小さな金属加工所の改修で、幹線の設計書を見せてもらった。幹線には定格電流の合計30Aの電動機と、合計15Aの電熱器がぶら下がる。合計45A。ところが設計書には「幹線の許容電流52.5A以上」と書いてある。足し算より7.5Aも大きい。
不思議に思って隣のページの住宅の盤図を見ると、今度は逆だ。20Aの分岐回路が10回路、合計200A分もあるのに、幹線はその半分にも満たない太さで引かれ、何年も問題なく使われているという。
太くしたり、細くしたり。幹線の太さはいったい何を基準に決まっているのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、52.5Aという半端な数字を自分で計算して出せるようになっている。
幹線とは、引込口から分電盤(分岐回路の過電流遮断器)までの、建物の電気の「幹」にあたる太い配線のことだ。引込線で建物に入った電気は、幹線を通って分電盤に届き、そこから分岐回路という枝に分かれていく。幹の設計を誤ると、枝がいくら正しくても建物全体が危うくなる。
幹の入口には「切る場所」を置く
幹線の起点、つまり引込口には、開閉器(電気をひとまとめに切れるスイッチ)を施設するのが原則だ。工事や点検、万一の火災のとき、建物の電気を一箇所で断てる場所が要るからである。ただし省略できる場合がある。使用電圧300V以下で、定格15A以下の過電流遮断器(または定格15Aを超え20A以下の配線用遮断器)で保護された他の屋内電路に接続する、長さ15m以下の電路——たとえば母屋の分電盤から20Aブレーカーで保護して15m以内の車庫へ引き込む場合だ。母屋側のブレーカーを切ればその車庫の電気は全部止まる。「切る場所」がすぐ近くに既にあるなら、二重に置かなくてよい、という理屈である。
電動機がいる幹線は、足し算より太く
幹線の許容電流 は、電動機の定格電流の合計 と、電熱器・照明などその他の負荷の合計 から決める。
| 条件 | 幹線の許容電流 |
|---|---|
| 以上 | |
| かつ A | 以上 |
| かつ A | 以上 |
電動機だけ割増しされるのは、電動機が「行儀の悪い」負荷だからだ。始動のたびに定格を大きく超える電流を引き、運転中も機械の負荷次第で定格を超えぎみに回り続けることがある。幹線は熱で守る設備なので、この癖のぶんだけ余裕を持たせる。 が50Aを超える大所帯では、全台が同時に最悪の状態になる確率が下がるため、割増しは1.25倍から1.1倍に緩む。
幹線を保護する過電流遮断器の定格は、 以下、かつ幹線の許容電流の2.5倍()以下——両方を計算して小さい方を採る。始動電流のたびにトリップしては使い物にならないから大きめを許すが、電線保護の上限は譲らない。この二段構えも、学科試験の定番の計算問題だ。
建物全体の幹線は、合計より細く
一方で冒頭の住宅のように、分岐回路の合計よりずっと細い幹線が成立するのはなぜか。鍵は需要率という考え方だ。
建物中の機器が全部同時にフル稼働する瞬間は、現実にはまず来ない。エアコンとIHと乾燥機と電子レンジと掃除機が全部同時に全力で動く家を想像すればいい。実際に流れる電流の山(最大需要電力)は設備容量の合計よりずっと低く、幹線はその山に合わせて設計すればよい。
子ブレーカーを全部足すと、主幹を超えている
今日、自宅の分電盤で確かめられることがある。子ブレーカーの数字(20Aや30A)を全部足してみてほしい。10回路の家なら合計200A前後になるはずだ。ところが主幹のブレーカーは40Aや60A。合計の数分の一しかない。これは手抜きではなく、需要率という設計思想の実物だ。あなたの家は「全部同時には使わない」前提で、幹の太さが決められている。
この見積もりの精度が、これから問われる時代になる。マンションの駐車場にEV充電器を並べたいという相談は、突き詰めれば「既設の幹線に、夜間の充電という新しい山を載せられるか」という需要率の問題であり、充電器側で同時充電台数を制御して山を平らにする手法まで含めて、幹線設計の知識がそのまま商談の言葉になる。この科目で学んだ電線の許容電流が幹線の「体力」を決め、本トピックの式が「必要な体力」を決める。2つが揃って、はじめて幹が設計できる。
冒頭の52.5Aがどこから来たのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。