変圧器やモーターに近づくと、「ブーン」という低いうなり音が聞こえることがある。振動で床がわずかに揺れることさえある。中を開けても、動く部品はほとんど見当たらない。鉄の塊とコイルが巻かれているだけだ。
回っている部品もないのに、何が振動を起こしているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電流と磁界の間に働く「見えない力」の正体を説明できるようになっている。
第二種電気工事士の基礎理論には、磁気を扱う章がまるごと存在しない。だが変圧器・電動機・高圧ケーブルという第一種の主戦場になる機器は、すべて磁気と電流の関係で動いている。ここで初めて、その土台に触れる。
電流は磁界を作る
導線に電流を流すと、そのまわりに磁界ができる。直線状の導体からr〔m〕離れた点の磁界の強さHは、次の式で表される。
H = I / (2πr)
電流Iが大きいほど、導体に近い(rが小さい)ほど、磁界は強くなる。これは電流という「見えないもの」が、磁界という別の「見えないもの」を作り出しているということだ。
磁界は電流に力を返す
ここからが電動機の原理だ。磁界の中に置かれた導体に電流を流すと、その導体には力が働く。磁束密度B、電流I、導体の長さlのとき、電磁力Fは次の式になる。
F = BIl
モーターの回転子に巻かれたコイルは、まさにこの力で回っている。磁界を作る固定側(固定子)と、電流が流れる回転側(回転子)の組み合わせが、F=BIlという1本の式で結ばれている。
さらに、2本の平行な導体に電流を流すと、それぞれが作る磁界がお互いに力を及ぼし合う。1mあたりの力は次の式で表される。
F = (2・I1・I2 / r) × 10⁻⁷ N/m
電流が同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する。この「向き」は式そのものには表れないので、大きさの計算とは別に、電流の向きを図で確認する必要がある。
この式は、正常な運転電流ではあまり気にならない小さな力だが、短絡事故が起きた瞬間はまったく話が違ってくる。キュービクル内の母線(バスバー)は、通常なら数十A程度の電流しか流れないが、短絡電流はその数十倍〜千倍以上に跳ね上がる。たとえば0.1m間隔で平行に張られた母線に、短絡電流1750A(のちの%インピーダンス法のトピックで実際に計算する値と同じ規模だ)が同じ向きに流れたとすると、F=(2×1750×1750÷0.1)×10⁻⁷=(2×3,062,500÷0.1)×10⁻⁷=61,250,000×10⁻⁷≒6.1N/m。1kg重=9.8Nなので、1mあたり約0.6kg重の力が、母線を引き寄せる方向に一瞬だけ働く計算になる。1本あたりでは小さく見えるが、母線は数mにわたって張られており、しかもこの力は電流の2乗に比例する。短絡電流がこの倍になれば力は4倍だ。母線を支える支持金具(碍子)が短絡時の電磁力に耐える強度で設計されているのは、この式が示す力に実際に耐える必要があるからだ。電磁力の式は、平常時には無視できても、事故時には設備の強度設計そのものを左右する。
コイルが動かなくても電気は生まれる ― 電磁誘導
導体が磁界の中を実際に動かなくても、コイルを貫く磁束Φそのものが時間とともに変化すれば、起電力が誘導される。
e = N・ΔΦ / Δt
巻数Nが多いほど、磁束の変化が急なほど、大きな起電力が生まれる。たとえば巻数100回のコイルを貫く磁束が0.1秒間に0.02Wb変化したとすると、e=N・ΔΦ/Δt=100×0.02÷0.1=20V。もし巻数を半分の50回にしか巻かなければ、同じ磁束変化でも起電力は10Vにしかならない——変圧器の一次側巻線と二次側巻線の巻数の比が、そのまま電圧の比を決めているのは、この式が両方の巻線に共通の磁束変化ΔΦ/Δtを与えているからだ。二次側の巻数を一次側の半分にすれば、二次電圧も半分になる。
変圧器の一次側に交流を流すと、鉄心を貫く磁束が絶えず変化し、この式にしたがって二次側のコイルに電圧が誘導される——変圧器が「変圧」できる理由は、突き詰めればこの1本の式だ。逆に、この式を見誤って「巻数と電圧は関係ない」と考えてしまうと、変圧器の巻数比をなぜ変えると電圧が変わるのかが説明できなくなり、この先の変圧器の効率・容量選定の理解にもつながっていかない。
そして、この磁束の変化は鉄心そのものにも影響を及ぼす。鉄心が磁化・減磁を繰り返す過程で生じるヒステリシス損と、鉄心内部にうず状に流れる電流によるうず電流損——合わせて「鉄損」と呼ばれるこの2つの損失は、負荷の有無に関わらず電源が入っている限り発生し続ける。冒頭のうなり音・振動も、同じ磁束変化から生まれる。ただし音の直接の原因は鉄損ではない。磁化のたびに鉄心そのものがわずかに伸縮する磁歪と、成層鉄心の板や巻線に働く電磁力が振動を起こしている。鉄損は熱、磁歪と電磁力は音と振動——同じ磁束変化から出た別々の結果として分けて捉えておくと、この先の効率計算(鉄損は無負荷でも一定、銅損は負荷電流の2乗に比例)で音の大きさと損失を混同せずに済む。
向きを間違えると、大きさの計算は無意味になる
F=BIlもe=Blvも、大きさを求める式であって、向きはこの式の外側にある別のルールで決まる。電磁力の向きはフレミングの左手の法則(親指が力、人差し指が磁界、中指が電流)、誘導起電力の向きはフレミングの右手の法則(親指が導体の動く向き、人差し指が磁界、中指が起電力)で判断する。左手か右手か、そしてどの指がどの量に対応するかを取り違えると、大きさの計算が正しくても、モーターは逆回転し、発電機は狙った向きに電流を流せなくなる。大きさの式(F=BIlの数値)だけを覚えて、向きのルール(フレミングの法則)を後回しにしてしまうと、実際の配線・巻線の向きを決める場面で式が使い物にならない、ということを意識しておく必要がある。
コイルの「通しにくさ」は、何で決まっているのか — 自己インダクタンス
交流をコイルに流したとき、電流を妨げるのは抵抗ではなく誘導性リアクタンスだった。
この式の(周波数)はすぐ動かせる。だが——自己インダクタンス——のほうは、コイルそのものの作りで決まっている。試験は、まさにその作りを変えたら電流はどうなるかを聞いてくる。
は、コイルの形と中身から決まる。断面積、磁路の長さ、巻数、そして中に入っている物質の透磁率を使って、
- は巻数の2乗に比例する。 巻数を2倍にすると、は4倍になる
- は透磁率に比例する。 空気しか入っていないコイルに鉄心を差し込むとが跳ね上がり、も大きくなる
が2乗で効くのは、巻数を増やすと「作られる磁束」と「その磁束を受け取る巻数」の両方が増えるからだ。原因と結果の両側でが掛かるので、2乗になる。
透磁率のほうは、真空の透磁率との比で語られることが多い。これが比透磁率で、と書ける。空気のはほぼ1だが、鉄やケイ素鋼板は桁違いに大きい。鉄心を入れることが「磁束の通り道を、はるかに通しやすい材質に取り替える」ことになる——変圧器や電磁石の中身が鉄でできている理由が、この一文に収まっている。
電流はどう動くか、を最後まで追う
出題は「コイルに交流電圧を加えたとき、電流を減らすにはどうすればよいか」といった形で来る。 と を2段つなげば、判断は機械的にできる。
| 操作 | 電流 | ||
|---|---|---|---|
| 巻数を増やす | 増(2乗で) | 増 | 減る |
| 鉄心を入れる | 増 | 増 | 減る |
| 周波数を上げる | 変わらず | 増 | 減る |
| 電圧を上げる | 変わらず | 変わらず | 増える |
一方、周波数だけは抵抗とまったく違う振る舞いをする。抵抗は周波数に無関係だが、コイルは周波数が上がるほど通しにくくなり、コンデンサは逆に通しやすくなる。この3者の周波数への反応の違いが、共振や高調波の話につながっていく。
現場では、この性質がそのまま道具になる。電動機の始動電流を抑えるリアクトル、進相コンデンサに直列で入れる直列リアクトル、電子機器の電源に入るチョークコイル——いずれも「コイルは電流の急な変化を嫌う」という一点を利用している。巻数と鉄心がを決め、がを決め、が電流を決める。この鎖をたどれるかどうかが、部品の選定を理屈で語れるかどうかの分かれ目になる。
見えない力の存在を、耳と手で確かめる
変圧器の鉄損は、この先の科目で変圧器の効率を計算するときに必ず登場する重要な概念だ。今日試せることとして、自宅や職場の変圧器・大型モーターに近づいたとき(安全な範囲で)、あの低いうなり音に耳を澄ませてみてほしい。回転する部品がなくても音がするなら、それは磁気そのものが立てている音だと分かる。
磁気と電流の関係を定式化する研究は、19世紀の電磁気学の発展そのものであり、その積み重ねの上に、いま目の前にある変圧器や電動機が成り立っている。電磁力の式1つで、発電から送電、そして工場のモーターまでがつながっている——この分野を知ることは、電気という現象を「流れる」だけでなく「場」として捉える視点を手に入れることでもある。
冒頭のうなり音の正体、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。