キュービクルの中に、モーターのように回るわけでも、変圧器のように熱を持つわけでもない、静かな箱がある。高圧進相コンデンサだ。電気を「使っている」様子がまったくない。
それなのに、この箱を設置すると電気代が下がると言われる。何もしていないように見える箱が、なぜ料金に効くのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この静かな箱が電気代のどこに効いているのかを説明できるようになっている。
答えは、電力の質、正確には力率にある。誘導電動機のような負荷は、電圧に対して電流の位相が遅れる「遅れ力率」の状態で電気を使う。この遅れの分だけ、実際に仕事をしない無効電力が電線を余分に流れ、電力損失を増やし、契約上の基本料金にも不利に働く。
高圧進相コンデンサ(SC) は、この遅れ力率を進み方向に補償する。誘導電動機などの遅れ負荷が生む無効電力を打ち消すことで力率を改善し、電力損失を減らし、力率割引という形で基本料金にも良い影響を与える。開閉装置(LBSやPCなど)を介して高圧母線に接続される。
その小さなコイルが 直列リアクトル(SR) だ。SCに直列に入れることで、次の2つの問題を防ぐ。
- コンデンサをスイッチで投入する瞬間に流れる突入電流の抑制
- 電源に含まれる第5高調波に対して回路を誘導性にし、高調波が拡大するのを防ぐ
JIS C4902は、コンデンサに直列リアクトルを付けて使うことを原則としている。SRの容量は、コンデンサ容量の6%または13%を原則として施設する。6%の意味は、コンデンサ容量の6%に相当するリアクタンスを持たせることで、第5高調波に対して合成回路を誘導性にする、というものだ。SCだけを設置すると、この抑制がないまま突入電流や高調波の問題を抱え込むことになる。
この6%・13%という数値の出典は、JIS C 4902-2(高圧及び特別高圧進相コンデンサ並びに附属機器―第2部:直列リアクトル)だ。同規格は「%リアクタンス」(リアクトルのリアクタンスの、コンデンサのリアクタンスに対する比)という考え方を定義し、6%と13%の2種類を規定している。使い分けは、回路に含まれる高調波の種類による。第5次高調波が主体になる一般的な回路では6%、第3次高調波が有意に含まれる回路では13%を選ぶ、という整理だ。つまり「6%」は単なる実務上の慣行ではなく、規格が2種類の値を規定したうえでの選択だと理解しておく。
三相の無効電力 Q=V²/X ― Δ結線とY結線で係数が変わる
進相コンデンサの容量を計算するとき、単相回路なら無効電力はQ=V²/X(Vは電圧、Xはリアクタンス)で求まる。だが、これを三相の進相コンデンサにそのまま当てはめると、結線方式によっては答えが3倍ずれる。
Δ結線では、コンデンサの各相(各素子)に線間電圧Vがそのままかかる(Ep=V)。1相分の無効電力はQ1=V²/Xで、三相合計はQ=3V²/X。
Y結線では、各相にかかる電圧は線間電圧の1/√3(Ep=V/√3)になる。1相分はQ1=(V/√3)²/X=V²/(3X)で、三相合計はQ=3×V²/(3X)=V²/X。
SRがやらないこと — 残留電荷の放電は別の部品の仕事
直列リアクトル(SR)の役割は2つだった。投入時の突入電流を抑えることと、 第5調波などの高調波の拡大を防ぐことだ。試験では「誤っているもの」を選ばせる形で、 ここにSRの仕事ではないものが混ぜられる。
いちばんよく混ぜられるのが「コンデンサの残留電荷を放電する」だ。これはSRの役割ではない。
コンデンサは電源を切ったあとも電荷を蓄えたままで、そのまま触れば感電する。 だからこれを抜く専用の部品が別に付いている。放電コイルまたは放電抵抗だ。
| 部品 | 役割 |
|---|---|
| 直列リアクトル(SR) | 突入電流の抑制、高調波(第5調波等)の拡大防止 |
| 放電コイル/放電抵抗 | 電源開放後に残留電荷を放電し、感電を防ぐ |
直列に入るものは電流の通り道に立ちはだかるので、流れを抑える仕事(突入電流・高調波)。 並列に入るものは電荷の逃げ道を作るので、抜く仕事(放電)。 「SRが放電もしてくれる」という選択肢は、この構造から見て成り立たない。
電気料金の明細から、力率という言葉が見えてくる
この仕組みが分かると、電気料金の請求内訳にある「力率割引」や「力率割増」といった項目が、単なる料金の一項目ではなく、キュービクルの中にあるあの静かな箱の働きそのものだと分かるようになる。今日試せることとして、職場や取引先の電気料金の明細を目にする機会があれば、力率に関する項目がどう表示されているかを確認してみるといい。
この仕組みが標準化されているのは、無効電力が増えるほど発電所から需要家までの電線に余分な電流が流れ、社会全体の送電ロスが増えるからだ。1つの需要家が力率を改善することが、電力系統全体の効率にもつながっている。
太陽光発電のパワーコンディショナやEV充電設備、蓄電池のインバータは、いずれも高調波を発生させる電子機器だ。これらが増えるこれからの受電設備では、進相コンデンサと直列リアクトルの組合せがもともと持っていた「高調波を拡大させない」という視点が、単なる力率改善以上に重要な意味を持つようになっていく。
冒頭の疑問——何もしていないように見える箱が、なぜ電気代に効くのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。