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電気に関する基礎理論 ・ 2 / 10

磁気と電磁力 ― 電流が作る磁界と、磁界が電流に返す力

読み終えると、こうなる

変圧器や電動機のうなり音・振動が、コイルの中の見えない磁界と電流の押し合いだと分かるようになる

  • 平行に並んだ2本の電線に電流が流れたとき、引き合うか反発するかを電流の向きだけで判定できる
  • コイルの巻数・磁束の変化速度から、誘導される起電力の大きさをe=NΔΦ/Δtで見積もれる
  • 変圧器の『鉄損』が磁気の性質(ヒステリシス損・うず電流損)から生じることを、次の効率計算の前提として説明できる
考えてみよう

変圧器やモーターに近づくと、「ブーン」という低いうなり音が聞こえることがある。振動で床がわずかに揺れることさえある。中を開けても、動く部品はほとんど見当たらない。鉄の塊とコイルが巻かれているだけだ。

回っている部品もないのに、何が振動を起こしているのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電流と磁界の間に働く「見えない力」の正体を説明できるようになっている。

第二種電気工事士の基礎理論には、磁気を扱う章がまるごと存在しない。だが変圧器・電動機・高圧ケーブルという第一種の主戦場になる機器は、すべて磁気と電流の関係で動いている。ここで初めて、その土台に触れる。

電流は磁界を作る

導線に電流を流すと、そのまわりに磁界ができる。直線状の導体からr〔m〕離れた点の磁界の強さHは、次の式で表される。

H = I / (2πr)

電流Iが大きいほど、導体に近い(rが小さい)ほど、磁界は強くなる。これは電流という「見えないもの」が、磁界という別の「見えないもの」を作り出しているということだ。

直線導体のまわりの磁界 電流 I H=I/(2πr) 導体を中心に同心円状の磁界ができる 距離rが2倍になると磁界の強さは半分になる

磁界は電流に力を返す

ここからが電動機の原理だ。磁界の中に置かれた導体に電流を流すと、その導体には力が働く。磁束密度B、電流I、導体の長さlのとき、電磁力Fは次の式になる。

F = BIl

モーターの回転子に巻かれたコイルは、まさにこの力で回っている。磁界を作る固定側(固定子)と、電流が流れる回転側(回転子)の組み合わせが、F=BIlという1本の式で結ばれている。

さらに、2本の平行な導体に電流を流すと、それぞれが作る磁界がお互いに力を及ぼし合う。1mあたりの力は次の式で表される。

F = (2・I1・I2 / r) × 10⁻⁷ N/m

電流が同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する。この「向き」は式そのものには表れないので、大きさの計算とは別に、電流の向きを図で確認する必要がある。

この式は、正常な運転電流ではあまり気にならない小さな力だが、短絡事故が起きた瞬間はまったく話が違ってくる。キュービクル内の母線(バスバー)は、通常なら数十A程度の電流しか流れないが、短絡電流はその数十倍〜千倍以上に跳ね上がる。たとえば0.1m間隔で平行に張られた母線に、短絡電流1750A(のちの%インピーダンス法のトピックで実際に計算する値と同じ規模だ)が同じ向きに流れたとすると、F=(2×1750×1750÷0.1)×10⁻⁷=(2×3,062,500÷0.1)×10⁻⁷=61,250,000×10⁻⁷≒6.1N/m。1kg重=9.8Nなので、1mあたり約0.6kg重の力が、母線を引き寄せる方向に一瞬だけ働く計算になる。1本あたりでは小さく見えるが、母線は数mにわたって張られており、しかもこの力は電流の2乗に比例する。短絡電流がこの倍になれば力は4倍だ。母線を支える支持金具(碍子)が短絡時の電磁力に耐える強度で設計されているのは、この式が示す力に実際に耐える必要があるからだ。電磁力の式は、平常時には無視できても、事故時には設備の強度設計そのものを左右する。

電磁力F=BIlは「電流が磁界から力を受け取る」式、誘導起電力e=Blvは「導体が磁界の中を動くことで電気を生み出す」式だ。この2つは似た形をしているが、向きがまったく逆——**電動機は電気を入れて力(回転)を取り出し、発電機は力(回転)を入れて電気を取り出す。**同じ磁界・同じ導体の関係を、入口と出口を入れ替えて使っているだけだと分かると、モーターと発電機がなぜ似た構造をしているのかが見えてくる。

コイルが動かなくても電気は生まれる ― 電磁誘導

導体が磁界の中を実際に動かなくても、コイルを貫く磁束Φそのものが時間とともに変化すれば、起電力が誘導される。

e = N・ΔΦ / Δt

巻数Nが多いほど、磁束の変化が急なほど、大きな起電力が生まれる。たとえば巻数100回のコイルを貫く磁束が0.1秒間に0.02Wb変化したとすると、e=N・ΔΦ/Δt=100×0.02÷0.1=20V。もし巻数を半分の50回にしか巻かなければ、同じ磁束変化でも起電力は10Vにしかならない——変圧器の一次側巻線と二次側巻線の巻数の比が、そのまま電圧の比を決めているのは、この式が両方の巻線に共通の磁束変化ΔΦ/Δtを与えているからだ。二次側の巻数を一次側の半分にすれば、二次電圧も半分になる。

変圧器の一次側に交流を流すと、鉄心を貫く磁束が絶えず変化し、この式にしたがって二次側のコイルに電圧が誘導される——変圧器が「変圧」できる理由は、突き詰めればこの1本の式だ。逆に、この式を見誤って「巻数と電圧は関係ない」と考えてしまうと、変圧器の巻数比をなぜ変えると電圧が変わるのかが説明できなくなり、この先の変圧器の効率・容量選定の理解にもつながっていかない。

そして、この磁束の変化は鉄心そのものにも影響を及ぼす。鉄心が磁化・減磁を繰り返す過程で生じるヒステリシス損と、鉄心内部にうず状に流れる電流によるうず電流損——合わせて「鉄損」と呼ばれるこの2つの損失は、負荷の有無に関わらず電源が入っている限り発生し続ける。冒頭のうなり音・振動も、同じ磁束変化から生まれる。ただし音の直接の原因は鉄損ではない。磁化のたびに鉄心そのものがわずかに伸縮する磁歪と、成層鉄心の板や巻線に働く電磁力が振動を起こしている。鉄損は熱、磁歪と電磁力は音と振動——同じ磁束変化から出た別々の結果として分けて捉えておくと、この先の効率計算(鉄損は無負荷でも一定、銅損は負荷電流の2乗に比例)で音の大きさと損失を混同せずに済む。

向きを間違えると、大きさの計算は無意味になる

F=BIlもe=Blvも、大きさを求める式であって、向きはこの式の外側にある別のルールで決まる。電磁力の向きはフレミングの左手の法則(親指が力、人差し指が磁界、中指が電流)、誘導起電力の向きはフレミングの右手の法則(親指が導体の動く向き、人差し指が磁界、中指が起電力)で判断する。左手か右手か、そしてどの指がどの量に対応するかを取り違えると、大きさの計算が正しくても、モーターは逆回転し、発電機は狙った向きに電流を流せなくなる。大きさの式(F=BIlの数値)だけを覚えて、向きのルール(フレミングの法則)を後回しにしてしまうと、実際の配線・巻線の向きを決める場面で式が使い物にならない、ということを意識しておく必要がある。

コイルの「通しにくさ」は、何で決まっているのか — 自己インダクタンス

交流をコイルに流したとき、電流を妨げるのは抵抗ではなく誘導性リアクタンスXLX_Lだった。

XL=2πfLX_L = 2\pi f L

この式のff(周波数)はすぐ動かせる。だがLL——自己インダクタンス——のほうは、コイルそのものの作りで決まっている。試験は、まさにその作りを変えたら電流はどうなるかを聞いてくる。

LLは、コイルの形と中身から決まる。断面積AA、磁路の長さll、巻数NN、そして中に入っている物質の透磁率μ\muを使って、

L=μN2AlL = \frac{\mu N^2 A}{l}

読み取るべきは2点だけだ。
  • LLは巻数NNの2乗に比例する。 巻数を2倍にすると、LLは4倍になる
  • LLは透磁率μ\muに比例する。 空気しか入っていないコイルに鉄心を差し込むとμ\muが跳ね上がり、LLも大きくなる

NNが2乗で効くのは、巻数を増やすと「作られる磁束」と「その磁束を受け取る巻数」の両方が増えるからだ。原因と結果の両側でNNが掛かるので、2乗になる。

透磁率のほうは、真空の透磁率μ0\mu_0との比で語られることが多い。これが比透磁率μs\mu_sで、μ=μsμ0\mu = \mu_s \mu_0と書ける。空気のμs\mu_sはほぼ1だが、鉄やケイ素鋼板は桁違いに大きい。鉄心を入れることが「磁束の通り道を、はるかに通しやすい材質に取り替える」ことになる——変圧器や電磁石の中身が鉄でできている理由が、この一文に収まっている。

電流はどう動くか、を最後まで追う

出題は「コイルに交流電圧を加えたとき、電流を減らすにはどうすればよいか」といった形で来る。XL=2πfLX_L = 2\pi f LI=V/XLI = V / X_L を2段つなげば、判断は機械的にできる。

操作LLXLX_L電流II
巻数を増やす増(2乗で)減る
鉄心を入れる減る
周波数を上げる変わらず減る
電圧を上げる変わらず変わらず増える
間違えやすいのは**「巻数を増やす」「鉄心を入れる」の向き**だ。「巻数を増やす=強くなる=電流が増える」と直感で答えると逆になる。**コイルは強くなるほど電流を通しにくくなる**——強さの正体が「電流の変化を妨げる力」だからだ。

一方、周波数だけは抵抗とまったく違う振る舞いをする。抵抗は周波数に無関係だが、コイルは周波数が上がるほど通しにくくなり、コンデンサは逆に通しやすくなる。この3者の周波数への反応の違いが、共振高調波の話につながっていく。

現場では、この性質がそのまま道具になる。電動機の始動電流を抑えるリアクトル、進相コンデンサに直列で入れる直列リアクトル、電子機器の電源に入るチョークコイル——いずれも「コイルは電流の急な変化を嫌う」という一点を利用している。巻数と鉄心がLLを決め、LLXLX_Lを決め、XLX_Lが電流を決める。この鎖をたどれるかどうかが、部品の選定を理屈で語れるかどうかの分かれ目になる。

見えない力の存在を、耳と手で確かめる

変圧器の鉄損は、この先の科目で変圧器の効率を計算するときに必ず登場する重要な概念だ。今日試せることとして、自宅や職場の変圧器・大型モーターに近づいたとき(安全な範囲で)、あの低いうなり音に耳を澄ませてみてほしい。回転する部品がなくても音がするなら、それは磁気そのものが立てている音だと分かる。

磁気と電流の関係を定式化する研究は、19世紀の電磁気学の発展そのものであり、その積み重ねの上に、いま目の前にある変圧器や電動機が成り立っている。電磁力の式1つで、発電から送電、そして工場のモーターまでがつながっている——この分野を知ることは、電気という現象を「流れる」だけでなく「場」として捉える視点を手に入れることでもある。

冒頭のうなり音の正体、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 平行導体間の力の向きを、電流の大きさだけで判断させ、向き(同方向・逆方向)の条件を見落とさせる

    なぜ引っかかるF=(2I1I2/r)×10⁻⁷という式は大きさしか教えてくれない。向き(引き合うか反発するか)は式の外側にあるルールなので、式だけ覚えていると『大きい電流ほど強く引き合う』のように向きを無視した誤答をしやすい

    見破り方電流の向きを図で確認してから力の大きさを計算する。同じ向きの電流は引き合い、逆向きの電流は反発する、という向きのルールを、大きさの式とは別に必ずセットで確認する

  2. 電磁力F=BIlと誘導起電力e=Blvを混同させ、どちらの式を使う場面か取り違えさせる

    なぜ引っかかるどちらもB・I(またはv)・lの組み合わせで似た形をしているため、『電流が流れている導体に働く力』を聞かれているのか『導体が動くことで生まれる起電力』を聞かれているのかを読み違えると、掛け算する量そのものを間違える

    見破り方問題文の主語を確認する。電動機(モーターとして力が欲しい場合)はF=BIl、発電機(動かして電気を作りたい場合)はe=Blvと、モーターと発電機の役割で式を先に決めてから数値を当てはめる

  3. コイルの巻数Nを、電流や電圧と同じように単純比例の外側の定数として扱わせる

    なぜ引っかかるe=N・ΔΦ/Δtの式でNは分子にそのまま掛かるだけの単純な形をしているため見落としやすいが、巻数を2倍にすれば同じ磁束変化でも起電力は2倍になる、という関係を問う設問がある

    見破り方式の中でNがどこに掛かっているかを確認し、Nを2倍・3倍にしたときにeがどう変わるかを先に検算してから選択肢を絞る

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 直線導体のまわりの磁界の強さH=I/(2πr)。電流が大きいほど、導体に近いほど磁界は強い
  2. 磁界の中を流れる電流には電磁力F=BIl(磁束密度×電流×導体の長さ)が働く
  3. 平行に並んだ2本の導体間の力F=(2I1I2/r)×10⁻⁷N/m。電流が同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する
  4. コイルを貫く磁束が変化すると起電力が誘導される(電磁誘導): e=N・ΔΦ/Δt。導体が磁界を横切って動く場合はe=Blv
  5. 変圧器の鉄損(ヒステリシス損・うず電流損)は、磁気の性質そのものが原因で生じる損失で、負荷の有無にかかわらず発生する
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