停電作業の朝、作業員が受電設備の奥にある地味で小さなレバー(断路器)に手を伸ばそうとしたところ、先輩に「待て」と止められた。まだ手前の主遮断装置は投入されたまま、電流が流れている状態だった。
同じ「電気を切る」ためのレバーなのに、なぜこの小さなレバーだけ、通電中に触れると火花が飛び、最悪の場合は人が死ぬこともあると言われるのか。しかも、それは規則で決められているというより、もっと動かしがたい理由があるらしい。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この順番を守らせているものの正体を説明できるようになっている。
その正体は、これまでのトピックで見てきた断路器(DS)の構造そのものにある。DSは消弧能力(アークを消す装置)を持たない機器で、JIS C4606の定義でも「負荷電流の開閉を目的としないもの」とされている。電流が流れたままDSの接点を開くと、接点間にアークが生じ、短絡・焼損(いわゆる生切り)に至る。
だからこそ、電流の入切は必ず消弧能力を持つCB(遮断器)やLBS(負荷開閉器)が受け持ち、DSは無負荷の状態でしか操作しない。この物理的な制約から、現場では負荷側から電源側へ、次のような順番で切っていく流れが徹底される。
停電を確認したあとも、作業はまだ終わらない。労働安全衛生規則第339条 は、高圧の停電作業を行う場合の措置として、開路に用いた開閉器への施錠・通電禁止表示または監視人の配置に加え、検電器具による停電確認と、短絡接地器具による確実な短絡接地 を義務づけている。ケーブルやコンデンサに残る残留電荷も、確実に放電させる必要がある。
短絡接地には取付け・取外しの順序がある。取付けは接地側から先に行い、取外しは電路側から先に、つまり取付けと逆の順番で行う。これは、誤送電や他回路との混触、誘導による感電を防ぐための措置だ。そして復電の前には、短絡接地器具が確実に取り外されていることを確認する(同条第2項)。この確認を怠り、短絡接地器具を外し忘れたまま通電した結果、地絡・短絡事故につながった実例が波及事故の記録にも挙げられている。
現場で最初に触れる資格を持つということ
この停電・復電の順番と接地の手順が体に入ると、キュービクルの前に立ったときに、どのレバーから触ってよく、どのレバーには絶対に触れてはいけないかが、直感ではなく理屈で分かるようになる。今日試せる行動というよりも、この知識は現場で実際に手を動かすときのための知識であり、まず「DSは無負荷でしか操作しない」という一点を、繰り返し声に出して覚えておくことに意味がある。
この手順が厳格に守られているのは、過去に順番を誤って起きた感電・アーク事故の積み重ねがあるからだ。断路器の構造、検電の義務、短絡接地の順序——そのどれもが、誰かが痛い目に遭った記録の上に立っている。
第一種電気工事士が扱えるようになる自家用電気工作物の現場は、この停電・復電の作業そのものが日常になる世界だ。ビルや工場のキュービクルはもちろん、これから増えていく太陽光発電・蓄電池の高圧連系設備の保守でも、電源を落として作業する場面は必ず出てくる。DSは切れない、短絡接地は接地側から、復電前には取り外しの確認——この基本を体に入れておくことが、その入口に立つための最低条件になる。
冒頭の作業員が、なぜ目立つ大きなスイッチより先に小さなレバーへ手をかけようとしたのか、そして先輩が止めた理由。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。