ませる

    なぜ引っかかる試験ではe=2I(Rcosθ+Xsinθ)が正解として扱われるため、これが厳密解だと錯覚しやすいが、実際は送受電端の位相差が小さいという条件のもとでの近似式である

    見破り方この式が、ベクトル図で位相差を無視できるとみなした近似から導かれていることを知っておく。試験ではこの近似式で計算すれば十分だが、『近似である』という位置づけを混同しない

  4. 三相4線式の電圧降下を、三相3線式と同じ係数√3でいつも計算させる

    なぜ引っかかる『三相』という言葉が共通しているため、3線式でも4線式でも同じ√3の係数を使えばよいと思い込みやすい

    見破り方何と何の間の電圧降下を問われているかを先に確認する。対中性線(相電圧)の降下なら係数は1、線間(線間電圧)の降下を問われれば係数は√3になる。三相4線式は中性線があるぶん、単相3線式と同じ『対中性線=1』の土台も選べる方式だと理解する

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 二種で使ったe=2IR(単相2線式)は、力率1(純抵抗負荷)のときだけ成立する略式
  2. 力率・リアクタンスを含む近似式: 単相2線式e=2I(Rcosθ+Xsinθ)、三相3線式e=√3I(Rcosθ+Xsinθ)(R・Xは電線1条あたり)
  3. 近似式のXsinθの符号は力率の向きで変わる。遅れ力率ならe=√3I(Rcosθ+Xsinθ)だが、進み力率では符号が反転してe=√3I(Rcosθ−Xsinθ)になる。深夜の軽負荷で進相コンデンサが効きすぎた状態が典型で、このとき電圧降下は小さくなり、条件によっては受電端のほうが電圧が高くなる(フェランチ効果)
  4. 進み力率の問題は「深夜」「軽負荷」「進相コンデンサを入れたまま」という言葉で示されることが多い。この語を見たら符号を引き算に切り替える
  5. 共通の土台は『1線あたりの電圧降下=I(Rcosθ+Xsinθ)』。電気方式ごとに係数だけが変わる(単相2線式=2、三相3線式=√3、単相3線式・三相4線式の対中性線=1)。三相4線式でも線間の降下を問われれば係数は√3になる
  6. この式は送受電端の位相差が小さいという前提での近似式であり、厳密解ではない
  7. 電力損失は電圧降下とは別の式: 単相2線式PL=2I²R、三相3線式PL=3I²R。損失の式にsinθの項は現れない
  8. 高圧配電線路(数kmのこう長)でも同じ近似式をそのまま適用でき、降下率は%で扱う
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