絶縁抵抗計(メガー)は、電路を無電圧にしなければ使えない。活線のまま接続すれば、火花が散り測定器が壊れる危険すらある。
それなのに、工場やビルを止めることなく、絶縁の健全性を日常的に確認できてしまう。停電しないと測れないはずのものが、停電せずに確認できる——これは一見、矛盾しているように見える。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この一見矛盾した事実がどう成り立っているのかを説明できるようになっている。
自家用電気工作物の点検・検査には、停電させずに(活線状態で)できるものと、停電させなければできないものがある。まずは両者を分けて整理する。
停電させずに(活線状態で)できること
- 外観・巡視点検
- 検電(電路の充電の有無の確認)
- 電圧測定
- クランプメータによる負荷電流測定
- 漏れ電流計による漏えい電流測定
- 電力測定
- 赤外線サーモグラフィ・サーモラベル等による温度監視
停電させなければできないこと
- 絶縁抵抗測定
- 絶縁耐力試験
- 保護継電器と遮断器の連動試験
- 接地線を切り離して行う接地抵抗の精密測定
- 母線・機器の清掃増締め
この2つのリストを、項目ごとに「何が分かるか、何が分からないか」まで含めて整理すると次のようになる。
| 項目 | 活線(停電せず)でできるか | 何が分かるか/分からないか |
|---|---|---|
| 外観・巡視点検 | できる | 発熱・変色・異音・異臭など目に見える異常は分かるが、絶縁物内部の劣化そのものは分からない |
| 検電 | できる | 充電の有無だけが分かる。絶縁の程度までは分からない |
| クランプメータによる負荷電流測定 | できる | 負荷の状態は分かるが、絶縁性能そのものは分からない |
| 漏れ電流測定 | できる | 絶縁の状態のおおまかな傾向はつかめるが、絶縁抵抗の実際の数値そのものではない |
| 絶縁抵抗測定 | できない(停電必須) | 絶縁抵抗の実際の数値(MΩ)が分かる |
| 絶縁耐力試験 | できない(停電必須) | 通常より高い電圧に耐えられるかが分かる。竣工検査以外では日常的には行わない |
| 継電器・遮断器の連動試験 | できない(停電必須) | 事故時に確実に遮断できるかが分かる |
赤外線サーモグラフィ・サーモラベルによる温度監視も、活線のままできる点検の代表例だが、これも「分かること」と「分からないこと」がはっきり分かれている。接続部の緩みや過負荷は、電流が流れる箇所の抵抗が高まり発熱として現れるため、温度の異常として検出できる。しかし、発熱を伴わないタイプの絶縁劣化(内部にじわじわ水分が浸透していくような劣化など)は、温度には現れにくく、赤外線カメラでは見つけられない。1つの点検手法がすべてを見ているわけではなく、それぞれの手法が「何によって現れる異常」を捉えているのかを理解しておく必要がある。
絶縁抵抗測定が「停電させなければできないこと」に入っているのは当然に見える。絶縁抵抗計は、電圧のかかっていない電路に自分で直流の高電圧をかけ、そのときの漏れ電流から絶縁抵抗を算出する仕組みだからだ。電路がすでに通電していると、外部の電源電圧とメガー内部の直流電源がぶつかり合い、正しく測定できないばかりか測定器を壊す危険もある。
この2つの基準は、実はまったく別物ではない。低圧回路の絶縁抵抗の基準値0.1MΩは、対地電圧100Vの回路で漏れ電流を1mA以下に抑えたい、という要求から逆算された値だ(100V÷0.1MΩ=1mA)。だから「電路を止めて絶縁抵抗そのものを測る」方法と、「電路を止めずに漏れ電流を測る」方法は、同じ絶縁の状態を別の角度から見ているにすぎない。目的が同じでも、停電できるかどうかで使う手段が変わる、というのがこの矛盾の正体だ。
絶縁耐力試験や継電器・遮断器の連動試験は、性質がまったく異なる。絶縁耐力試験は通常の使用電圧より高い試験電圧を電路にわざわざ加える試験であり、連動試験は遮断器を実際に開放させる動作まで含む。どちらも通電中の設備でそのまま行えば、負荷を意図せず止めてしまったり、危険な状態を作り出したりするため、停電させて行う必要がある。
母線・機器の清掃増締めが停電必須になっているのも、理由は単純だ。工具を使ってボルトを締め直したり、清掃用の道具を機器の隙間に入れたりする作業は、通電中の充電部の近くで金属製の道具を扱うことになる。工具が誤って異なる相の充電部に触れてしまえば、その場で短絡・アーク放電が発生しかねない。ボルトの緩みそのものが発熱や接触不良の原因になるため増締めは重要な作業だが、それを安全に行うには、対象を停電させて充電部への接触の危険を取り除く必要がある。
接地線を切り離して行う接地抵抗の精密測定にも、同じような理由がある。実際の設備では、1つの接地極だけが単独で存在しているのではなく、複数の機器の接地線や、建物の鉄骨などが互いに接続され、大きな接地網の一部になっていることが多い。接続されたままの状態で測定すると、測定電流が接地網全体の複数の経路に分かれて流れてしまい、本来知りたい「その接地極単体の抵抗」より低い値が出てしまうことがある。正確な値を知るには、その接地線をいったん切り離して単独の状態にする必要があるが、切り離している間はその接地極が持つ保護の役割も一時的に失われる。だからこそ、この精密測定は停電させたうえで行う。
実務でのイメージをつなげると、こういう流れになる。日常の巡視点検や漏れ電流測定では特に異常が見つからず、数値も基準の範囲内で推移している。ところがある月、それまで安定していた漏れ電流の値が、たとえば0.3mA程度から0.6mA、その次には0.8mAというように、じわじわと上昇していることに気づいたとする。1mA以下という代替基準そのものはまだ下回っているため、この段階で「不適合」とは判定されない。しかし同じ速さで上がり続ければ、いずれ1mAの基準に近づいていくという傾向は読み取れる。ここで、次に予定されている定期点検(停電を伴う点検)を待たずに、停電の日程を前倒しして絶縁抵抗測定を行う、という判断がありうる。活線状態で得られる情報は、あくまで「傾向」までだ。「実際にどこまで絶縁が弱っているか」という確定した数値は、結局のところ停電しないと得られない。この段差を理解していることが、点検計画を立てるときの判断材料になる。
第二種電気工事士が扱う一般用電気工作物等は、住宅や小規模店舗が中心で、停電させて作業すること自体のハードルが比較的低い。短時間の停電で済み、影響を受ける範囲も限られるからだ。第一種で扱う自家用電気工作物は規模が大きく、停電はビル全体やテナント、工場のライン停止といった大きなコストを伴う。だからこそ「止めずに何が分かるか」「止めなければ何が分からないか」を自分で判断する力そのものが、第一種で新たに求められる論点になる。
数字の意味が分かると、点検が「作業」から「判断」に変わる
停電させずにできる点検と、できない点検の境目が分かると、日々の巡視や漏れ電流の測定値が、単なる決められた作業ではなく、「今どこまで確認できていて、どこから先は停電させないと分からないのか」という判断材料として見えてくる。
今日試せることとして、もし自分の職場や取引先で日常的な点検記録(漏れ電流の値、負荷電流の値など)を見る機会があれば、その数値がどの停電レベルの点検で得られたものかを確認してみるといい。活線のままで得られた数値と、停電して初めて得られる数値では、意味の重みが違う。
太陽光発電・蓄電池・EV充電設備の受け入れ検査でも、この構図はそのまま延長線上にある。稼働を止めずに監視できる範囲と、竣工時や停電できるタイミングでしか確認できない範囲を切り分けて考える力は、こうした新しい設備の保安管理を任されたときにそのまま生きてくる。
冒頭の謎、なぜ停電しないと測れないはずのものが、停電せずに確認できるのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。