同じ候補問題を練習してきた2人が、本番で同じ問題を引いた。
Aさんは複線図を丁寧に描いた。器具の形まで写し、色を3色ペンで塗り分け、8分かけて仕上げた。残り32分で作業に入ったが、最後のリングスリーブを2箇所残したところで「止めてください」の声がかかった。未完成、不合格。
Bさんは反対のことをした。「あの8分がAを殺した」と考え、複線図を一切描かずにいきなりケーブルを切り始めた。34分で完成し、余裕をもって見直しまでした。作品は整っていて、圧着マークもスリーブのサイズも正しかった。それでも不合格だった。
Aさんが落ちた理由は分かる。ではBさんは、時間内に、欠陥らしい欠陥の見当たらない作品を完成させたのに、なぜ落ちたのか。見当がつかなくて当然だ。そして正解は「複線図をやめる」ではなく「複線図を3分に縮める」ことにある。読み終えるころには、なぜそう言い切れるのかが分かるようになっている。
40分に何が入っていて、何が入っていないのか
令和8年度の候補問題公表資料には「試験時間は,すべての問題について40分の予定です」とある。この40分に、何が含まれていて何が含まれていないかを先に押さえておきたい。
試験当日の流れは、集合 → 注意事項の確認 → 試験問題と材料箱の配付・材料の確認 → 試験開始、という順だ。つまり材料表との照合は試験開始前に済ませてある。40分は、まるごと手を動かす時間として使える。
一方で、40分の中から削れる要素はほとんどない。技能試験では電動工具が使えないからだ。試験センターは「電動機能をOFFにして利用する場合でも、使用することはできません」と明記し、使用すれば不正行為として失格になるとしている。ケーブルを剥く、輪を作る、圧着する——これらはすべて手の速度に縛られていて、練習で縮められる幅には限界がある。
削れるとしたら、紙の上の時間だけだ。しかも「ゼロにする」ではなく「無駄をなくす」形で。
配分の目安としては、複線図に5分前後を見ておくのが標準的だ。このトピックが狙うのは、その5分を3分まで縮めること。浮いた2分は消えるのではなく、そのまま最後の見直しに移る。
描く場所と、当日の机の上
公式資料には、複線図をどこに描くべきかという指定はない。禁止されているのはカンニング、終了後の作業継続、電動工具の使用といった不正行為であって、筆記そのものを制限する記載はない。試験問題はA3二つ折りA4仕上げで配付されるので、その余白が実質的な作図スペースになる。
机の上はそれほど広くない。よくある問合せへの回答を並べると、当日の制約が見えてくる。
- 工具箱・工具袋は机上に置ける。ただしスペースに限りがあるので、他の受験者の迷惑にならないようにする(Q4)
- リングスリーブなどの小さな部品を入れる小箱等は、材料持ち込みの疑いを避けるため使用できない。支給される材料箱を使う(Q2)
- 机にスケールを貼りたい場合は、机を傷めないよう、試験開始後に保護板(厚紙)に貼り付ける(Q6)
- ケーブルにペンで印をつけても問題ない(Q5)
- 電線を一時的に束ねるクリップ等は使用できるが、試験終了までに必ず取り外す(注意事項)
材料箱と作りかけの作品が場所を取るので、複線図はA4の紙1枚分に収まる大きさで描くのが現実的だ。大きく描いても情報量は増えない。
色は塗らない。線種と1文字で足りる
複線図の練習で最も時間を食っているのが、色分けだ。3色ペンで黒・白・赤を塗り分けると、ペンの持ち替えとノック操作が線の本数だけ発生する。10本引けば10回だ。
本番で必要なのは「その線が何色の電線になるか」が自分に伝わることだけで、実物と同じ色である必要はない。だから略記でいい。
黒は実線、白は破線。接地線の緑や200V回路の赤のように第3の色が出てきたときだけ、線の脇に「緑」「赤」と1文字書き添える。これで色の情報は全部載る。
同じ発想で、ジョイントボックス内の結線点にはその場でスリーブの記号を書き込んでしまうとよい。「○」「小」「中」と、集まる線の本数の横に書く。圧着の段階でもう一度数え直す必要がなくなり、しかも数え間違いを紙の上で1回だけに減らせる。
描かなくていいもの
複線図で必要なのは、端子と線のつながりだけだ。次のものは描かなくてよい。
- 器具の形……ランプレセプタクルもコンセントも、丸と四角で足りる。端子が2つあることさえ表現できていればいい
- 寸法……寸法は問題用紙の配線図に書かれている。複線図に書き写すと、見る場所が2箇所に増えて確認が遅くなる
- 施工省略の先……施工省略と指示された部分は作らない。複線図でも、そこから先へ線を伸ばす必要はない
- ケーブルの本数の内訳……2心か3心かはケーブルを選ぶときに決まる。複線図の段階では、端子と端子が結ばれていれば足りる
削っていくと、複線図は「電源の2端子」「器具の端子」「それを結ぶ線」「結線点の記号」だけになる。この形なら3分で描ききれる。
13問を、作らずに描くだけのドリル
複線図を速くするのに、材料は要らない。候補問題13問について、複線図だけを1問3分で描くというドリルが最も効率がいい。13問で39分。ケーブルを切って組む練習の10分の1以下の時間で、13問を一巡できる。
このドリルには副産物がある。試験センターが「技能試験で重視する3つの能力」の1つ目に挙げているのは「回路を的確に構成する能力」で、これはまさに複線図の力そのものだ。手を動かす練習と違って材料も消費しないので、通勤の合間でも回せる。
ただし公表されているのは配線図の骨格であって、電線の色指定や接続方法(リングスリーブか差込形コネクタか)、施工省略の位置といった施工条件は当日の試験問題で初めて確定する。「No.5の複線図はこの形」と丸暗記するのではなく、条件が変わったときに描き直せるかどうかを確かめながら回すのがコツだ。
そして、増えた見直しの時間
試験センターは、よくある欠陥事例の冒頭でこう書いている——「基準の趣旨をよく理解し,繰り返し練習をして,本番の試験では,完成した作品の見直しを忘れずに行いましょう」。リングスリーブの項でも「本番の試験では作品が完成したら必ず確認するように心がけてください」「万が一,刻印等を間違えた場合は,新しいリングスリーブで正しくやり直してください」と重ねている。
会場ではテスタなどの計測器が使えない。完成した回路が正しいかどうかを電気的に確かめる手段はないので、見直しとは「手元の複線図と作品を突き合わせる作業」になる。5分残しておけば、接続箇所を1つずつ指で追って、圧着マークの押し間違いを打ち直すところまで届く。
複線図を3分で描くのは、縮めた2分を最後に取り戻すためでもある。
3分で描ける人は、図面から材料を拾える
複線図を速く描く力は、試験が終わったあとに「材料を拾う力」として残る。現場では図面を見て、どのケーブルを何メートル、リングスリーブを何個、ボックスをいくつ持って上がるかを先に出しておく。この拾い出しは、頭の中で単線図を複線化しないとできない。3分で複線図を起こせるということは、図面を見て「この部屋のジョイントボックスには線が何本入るか」を即答できるということだ。見積の精度も、当日の手戻りの少なさも、そこから出てくる。
しかもこの練習には材料が要らない。紙とペン1本で、13問を39分で一巡できる。今日の帰り道に1問だけ描いてみるといい。色を塗らず、実線と破線と1文字で足りるという略記は、現場でメモを取るときの書き方とほとんど同じだ。誰も清書はしない。
図面が紙からタブレットに移っても、渡されるのが単線図であることは変わらない。それを配線に翻訳する工程は、いまのところ人の側に置かれたままだ。3分の複線図は、その入口にある手続きを速くしているにすぎない。
Bさんがなぜ落ちたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。