電力会社の設計者に「同じ電力を、同じ距離、同じ許容損失で送るとして、配電方式を選べ」と言われたら、まよわず三相3線式を選ぶ。まったく同じ仕事をするはずなのに、単相でやるか三相でやるかで、使う電線の総量(コスト)にはっきりとした差がつくからだ。
その差はどれくらいで、何が理由なのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電力会社が幹線を三相で組み、家庭への引込みを単相3線式にしている理由を、電線量という視点から説明できるようになっている。
二種電気工事士の配電方式では、単相2線式・単相3線式・三相3線式それぞれの電圧・電流の関係式までを学んだ。ここでは視点を変えて、「同じ仕事をするなら、どの方式がいちばん電線を使わずに済むか」を比べる。
電圧降下は方式によってはっきり違う
電線1条の抵抗Rと線電流Iがまったく同じという条件で並べると、電圧降下は次の順で大きい。
単相2線式(2IR) > 三相3線式(√3IR) > 単相3線式・平衡時(IR)
これは二種で学んだ各方式の式に、同じRとIを当てはめれば出てくる関係だ。
順位そのもの(単相2線式がもっとも大きい)はどちらの前提でも変わらないが、比の数値だけは前提とセットで覚える。「同じ電力なら三相の電圧降下は単相の√3/2倍」と数値まで覚え込むと、電力一定を明示した計算問題で係数を取り違える。
電線量の比較 ― 前提条件つきの参考値
もう1つの視点が、所要電線量(必要な電線の総量、つまりコスト)の比較だ。教科書で広く示される代表値は、単相2線式を100%としたとき、次のようになる。
- 単相2線式: 100%(基準)
- 三相3線式: 75%
- 単相3線式(平衡): 37.5%
- 三相4線式: 33.3%
なぜ電線量に差がつくのか ― 電流の違いから見る
電線量の差は、突き詰めれば「同じ電力を送るのに必要な電流」の違いから来ている。三相の電流は、
I = P / (√3・V・cosθ)
単相のI=P/(V・cosθ)と比べると、分母に√3が加わる分だけ電流は小さくて済む(約1/√3倍)。電流が小さくなれば、同じ電力損失の範囲に収めるために必要な電線の断面積も小さくてよく、結果として電線量も減る。単相3線式が特に少なくて済むのは、中性線を挟んで2系統分の電力を実質1.5本分の電線でまかなえる構造になっているためだ。
単相2線式と三相3線式の75%を、実際に導いてみる
電線量(重量)は、電線の本数nと断面積Aの積に比例する(長さと材質は方式によらず共通なので考えなくてよい)。断面積Aは、許容される電力損失PLの範囲で決まり、A=n・I²・ρl/PL という関係になる(ρ:抵抗率、l:こう長)。したがって電線量は、n²・I²に比例すると考えてよい。
単相2線式(n=2)は、電流I=P/(Vcosθ)なので、n²I²=4×{P/(Vcosθ)}²。三相3線式(n=3)は、電流I=P/(√3Vcosθ)なので、n²I²=9×{P/(√3Vcosθ)}²=9×P²/(3V²cos²θ)=3×P²/(V²cos²θ)。
この2つの比を取ると、三相3線式÷単相2線式=3÷4=0.75。単相2線式を100%としたときの三相3線式の電線量が75%になる、という代表値は、n²I²という関係式から実際にこうして導ける。
単相3線式・三相4線式についても同じ考え方(n²I²の比較)を土台にしているが、こちらは中性線の電流がゼロに近いという特殊事情があるため、中性線の太さをどう決めるか(電圧線と同じ太さにするのか、細くするのか)という前提の置き方によって、比較値がいくらか変わってくる。教科書に37.5%・33.3%という代表値が載っているのは、中性線を電圧線と同じ太さに揃える、という一定の前提を置いた場合の値であり、この前提が変われば数値も変わり得る、という留保がつく。
もう1つの物差し — 電線1線当たりの供給電力
電線量の比(100%・75%・37.5%)は「同じ電力を運ぶのに、電線がどれだけ要るか」を見る指標だった。試験にはもう1つ、向きが逆の指標が出る。電線1線当たり、どれだけの電力を供給できるかだ。
計算は素直で、その方式が運ぶ全電力を、使っている電線の本数で割るだけになる。
- 単相2線式:全電力は 、電線は2本。1線当たり
- 単相3線式:全電力は (は電圧線と中性線の間の電圧)、電線は3本。1線当たり
4/3倍(約1.33倍)。 電線を1本増やしただけで、1本あたりの働きも増えている——単相3線式が住宅の標準になった理由が、この数字に出ている。
三相3線式も同じ手順で出せる。全電力は 、電線は3本なので、1線当たり 。単相2線式の と比べると 倍になる。
- 所要電線量の比 — 分母が「運ぶ電力」。少ないほど良い(37.5%が最良)
- 1線当たりの供給電力 — 分母が「電線の本数」。大きいほど良い
設問がどちらを聞いているかは、「電線1線当たり」という言葉があるかどうかで見分ける。この一言があれば、電線量比の数字(75%・37.5%)を持ち出しても答えにならない。
「同じ仕事」を、いちばん少ない電線で運ぶ
電力会社が長い幹線区間に三相を使い、家庭への短い引込み区間に単相3線式を使っているのは、それぞれの区間でコストの有利な方式を選んだ結果だ。今日試せることとして、街を歩いて電柱の上の電線の本数を数えてみるといい。幹線区間は3本(三相3線式)、住宅への引込みは3本(単相3線式)と、同じ本数でもまったく違う理由でその本数になっている。
配電方式を選ぶという視点は、電気工事士の仕事の中でも「与えられた設計に従う」段階から一歩進んで、「なぜこの設計になっているか」を理解する段階に踏み込むものだ。n²I²に比例するという1本の関係式さえ押さえておけば、教科書の数値を丸暗記しなくても、方式が変われば電線量がどちらの方向に動くかを自分で見積もれるようになる。この視点があると、幹線設計や需要率の計算といった次のトピックの理解も速くなる。
冒頭の「まよわず三相を選ぶ」理由、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。同じ計算の道具立て(n²I²の比較)は、送電方式に限らず、電線を複数本並列に張るか、太い1本にまとめるかといった、幹線設計の選択肢を比べるときにも応用できる考え方だ。