電柱の上に載っている灰色のバケツのようなものは何か。中で何が起きているのか。
これまでのトピックで、送電線がどうやって高電圧を保ちながら電気を運んでいるかを見てきた。だが最終的に家庭の100V・200Vになるまでには、あと1つ大きな変換の関門が残っている。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、あの灰色のバケツの正体と、家に3本の線が来ている理由を説明できるようになっている。
変電所は、送電線から届いた電気を電圧の面でも、事故対応の面でも整える役割を持つ。役割は大きく4つある。①電圧の昇圧・降圧(送電効率のため高く、使う場所に合わせて低く)②電力の集中と配分(複数の送電線から受け、必要な方面へ振り分ける)③事故区間の切り離し(遮断器・断路器と保護継電器で故障箇所だけを速やかに系統から外し、停電範囲を最小化する)④調相設備による電圧・無効電力の調整。系統上の位置により、超高圧変電所→一次変電所→二次変電所→配電用変電所という段階を成している。
変圧器の三相結線には型がある。Δ-Y結線は昇圧用(発電所の送り出し側)、Y-Δ結線は降圧用に使われるのが典型だ。Y側は中性点を接地でき絶縁・保護設計に有利で、Δ側は第3高調波電流を巻線内で還流させて電圧波形のひずみを抑えられる。単相変圧器2台だけで三相を供給するV結線という方式もあり、少ない台数で済むため柱上変圧器などの小規模三相供給や、Δ結線1台の故障時の応急運転に使われる。各変圧器はΔ結線のときと同じ定格電流を流すことになるが、三相として実際に取り出せる出力はベクトル的に考えると√3倍程度にとどまり、変圧器2台分の合計容量に対する比率は√3/2程度、同容量の変圧器3台によるΔ結線の出力に対する比率は1/√3程度に落ちる、という関係が導ける。
変圧器は電力の通り道 ― 一次と二次の皮相電力は等しい
結線の話の土台として、変圧器1台の中で電力がどう受け渡されているかを押さえておく。巻線の抵抗や漏れ磁束を無視した理想変圧器では、電圧は巻数比N1/N2の比で変わり、電流はその逆比で変わる。だから積である皮相電力は、一次側と二次側で等しい。
V1・I1 = V2・I2
数値で最後まで追ってみる。巻数比30の単相変圧器で、二次側が220V・60Aだったとする。二次側の皮相電力はS2=220×60=13.2kVA。一次電圧はV1=220×30=6,600V、一次電流はI1=60÷30=2A。積を取るとV1・I1=6,600×2=13.2kVAで、二次側とぴったり一致する。電圧が30倍になる代わりに電流が30分の1になり、掛け算の答えは変わらない——変圧器は電力を生みも消しもせず、電圧と電流の「配合」だけを変えて通す装置だ、ということが式にそのまま表れている。実際の変圧器には鉄損・銅損があるためわずかに目減りするが、学科の計算では「一次・二次の皮相電力が等しい」が出発点になる。
2台目をつなぐ前に ― 変圧器の並行運転の条件
負荷が増えて変圧器1台では足りなくなったとき、同じ母線にもう1台を並列につないで分担させる——これを並行運転という。ただし変圧器は、条件を確かめずに2台並べてよい機器ではない。
何が起きるかを先に見ておこう。もし極性(巻線の巻き方向で決まる端子の向き)を逆にしてつなぐと、2台の二次巻線がつくる閉回路の中で起電力が打ち消し合わずに足し合わされ、負荷をつなぐ前から巻線の中を大きな循環電流が流れて、変圧器は焼損に向かう。変圧比(定格電圧)が食い違っていれば、二次電圧の差を2台の内部インピーダンスの和で割った循環電流が、負荷と無関係に流れ続けて巻線を無駄に加熱する。%インピーダンスが等しくなければ、負荷はインピーダンスの小さいほうへ偏って分担され、全体としてはまだ余力があるのに片方だけが過負荷になる。さらに、内部の抵抗と漏れリアクタンスの比が違うと、2台の分担電流の間に位相差が生じ、合計が単純な足し算にならないぶん設備をフルに使えない。
つまり並行運転の条件は、これらの事故・不具合の裏返しとしてそのまま並ぶ。
- 極性が一致していること(逆だと循環電流で焼損する)
- 変圧比(定格電圧)が等しいこと(違うと負荷と無関係な循環電流が流れ続ける)
- %インピーダンスが等しいこと(違うと負荷分担が偏り、片方だけが過負荷になる)
- 内部の抵抗と漏れリアクタンスの比が等しいこと(違うと分担電流に位相差が出て利用率が下がる)
三相変圧器どうしの並行運転では、これに加えて相回転(相順)と角変位(一次と二次の間の位相のずれ。結線の組合せで決まる)が一致していることも必要になる。一方で、定格容量が等しいことは条件に入っていない。容量が違っても、%インピーダンスさえ等しければ、各変圧器は自分の容量に比例した負荷を静かに分担してくれる。
調相設備は、無効電力を調整して力率と電圧を適正に保つための設備だ。電力用コンデンサは進み無効電力を供給し、遅れ力率の重負荷時の力率改善・電圧降下対策に使われる(段階的にしか調整できない)。分路リアクトルは遅れ無効電力を供給して進み電流を打ち消し、軽負荷時のフェランチ効果による電圧上昇を抑える。同期調相機は無負荷運転の同期電動機で、励磁を強めれば進み、弱めれば遅れと、両方向に連続調整できる。負荷時タップ切換変圧器(LRT)は、送電を止めずに負荷がかかったままタップを切り換えて巻数比を変え、二次電圧を調整する変圧器で、刻々と変わる系統電圧を適正範囲に保つために配電用変電所などで使われる。
高圧配電線路は6.6kV・三相3線式・非接地系が標準で、樹枝状(放射状)方式、ループ方式、低圧バンキング方式、スポットネットワーク方式といった構成方式がある。柱上変圧器は、電柱上に設置された単相変圧器で、この6.6kVを低圧の100V/200V系に降圧する最終段だ。一次側には高圧カットアウト(ヒューズ内蔵の開閉器)を設け、過負荷・短絡時に変圧器を切り離す。
なぜ6.6kV配電は「非接地」なのか — 中性点接地方式の4つの選択肢
変圧器の中性点を大地にどうつなぐかには、非接地・直接接地・抵抗接地・消弧リアクトル接地という4つの選択肢がある。どれを選ぶかで、地絡(漏電)が起きたときの挙動がまったく変わる。
適用の目安は、187kV以上の超高圧は直接接地、154kV以下の送電は抵抗接地、そして日本の高圧配電(6.6kV)は非接地方式が標準だ。非接地は30kV程度以下の系統に向く方式で、需要家に近い6.6kV配電では、地絡電流を小さく抑えて誘導障害を減らすことが、絶縁を低減できないという代償よりも優先されている。
家庭に届く単相3線式は、電圧線2本+中性線1本の3本で引き込む方式で、電圧線と中性線の間から100Vを2回路、電圧線どうしの間から200Vが取れる。これによって、照明・コンセント(100V)とエアコン・IH等(200V)を1つの引込みで賄える。負荷が平衡していれば中性線に流れる電流は小さく、単相2線式より電圧降下・損失の面で有利になる。不平衡の改善にはバランサ(単巻変圧器)が用いられる。
V結線には「2つの割合」がある — 混同させるのが定番
V結線では、似た2つの割合が問われる。どちらも√3が絡むので取り違えやすい。
| 何を比べているか | 呼び方 | 値 |
|---|---|---|
| V結線の出力 ÷ 変圧器2台の容量合計 | 利用率 | √3/2 ≒ 0.866(86.6%) |
| V結線の出力 ÷ Δ結線3台の出力 | 出力比 | 1/√3 ≒ 0.577(57.7%) |
導き方はどちらも1行だ。V結線の三相出力は √3 P(Pは変圧器1台の容量)。
- 利用率 … √3 P ÷ 2P = √3/2 = 0.866
- 出力比 … √3 P ÷ 3P = 1/√3 = 0.577
- 利用率は「置いた2台をどれだけ使えているか」。だから分母は2台
- 出力比は「3台のΔ結線に比べてどれだけ出せるか」。だから分母は3台
数字の意味も覚えやすい。86.6%は「2台のうち1割強を遊ばせている」、 57.7%は「3台のときの6割弱しか出せない」。前者は設備の使い方の話、 後者は容量の話で、聞かれていることが違う。
選択肢には 0.866 と 0.577 が必ず両方並ぶ。「〜に対する割合か」を先に読むのが唯一の対策になる。
電柱の上のバケツと足元の中性線が、同じ理屈でつながる
灰色のバケツの正体は柱上変圧器で、その先に伸びる3本の線が単相3線式だと分かると、電柱を見上げる目が変わる。エアコンの200Vコンセントが特別な工事なしで使える理由も、この3本の線の中に答えがある。
今日試せることとして、自宅の分電盤を開けて、太い電圧線2本と中性線1本がどう分かれているかを眺めてみるといい。ブレーカーの並びから、100V回路と200V回路の振り分けが見えてくる。
中性線を保護してはいけないという決まりも、V結線の比率も、調相設備の役割分担も、電圧異常や事故を防ぐための積み重ねの結果だ。そして太陽光発電や蓄電池、EV充電設備を住宅や施設に導入するときも、最終的にはこの単相3線式や柱上変圧器の容量の枠の中に新しい負荷や電源を組み込む作業になる。この科目で見てきた発電所からここまでの全体像が、その判断の土台になる。
冒頭の謎、電柱の上の灰色のバケツの中身。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。