試験が終わり、退出した2人の受験者が廊下で答え合わせをしていた。課題は同じ、ジョイントボックスの接続箇所も同じ。つないだのは、どちらもφ1.6mmの電線2本だ。
選んだリングスリーブも同じ「小」。工具も同じ、握り部分が黄色いリングスリーブ用圧着工具。スリーブの潰れ方もきれいで、被覆を噛んでもいない。ところが、圧着した跡に残った刻印だけが違っていた。片方は「○」、もう片方は「小」。
同じ電線を、同じスリーブで、同じ工具で圧着したのに、刻印が2種類あり得る。そして合格したのは片方だけだった。見当がつかなくて当然だ。読み終えるころには、どちらが欠陥で、なぜそうなるのかが即答できるようになっている。
スリーブの「呼び」と「圧着マーク」は別物
リングスリーブの話がややこしくなる原因は、たいていここにある。選ぶもの(スリーブの呼び)と、押すもの(圧着マーク=ダイス)は、別々に決まる。
低圧屋内配線工事で使うのは、JIS C 2806(銅線用裸圧着スリーブ 終端重合せ用スリーブE)に定められた小・中・大の3種類。一方、圧着工具のダイスには○・小・中・大の4種類がある。3対4で数が合っていない。ずれているのは小スリーブのところで、小スリーブだけが「○」と「小」の2つのマークを持つ。
接続する電線の太さと本数から、この2つを同時に決めるのが選定作業だ。JIS C 2806に規定された組合せは次のとおり。
同じ太さの電線をまとめる場合
| 圧着マーク | φ1.6mm | φ2.0mm | φ2.6mm | 使うスリーブ | 最大使用電流 |
|---|---|---|---|---|---|
| ○ | 2本 | - | - | 小 | 20A |
| 小 | 3〜4本 | 2本 | - | 小 | 20A |
| 中 | 5〜6本 | 3〜4本 | 2本 | 中 | 30A |
| 大 | 7本 | 5本 | 3本 | 大 | 30A |
(φ1.6mmは2.0mm²、φ2.0mmは3.5mm²、φ2.6mmは5.5mm²のより線に読み替える)
太さの異なる電線を混ぜる場合
- ○……φ1.6mm 1本と0.75mm² 1本
- 小……φ1.6mm 2本と0.75mm² 1本/φ2.0mm 1本とφ1.6mm 1〜2本
- 中……φ2.0mm 1本とφ1.6mm 3〜5本/φ2.0mm 2本とφ1.6mm 1〜3本/φ2.0mm 3本とφ1.6mm 1本/φ2.6mm 1本とφ1.6mm 1〜3本/φ2.6mm 1本とφ2.0mm 1〜2本/φ2.6mm 2本とφ1.6mm 1本/φ2.6mm 1本とφ2.0mm 1本とφ1.6mm 1〜2本
- 大……φ2.0mm 1本とφ1.6mm 6本/φ2.0mm 2本とφ1.6mm 4本/φ2.0mm 3本とφ1.6mm 2本/φ2.0mm 4本とφ1.6mm 1本/φ2.6mm 1本とφ2.0mm 3本/φ2.6mm 2本とφ1.6mm 2本/φ2.6mm 2本とφ2.0mm 1本/φ2.6mm 1本とφ2.0mm 2本とφ1.6mm 1本
量が多く見えるが、令和8年度の候補問題で公表されている電線はVVF1.6、VVF2.0、VVR1.6、VVR2.0、IV1.6、EM-EEF2.0で、φ2.6mmは登場しない。実際に判断が必要になるのは表の上半分、φ1.6mmとφ2.0mmの組合せに限られる。
圧着そのものに関する6つの欠陥(6-1)
選定が正しくても、圧着の作業自体で欠陥になる項目が6つある。欠陥の判断基準6-1「リングスリーブ用圧着工具の使用方法等が適切でないもの」は次のとおりだ。
- イ リングスリーブの選択を誤ったもの(JIS C 2806準拠)
- ロ 圧着マークが不適正のもの(JIS C 2806準拠)
- ハ リングスリーブを破損したもの
- ニ リングスリーブの先端または末端で、圧着マークの一部が欠けたもの
- ホ 1つのリングスリーブに2つ以上の圧着マークがあるもの
- ヘ 1箇所の接続に2個以上のリングスリーブを使用したもの
イとロが選定の失敗、ハからヘが工具の当て方の失敗だ。とくにニとホは、スリーブの端ぎりぎりで圧着したり、押し直したりしたときに起きる。試験センターは「マークが欠けないようにする」「押し間違えて2度圧着しないようにする」「絶縁被覆の上から圧着しない」の3点を挙げて注意を促している。
工具そのものにも条件がある。使えるのはJIS C 9711:1982・1990・1997に適合する圧着工具で、握り部分が黄色いリングスリーブ用のものだ。○・小・中・大の刻印が明確に出るものを用意する。使い古して刻印が読めない工具や、圧着端子用の工具(持ち手がオレンジ色などで、圧着すると数字が刻印される)を使った場合は、正しい工具が使用されたと認められず欠陥となる。
端末処理に関する6つの欠陥(6-2)
圧着の前後、心線の処理についてもう6項目ある。欠陥の判断基準6-2「心線の端末処理が適切でないもの」は次のとおりだ。
- イ リングスリーブを上から目視して、接続する心線の先端が一本でも見えないもの
- ロ リングスリーブの上端から心線が5mm以上露出したもの
- ハ 絶縁被覆のむき過ぎで、リングスリーブの下端から心線が10mm以上露出したもの
- ニ ケーブル外装のはぎ取り不足で、絶縁被覆が20mm以下のもの
- ホ 絶縁被覆の上から圧着したもの
- ヘ より線の素線の一部がリングスリーブに挿入されていないもの
なお電線の損傷についての基準5-2には但し書きがあり、「リングスリーブの下端から10mm以内の絶縁被覆の傷は欠陥としない」とされている。ストリッパで被覆をむくときにわずかな傷が付いても、その範囲内なら問題にならない。
間違えたスリーブは、やり直せる
ここまで欠陥項目を12個並べたが、リングスリーブについては救いがある。試験センターは、作業開始後の材料交換について「リングスリーブ,差込形コネクタ,端子ねじ以外の材料の交換・追加支給は行いません」と書いている。裏を返せば、リングスリーブは作業中でも交換・追加支給されるということだ。
実際、よくある欠陥事例の解説にはこう明記されている——「万が一,刻印等を間違えた場合は,新しいリングスリーブで正しくやり直してください」。ケーブルを切り間違えたら取り返しがつかないが、圧着マークを押し間違えただけなら、まだ間に合う。だからこそ、完成後に接続箇所を1つずつ見て回る時間を残しておく価値がある。
二度と開けられない天井裏に、何を残すか
電線と電線をつないだ場所には、必ず接触抵抗が生まれる。抵抗があるところには、電流が流れるたびに熱が出る。圧着が甘い接続部や、スリーブが太すぎて心線が遊んでいる接続部は、その熱を何年も出し続けることになる。上の表の右端に「20A」「30A」という最大使用電流が並んでいるのは、そのためだ。○と小の使い分けは試験の作法ではなく、この接続点に何アンペア流し続けてよいかという判断そのものになっている。
しかも天井裏のジョイントボックスは、点検口がなければ二度と開かない。工具を離した瞬間から、その接続は誰の目にも触れなくなる。
自宅の分電盤を開けて、ブレーカーに書かれた「20A」の数字を見てみるといい。その回路の先、天井裏のどこかに、○か小の刻印が押されたスリーブがある。誰かがこの練習と同じ手順で握ったものだ。太陽光発電や蓄電池、EV充電の回路が住宅に増えるほど、こうした接続点の数も増えていく。1箇所ずつ確実に潰せる手が、そのまま人の家の安全になる。
冒頭の2人のうちどちらが欠陥だったのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。