工場の電気室で、停電作業のために主幹遮断器を切った。テスターを当てると、電圧はきれいにゼロを示している。もう安全なはずだ。
ところが壁際に並ぶ高圧進相コンデンサ盤のケーブルに、軍手をした新人がうっかり触れた瞬間、パチッという放電を感じて飛び上がった。電圧計はゼロだったのに、なぜ電気が残っていたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電源を切ったはずの機器に電気が残る理由を、式で説明できるようになっている。
これまでの基礎理論では、電流・電圧・抵抗という「流れる電気」を扱ってきた。ここからは、流れずに「溜まる電気」——静電気とコンデンサを見ていく。二種電気工事士の基礎理論には、この章がまるごと存在しない。
すべての出発点は、2つの電荷の間に働く力だ。クーロンの法則は、電荷Q1・Q2の間に距離rだけ離れて働く力を、次の式で表す。
F = Q1・Q2 / (4πε0・r²)
電荷の積に比例し、距離の2乗に反比例する。距離を2倍にすると力は4分の1、3倍にすると9分の1——万有引力の法則とまったく同じ形をしている。
この力を利用して電荷を蓄える部品がコンデンサだ。2枚の金属板(極板)を向かい合わせただけの単純な構造で、静電容量Cは次の式で決まる。
C = ε・A / d(ε: 誘電率、A: 極板の面積、d: 極板の間隔)
面積が広いほど、間隔が狭いほど、たくさんの電荷を蓄えられる。
「静電容量」と「電界の強さ」は別の量
ここで、混同しやすい2つの量を切り分けておく。静電容量Cは「どれだけ電荷を蓄えられるか」という器の性質で、極板の面積と間隔という形だけで決まる。一方、電圧のかかった極板の間の空間には電界ができており、その強さEは次の式で表される。
E = V / d(V: 極板間の電圧、d: 極板の間隔)
どちらも「dが分母にある式」だが、意味はまったく違う。Cは器の大きさ、Eは器の中の空間にかかっている電気的な圧力の強さだ。
この違いが正面から試されるのが、「充電したコンデンサの極板を引き離したら、電界はどうなるか」という問題だ。答えは、引き離すときの条件によって変わる。
- 電源から切り離して、電荷Qを保ったまま間隔を広げる場合。Cは小さくなるが、極板上の電荷はどこにも逃げられない。電界はE=Q/(εA)という電荷と面積だけで決まる値のままなので、Eは変わらない。そのかわり電圧V=Edが間隔に比例して上がっていく。
- 電源につないだまま、電圧Vを保って間隔を広げる場合。E=V/dの分母だけが大きくなるのでEは弱くなる。電荷もQ=CVでCとともに減っていき、減った分は電源側へ戻っていく。
同じ「引き離す」という操作なのに、電界が変わらない場合と弱くなる場合がある。だから、間隔を変える問題では「何が一定に保たれているか(電荷か、電圧か)」を最初に確認する——これがこの型の問題を解く唯一の分岐点になる。
コンデンサの直列・並列 ― 抵抗とちょうど逆になる
複数のコンデンサをつないだときの合成静電容量は、抵抗の公式とちょうど逆の形になる。
- 並列接続: C = C1 + C2(そのまま足し算)
- 直列接続: C = C1・C2 / (C1 + C2)(和分の積)
抵抗は並列で和分の積、直列で足し算だったのに、コンデンサは並列で足し算、直列で和分の積。覚え方に迷ったら、直列につなぐことは物理的に極板の間隔dを広げることと同じだと考えるといい。C=εA/dのdが大きくなれば、Cは小さくなる方向に動く。
たとえば2μFと4μFのコンデンサを直列にして100Vの電源につなぐと、合成静電容量は1.33μF、蓄えられる電荷は約133μC。この電荷はどちらのコンデンサにも共通なので、2μF側の電圧は133μC÷2μF≒66.7V、4μF側は133μC÷4μF≒33.3V。容量が小さい2μF側のほうが、高い電圧を受け持っている。
ここでもし、直列なのに並列の公式を誤って使ってしまったらどうなるか。C=C1+C2=6μFという間違った合成容量で計算すると、蓄えられる電荷はQ=6μF×100V=600μCという実際(133μC)の4倍以上の値になってしまう。その結果、各コンデンサにかかる電圧の見積もりも大きく狂う——2μF側は「600μC÷2μF=300V」という、実際の66.7Vを大幅に超えた誤った数値が出てくる。設計の現場でこの取り違えが起きると、実際にはもっと低い電圧しかかからないところに耐圧の高い(そして高価な)コンデンサを選んでしまったり、逆に直列だと思い込んで並列回路に低耐圧品を使い、実際の電圧配分を見誤って絶縁破壊を招いたりする。式の向きを間違えることは、計算問題を落とすだけでなく、実際の部品選定を誤らせる方向に直結している。
電源を切っても消えないエネルギー
コンデンサに蓄えられるエネルギーは、次の式で表される。
W = ½CV² = ½QV
対になる式が、コイル側にもある
試験では、コンデンサとコイルの両方にどれだけエネルギーが蓄わるかを、1問の中で 同時に問われることがある。だから片方だけ覚えていると、その問題は解けない。
| 素子 | 蓄えるエネルギー | 何で決まるか |
|---|---|---|
| コンデンサ(静電容量 C〔F〕) | W = ½CV² 〔J〕 | かかっている電圧 V |
| コイル(インダクタンス L〔H〕) | W = ½LI² 〔J〕 | 流れている電流 I |
形はそっくりで、C↔L、V↔I が入れ替わっているだけだ。覚え方も1つで済む。
なぜこう対応するかは、それぞれが何を蓄えているかを見れば分かる。 コンデンサは電極間の電界にエネルギーを蓄える。電界を作るのは電圧なので、式に V が入る。 コイルは周囲の磁界に蓄える。磁界を作るのは電流なので、式に I が入る。
なぜ「½」が付くのか。コンデンサに電荷を蓄えていく過程を考えると分かる。電荷がゼロの状態からVボルトまで充電する間、コンデンサの電圧は0からVへ徐々に上がっていく。電荷を運び込む仕事は、そのときどきの電圧×運んだ電荷の微小量の積み重ねになるが、電圧が0からVまで一様に増えていくため、平均するとちょうどV/2の電圧のもとでQの電荷を運んだのと同じ仕事量になる。W=(V/2)×Q=½QVという形は、この「平均電圧」の考え方から出てくる。抵抗に電力を流し込むときのように最初から一定の電圧がかかり続けるのとは違い、コンデンサは充電が進むにつれて「効きにくく」なっていく——この違いが½という係数の正体だ。
この式には「時間」がどこにも入っていないということも大事な点だ。抵抗に電流が流れるときは、電圧をかけ続けている間だけ仕事(電力)が発生し、電源を切った瞬間に止まる。ところがコンデンサは、蓄えた電荷とエネルギーを、回路が切り離された後も保持し続ける。たとえば静電容量10μF、充電電圧200Vのコンデンサなら、W=½×10×10⁻⁶×200²=0.2J、電荷はQ=CV=10×10⁻⁶×200=2×10⁻³C(2mC)がそのまま蓄えられたままになる。電源を切っても、この電荷とエネルギーを消し去る要素は回路のどこにもない。
冒頭の高圧進相コンデンサも、まさにこの性質を持つ部品だ。主幹遮断器を切って電源からは切り離されても、コンデンサ自身の中に残っていた電荷は、放電経路が用意されない限りそこにとどまる。電圧計がゼロを示すのは「回路の外側の電圧」であって、コンデンサの内部に電荷が残っていないことを保証するものではない。
街の充電池も、同じ式で動いている
コンデンサは高圧設備の中だけの部品ではない。スマートフォンのタッチパネルも、フラッシュのコンデンサも、原理はすべてC=εA/dとW=½CV²だ。今日試せることとして、身近な電子機器の分解記事や仕様書に「コンデンサ」という部品名が出てきたら、それが何かを一時的に「貯める」ための部品だと意識してみてほしい。抵抗が電気を消費するのに対し、コンデンサは電気を貯めて後で返す——この違いが分かると、電子回路の見え方が変わってくる。
高圧受電設備の現場では、進相コンデンサに触れる前に必ず放電を確認する手順が徹底されている。それは「感電しました」で済む話ではなく、蓄えられたエネルギーが人体を通り抜けるかどうかの問題だからだ。この科目で静電気とコンデンサの計算を学ぶ意味は、単に試験に受かるためではなく、目に見えない「溜まった電気」の存在を数式として扱えるようになる、というところにある。
冒頭の新人が感じた放電、その電荷とエネルギーがどこから来たのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。