マンションの屋上には、たいてい水のタンクが載っている。誰かが毎朝ポンプ室に行ってスイッチを押しているわけではないのに、そのタンクの水位はいつも同じあたりに保たれている。真夜中に一斉に水を使っても断水しないし、誰も使わない日でもあふれない。
ポンプに「そろそろ動け」「もういい、止まれ」と伝えているのは、いったい誰なのか。共用部の配線図を隅から隅まで探しても、住宅の図面で見慣れた記号——黒丸のスイッチも、壁側を黒く塗った円に水平な線2本のコンセントも——その役目を担っていそうなものは見当たらない。
見当がつかなくて当然だ。この記号は一戸建ての図面にはまず出てこない。読み終えるころには、その「誰か」を図面の中から指させるようになっている。
配線図の図記号を学ぶとき、教材はどうしても住宅から入る。照明、コンセント、スイッチ、分電盤。ところが試験の配線図問題が舞台に選ぶのは、住宅だけではない。集合住宅の共用部が題材になる回には、地下のポンプ室が図面に描かれ、そこに汚水ポンプとフロートスイッチがあることを前提にした問題が出る。共用部やポンプ室が図面に入った年には、住宅編では一度も出てこなかった顔ぶれがまとめて並ぶ。
その中心にあるのが、二重丸である。
二重丸の一族——4.4の中で人が押すのはBだけ
JIS C 0303:2000は図記号を分類ごとに並べており、その4.4が「開閉器・計器」にあたる。ここに、細い円の輪郭の内側にひとまわり小さい黒丸を同心に描いた記号——二重丸——が、傍記を変えながら4つ並んでいる。
一番右だけ、少し出自が違う。傍記のない二重丸は、5.2「警報・呼出・表示・ナースコール設備」の握り押しボタンだ。ナースコール用のときだけ、Nを添える。つまり同じ形の記号が、規格の別の節でも使われている。形だけを見て器具名を言い当てようとする戦い方が、この一族の前では通用しない理由がここにある。
| 基本の形 | 傍記 | 名称 | どこで働くか |
|---|---|---|---|
| 二重丸 | B | 電磁開閉器用押しボタン | ポンプ室・機械室の壁。電動機を人が始動・停止させる |
| 二重丸 | BL | 確認表示灯付電磁開閉器用押しボタン | 同上。運転中かどうかが手元のランプで分かる |
| 二重丸 | P | 圧力スイッチ | 圧力の変化で回路を入り切りする |
| 二重丸 | F | フロートスイッチ | 浮きの上下で水位を検知する |
| 二重丸 | LF | フロートレススイッチ電極 | 水槽に垂らした電極。電極数を傍記(例:LF3) |
| 二重丸 | なし | 握り押しボタン(5.2) | 手に握って押すボタン。ナースコール用はNを傍記 |
| 正方形+斜線1本 | LFC | 電極切替函 | 電極の系統を切り替える函 |
| 正方形 | TS | タイムスイッチ | 時刻で回路を入り切りする |
| 正方形 | B | 配線用遮断器 | 極数・フレームの大きさ・定格電流などを傍記 |
| 正方形 | S | 開閉器 | 電流計付は □S に電流計(丸にA)を組み合わせた別の図記号を用い、電流計の定格電流を傍記する |
| 正方形 | E/BE | 漏電遮断器/過負荷保護付漏電遮断器 | 過負荷保護付は極数・フレームの大きさ・定格電流・定格感度電流、過負荷保護なしは極数・定格電流・定格感度電流などを傍記 |
| 正方形+中央に黒丸 | — | 押しボタン(5.2) | 壁付は壁側を塗る。2個以上はボタン数を傍記 |
| 円 | M | 電動機 | 電気方式・電圧・容量を傍記(例:3φ200V/3.7kW) |
この見方に切り替えると、二重丸の一族が急に整理される。Pは圧力を感じ、Fは浮きの高さを感じ、LFは水との導通を感じる。人の判断が要らないから、記号は壁ではなく設備そのものの上に描かれる。そして4.4の中ではBだけが例外で、人が押しに行くための記号だ(同じ二重丸でも、傍記のない5.2の握り押しボタンはもちろん人が握って押す)。機械の側にずらりと並んだ記号の中で、Bのところだけに人が立っている——図面はそういう構造で読める。
Lの1文字だけが、離れた機械と人をつないでいる
二重丸にBを傍記すれば電磁開閉器用押しボタン。ここにもう1文字、Lを足すと、名前は確認表示灯付電磁開閉器用押しボタンに変わる。JIS C 0303:2000がこの記号に添えている摘要は、たった一文だ。「確認表示灯付の場合は,Lを傍記する。」
図記号そのものは、1ミリも変わらない。
では、その1文字は現場で何を意味するのか。確認表示灯(パイロットランプ)は、スイッチをONにしたときに点灯し、OFFで消灯する。位置表示灯(ほたる)とは点くタイミングが正反対だ——この対比はスイッチ類の図記号と傍記で扱ったとおりで、住宅では換気扇や屋外灯の消し忘れを防ぐ役割を担っていた。
同じ理屈が、規模を変えて機械室に現れる。押しボタンで始動させる電動機は、たいてい別の部屋にいる。ポンプは水槽の脇、送風機はダクトの奥、コンプレッサは屋外。押した人の場所からは、それが本当に回り出したのか見えないし、聞こえないこともある。Lが付いた押しボタンは、その一点だけを解決するために存在する。手元のランプが点いていれば、向こうで機械が回っている。
住宅の換気扇のパイロットランプと、機械室の押しボタンのL。どちらも「見えない負荷の状態を、操作する場所へ持ってくる」という同じ仕事をしている。傍記1文字の意味は、器具が大きくなっても変わらない。
水位計を使わずに水位を測る、という発想
さて、冒頭のタンクだ。
水位を知りたければ水位計を付ければいい、と考えるのが自然だろう。ところが建物の給水設備が選んだのは、もっと素朴な方法だった。長さの違う金属の棒を数本、タンクの天井から垂らしておく。水面が上がって棒の先端に触れれば、水を通じて電気がつながる。離れれば切れる。それだけだ。
これがフロートレススイッチ電極——二重丸に傍記LFの記号である。フロートレス(floatless)とは「浮きを使わない」という意味で、水に浮くフロートスイッチ(傍記F)に対する呼び名になっている。JISの摘要は「電極数を傍記する。」で、規格票の例は電極3本を示すLF3だ。
給水ポンプの交換を扱う業者の解説によれば、屋上の高置水槽では電極5本を長い順にアースコモン・減水・起動・停止・満水と割り当てる。水が減って起動電極の先端から離れればポンプが動き出し、水が上がって停止電極に届けば止まる。誰も操作していないのに水位が一定に保たれていたのは、この2本の長さの差が「動く範囲」そのものだったからだ。
地上や地下の受水槽では、同じ5本が長い順にアースコモン・渇水・減水・復帰・満水になる。満水電極を上回れば満水警報、減水電極を下回れば減水警報。さらに水が減って渇水電極まで届かなくなると、ポンプは空転を避けるために止まる。水のないままポンプを回し続けると機械が傷むからで、電極の1本が、そのままポンプの寿命を守っている。
本数は用途で変わる。オムロンの水位制御機器のガイドには「給水源に4本、高架水槽に5本の電極棒を入れます」という構成例があり、受水槽のメンテナンス業者の解説では3〜5本を一組として使うことが多いとされている。図記号のLFに続く数字は、この本数のことだ。どのパターンでも共通しているのが、一番長い電極をコモン(共通)電極として確実に接地するという注記で、電極は「アースと他の電極が水で導通するか」を見ているにすぎない。水位計というより、水を導線として使ったスイッチである。
なお、電極の系統を切り替える電極切替函は、正方形の輪郭に左下から右上へ斜線を1本引き、LFCと傍記した別の記号になる。二重丸ではない。
警報は、水槽ではなく管理人室で鳴る
水位が異常なら、誰かに知らせなければ意味がない。ところが受水槽は建物の隅か地下にあり、そこで音が鳴っても誰も聞かない。だから警報は、管理室のような人のいる場所まで引かれる。JIS C 0303:2000の5.2に並ぶのは、そのための記号だ。
押しボタンは、正方形の中に黒丸を1つ描いた記号だ。二重丸の電磁開閉器用押しボタンとは、まったく別の形になっている。摘要も「壁付は,壁側を塗る。」「2個以上の場合は,ボタン数を傍記する。」と定めている。ベルは正方形の下辺中央に小さな円が下向きに接した形、ブザーは正方形の左上角から右斜め上へ直線が1本伸びた形、チャイムは正方形の中に8分音符。ベルとブザーはどちらも、正方形の中にAを入れれば警報用、Tを入れれば時報用になる。そして、その音を受け止める側の警報盤も、同じ5.2に規定されている。
受水槽の電極が拾った満水・減水の信号は、こうして管理室の警報盤やベルまで運ばれる。図面の上では水槽室と管理室は遠く離れたページにあるが、記号をたどれば1本の線でつながっている。
なお、電磁開閉器の操作回路や呼鈴・警報ベル等に接続する電路で最大使用電圧が60V以下のものは小勢力回路にあたり、一般の低圧屋内配線より緩い規定で施設できる。押しボタンと警報の記号がひとまとまりで出題されやすいのは、この規定の上でも同じ仲間だからだ。
共用部の廊下照明は、スイッチではなくリレーが切る
集合住宅の共用部にはもう一系統、住宅ではあまり見ない記号がある。4.3「点滅器」の後半に置かれたリモコン関係だ。
リモコンスイッチは黒丸に添え字Rを付けた記号で、確認表示灯を別置きするときは白抜きの円を左に並べて描く。実際に照明回路を入り切りしているのはスイッチではなく、リモコンリレー——黒塗りの正三角形——のほうだ。共用部のように回路数が多い建物では、リレーを盤の中に集合して取り付ける。その場合は横長の帯の中に黒い三角を3つ並べた記号を使い、右にリレー数を傍記する。ターミナルユニット付ならT/Uと傍記する。
スイッチの記号と、実際に切っている装置の記号が別の場所に描かれている。共用部の図面が住宅より読みにくいのは、この「操作する記号」と「動く記号」の距離が離れているせいでもある。
図面には、電磁開閉器そのものが描かれていない
ここまで「電磁開閉器用押しボタン」と何度も書いてきた。では、その電磁開閉器はどの記号なのか。
探しても見つからない。JIS C 0303:2000の全文を通して、「電磁開閉器」という語が現れるのは、この押しボタンの1か所だけだ。「電磁接触器」に至っては1か所も出てこない。4.4に規定されているのは操作する側のボタンであって、操作される側の機器ではない。
電磁開閉器そのものは、盤の中にいる。富士電機機器制御の製品情報によれば、電磁開閉器は電磁接触器とサーマルリレー(熱動継電器)を組み合わせたもので、電動機制御の主回路などに使われる。三菱電機の保守・点検マニュアルにも「MS-T形電磁開閉器はS-T形電磁接触器,TH-T形サーマルリレーおよび外箱から構成されており」と明記されている。電磁接触器が電流を入り切りし、サーマルリレーが過負荷を見張って回路を切る——2つの部品が1つの箱に収まった機器だ。
では、その箱は図面のどこにいるのか。JISに電磁開閉器そのものの図記号がない以上、単独の記号としては現れない。盤の中に収まっているものとして描かれる、と考えるのが素直だ。盤の記号は4.5「配電盤・分電盤等」にまとまっていて、その中の「配電盤,分電盤及び制御盤」という図記号の摘要には、種類を示す場合として配電盤・分電盤・制御盤・実験盤・OA盤・警報盤が並ぶ。直流用はその旨を傍記し、防災電源回路用配電盤等は二重枠として必要に応じ種別を傍記する、とも定められている。ボタンは壁に、機器は盤に。図面はその役割分担のまま描かれている。
正方形の一族は文字が中に入り、二重丸の一族は文字が外に付く。この違いを先に押さえておくと、傍記を読む前に系統が決まる。そして電動機だけが円の中にMで、右横に2行で「3φ200V/3.7kW」のように電気方式・電圧・容量が並ぶ。図面の中でこの円を見つけたら、その先に必ず、それを動かすための押しボタンと盤がある。
四角に文字1つ — 開閉器・遮断器の記号は、中の1文字で決まる
動力回路の図記号には、四角い枠の中にアルファベット1文字を書くグループがある(JIS C 0303 4.4 開閉器・計器)。押しボタンやフロートスイッチのような二重丸系とは別のまとまりだ。
| 図記号 | 名称 |
|---|---|
| □S | 開閉器 |
| □B | 配線用遮断器 |
| □E | 漏電遮断器 |
| □BE | 漏電遮断器(過負荷保護付) |
| □TS | タイムスイッチ |
モータブレーカ(電動機保護兼用の遮断器)は、規格の作図例では □B に M を傍記した形、または□B に縦線を加えた記号として示される。四角の中身が B のままなので、「B の仲間だが、電動機用に特化したもの」という位置づけが記号に出ている。
□S の実物は、どんな姿をしているか
図記号 □S に対応する実物を、写真から選ばせる出題がある。開閉器は「電流を入り切りするだけで、過電流で自動的に切れる機能を持たない」機器なので、姿もそれに応じたものになる。
- 箱開閉器(安全開閉器) — 金属や樹脂の箱に、外部レバーが付く。箱を開けるとヒューズが入っている
- カバー付ナイフスイッチ — 刃(ブレード)を刃受(受け金具)に差し込む構造が、カバー越しに見える
- 電流計付箱開閉器 — 箱開閉器の前面に電流計の丸い窓が付く。図記号では □S に電流計の記号を添え、定格電流を傍記する
だから開閉器にはヒューズが組み合わされる。切る役目を自分では持てないので、溶けて切れる部品に任せている——姿の違いは、機能の違いそのものだ。
ポンプ室の扉を開けると、図面の記号がそのまま並んでいる
この一群が読めるようになると、扱える図面の種類が一段増える。戸建て住宅の照明とコンセントだけを追いかけていた目が、機械室・受水槽室・ポンプ室のページを開けるようになる。マンションやビルの改修、給水設備の更新、警報盤の移設——建物を管理する側の仕事は、そのほとんどが共用部の図面の上で動いている。電磁開閉器の交換ひとつ取っても、中身が電磁接触器とサーマルリレーだと知っているかどうかで、部品表の読み方が変わる。
今日試せることがある。自分の住む建物や職場の機械室・ポンプ室の扉の脇に、押しボタンが付いていないか見てみるといい。始動と停止の2つが並んでいて、そのどちらか(あるいは別枠)に小さなランプが仕込まれていれば、それが図面ではBLと傍記された記号だ。ランプがなければB。管理室に四角い盤があって、水槽の名前と「満水」「減水」といった札が並んでいたら、それが警報盤である。図面の記号が、実物の扉の前に立って初めて意味を持つ瞬間だ。
電極が並んでいる理由も、この目で見ると腑に落ちる。満水であふれれば階下が水浸しになり、渇水のままポンプが回り続ければ機械が焼ける。長さの違う金属棒が数本垂れているだけの、あまりに素朴な仕掛けが、その両方を毎日防いでいる。図記号に電極数を傍記させるという規格の細かさも、「何本入れるかまでが設計だ」という意思表示にほかならない。
その先には、動力の世界が広がっている。電動機を回すということは、三相200Vを扱うということであり、押しボタンで電磁開閉器を動かすということは、シーケンス制御という別の図面の入口に立つということでもある。住宅の照明配線が「人が点けたいときに点ける」回路だとすれば、こちらは「条件が揃ったら勝手に動く」回路だ。ポンプ、送風機、コンプレッサ、シャッター、揚水——建物の中で人知れず動いているものは、たいていこの系統につながっている。二重丸をひとつ読めるようになることは、その世界の扉に手をかけることに等しい。
冒頭の屋上タンクで何が起きていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。