工場で大型コンプレッサーが始動するたび、天井の照明が一瞬だけふっと暗くなる。運転が始まってしまえば何も起きない。暗くなるのは、決まって始動のその1秒だけだ。
モーターは同じモーターのはずなのに、なぜ始動の瞬間だけ様子が違うのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この一瞬の暗さがどこから来るのかを、幹線設計のルールと結びつけて説明できるようになっている。
二種電気工事士の幹線設計では、電動機を含む幹線の許容電流を1.25倍(50A超は1.1倍)にする、という基本式まで学んだ。ここでは電技解釈第148条をもう一段掘り下げ、一種で新しく問われる2つの部分――需要率による修正と幹線分岐時の遮断器省略を見る。
なぜ始動の瞬間だけ電圧が下がるのか
誘導電動機は、動き始める瞬間(始動時)に定格電流の数倍という大きな電流を必要とする。回転が上がり切ってしまえば電流は定格値まで落ち着くが、その一瞬だけ幹線には普段よりずっと大きな電流が流れ、幹線の電圧降下も一時的に大きくなる。冒頭の照明のちらつきは、まさにこの始動電流が原因だ。
電技解釈第148条1項二号が、電動機を含む幹線の許容電流IWに次の余裕を義務づけているのは、この始動時の電流にも耐えられるようにするためだ。
IM≦50A: IW≧1.25IM+IH / IM>50A: IW≧1.1IM+IH
ここまでは二種でも扱われている。
需要率が分かっているなら、幹線を修正してよい
一種で新しく加わるのが、同条1項三号だ。需要率・力率等が明らかな場合は、幹線の電流を適当に修正した値とすることができる。
たとえば電動機定格合計IM=40A、その他負荷IH=20Aの幹線なら、基本式ではIW≧1.25×40+20=70Aが必要になる。だが、この幹線に実際にはすべての電動機が同時にフル稼働することはなく、需要率0.6程度で使われることが分かっている場合、電動機側を40×0.6=24Aと見積もったうえで基本式に入れ直す。24Aは50A以下なので1.25倍が掛かり、IW≧1.25×24+20=50Aまで幹線を細くする設計が認められる。次のトピックで見る「需要率」という考え方が、ここで幹線設計と直接つながる。
1.25倍が守っているのは「同時に何台動くか」ではなく、電動機は始動時に定格を超える電流を引くという別の事情だ。 需要率で減らせるのは前者だけで、後者は台数が減っても消えない。2つの割増しは、別々の心配に対応している。
なお電技解釈第148条第1項第三号の条文そのものは「前号の規定における電流値は、需要率、力率等が明らかな場合には、 これらによって適当に修正した値とすることができる。」としか書いておらず、具体的な計算手順を定めているのは内線規程の側だ。
なぜこの修正が認められているのか、逆に考えてみると分かりやすい。1.25IM+IHという基本式は、「電動機がすべて同時に、しかも始動電流に近い状態でフル稼働する」という、もっとも厳しい状況を想定した安全側の数字だ。実際の工場では、複数の電動機が毎回すべて同時に立ち上がることは珍しく、稼働率にはばらつきがある。この実際の稼働実態(需要率)が事前に分かっているなら、もっとも厳しい想定のままの太い幹線を引く必要はない、というのがこの規定の考え方だ。逆に言えば、需要率が不明なまま「たぶん半分くらいしか使わないだろう」という勘だけで幹線を細くしてしまうと、実際に電動機が同時稼働する場面に遭遇したときに幹線が過熱する危険がある。需要率による修正は、あくまで需要率が明らかな場合の話であって、見込みで細くしてよいという意味ではない。
幹線を守る遮断器は、どこまで大きくしてよいか
幹線の電線の太さが決まったら、次はその幹線を保護する過電流遮断器の定格を決める。ここにも上限がある(電技解釈第148条第1項第五号ロ)。
- 3IM + IH(電動機定格合計の3倍+その他の負荷)
- 幹線の許容電流IWの2.5倍
前者は「電動機の始動電流に耐えつつ、それ以上は切る」という値。後者は「遮断器が大きすぎて、電線が先に焼ける」ことを防ぐ天井だ。2つの心配に対して2つの上限があり、厳しいほうを採る。
「2.5倍」という数字は、分岐回路のほうにも出てくる(第149条、電動機だけの分岐回路の遮断器定格=電線許容電流の2.5倍以下)。同じ2.5倍が、幹線と分岐の両方に置かれている——だから「2.5倍は分岐の話」と覚えてしまうと、幹線の設問で使えなくなる。
どちらも守っているものは同じだ。「その先の電線より、遮断器が大きすぎてはいけない」。 遮断器の役目は電線を守ることなので、電線の能力を大きく超えた定格を付けると、守るはずのものが先に燃える。幹線でも分岐でも、この関係は変わらない。
幹線を分岐するときの遮断器省略
もう1つの新規部分が、幹線から細い幹線を分岐するときの過電流遮断器の扱いだ(同条1項四号)。原則として分岐点には過電流遮断器を置くが、次の条件を満たせば省略できる。
- 細い幹線の許容電流が電源側遮断器定格の55%以上なら、距離に関係なく省略可
- 35%以上55%未満なら、分岐点から8m以下であれば省略可
- 上記に該当しなくても、3m以下で負荷側に他の幹線を接続しない場合は省略可
具体的な数値で確認してみる。電源側の幹線保護遮断器が100Aだとして、そこから分岐する細い幹線の許容電流が60A(=60%)なら、55%以上に該当するので距離に関係なく遮断器を省略できる。許容電流が40A(=40%)なら、35%以上55%未満の範囲に入るため、分岐点から8m以下の位置であれば省略できる。許容電流が25A(=25%)しかない場合は、どちらにも該当しないため、3m以下でなければ省略できず、しかも負荷側にさらに他の幹線を接続してはならない。同じ「遮断器を省略したい」という要望でも、細い幹線がどれだけの割合を持っているかによって、認められる距離がまったく違ってくる。
さらに、幹線保護の過電流遮断器の定格を選ぶとき、許容電流が100Aを超えて標準定格ちょうどの値が無い場合は、直近上位の標準定格を選んでよいという緩和もある(同項五号ハ)。二種の基本式では扱われない、実務寄りの緩和規定だ。
二種で学んだ幹線の設計で扱ったのは、1.25倍・1.1倍という許容電流の基本式と、幹線保護遮断器の定格(3IM+IHと2.5IWの小さい方)までだった。一種で加わったこの3つの規定――需要率修正・分岐時の遮断器省略・標準定格の緩和は、いずれも「基本式どおりに機械的に設計すると過大になりがちな部分を、実態や規格の都合に合わせて調整してよい」という、実務寄りの発展だと捉えると位置づけがつかみやすい。
「太い・細い」の判断に、条文の裏付けを持つ
今日試せることとして、工場や店舗のキュービクル・分電盤の幹線を見かけたら、その太さが単純な定格合計の1.25倍で決まっているのか、需要率による修正が入っているのかを想像してみるといい。設計図や仕様書があれば、需要率という言葉が入っているかどうかで判断できる。
始動電流という一瞬の現象のために幹線に余裕を持たせる考え方も、需要率で無駄な余裕を削る考え方も、どちらも「実態に合わせて設計する」という同じ発想から来ている。この視点は、次に見る分岐回路の新規部分でも同じように使われる。
冒頭の照明の一瞬の暗さ、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。