玄関チャイムの配線は、直径0.8mmほどの細い電線でよい。同じ壁の中を通っているコンセントの電線は1.6mm以上で、技能試験なら被覆のわずかな傷でも欠陥になる。しかもチャイムの配線は、条件によっては電気工事士の資格がなくても触れる。
同じ壁の中を並んで走る2本の線に、なぜここまで扱いの差があるのか。細いほうが危ないのではないのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この差の理由を電流の数字から説明できるようになっている。
チャイムの線が属しているのは「小勢力回路」という区分だ。電技解釈第181条は、電磁開閉器の操作回路や、呼鈴・警報ベル等に接続する電路のうち、最大使用電圧が60V以下のものを小勢力回路と定め、一般の低圧屋内配線よりずっと緩いルールで施設できるようにしている。玄関チャイム、インターホン、リモコン式スイッチの操作回路、火災報知の警報ベル——住宅や店舗の壁の中には、この回路が思いのほか多く走っている。
緩めるための条件が、電源の作り方だ。小勢力回路には絶縁変圧器(1次側の対地電圧300V以下)で電気を供給する。1次側の100Vと2次側のチャイム回路が電気的に完全に切り離された変圧器で、電圧を落とすと同時に、流せる電流にも上限を掛ける。
| 最大使用電圧の区分 | 最大使用電流 | 変圧器の2次短絡電流 |
|---|---|---|
| 15V以下 | 5A以下 | 8A以下 |
| 15V超 30V以下 | 3A以下 | 5A以下 |
| 30V超 60V以下 | 1.5A以下 | 3A以下 |
右端の「2次短絡電流」に注目してほしい。2次側の電線同士が直接触れてショートしたときに流れる電流が、変圧器の性能として最初からこの値以下に抑えられている(この値を超える変圧器を使う場合は、最大使用電流以下の過電流遮断器を2次側に施設する)。
だから電線のルールも軽い。造営材に取り付ける場合、電線はケーブル・通信用ケーブルを除き直径0.8mm以上の軟銅線(又は同等以上の強さ・太さ)でよく、コードやキャブタイヤケーブル、絶縁電線が使える。屋外に架空で渡す場合は直径1.2mm以上の硬銅線が基準になり、道路横断では路面上6m以上といった高さの規定も付くが、いずれも一般の低圧配線より簡素だ。
もうひとつ、冒頭の「資格がなくても触れる場合がある」には注意がいる。電気工事士法で資格不要とされる軽微な工事に入るのは、電鈴・インターホン等に使う小型変圧器(二次電圧36V以下)の二次側の配線工事だ。小勢力回路の60Vと、資格免除の36Vは別々の線引きで、60V以下でも36Vを超えれば資格の免除はない。施設のルール(電技解釈)と資格のルール(電気工事士法)が、それぞれ別の数字で線を引いている——試験ではこの2つを混ぜた選択肢が出る。
必要な心線数から、写真を1枚に絞る
小勢力回路の写真問題は、「この配線に必要なケーブルはどれか」という形で出る。 外観だけで迷ったら、必要な心線の数から逆算すると1枚に決まる。
数え方は主回路と同じで、電気は行って帰ってくる。
| 回路 | 必要な心線数 |
|---|---|
| 押しボタン1個 → チャイム1台 | 2心(行きと帰り) |
| 押しボタン2か所 → チャイム1台(鳴り分けなし) | 2心(並列につなぐ) |
| 押しボタン2か所 → 鳴り分ける(玄関/勝手口で音を変える) | 3心(共通線1+各ボタン1) |
そのうえで写真を見る。細く柔らかいコード状のものが候補で、 そこから心線数が合うものを選ぶ。太くて硬い平形(VVF)は最初に消える。
心線数が同じ候補が2枚あるときは、より線か単線かで分ける。 小勢力回路の規格は「直径0.8mm以上の軟銅線、またはこれと同等以上の強さ・太さのもの」で、 より線でも単線でもよいが、写真の設問では断面の見え方(1本の芯か、細い線の束か)が 手がかりになる。
小勢力回路の電線は、見た目からして細い
小勢力回路の写真判別では、主回路用のケーブルと並べて出題される。 外観の違いは、慣れていなくても分かるほどはっきりしている。
| 小勢力回路の電線 | 屋内配線用(VVFなど) | |
|---|---|---|
| 太さ | 細い(0.8mm以上の軟銅線が基準) | 1.6mm・2.0mmが標準で明らかに太い |
| 外装 | 薄く柔らかい。コード状で曲げやすい | 硬く厚い。平形(VVF)は断面が長方形 |
| 心線の色 | 赤・青・黄など多色のことが多い | 黒・白・赤(3心)と決まっている |
| 心線数 | 2心のコード状のものが多い | 2心・3心 |
写真4枚に明らかに細くて柔らかいコードが混じっていたら、それが小勢力回路用になる。 逆に、断面が長方形で硬い平形ケーブルはVVFで、小勢力回路には使わない。
なお電線の規格は「直径0.8mm以上の軟銅線、またはこれと同等以上の強さ・太さのもの」で、 ケーブル・コードのいずれも使える。細ければ何でもいい訳ではなく、下限がある点は押さえておく。
呼鈴の細い線から、弱電という職域が見えてくる
小勢力回路の考え方——電圧と電流を先に縛って配線を軽くする——は、チャイムだけの話ではない。インターホン、防犯センサー、ネットワークカメラ、LANケーブルで電力ごと送るPoE給電(PoE給電の電圧降下)。建物の中で増え続けているのは、まさにこの「細い線で足りるように設計された回路」たちだ。強電の資格を取りながら弱電の理屈も手にしておくと、スマートホーム・IoT設備の施工のように両方の線が同じ壁を通る現場で、どこからが資格の要る仕事かを自分で仕分けられるようになる。
今日確かめるなら、自宅のドアホンやチャイムを見てみるといい。親機の裏で100Vに直結するタイプか、コンセントに差すタイプか、乾電池式か。玄関子機へ向かう線の細さはどれも同じでも、100V側に触れる作業とチャイム線側の作業では、法律上の扱いがまったく違う。60Vと36Vという2本の線が引かれた理由は、感電と火災の危険が電圧と電流の積で決まるという、この科目全体を貫く事実にある。
冒頭の問い——同じ壁の中で、なぜ細い線が許されるのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。