模擬試験を受けたある受験者は、50問中32問正解(64%)で、合格ライン60点をぎりぎり超えた。ホッとしたのも束の間、答え合わせで意外な事実に気づく。間違えた18問のうち、14問が配線図分野に集中していたのだ。
しかも本人は基礎理論の計算問題がもともと得意で、オームの法則も電力の計算もほぼ全問正解していた。計算は得意なはずなのに、なぜ配線図問題だけこれほど落としたのか。
理由は、この科目がほかの科目とは性質がまったく違う分野だから。このトピックを読み終えるころには、その理由がはっきり分かるはずだ。
配線図は、住宅やビルの電気配線工事を描いた設計図面のことだ。コンセント・スイッチ・照明器具・分電盤といった器具を、いちいち写実的に描くのではなく、決められた「図記号」で表現する。この図記号のルールを全国共通で定めているのが、JIS C 0303(構内電気設備の配線用図記号)という規格だ。
図記号は、丸や四角といった「基本の形」に、数字やアルファベットを書き添えることで意味が変わる。この書き添える文字を傍記と呼ぶ。たとえば同じ黒丸の点滅器(スイッチ)の記号でも、何も付かなければ片切スイッチ、「3」が付けば3路スイッチ、「WP」が付けば防雨形スイッチというように、傍記1文字で意味がまったく変わってくる。
これは、電気に関する基礎理論のように「公式を1つ覚えれば応用が利く」科目とは根本的に性質が違うということだ。基礎理論はV=IRという1つの式から複数の設問に対応できるが、配線図は極端に言えば、覚えた図記号の数だけしか得点できない。逆に言えば、暗記さえ済ませてしまえば「知っていれば確実に取れる」問題が多く、他の科目より得点の再現性が高い分野でもある。
線種と傍記を、同時に照合する
「図記号(線種)と工事方法の組合せとして正しいもの/誤っているもの」を選ぶ問題は、 2つの情報を同時に見る必要がある。片方だけでは決まらない。
- 線の引き方 → その配線がどこを通っているか(天井裏・床下・露出)
- 線に添えた傍記 → 何の管を使うか(E・PF・F2・数字だけ…)
4択を絞る手順
例:「破線に (16) と傍記」「実線に E19 と傍記」のような組が4つ並ぶ。
- 傍記の記号と管の名前が一致しているかを見る
選択肢の説明文が「PF管による…」なのに傍記が
E19なら、その時点で矛盾=消せる - 線種と施工場所が一致しているかを見る 説明文が「露出配線」なのに線が実線(=天井隠ぺい)なら矛盾=消せる
- 残ったものを、傍記の意味で確定する 傍記が数字だけなら薄鋼電線管。VE管は「VE16」のようにVEを、ねじなし電線管はE、厚鋼はG、合成樹脂製可とう管はPF・CDを記入する
それでも2つ残ったら、線種で切る。それでも決まらなければ、 記号が無く数字だけ=薄鋼電線管(VE管はVEを傍記する)を思い出す。
| 見るもの | 判断できること |
|---|---|
| 傍記の記号(E・G・PF・CD・F2・VE・数字のみ) | 管の種類 |
| 線種(実線・破線・点線) | 天井隠ぺい・床隠ぺい・露出 |
2つとも合っている組が正解で、どちらか一方でも食い違えば誤り。 「記号は合っているが線種が違う」という半分だけ正しい選択肢が、必ず混ぜてある。
線の引き方が、どこを通っているかを表す
図記号は「何があるか」を表すが、それをつなぐ線そのものにも意味がある。 線の種類が、その配線が建物のどこを通っているかを示す。
| 線種 | 施工場所 |
|---|---|
| 実線 | 天井隠ぺい配線(天井裏を通る) |
| 破線 | 床隠ぺい配線(床下を通る) |
| 点線 | 露出配線(壁や天井の表面に見えている) |
| 一点鎖線 | 地中埋設配線 |
破線と点線は紙面では見分けにくいので、線の長さで区別する。 破線は長めの線が並ぶ(- - - -)、点線は短い点が並ぶ(‥‥‥)。
なお、JIS C 0303 の本表は線種の使い分けを厳密に固定しているわけではなく、 図面によっては注記で凡例を示すこともある。まず図面の凡例を確認し、 無ければ上の対応で読む、という順序が安全だ。
そして線種は、使える工事の種類にもつながる。露出配線なら金属管・合成樹脂管・ ケーブル工事などが見えるところに施工され、隠ぺい配線なら仕上げ材の中に納まる。 図面の線1本から、その区間の工事方法まで推し量れるようになる。
覚えた図記号は、他人が描いた図面を開く鍵になる
図記号を覚える見返りは、試験の20問だけではない。図面が読めるということは、自分が設計していない回路を理解して施工できるということだ。見積の拾い出し、改修工事の打ち合わせ、他社が引いた既設配線の追跡——現場で図面を前にした人が話している内容が、そのまま分かるようになる。
今日試せることを一つ挙げるなら、自宅の竣工図や、入居時に渡された図面一式を引っ張り出してみるといい。新築の引き渡し資料やマンションの重要書類の中に、電気設備図が紛れていることが多い。丸がいくつ、黒丸がいくつ並んでいるかを数えるだけでも、「この壁の向こうに何が通っているか」という視線で家を見るようになる。リフォームや器具の増設を検討するときに、最初に開くのがこの図面だ。
JIS C 0303という規格で全国共通に定められている、という点も効いてくる。北海道の現場でも九州の現場でも、同じ黒丸は同じ意味を持つ。図面はCADからBIMへと作られ方が変わってきているが、記号そのものは規格が変わらない限り生き続ける。暗記のコストは一度きりで、使える期間は職業人生の全期間にわたる——この分野の暗記が割に合うのは、そういう構造になっているからだ。
次のトピックからは、コンセント・スイッチ・照明器具・分電盤という分類ごとに、代表的な図記号を見ていく。冒頭の受験者がなぜ配線図だけを大きく落としたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。 記号が読めるようになったら、次はその記号を図の上で追う技術が要る。試験の配線図は1枚の図面を 20問で共有し、①②③…の丸数字が引出線で対象を指す形式で出る。どの丸数字がどこを指しているかを 取り違えると、知識があっても連鎖して落とす。そこは読図の手順で扱う。