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配電理論及び配線設計 ・ 5 / 7

幹線の設計と需要率

読み終えると、こうなる

電動機のある幹線は足し算より太く、建物全体の幹線は合計より細くという、一見矛盾したルールが同じ発想から出ていると分かるようになる

  • 電動機の合計とその他の負荷の大小を先に比較し、電動機側が大きいときだけ1.25倍(または1.1倍)の割増しをかけて求められる
  • 需要率が与えられた問題で、合計→需要率→50Aとの大小判定→割増しの順を崩さずに幹線の太さを出せる
  • 幹線の過電流遮断器の定格を求めるとき、3IM+IHと2.5IWの両方を計算し、小さいほうを採用できる
考えてみよう

小さな金属加工所の改修で、幹線の設計書を見せてもらった。幹線には定格電流の合計30Aの電動機と、合計15Aの電熱器がぶら下がる。合計45A。ところが設計書には「幹線の許容電流52.5A以上」と書いてある。足し算より7.5Aも大きい。

不思議に思って隣のページの住宅の盤図を見ると、今度は逆だ。20Aの分岐回路が10回路、合計200A分もあるのに、幹線はその半分にも満たない太さで引かれ、何年も問題なく使われているという。

太くしたり、細くしたり。幹線の太さはいったい何を基準に決まっているのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、52.5Aという半端な数字を自分で計算して出せるようになっている。

幹線とは、引込口から分電盤(分岐回路の過電流遮断器)までの、建物の電気の「幹」にあたる太い配線のことだ。引込線で建物に入った電気は、幹線を通って分電盤に届き、そこから分岐回路という枝に分かれていく。幹の設計を誤ると、枝がいくら正しくても建物全体が危うくなる。

幹の入口には「切る場所」を置く

幹線の起点、つまり引込口には、開閉器(電気をひとまとめに切れるスイッチ)を施設するのが原則だ。工事や点検、万一の火災のとき、建物の電気を一箇所で断てる場所が要るからである。ただし省略できる場合がある。使用電圧300V以下で、定格15A以下の過電流遮断器(または定格15Aを超え20A以下の配線用遮断器)で保護された他の屋内電路に接続する、長さ15m以下の電路——たとえば母屋の分電盤から20Aブレーカーで保護して15m以内の車庫へ引き込む場合だ。母屋側のブレーカーを切ればその車庫の電気は全部止まる。「切る場所」がすぐ近くに既にあるなら、二重に置かなくてよい、という理屈である。

電動機がいる幹線は、足し算より太く

幹線の許容電流 IWI_W は、電動機の定格電流の合計 IMI_M と、電熱器・照明などその他の負荷の合計 IHI_H から決める。

条件幹線の許容電流 IWI_W
IMIHI_M \leq I_HIM+IHI_M + I_H 以上
IM>IHI_M > I_H かつ IM50I_M \leq 50A1.25IM+IH1.25 I_M + I_H 以上
IM>IHI_M > I_H かつ IM>50I_M > 50A1.1IM+IH1.1 I_M + I_H 以上

電動機だけ割増しされるのは、電動機が「行儀の悪い」負荷だからだ。始動のたびに定格を大きく超える電流を引き、運転中も機械の負荷次第で定格を超えぎみに回り続けることがある。幹線は熱で守る設備なので、この癖のぶんだけ余裕を持たせる。IMI_M が50Aを超える大所帯では、全台が同時に最悪の状態になる確率が下がるため、割増しは1.25倍から1.1倍に緩む。

幹線を保護する過電流遮断器の定格は、3IM+IH3I_M + I_H 以下、かつ幹線の許容電流の2.5倍(2.5IW2.5I_W)以下——両方を計算して小さい方を採る。始動電流のたびにトリップしては使い物にならないから大きめを許すが、電線保護の上限は譲らない。この二段構えも、学科試験の定番の計算問題だ。

建物全体の幹線は、合計より細く

一方で冒頭の住宅のように、分岐回路の合計よりずっと細い幹線が成立するのはなぜか。鍵は需要率という考え方だ。

需要率(%)=最大需要電力設備容量の合計×100需要率\text{(\%)} = \frac{最大需要電力}{設備容量の合計} \times 100

建物中の機器が全部同時にフル稼働する瞬間は、現実にはまず来ない。エアコンとIHと乾燥機と電子レンジと掃除機が全部同時に全力で動く家を想像すればいい。実際に流れる電流の山(最大需要電力)は設備容量の合計よりずっと低く、幹線はその山に合わせて設計すればよい。

幹線設計は「つながる機器を全部足して、余裕を掛ける」作業ではない。**実際に同時に流れる電流を見積もる**作業だ。電動機には足し算より太く——始動と過負荷という現実に備えて。建物全体には合計より細く——全部は同時に動かないという現実に合わせて。太らせる根拠も痩せさせる根拠も、同じ「現実の電流」にある。

子ブレーカーを全部足すと、主幹を超えている

今日、自宅の分電盤で確かめられることがある。子ブレーカーの数字(20Aや30A)を全部足してみてほしい。10回路の家なら合計200A前後になるはずだ。ところが主幹のブレーカーは40Aや60A。合計の数分の一しかない。これは手抜きではなく、需要率という設計思想の実物だ。あなたの家は「全部同時には使わない」前提で、幹の太さが決められている。

この見積もりの精度が、これから問われる時代になる。マンションの駐車場にEV充電器を並べたいという相談は、突き詰めれば「既設の幹線に、夜間の充電という新しい山を載せられるか」という需要率の問題であり、充電器側で同時充電台数を制御して山を平らにする手法まで含めて、幹線設計の知識がそのまま商談の言葉になる。この科目で学んだ電線の許容電流が幹線の「体力」を決め、本トピックの式が「必要な体力」を決める。2つが揃って、はじめて幹が設計できる。

冒頭の52.5Aがどこから来たのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 電動機の合計IMがその他の負荷IH以下なのに、1.25倍を掛けさせる

    なぜ引っかかる割増しが必要になるのはIM>IHのときだけで、IM≦IHなら単純合計のIM+IHでよい。ところが「電動機がいたら1.25倍」という覚え方をしていると、大小比較の手順そのものを飛ばしてしまう。選択肢には1.25倍した値が必ず置かれている。

    見破り方IMとIHを書き出したら、まず不等号を書く。IM≦IHなら足すだけ、IM>IHなら次に50Aとの比較へ進む、と二段階の分岐として手順化しておく。電動機の有無ではなく、電動機とその他の大小関係が分岐点だ。

  2. 需要率を先に与えておいて、50Aの境界をどちらの数字で判定するかを迷わせる

    なぜ引っかかる同じ定格の電動機を複数台つないだ幹線について、需要率を添えたうえで「太さを決定する根拠となる電流の最小値」を答えさせる問題が繰り返し出ている。定格の単純合計が50Aを超えていても、需要率を掛けたあとの値が50A以下なら係数は1.25のままだ。需要率を掛け忘れると50Aを超えたと判定して係数1.1を選び、まったく別の値に着地してしまう。

    見破り方需要率が書かれていたら、それは定格の合計を「実際に流れる電流」に直すための係数なので、割増しより先に掛ける。そして50Aの境界は、割増しを掛ける直前の値で判定する。順序は合計→需要率→大小判定→割増し、と一本道だ。

  3. 幹線の過電流遮断器の定格を、3IM+IH と 2.5IW のうち大きい方で答えさせる

    なぜ引っかかる定格は「3IM+IH以下、かつ2.5IW以下」なので、2つを計算して小さい方を採る。始動電流でトリップしないよう大きめを許す式(3IM+IH)と、電線を守る上限(2.5IW)の二段構えになっているためだ。どちらか一方しか計算しないと、条件を片方しか満たさない値を選ぶことになる。

    見破り方この設問では必ず2つの数字を計算して並べて書き、小さい方に丸を付ける。「大きめを許すが、電線保護の上限は譲らない」という言い方で、どちらが上限として効くかを思い出せる形にしておく。

参考文献・出典

理解度チェック(6問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、6問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 6 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 幹線の許容電流IW: 電動機の定格電流合計IMがその他の負荷IH以下ならIW≧IM+IH。IM>IHのときは、IM≦50AならIW≧1.25IM+IH、IM>50AならIW≧1.1IM+IH
  2. 幹線を保護する過電流遮断器の定格は「3IM+IH」と「幹線の許容電流IWの2.5倍」の小さい方以下とする
  3. 需要率(%)=最大需要電力÷設備容量×100。全設備が同時にフル稼働することはないため、幹線は単純合計より細く設計できる
  4. 引込口には開閉器を施設するのが原則。使用電圧300V以下で、定格15A以下の過電流遮断器(または20A以下の配線用遮断器)で保護された屋内電路に接続する長さ15m以下の電路では省略できる
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