ビルの停電の瞬間、廊下の非常灯だけは一瞬も消えることなく点いている。目を凝らしても、どこかのスイッチがカチッと切り替わった様子はない。切替スイッチも無いのに、電源が落ちた瞬間から非常灯はどうやって電気を受け取っているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「切替なしの瞬時対応」の仕組みを説明できるようになっている。
据置蓄電池は、ただ電気を貯めておくだけの箱ではない。どんな充電方式で待機させているかによって、いざというときの動き方が変わる。まず、代表的な3つの充電方式を見ていく。
浮動充電(フローティング) は、整流器(充電装置)・蓄電池・負荷を並列に接続し、蓄電池を常に満充電状態に保ちながら、停電時には無瞬断で蓄電池から負荷へ電力を供給する常用方式だ。定電圧充電で自己放電分を補う微小電流を流し続けており、据置蓄電池による直流電源装置の標準的な運転方式になっている。
均等充電 は、並列・直列で多数のセルを使うことで生じる電圧・比重のばらつきを、通常より高めの電圧で一定時間充電して解消するための方式だ。ベント形では定期的に実施されるが、制御弁式(VRLA)は原則不要とされている。
トリクル充電 は、負荷から切り離して待機させている蓄電池の自己放電を補い、いつでも使える満充電状態を維持するための充電だ。自己放電電流に見合った微小電流を常時流し続ける点は浮動充電と似ているが、対象になる電池の状態が違う。
この3つに加えて、もう1つ知っておきたいのが 回復充電 だ。停電で蓄電池が実際に放電した後、そのまま浮動充電の微小電流に戻すだけでは、失った容量を取り戻すのに時間がかかりすぎる。そこで充電装置の出力電圧を一時的に上げ、充電電流を大きくして満充電まで戻す——これが回復充電で、容量が回復したら通常の浮動充電に戻る。均等充電と同じく「普段より高い電圧で充電する」動作だが、均等充電が放電の有無と関係なく定期的にばらつきをそろえるための充電であるのに対し、回復充電は放電という出来事の後始末だ、という違いがある。
こうした直流電源装置は、自家用電気工作物のさまざまな場面で使われている。受変電設備では、遮断器の投入・引外し操作や、保護継電器・表示灯の電源として使われ、停電時でも遮断器を操作できるようにしている。ほかにも、非常用照明・誘導灯などの防災用電源、UPS(無停電電源装置)の蓄電池、エンジン(非常用発電機)の始動用、通信システム機器用など、用途は幅広い。
「待機のさせ方」を知ると、停電時の設備の動きが読めるようになる
この3つの充電方式の違いが分かると、キュービクルの奥にある蓄電池が、今どういう状態で待機しているのかを想像できるようになる。負荷と常につながっている浮動充電の蓄電池と、切り離されて自己放電だけを補われているトリクル充電の蓄電池では、いざというときの役割が違う。
この方式が標準化されているのは、停電の瞬間に何かを「切り替える」動作を挟むこと自体がリスクだからだ。切替に失敗すれば、非常灯も遮断器の操作電源も動かない。だからこそ、あらかじめつながっている状態を作っておくという発想が定着している。
これから太陽光発電や蓄電池、非常用電源の設備が増えるほど、こうした「待機のさせ方」を理解している人材が必要になる。停電しても止まらない設備をどう設計するかは、この充電方式の理解が出発点になる。
冒頭の、非常灯が切替なしで点き続ける理由。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。